ラブリーエンジェル美咲ちゃんの幸せ大作戦! ~み~んな幸せになぁ~れ!~ 作:とんこつラーメン
故に、これ以上、不愉快なものを作る必要は無い。
ピエール=オーギュスト・ルノワール 画家
IS学園1年三組教室。
他のクラスと同様に、ここでも入学式を終えた生徒達と担任教師による自己紹介と挨拶が行われていた。
「では、次は佐藤さん。お願いするわね」
「はい」
名前を呼ばれ、一人の女子生徒が立ち上がる。
真っ黒なロングヘアーに銀縁の眼鏡を掛けている少女。
どこにでもいそうな、どこにでも紛れている普通の少女だ。
別の雰囲気もおかしくは無い。
これといった特徴が無い。
特徴が無いのが特徴といった感じの人物。
「佐藤美咲。15歳。趣味は読書。よろしくお願いします」
何とも有り触れた自己紹介。
彼女が語った趣味も、明らかに適当に言っていることが分かる。
面倒な時に『読書』や『音楽鑑賞』と言うのは、ある意味でお約束だ。
なので、他の生徒達も彼女の言った事を鵜呑みにはしない。
自分達も同じ穴のムジナであるという自覚があるから。
「ありがとう。それじゃあ、次は………」
ここで担任の言葉が詰まる。
生気のない目で虚空を見つめ、無言で口を動かした。
「……あ。そう言えば『アレ』については言わなくてもいいの?」
「アレとは?」
「佐藤さんが専用機持ちだって事! ちゃんと皆にも教えてあげないと!」
「あぁ……」
一瞬だけ様子がおかしくなったが、すぐに正気を取り戻して担任が余計な事を言いだした。
別に美咲としてはどうでもいいことなのだが、言われた以上は隠してはおけない。
「佐藤さんは、実は『木星公社』という会社でテストパイロットを務めているの。つまり、企業所属のIS操縦者って事になるのよ」
「「「「「おぉ~!!」」」」」
専用機。
それはISの操縦者を志す全ての者達の憧れ。
本来ならば国に属する『国家代表』や『代表候補生』といった者達しか所有を許されていないが、何事にも例外というものは存在している。
その一つが美咲のような『企業に所属している操縦者』だ。
「でも…木星公社って、そんな会社なんてあったっけ? 聞いたことが無いんだけど」
「知らないのも無理は無いと思います。どこにでもある弱小企業ですから」
「そうなの? よくISが作れたね…」
「どんな事でも、やりようはあるってことですよ」
当然の疑問を投げかけてきたクラスメイトに説明をしてやる美咲。
他にも色々と疑問が浮かんできたが、すぐにそれは脳内から消え去った。
「ふーん…なんか分からないけどスゴイね!」
「ありがとうございます」
丁寧な物腰と口調。
それだけで、他の生徒達の緊張を解すには十分だった。
「それじゃあ、自己紹介の続きをしましょうか。時間も迫って来ているしね」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
最初のSHRが終了し、担任が去ると同時に一気に教室内が賑やかになる。
話題の中心は主に二つ。
一つは3組唯一の専用機持ちである美咲の事。
そして、もう一つは……。
「ねぇねぇ! 一組に『例の彼』を見に行こうよ!」
「例の彼?」
「え? 知らない? ほーらー! ニュースとかネットで話題になったじゃない! 普通なら女しか動かせないISを動かした男の子! その噂の彼が一年一組にいるんだって!」
「へぇ~…そうなんですね」
くるりと教室を見渡すと、生徒の半分以上が一組に噂の男子を見に行ったようで、さっきとは打って変わってガランとしていた。
「…私は結構です。特に興味もないですし」
「そう? んじゃ、アタシは行ってくるね! どんな子か楽しみだな~! 情報だと、かなりのイケメンらしいんだよね~!」
ウキウキした様子で教室を出て一組へと向かって行ったクラスメイト。
その背中を見届けながら、美咲は小さな声で静かに呟く。
「周囲全員が異性しかいない場所で生活するなんて大変でしょうに。もしも、例の男子君が苦しんでいるのなら……」
美咲がワラッタ。
「幸せにしてあげないと」
ソレは一瞬で消え、すぐに元通りになる。
「佐藤さん? 何か言った?」
「いえ何も」
眼鏡をクイっと上げながら澄まし顔で答える。
即座にやったにしては上出来な方だ。
「にしても、佐藤さんも例の男子に興味が無いんだ」
「ということは…貴方達も?」
「まぁね。何にも思う所が無いって言えば嘘になるけどさ、かといって休み時間に見に行こうとは思わないよ」
「別に今、見に行かなくてもさ、後で嫌でも見かける事になるんだし。廊下とか食堂とかでさ」
「佐藤さんも、そう思ったから見に行かないんでしょ?」
「そう…ですね。そういう事にしておきます」
適当に言い訳を考えようと思ったが、面倒くさいので彼女達の言葉に乗ることに。
別に美咲には何のデメリットも無いので大丈夫だ。
「それよりも、私達は佐藤さんの事が知りたいかな」
「私のことが?」
「そ! 一体どんな専用機を持ってるのかな~…とか気になるじゃ~ん!」
「だね~! ぶっちゃけ、そっちの方がマジで重要!」
「遠くの薔薇より近くのタンポポ…ってね」
「私がタンポポですか…」
まさか、自分が花に例えられるとは。
しかもタンポポ。
ある意味、自分に最も似合っている花だと思った。
「あ…でも、機密とかで教えられない…?」
「そんな事はありませんよ。そうですね…まずは何からお教えしましょうか…」
美咲が説明を始めようとした瞬間、予鈴が鳴った。
「…もう時間ですね。皆さん、席に戻りましょう」
「そーだね。次の休み時間に教えてね」
「分かりました」
全員がゾロゾロと席に付き、同時に一組に行っていたと思われる他の生徒達も戻ってきた。
それから少しして、担任も教室へと入ってきた。
・・・・・
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「さっき言い忘れてたんだけど、授業を始める前にまずは『クラス代表』を決めておこうか」
「「「「「クラス代表?」」」」」
「そ。簡単に言えば『学級委員長』みたいなもんよ。委員会の会議に出席して貰う他に『クラス対抗戦』ってイベントで文字通り、クラスの代表選手として出場して貰うことにもなるけど」
クラスの代表としてイベントに参加。
それを聞いた途端、全員の視線が一点に集中する。
「それじゃあ、誰にするか決めようと思うけど……やっぱそうなる?」
「「「「「はい!」」」」」
「はぁ……」
なんとなく予想はしていた。
担任が迂闊にも美咲の情報を漏らしてしまった時点で。
「えー…佐藤さん? 非常に言い難いんだけど…クラス代表を引き受けて貰える? 勿論、嫌なら断ってくれても構わないからね」
「そんな事はありません。皆さんが私の事を指名してくれたのなら、それに全力で応えなくては。クラス代表、喜んでやらせて貰います」
自分達が半ば押し付けるような事をしたにも拘らず、美咲は快くクラス代表の人を引き受けてくれた。
流石にそれに対して罪悪感が生まれたのか、この時に彼女達は『何かあれば迷わずに美咲の事を手伝おう』と心に誓う。
「そういや、他のクラスも代表は専用機持ちになるのかな?」
「さぁ…どうだろ。一組にいる友達の話じゃ、一組には代表候補生がいるって話だけど」
「それ、一組だけじゃないっポイよ? なんでも、四組にも代表候補生がいるって」
「マジ? それって普通にヤバくね?」
ふとした疑問が切っ掛けとなり話が拡散していく。
まさかの候補生が他のクラスにいるのだから、当然と言えば当然なのだが。
「もしかしたら、例の男子にも何か専用機が渡されたりして。ほら、貴重なデータと取る為に…」
「それ普通に有り得るかも。政府ってそーゆーところがあるもんねー」
お前達が政府の何を知っているというのか。
ニュースなどで知った浅い知識で知った気になっている女子を見ても、美咲は何も思わない。
逆に担任は、さっきからずっと苦笑いをしているが。
「ハイハイ。皆さん、お喋りはそこまでに。先生が困っていますよ」
「佐藤さん…」
早速、クラス代表としての仕事を披露してみせた美咲。
これには担任も思わず感動してしまった。
「大丈夫ですよ。例え誰が相手であったとしても私は絶対に負けません。だって…」
そこで再び美咲がワラッタ。
「皆さんを幸せにしてあげたいですから」
なントいうコとだロウ。
自分達の我儘でクラス代表にさせたのに、彼女はそんな自分達の事を誰よりも大切に思ってくれているではないか。
その献身の精神に全員が感動をし、初日からクラスの心は早くも一つに纏まりつつあった。
「うんうん。どうやら、佐藤さんをクラス代表にしたのは正解だったみたいね。担任として、私も鼻が高いわー」
「では、私ももっと頑張って、先生の鼻をピノキオみたいにしてあげましょうか」
「是非ともそうして頂戴な。佐藤さんが頑張れば、私も皆も幸せよ~」
クラス全体が笑顔に包まれ、その中心に美咲がいる。
これで3組は安泰だ。
「話し合いはここまでにして、授業を始めましょうか。みんな~、教科書の13ページを開いてー」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
美咲は見ている。
自分がこれから3年間を過ごす学校を。
美咲は見ている。
自分と同じ時間を過ごす少女達を。
美咲は見ている。
女しかいないこの場所で、唯一の男となってしまった少年を。
「なんということでしょう。この世は悲しみに満ち満ちている。たった一人の『天災』のせいで。そんな彼女が生み出してしまった『異形の機械』のせいで」
美咲は見ている。
唯我独尊を貫く天才を自称する『天災』を。
「こんな世の中は間違っている。こんな世界では誰も救われない。これはダメ。これはダメ。これはダメ」
美咲は見ている。
現実から目を逸らし、過去から逃げ続けている愚かな『白き騎士』を。
「ダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメ」
美咲は見ている。
醜悪で、醜い、けど美しい世界を。
「ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメ」
美咲は見ている。
不幸に溢れてしまった絶望の闇を。
「ダ――――――――――――――――――――――――――――――――――」
美咲は見ている。
美咲は見ている。
美咲は見ている。
お前だけをずっと見ている。
「こんにちわ!」
「幸せにしてあげます!」
我々は、幸福になる為よりも、
幸福だと人に思わせる為に
四苦八苦しているのである。
ラ・ロシュフーコー
(フランスの貴族、文学者)