ラブリーエンジェル美咲ちゃんの幸せ大作戦! ~み~んな幸せになぁ~れ!~ 作:とんこつラーメン
アナタハソコニイマスカ?
シャルル・デュノアが転入して来て5日程が経過した。
もうすっかり彼はクラスに馴染み、学園唯一の同性と言うことで一夏ともよく話す仲になり、その縁で美咲とも話す事が多い。
本日は土曜日で、午前中はいつも通りの授業が行われ、午後は完全な自由時間となっている。
この辺は普通に学校とそこまで大差は無い仕様となっていた。
とはいえ、土曜の午後は基本的に全てのアリーナが解放されているので、熱心な生徒などは遊んだりせずに貴重なアリーナ使用時間を有効活用し、自己研鑽に費やしている。
それはまだまだ未熟者である一夏も同様で、今日もいつものように美咲からISに関するレクチャーを受けている…のだが、今回はシャルルも参加していた。
「それが佐藤さんの専用機なんだね」
「はい。木星公社が開発した試作機『ファントム』です」
「幽霊って…凄いネーミングなんだね」
「名前の由来は知りません。因みに、この機体は『2番機』なんです」
「「2号機?」」
「えぇ。たった一機で戦局を変え得る戦闘力を持つ『一騎当千』が開発コンセプトである『サウザンド・カスタム』…通称『サーカス・シリーズ』の一機で、二番目に開発認可が下りたISなんです」
「成る程…だから『2番機』なのか」
「そういうことです」
禍々しい全身が緑の装甲に覆われているIS。
その中から少女の声がするのだからギャップが凄い。
「…で、話は戻すけど、一夏が佐藤さんに勝ち切れないのはシンプルに射撃武器の特性を理解していないせいだと思うんだよ」
「うーん…俺なりには理解しているつもりなんだけどなぁ…」
残念ながら『している』と『つもり』では天地ほどの差がある。
「恐らくだけど、一夏の場合は『知識として理解している』って感じじゃないのかな? 頭では分かっているけど、実際には思うように体が動かせない的な」
「言われてみれば…さっきの美咲との模擬戦でも思うように間合いを詰められなかったしな…」
「それが出来るのが所謂『天才』と呼ばれる人種なので、あまり気にしなくてもいいと思いますよ? 寧ろ、今の一夏くんは誰もが一度はぶつかる壁の前に立っていると思えばいいのではないかと」
つい先程試しに行ってみた模擬戦でも、一夏は見事に美咲に対して敗北していた。
クラス対抗戦では中々に善戦していたのに。
「一夏のISも、佐藤さんのISも基本的には近接戦仕様だけど、それでも佐藤さんのファントムには少なからず射撃武装が詰まれている。その差が大きいんだろうね。接近戦をするなら猶の事、射撃武器の特性を良く理解していないといけないし」
「『敵を知り、己を知れば百戦危うからず』…ですね」
剣一本のみと、剣の他にも牽制用の飛び道具があるというのは想像以上に汎用性に差が出てくる。
特に、ファントムが所有している『万能武器』の存在は非常に大きい。
「そう言えば、佐藤さんはなにやら面白い武器を持っていたよね。あれは?」
「あぁ…『バタフライ・バスター』のことですか?」
名前を言いながら拡張領域から出して見せる。
これまでにも幾度となく使用されてきたファントムの主武装。
遠近の両方をそつなくこなせる世にも珍しい万能武装だ。
「普段は標準的なビームライフルですが、銃身を折り畳む事でビームサーベルにする事が出来ます。因みに、これの正式名称は『バタフライ・バスターB』で、この世にたった6挺しか存在していないオリジナルのバタフライ・バスターを基に製作されているんです。オリジナルよりも出力が約12%向上しているらしいです」
「たった6つしか存在しない武器から作られた発展武器…凄いね…」
「折り畳んで剣になるってのが良いよな。変に両手を使ったりしなくていいし」
一夏の言う通り、それこそがバタフライ・バスター最大の長所なのだ。
簡単に遠近を使い分けられるコレは、距離を問わずに活躍できる。
「後は…こんなのもありますね。多目的攻撃兵装『クジャク』」
「これは…大きな剣…か?」
「バスターモード時はそうなりますね。クジャクは近接戦時に7対14基、先端には山形の3基のビーム発信機があり、巨大なビームサーベルとして使え、これを展開することで射撃武器として使える『スマッシャーモード』時にはこれら全てがビーム砲として使えるんです」
「すげぇ…普通に切り札じゃねぇか…」
「そうですね。実際、これには小型のジェネレーターが内蔵されていて、クジャク一つにIS一機分の製作費が掛かっているとされています」
「ア…IS一機分の製作費の武器っ!? どれだけ高級品なのさ…」
まさか、武器一つにそれだけの膨大な費用を掛けるとは。
普通ならば絶対に考えられない事だが、逆を言えば、それだけ性能が高いという証拠でもあった。
「実際、クジャクは採算度外視で作られた武装みたいで、殆どワンオフに近くて、本格的な量産はされていないようです」
「「そりゃそうでしょ…」」
IS一機分とほぼ同じ制作費の武器なんて量産したら、それこそ金が幾らあっても足りない。
どんなに大きな企業でも絶対に不可能だろう。
「僕のリヴァイヴ・カスタムも拡張領域の広さ故の武装の豊富さには自信があったんだけど…それを質で補う武器があっただなんてね…世の中にはまだまだ知らない事が多いんだなぁ…」
手数で圧倒するか、高出力で制するか。
どちらも一長一短ではあるが、有用ではある。
一夏の場合は高出力で制する方になるが。
そこから、シャルルや美咲によって白式の事や拡張領域、ワンオフ・アビリティーの事について教えて貰う。
懇切丁寧な教え方に、一夏は何度もうんうんと頷いていた。
「そういや、ワンオフ・アビリティーで思い出したけど、ファントムの『ファントム・ライト』もそれに該当するのか?」
「そう…ですね。正確には『結果的に単一使用能力』となったというべきでしょうか」
「結果的に…?」
「はい。ファントム・ライトはファントムが抱えている致命的欠陥を力技で解決した結果、偶発的に発現した能力なんです。故に、最大起動時の連続使用時間は15分が限界ですし、使用時は機体全体が高熱に包まれます。操縦者である私は平気ですが、周囲に凄まじい熱気が発生します。拡張領域にある強制冷却用カートリッジを使えば使用時間を倍には出来ますが、それでも30分が限界ですしね…」
「時間制限つきの能力…使いどころが重要になってくるね」
「ですね。その代り、ファントム・ライト使用時にはありとあらゆる光学兵器を完璧に無力化できる程の超鉄壁の防御力と超機動を得られますが」
制限時間付きの最強。
ある意味、一夏の白式以上に癖が強くピーキーなISとも言えた。
「僕のISは実弾兵器主体だけど…それでも回避されたら意味無いしね…。その為の超機動なのか…」
聞けば聞くほど、ファントムは日本の弱小企業で製造できるようなISとは思えない。
この細身の機体の中には、世界中の企業が驚愕するような超技術が満載されている。
シャルルとしては、どうしてもファントムの存在を無視できない。
そして、美咲は装甲の下で会話をしながら、密かにシャルルの事を事細かに観察していた。
(矢張り…
余り時間を掛けてはいけない。
かといって、攻め時を間違えてもいけない。
今回は今まで以上に『タイミング』が重要に思えた。
そうして考え事をしている間に、シャルルが一夏に射撃の練習をしてみるように提案してきた。
リヴァイヴの武装を貸出許可を出して、白式に一時的に装備させたのだ。
そうこうしている最中、周囲の生徒達が急に騒ぎ出した。
何事かと思っていると、そのうちの何人かが高い場所を指差した。
「ね…ねぇ…あの黒いISって…」
「うん…間違いないよ…ドイツの第三世代型だ…」
「国の方でトライアルの真っ最中って聞いてたけど…」
その声を聞き、美咲たちも視線を移す。
(そう…あれがもう一人の転入生『ラウラ・ボーデヴィッヒ』さんのIS…)
先程からずっと自分達だけを睨み付けている。
まるで親の仇であるかのように。
「おい。織斑一夏」
「…なんだよ」
最初から険悪なムード全開。
空気を読んで黙ってはいるが、密かにプライベート・チャネルでシャルルに通信を送る。
(軽く話は聞いたのですが、一体どうして彼女はあんなにも一夏くんを敵視しているのですか?)
(僕にもよく分からないんだよね…。ただ、転入初日にいきなり『認めない』とか言って一夏の事をビンタしてたっけ…)
(認めない…?)
一体、一夏の何を認めないというのだろうか。
それだけでは全く判断のしようが無かった。
「噂で聞いた。貴様も専用機持ちらしいな。それならば話が早い。今すぐ私と戦え」
「断る。理由が無いからな」
「貴様には無くても私にはある」
全く会話をする気が無い。
協調性皆無。
こういう時は無視するのが一番なのだが、それはそれでまた厄介なことになりそうな気がした。
「貴様さえ…貴様さえいなければ教官は…! あの人の輝かしい栄光を汚した貴様を私は絶対に認めない!」
「…そうかよ。で、話は終わりか? じゃあな」
「あくまで拒むか。ならば…無理矢理にでも戦いたくなるようにしてやる!」
「「「!!?」」」
ラウラが声を荒げた瞬間、彼女のISが戦闘モードに移行した。
瞬間的に嫌な予感がしたシャルルと美咲は、咄嗟に二人揃って一夏の前へと飛び出した!
その予想は見事に的中し、彼女の黒いISの左肩にある巨大な砲身から凄まじい速度で巨大な実弾が発射される!
「フン!!」
「なっ!?」
「うそぉっ!?」
シールドを展開して防御をしようとしたシャルルの目の前で、なんと美咲がファントムライトを右腕部にのみ部分的に展開、その砲弾を右手で受け止めてみせた。
「み…美咲!!」
「うーん…ちょっとだけ右手が痺れちゃいました」
「ば…馬鹿な…あの一撃を受け止める…だと…!?」
すぐにファントムライトを解除し、手に持った砲弾をお手玉のように何回かポンポンとしてから、ポイっと地面に投げ捨てた。
「例え、どのような理由があろうとも、人が密集した場所でいきなり砲撃をしてくるのは感心しませんね。一体どのような教育を受けてきたのですか? 余程、常識知らずの人に教育を受けたのでしょうね」
「貴様…私の前で教官を愚弄するか!」
「事実を言ったまでです。なんでしたら、私がお相手しましょうか? 感情に飲まれた相手程、手玉に取り易いですから。きっと楽勝でしょうね」
「言ったな…! 見た事のない全身装甲のIS…だが、それでも我が『シュヴァルツェア・レーゲン』の敵では…」
一色触発。
完全に臨戦態勢に入った美咲に、一夏もシャルルも身動きが取れなくなる。
その時だった。
『こらそこ! 一体何をやっている! 今すぐに学年とクラスと名前を言え!』
どうやら、誰かが先生に通報したようで、アリーナのスピーカーから怒号が聞こえてきた。
流石に分が悪いと判断したのか、ラウラはISを解除してから踵を返した。
「…ふん。今日の所は見逃してやる。だが…その機体は覚えたぞ…!」
「それはお互い様です」
ラウラが姿を消すまで、ずっと美咲は睨みを利かせていた。
そうして彼女が去ったのを見届けてから、美咲はようやく態勢を解いた。
「ふぅ…一時はどうなるかと思いました」
「すまねぇ…俺のせいで…」
「別に気にしなくてもいいですよ。一夏くんに非はありません。今回は全て彼女が悪い。そうですよね?」
「う…うん! 佐藤さんの言う通りだよ!」
「美咲…シャルル…ありがとな…」
少しだけ元気の戻った一夏を見て、顔を合わせる二人。
今がチャンスだと思った美咲は、プライベート・チャネルでシャルルに繋いだ。
(シャルルさん。少しよろしいですか?)
(佐藤さん? いきなりどうしたの?)
(実は、少しお話があります。後でお付き合い願えますか?)
(僕に? 別にいいけど…)
(ありがとうございます)
この5日間。ずっとシャルルを観察してきて思ったこと。
それらの答え合わせをする時が来た。
やす