ラブリーエンジェル美咲ちゃんの幸せ大作戦! ~み~んな幸せになぁ~れ!~ 作:とんこつラーメン
おひさ
6月の初頭の日曜日。
一夏は暫く帰っていなかった家の掃除と、学生寮に持ってくることが出来ていなかった私物を持ってくるために一旦、家へと帰ってから、その後に彼の中学時代の親友である『五反田弾』の実家である『五反田食堂』へと来ていた。
そんな彼らはというと、今は弾の部屋にて二人仲良くゲームを楽しんでいた。
「…で。一夏くんよ」
「なんだよ」
「変な言い方をしても、どうせお前には通用しないって事は今までの中学時代によーく理解しているから、ここはもうストレートに単刀直入に聞くぞ」
「おう」
「お前さ…」
スタートボタンでポーズをしてから、弾はゆっくりと一夏の方を振り向いた。
「彼女出来たりした?」
「幾らなんでもストレートすぎるだろ」
「うるせ。で、どーなんだよ? 周り全員が女の子の環境で、男はお前一人だけ。普通に考えても、確実にナニかが起きても不思議じゃないだろ。中学の時に男子全員から『鈍感神』とまで言われたお前であってもだ」
「そんな風に言われてたのかよ…初耳だぞ」
「んなことはどーでもいいんだよ。で?」
「彼女…ねぇ…」
そんな風に呼べる相手は一人もいない…とは思うが、不思議と弾に彼女の事を聞かれた瞬間、一夏の脳裏に浮かんだのは、違うクラスであるにも拘らず、とても自分と仲のいい一人の少女の顔だった。
「彼女…って呼べるかどうかは分からないけど…凄く仲のいい女の子なら…いる」
「マジかッ!?」
「うん…」
これまでに大勢の女子から告白されても、その全てを曲解してしまう男に、まさかの初春が訪れた。
羨ましいと思う反面、嬉しいと思ってしまう自分もいる。
親友であるが故の悲しい性であった。
「佐藤美咲っていう子なんだけどさ…違うクラスのクラス代表…要は学級委員長的な立ち位置の子で、最初は俺が間違って声を掛けてしまった事が切っ掛けなんだけど、それから色々とあって…ISの事を教えてくれたり、放課後に勉強を見てくれたりして…気が付けば一緒にいるようになったというか…」
「い…一夏…お前…それ……」
一夏の見事なまでの惚気話に弾は全身を震わせながら、血の涙を流して全力で肩を掴んだ。
「思い切り付き合ってるじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「そ…そうなのか?」
「そうだよ!! 間違って声を掛けてしまったとか、放課後に二人きりの勉強会とか、まるで青春系ラブコメ漫画に出てきそうな一ページじゃねぇーか!! リアルでそんな体験している奴なんて初めて見たよ!! フィクションじゃなかったんだな!!」
親友が遂に初恋を知った喜びよりも、結局は彼女が出来た事による嫉妬の方が大きかった弾であった。
「で! で!? どんな子なんだっ!? 顔写真とか持ってないのか!?」
「しゃ…写真? そういや、前に一回だけ何気なく二人で撮った写真がスマホにあったような気が…」
「二人で撮ったとなっ!?」
「えーっと……あった。これだ」
写真を見つけ出してから、スマホの画面を弾に見せる。
そこには、一夏の腕に自分の腕を絡ませて笑っている黒髪美少女の姿が。
その笑顔はとても『幸せ』そうで、一夏もまた自然な笑みを浮かべており、どこからどう見ても相思相愛のカップルだった。
「か…か…か…か…!」
「か? どうした?」
「くっそ可愛いじゃねぇかコノヤロ―――!!! メチャクチャ美少女じゃねぇかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
「お前…よくそんな台詞を恥ずかしげもなく叫べるよな…」
醜い男の嫉妬なんて理解出来る筈もなく、一夏は普通に親友の姿に呆れ果てていた。
「はぁ…しっかし、この事を蘭の奴が知ったらショックを受けちまうだろうなぁ…」
「え? なんでそこで蘭の名前が出てくるんだ?」
「いや、なんでってお前……」
矢張り、鈍感な部分はそう簡単には治りそうにはない。
こうなったら、美咲に期待をするしかないようだ。
「ま…正直な話、お前にしちゃ大きな前進だと思うぜ。ぶっちゃけ、お前は将来的に謎に独身を続けた挙句、夜中に道を歩いている時に背後からいきなり包丁で背中を刺されて誰にも見られることなく一人で寂しく死んでいくものとばかり思ってたからな」
「具体的過ぎる人の将来像を言わないで貰えるかッ!? 普通に不吉過ぎるわ!!」
一体、何が悲しくて見ず知らずの人間から刺されて死ななければいけないのか。
少なくとも、一夏はそんな事をされるような覚えは無かった。
「当たり前だけどさ…大事にしてやれな。蘭には俺から上手く言っておいてやるからよ。だから、アイツの前で美咲ちゃんの話とかするなよ?」
「お…おう…分かった」
妹の恋路が儚く散ったと分かった以上、それに対するケアぐらいはしなくてはいけない。
それが兄としてできるせめてもの事だった。
「お兄~。お昼出来たってよ~」
「お? 噂をすれば何とやらだな」
襖の向こうから少女の声が聞こえてきた。
この声の主こそが弾の妹である『五反田蘭』だった。
「腹も減ったし、行くとするか」
「だな」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
古くから裏社会に存在し、その全貌は未だに謎に包まれている組織。
一説によると、第二次世界大戦前から存在していたと言われているが、その真偽は不明である。
だが、その影響力は絶大で、裏社会に生きている者達で亡国機業の名を知らぬ者はモグリとさえ言われ、場合によって一国の政治にまで介入できる程の力を有していた。
それ程までに強大な力を持つ組織が今、壊滅の危機に陥っている。
たった一人の少女の手によって。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」
「こ…こっちに来たぞ!!」
「撃て! 撃てぇぇぇぇぇぇっ!!」
これまでに幾多の戦場を駆け抜けた歴戦の兵士たちが恐慌に支配され、顔面を真っ青にしながら銃を乱射する。
だが、それはただの一発も彼女に命中する事は無かった。
「なんでだ!! なんで当たらねぇンだよぉぉッ!?」
「とっとと逃げるぞ!! アイツに近づかれたら即アウトだ!」
「もう半数以上の奴等が殺られた! 『同士討ち』でだ!」
こちらに歩いてくる『彼女』の足元には、嘗ては仲間だった者達の屍が転がっている。
その全ては両目と口が真っ黒に染まり、笑顔のまま逝っていた。
「おい! スコールやオータムたちとはまだ連絡が付かねぇのかッ!?」
「何でもやってる! けど、幾らやってもウンともスンとも言わねぇンだ!!」
「まさか…あのガキが通信遮断でもやってるってのか…!?」
その手には何も持たず、その身には私服以外に何も着ていない。
何処からどう見てもごく普通の少女。
その両目と口が漆黒に染まり、延々と笑みを浮かべ続けていて、何をどうやっても傷一つすらつけられない事を除けば…だが。
「うふふ…」
「「「うわぁぁっっ!?」」」
ほんの少しだけ気を逸らしただけなのに、いつの間にか一瞬で少女は彼らの目の前に迫って来ていた。
「こんにちわ!」
「「「ひ…いひぃぃぃっ!!」」」
「幸せにしてあげます!」
視線を合わせた瞬間、男達の脳内に幸せな記憶が過る。
大切な恋人と過ごす時間。
亡くした家族と過ごした思い出。
夢へと向かって邁進していた過去。
「幸せ」
「幸せ」
「幸せにしなきゃ」
やがて、彼らの目と口も同じように黒く染まり、満面の笑みを浮かべる。
その手に持った銃口はすぐ傍にいる仲間達へと向けられた。
「「「これでみんなしあわせになれるね!」」」
バンバンバン!!
三人はお互いの頭を撃ち抜き死亡した。
その顔は他と同様に幸せに満ちた笑顔になって。
「よくも…よくもやってくれたわね…可愛らしいお嬢さん…!」
彼らが『
彼女こそが先程まで彼らが話していた人物『スコール・ミューゼル』その人だった。
亡国機業の幹部の一人であり、特殊部隊の隊長も務めている。
その身には黄金に輝く専用機を纏っているが、装甲には多くの返り血が付着していた。
「よりにもよって…この私に『仲間殺し』をさせるだなんて…この代償は高くつくわよ…!」
スコールからの怒りを真っ向から受けても、少女は微動だにしない。
それどころか増々、笑みを強くするばかりだ。
「戦闘要員の殆どは謎の同士討ちで死亡…。貴重なIS操縦者も私とオータム、M以外は全滅…。もう組織の立て直しは不可能でしょうね」
「あははははははははは!」
「今までの歴史の中で、亡国機業がここまで追い詰められたのは後にも先にもこれが最初で最後よ。アナタは一体何者なのかしらね?」
「あははははははははは!」
どれだけ質問をしても、少女は笑い続けるだけ。
問答は無用…否、不可能だと判断したスコールは、背後にいる自身の右腕にして恋人でもあるオータムに指示をする。
「オータム! 相手が裸同然でも遠慮はいらない! 心置きなく殺して構わないわ!」
「………」
「…オータム?」
蜘蛛を模した専用機『アラクネ』を纏うオータムは、スコールの言葉に全く反応を示さない。
顔面を覆い尽くすフェイスカバーを装着しているので表情は分からないが、スコールはそれを『怒りの余り無口になっている』と判断してしまった。
「
ほんの僅かな時間、目の前の少女から意識を逸らした隙に、彼女の全身が赤い炎に包まれ、緑の装甲を身に纏った。
「全身装甲の専用機…! そうよね…裏社会の大組織にたった一人で挑むんですものね…それぐらいは持っていて当然…なっ!?」
警戒はしていた。
し過ぎるぐらいにしまくっていた。
どんな動きをしても対処可能なように構えていた。
「
それなのに、彼女の動きに全く反応できず、凄まじい速度から繰り出される炎を纏った剣の一撃を防御も出来ず、回避も出来なかった。
スコールのIS『ゴールデン・ドーン』の鉄壁である筈の装甲に、確かな傷跡が出来ていた。
「そんな…馬鹿…な…!」
これまで無敵を誇っていた自慢の機体が損傷を受けた。
その事実はスコールの精神に少なからず隙を生んだ。
「オータム! 何をしているの!? 早く援護を! この子は普通じゃな…!?」
アラクネの蜘蛛の足のようなサブアームが雄々しく展開。
先端にある刃が、スコールの機体に絡みつくように覆いかぶさってきた。
「オ…オータム…!? まさか…アナタも…!?」
フェイスカバー越しにうっすらと見えたオータムの顔。
装甲の裏で、オータムの目と口は黒く染まり、黒い涙と唾液を零していた。
「スコォォォォルゥゥゥゥゥ! スコォォォォルゥゥゥゥ!」
「し…しっかりしなさいオータム!! あんなのに負けちゃダメよ!!」
「アイシテル…アイシテルンダヨォォォォォォ!!」
「私もそうよ! アナタの事を愛しているわ! だから!」
どれだけ言葉を尽くしてもオータムは止まらない。
しかも、完全にゴールデン・ドーンがアラクネにパワー負けしている。
「イッショニ…『幸せ』にナロウゼェェェェェェェ!!!」
「オー…タム…!」
勝てない。
スコールは心の中でそう悟ってしまった。
残されている戦力は、恐らく自分一人だけ。
この分ではMも正気を保っているかどうか怪しい。
自分に匹敵する実力者であるオータムが敵の術中に嵌った時点で勝負はついていたのだ。
「ごめんなさい…オータム…」
「スコォォォォルゥゥゥゥゥ…」
オータムに触れられ、徐々にスコールの目と口も黒く染まっていく。
それもまだ彼女はギリギリで意識を保っていた。
「せめて…来世では幸せに…」
最後まで言い終わることなく、二人は超巨大な爆発に包まれた。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
遠くの崖の上から『ミサキ』は静かに見つめていた。
これまでずっと裏を支配していた組織が爆発と共に消えていく瞬間を。
幾らISと言えども、あれ程の爆発には耐えられない。
最初の爆発で全てのSEを持っていかれた末に強制解除され、無防備になった状態で更なる爆発に巻き込まれてしまう。
「…………」
ミサキは、その腕に抱えている一人の少女を見つめる。
織斑千冬に良く似ている小さな少女を。
最後に一番大きな爆発が起き、周辺の地形すらも変えていく。
それを見届けてから、ミサキは無言で去っていく。
その行く先は誰にも分らなかった。
ぺい