ラブリーエンジェル美咲ちゃんの幸せ大作戦! ~み~んな幸せになぁ~れ!~ 作:とんこつラーメン
ぱる
アリーナでの騒動の後、美咲は一夏に適当に言い訳をしてから、シャルルをとある場所へと連れて来た。
「へぇ~…屋上って、こんな風になってるんだね」
IS学園の校舎の屋上は、他の学校とは違って基本的に出入りが自由となっている。
本来ならば、その危険性故に普段は出入りが出来ないようになっているのだが、IS学園の場合はセキリティが他の学校の比ではないからなのか、こうして生徒の出入りを特別に許可していた。
実際、屋上にはベンチやテーブル、ちょっとした花壇まであるぐらいだ。
恐らく、設計段階から屋上をこんな形で利用することが想定されていたのだろう。
「この時間帯に屋上に来るような人はそうそういませんし、この場所ならば監視カメラの類も存在しない。遠慮なく話が出来ます」
屋上に到着した直後は、呆然とフェンス越しに空を眺めていた美咲ではあるが、徐に後ろを振り向いてからシャルルの事をジッと見つめた。
「それで? こんな場所に僕を呼び出して、一体何の話があるのかな?」
「…余り回りくどい言い方は好きじゃありません。なので、ここはストレートにお尋ねします」
「何かな?」
普段の柔らかな物腰からは想像が出来ない程に鋭い視線。
思わず慄きそうになるシャルルではあるったが、そこは何とか踏ん張った。
「…
ドクン。
心臓が大きく脈打った。
一瞬、本気で空気が凍りついたかと錯覚した。
「ど…どういう意味かな? 僕は僕だよ?」
「…デュノアという名を持つ人間はそう多くは無い。フランスに限定すればもっと絞られる。故に、調べるのは思った以上に簡単でしたよ。『フランス』で『デュノア』と言えば、真っ先に該当するのは一つだけ」
風が吹く。
美咲の長い髪が靡き、今の彼女の心境を表しているかのようだった。
「量産型ISのシェアが世界第三位であり、あの名機『ラファール・リヴァイヴ』を生み出した大会社『デュノア社』の社長『アルベール・デュノア』。ですが、彼の家族に『シャルル』という名の嫡男は存在しなかった。その代り、愛人との間に出来た娘の名前があった。その名は…」
美咲がその先を口にしようとした…その時だった。
シャルルが彼女の肩を掴んで静止させた。
「…流石だね。まさか、僕の名前だけで、そこまで辿り着くだなんて…」
「では…認めると?」
「うん…というか、そこまで言われてしまったら認めざる負えないよ」
さっきまでの『仮面』を捨て去り『素』の表情を初めて出す。
呆れたような、投げやりになったような、そんな諦めの滲み出た顔。
大きな溜息を吐きながら『シャルル』はベンチに座った。
「一つ聞いても良いかな? 一体いつから僕が『女』だって気が付いたの?」
「怪しいと思ったのは、噂で貴女が転入してきた話を聞いた時から。そして、疑惑が更に深くなったのは実際に貴女と話してから」
シャルルの傍に寄り添うように、美咲も隣に座る。
その視線はずっと空にばかり向けられていた。
「そもそも、第二の男性IS操縦者なんて存在が世に出れば、間違いなく世界的な大スキャンダルになっている筈。一夏君の時と同じように連日に渡って特番や緊急ニュースなどが報道されていても全く不思議じゃない。にも拘らず、そんな様子は全く無かった。まるで、ある日突然に何も無い所からひょっこりと出現したかのように。その時点でもう既に怪しむに値します」
「…そっか。凄いね…まさか、会う前から既にそこまで考えていたなんて…」
明らかに一般生徒とは違う視点を持っている美咲。
企業所属と言うのは伊達ではないと思い知らされる。
「男性にしては線が細すぎるし、声も高すぎる。確かに実際に線が細い男性や声が高い男性もいるにはいますが、それでも貴方ほどじゃない。明らかに不自然過ぎた。というか…アナタは『演じ過ぎた』んですよ」
「演じ過ぎた…?」
「そう。デュノア君の振る舞いはまるで『女性から見た理想の男性像』を具現化したような感じでした。並の一般女性ならばそれでも大丈夫でしょうが、私のような人間には通用しないでしょうね。ちょっとした癖、歩き方、仕草などですぐに分かってしまう。少なくとも、私以外にも一組担任の織斑先生辺りも、貴女の正体を看破しているんじゃないんでしょうか?」
「そう言えば…あの人は元国家代表でブリュンヒルデだったね…流石に誤魔化せないか…」
自分の組の担任は嘗て、世界の頂点に立ったことがあるほどの人物。
生半可なことでは、その目を誤魔化すことは不可能だろう。
「それで? 僕をどうするつもりかな? 正体を告発でもして学園から追い出す?」
「いいえ。そんな事はしません。する理由が無い」
「どうしてさ? 僕は君や一夏を…学園の皆を騙していたんだよ?」
「もしも、貴女が自分の意志でソレをやっていたのならば、私とて迷わず学園側に公表したでしょう。でも、私にはどうしても貴女が自らの意志でこんな事をしているようには思えなかった」
グルンと首を動かし、ジッとシャルルの目を見つけ続ける。
「先程…ボーデヴィッヒさんからの襲撃を受けた際、アナタは微塵も迷う事無く一夏君の盾になろうとした。変装をしてまでスパイ活動をしている人間にしては余りにも優しすぎる。一歩間違えば自分が大怪我をして、本懐を遂げられなくなるかもしれないのに。それなのに、貴女は一夏くんを守るという選択をした。それは自分の本来の目的以上に一夏くんを守りたいという思いが強かったからではないのですか?」
「………」
「自分の身を盾にして友を守る。そんな人が自らの意志でスパイをするとは思えない。きっと、何者から命令をされてスパイ活動を強要されているのではないか。そう思ったんです」
自分の事を『優しい』と言ってくれる少女。
この状況で嘘をつくような人間じゃないことは、この短い間に良く知ることが出来たし、一夏からも聞かされていた。
美咲は自分を騙そうとはしていない。
純粋に尋ねているのだ。
こちらの『本来の目的』を。
「…僕は…佐藤さんにそんな風に言われるような…褒められた人間じゃないよ…」
「デュノアさん…」
「でも…ここまで言われたら僕も話すしかないよね…全てを」
そうして、シャルルはポツポツと話し出した。
自分がIS学園に来た理由、その経緯を…。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「矢張り…一夏君のデータが目的で…」
「うん。佐藤さんならもう知ってるとは思うけど、今のデュノア社は経営が傾いてて凄く危ない状況にあるんだ」
「第三世代機の開発に成功していないから…ですね」
「その通り」
文字通り、シャルルは全てを話した。
自分の出生の事。会社の事。家族の事。
男装をするに至った理由。
そして…自分の『本当の名前』の事を。
「そっか…イグニッション・プラン…。イギリスとドイツ、イタリアが現在は参加していますけど、フランスは…」
「そう。本来ならばそこにフランスも含まれるはずだった。けど、ご存じの通りデュノア社…というか、フランス自体が開発競争から完全に出遅れてしまった。代の世代を開発した時期も最も遅かったからね。技術力もノウハウも圧倒的に不足していて、中々に形にする事は出来なかった」
「そんな時に一夏くんという『男性』がISを動かしたとニュースが世界中を駆け巡った…」
少しでも貴重なデータを欲しているデュノア社は『男性用IS』のデータと、その『操縦者』の情報を入手することで起死回生を狙った。
そして、少しでも一夏に近づきやすくするために男装をした。
それが話の全てだった。
「でもまさか…君みたいな子がいる事は完全に予想外だったなぁ…ははは…。しかも、現行のISを遥かに凌駕する高性能機を保有しているだなんて…IS発祥の国ってのは伊達じゃないね…」
「そう言っている割には随分とスッキリとした表情をしていますね。『シャルロット』さん」
「全部話したから…かな。まるで、ずっと背負っていた重りを降ろしたような気持ちだよ」
シャルロット。
それが『彼女』の『本来の名前』だった。
「…おかしいですね」
「何が?」
「いや…幾ら経営が傾き、新型機の開発が難航しているとはいえ、そこで『男性用ISのデータを手に入れろ』という話になるでしょうか?」
「…どういうこと?」
「仮に一夏君と白式のデータを首尾よく入手できたとして、それを一体何に活用するんですか? 現在、真の意味でISに乗れる男性は一夏くんだけ。まさか、デュノア社が彼の為に新たな機体を開発するとでも?」
「言われてみれば確かに…」
あくまでシャルルは命令されただけであって、それを『何に』『どうやって』使うのかは全く聞かされていない。
例え良く思われていなくても、実際に日本に行かせてまで活動させるのだから、その辺の事を教えていても不思議じゃない。
じゃなければ、万が一にでも利用価値が無い可能性が出た時のリスクが余りにも大き過ぎる。
「もし私がシャルルさんにスパイを頼むのならば、一夏君やその機体のデータではなく、他の候補生の機体データなどを欲します。そちらの方が遥かに有用ですから」
「じゃ…じゃあ…どうして僕にこんな事をさせて…」
美咲の話を聞くうちに、父の真意が分からなくなってくる。
どうして有用性が不明のデータを取りに行かせた?
男装なんてことまでさせて。
「…どうやら、この一件は思ったよりも根深いのかもしれませんね」
「佐藤さん…?」
自分の顎に手を当ててブツブツと思考に耽始める美咲。
徐に視線だけをシャルルの方に向け、静かに言った。
「シャルルさん…いや、シャルロットさん。アナタはご両親から事の真相を聞く必要がある。いや、その義務がある」
「父さんたちに…?」
「そうです。そもそも、お義母様に関してもおかしい。もし本当にあなたの事を心から嫌っているのなら、頻繁に出会って、もっと酷い仕打ちをしていてもおかしくない。けど、実際には出逢った回数は数える程な上に、やった事と言えば罵倒の一言とビンタだけ。まるで私には『自分が愛人の娘を嫌っているとアピールしている』風にしか聞こえない」
「ま…まさか…あの人も…芝居をしていたって言うの…?」
「私の予想では…ですけどね。だからこそ、聞かなくてはいけない。全ての真実を」
「で…でも…」
そこまで言われても躊躇いはある。
どんな理由があるにしろ、自分が辛い目に遭ってきたのは間違いない事実。
今更、何をどう聞けというのだろうか。
「…シャルロットさん」
「え?」
気が付けば、美咲が目と鼻の先にいた。
近くで見ると、改めて佐藤美咲という少女の美しさが際立ち、思わず恥かしくなった。
「私は、全ての人の『幸せ』を願っています」
「『幸せ』…?」
「そうです。私は貴女にも『幸せ』になって欲しい。いや、ならなければいけない。今までの分もずっと」
「なれるのかな…」
「なれます。絶対に」
「佐藤さん…」
その美しい顔からは想像出来ない程に力強い瞳から目が離せなくなる。
まるで吸い込まれるかのようにシャルロットも彼女の目を見つめ続けた。
「例え、そこにどのような理由があろうとも、家族同士でいがみ合うのは悲しいことです。『本当の幸せ』は家族と一緒でなければ得られない。少なくとも私はそう思っています」
「君の家族は…」
「もういません。私の『家族』は、もう随分と前に亡くなってしまいました」
「…ごめん」
「気にしないでください。その分、私は『幸せ』になり、他の人々も『幸せ』にすると決めていますから」
「佐藤さんは…強いんだね…」
「そんな風に見えるのはきっと、私が一人ではないからです」
「そっか…君には一夏が…」
まだ出会って日が浅いが、それでもこの二人が普通の関係ではないのは分かる。
まるで恋人同士…とはいかなくても、その一歩手前ぐらいまでには関係が深まっているだろう。
「なのでシャルロットさん。安心してください。必ず私が貴女を…」
「幸せにしてあげます」
イテッ