ラブリーエンジェル美咲ちゃんの幸せ大作戦! ~み~んな幸せになぁ~れ!~   作:とんこつラーメン

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          私は冬を越せるキリギリスなんだよ。










『ラウラ・ボーデヴィッヒ』①

 それは、ある日の事だった。

 美咲が昼休みに図書室に勉強の為の参考書を借りに行くために渡り廊下に向かおうとしていると、ふとその渡り廊下から誰かの話し声が聞こえてきた。

 

「どうして、このような場所で教師などと!」

(おや? この声は…?)

 

 それは、以前にも一度だけ聞いたことのある声だった。

 だが、美咲の記憶に鮮烈に記憶されている声。

 

 一体誰と話しているのかと思いながら渡り廊下に行くと、そこでは一夏の姉であり一組の担任でもある『織斑千冬』が、例の『ラウラ・ボーデヴィッヒ』と話をしていた。

 

「何度も同じ事を言わせるな。今の私にはここでやるべき事がある。ただ、それだけだ」

「このような場所で一体どんな目的があると言うのですか!?」

 

 会話は段々とヒートアップしていく。

 一刻も早く通り過ぎるのが吉なのだろうが、雰囲気的にも前を通りにくい。

 結果として、美咲は柱の陰に隠れる形で二人の会話を盗み聞く形となった。

 

 そこからは、ラウラが千冬に『ドイツに戻って、もう一度色々と教えて欲しい』的な事を言うが、千冬は完全に『暖簾に腕押し』状態。

 まともに会話もする気は無いようだ。

 

 更に、学園の生徒は意識が甘い上に、危機感に疎いと言い放つ。

 それに関しては美咲も同感だが、だからと言ってラウラに同調する気は無い。

 

「…いい加減にしろよ小娘風情が」

「うっ…!」

「少し見ない間に随分と偉くなったもんだな。えぇ? 少佐殿」

「わ…たし…は…」

「自分がどうして『少佐』になれたのか。どうして『候補生』に選ばれたのか。どうして『隊長』に就任出来たのか。その『真の意味』すら正しく理解出来ていない癖に、選ばれた人間気取りとは笑わせてくれるな。いつから、そんなにも冗談が上手くなった?」

 

 圧倒的なプレッシャー。

 並の者ならば、一瞬で萎縮して気を失っていても不思議ではない。

 美咲は『並の者』ではないので平気だが。

 

「話はそれだけか? ならば、とっとと行け。私はお前と違って忙しい」

「…………」

 

 悔しそうに歯を食いしばりながら、体を震わせてラウラは無言で校舎の中へと入って行った。

 

「全く…。ところで、そこの奴はいつまで盗み聞きをしている気だ?」

「…バレていましたか」

「お前は…」

 

 自分がいる事を把握されているのなら、変に誤魔化しても意味が無い。

 美咲は素直に姿を現す事にした。

 

「三組のクラス代表の…」

「はい。佐藤美咲です。申し訳ありません。別に意図して盗み聞きをする気は無かったのですが…」

 

 ここで美咲は、自分がどうしてここにいるのか。

 二人の会話を聞くに至った理由を簡潔に、だが正確に述べた。

 

「そうか…済まなかったな。それに関しては全面的にこっちが悪かった」

「いえ。気にしないでください」

 

 お互いがお互いを許容すれば、こんなにも簡単に人間は分かり合える。

 それが普通の事なのに、出来ないのが人間でもある。

 

「そう言えば、佐藤には一夏の奴が世話になっているんだったな。迷惑など掛けたりしていないか?」

「そんな事は決して。弟さんとは仲良くさせて貰っています」

「そうか…」

 

 学内で弟の事を名前で呼ぶ。

 『担任』としてではなく、一人の『姉』として心配をしている証拠だった。

 

(噂では、一夏と佐藤が付き合っているというらしいが…)

 

 これまでにも何回か、千冬は三組と合同の実習をしたことがある。

 その時の美咲の印象は『誰もが認める理想的なリーダー』だった。

 真面目で、行動力があり、常に周りを気に掛ける。

 それでいて、ちゃんと教師のフォローも忘れない。

 教える側としても、美咲のような生徒は非常に有り難い。

 

(…こんな少女が将来的に私の『義妹』になるのも悪くは無いかもな…)

 

 織斑千冬。早くも弟の将来について想像を巡らせる。

 

「そうだ。私達の会話を聞いていたのなら、少しお前の意見を聞かせてくれないか?」

「と申しますと…ボーデヴィッヒさんが仰られていた『IS学園の生徒は意識が低い』的な事ですか?」

「あぁ。佐藤はどう思う?」

「そうですね…」

 

 ありのままに言うのは簡単だ。

 だが、それでは意味が無い。

 ちゃんと自分の中で言葉を厳選し、その上で自分の考えを伝えなければ。

 

「…確かに、ボーデヴィッヒさんの言うことにも一理あります」

「そうか…」

「ですが、それは最初だけだと思います」

「と言うと?」

「入学したての生徒達は、まだISの『表側』しか知らず、それに憧れてやってきたとも言えます。ですが、ここで様々な事を学んでいけば、自然とISの『良い部分』と『悪い部分』が分かるようになる筈です。事実、二年生や三年生の先輩方にはISを操縦できるからと言って浮かれている生徒は一人もいません」

「本当に…お前はよく周りを見ているな。生徒ながら感心させられるよ」

「それ程では…」

 

 流石に美咲も、ストレートに褒められると少し照れる。

 この照れ顔に、三組の生徒の大半がKOされた。

 

「はぁ…お前のように物分かりのいい生徒ばかりだと良いんだがなぁ…」

「理想としてはそうですが、そうじゃないから先生達がいるのでは?」

「全く以てその通りだよ…」

 

 さっきまでの威厳溢れた表情から一変、まるで仕事に疲れたOLのような表情になり美咲に近づき、その頭を優しく撫でた。

 

「これからも一夏の奴をよろしく頼む。色々と苦労を掛けるかもしれんが…」

「そんな事はありません。私も一夏くんの存在に助けられていますから」

「そっかぁ…」

 

 割と冗談抜きで『美咲と一夏が結婚したらいいのになぁ…』と思う千冬。

 

 こうして、一夏の全く知らない所で何気に美咲と千冬の仲が深まり、同時に事実上の交際認定がされたのだった。

 

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 放課後。

 もうすぐ開催される学年別トーナメントに備え、美咲と一夏は一緒に第三アリーナへと行こうとした…のだが。

 

「え? 書類?」

「そうなんです。主に専用機の登録に関する書類なんですが、ご存じの通り織斑君は学園に入ってから専用機を受領しましたよね? そのせいか、各種書類が届くのが遅くなってしまったんです」

 

 その途中で一年一組の副担任である『山田真耶』に掴まってしまった。

 書類が関わってくるのならば仕方がない。

 

「なので、今から職員室まで来てほしいんです」

「分かりました。そういうことなら」

 

 流石に書類関係を疎かにする訳にはいかない。

 真耶と一緒に職員室へと行こうとする一夏だったが、そこでふとあることに気が付く。

 

「そういや、美咲は大丈夫なんですか?」

「佐藤さんは入学時に既に登録用の書類を書いて貰っていますから。と言うか、どうやら入学よりも前に予め書いていたみたいで、こっちとしては本当に助かりました」

「当然のことをしただけです」

 

 少しでも手間暇を削減する為に出来る事をする。

 改めて『美咲は凄いなぁ』と感心させられた一夏だった。

 

「と言うことなので、少しだけ織斑君をお借りしますね」

「分かりました」

「後で俺も行くからさ、美咲は先にアリーナに向かっててくれ」

「了解です。一足先に練習をさせて貰いますね」

 

 こうして、二人は一時的にではあるが別れる事に。

 

 これがまた『数奇な運命』を辿ることとも知らずに。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 第三アリーナのステージに降り立つと、すぐに美咲は専用機である『ファントム』を展開。

 少し辺りを見渡すと、自分以外には誰もいない。

 見事な貸切状態だ。

 

「一人で出来る訓練…ですか。何がありますかね…?」

 

 ターゲットドローンを使った射撃訓練?

 それとも、ファントムライトを使った高速移動の訓練?

 

「…機体が機体なだけに、一人で出来る事って割と限定されますね…」

 

 もうちょっと汎用性に優れて入れば、色々と出来たかもしれないが、生憎とファントムは典型的な高機動型IS。

 文字通り、高い機動力こそが最大の武器となる。

 

「では、バタフライバスターの射撃モードのみを使ったスコアアタックとかしてみますか……ん?」

 

 拡張領域からバタフライバスターを出した瞬間…美咲目掛けて砲弾が高速で飛んできた。

 視界外からの攻撃とはいえ、そこは美咲。

 即座にバタフライバスターをサーベルモードにしてから砲弾を一刀両断した。

 

「ふん…この程度では不意打ちにすらならんか」

「あなたは…」

 

 不敵な笑みを浮かべながら歩いてきたのは、自身の黒い専用機『シュヴァルツェア・レーゲン』を装備したラウラだった。

 

「随分と乱暴なご挨拶ですね。それがドイツ軍流なのですか?」

「なんとでも言え。それよりも、貴様に聞きたい事がある」

「…なんでしょうか?」

 

 彼女は一夏を目の仇にしている筈なのに、何故か今は美咲の事を狙っているように見える。

 少なくとも、美咲には彼女にそんな事をされる謂れは無い。

 

「お前は…教官とはどんな関係だ?」

「教官?」

「織斑教官の事だ!! 何も無いとは言わせんぞ!! ついさっき、私が去った後に仲良さげに話をしていたではないか!!」

「見ていたのですか…」

「偶然だがな…」

 

 実はあの後、ラウラはまたどこかで話す機会を設けようと、来た道を戻って千冬に話をする約束を取り付けようと思った。

 だが、戻った先で見たのは、千冬が美咲と話している光景。

 しかも、自分の時とは全く違い、非常に和やかで千冬も自然な笑顔を浮かべていた。

 挙句の果てに、千冬は美咲の頭を優しく撫でていた。

 自分は一度もされたことが無いのに。

 

「なんでだ…どうして! 教官はお前にあんな顔を見せる!!」

「なんでと申されましても…」

 

 美咲は普通に千冬と会話をしていただけだ。

 その内容は悩み相談に近かったかもしれないが。

 どちらにしても、別に怪しいことなど何一つしていない。

 本当に、どこにでもありそうなごく普通の会話だ。

 

「織斑先生はここの教師であり、私は生徒です。話をする事に何の問題があると?」

「今は私もここの生徒だ!! なのに…どうして貴様は…貴様だけが…!」

 

 ここまで話して、美咲は彼女がどうして怒っているのか理解した。

 ラウラは嫉妬しているのだ。

 自分に対して決して向けられない感情が、美咲に対して向けられたことが許せないのだ。

 同時に、彼女は一夏にも嫉妬をしている。

 口では色々と言ってはいるが、とどのつまりラウラの怒りの原点は『嫉妬』だった。

 

(自分には無い何かを求め誰かを羨望するのは別に悪いことではない。人間である以上、誰だって大なり小なり、そんな感情は併せ持っている。問題があるとすれば、それは『嫉妬』を『憎悪』に変えてしまう事。負の感情に飲まれてしまったら、もう引き戻れない)

 

 どうやら、彼女もまた『幸せ』にしなくてはいけない相手のようだ。

 本当に…この世は不幸で溢れてしまっている。

 

「いいでしょう。私と戦う事で貴女の気が少しでも晴れると言うのなら…トーナメントにはまだ少しだけ早いですが、お好きなだけお付き合い致します」

「言ったな…! ならば、この場で貴様を完膚なきまでに叩きのめし、織斑一夏にその姿を晒してやる! その上で、必ずや教官をドイツに連れ戻す!!」

 

 以前の結果を完全に忘れ、ラウラは怒りに支配された状態で美咲に勝負を挑む。

 それがどれだけ無謀で、どれだけ『無意味』なこととも理解出来ないまま。

 

 

 

 

 











           『勇気』と『無謀』は違うんだよ。






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