ラブリーエンジェル美咲ちゃんの幸せ大作戦! ~み~んな幸せになぁ~れ!~   作:とんこつラーメン

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           和を乱す者は排斥されるが運命。










『ラウラ・ボーデヴィッヒ』②

 第三アリーナにて美咲がラウラに勝負を挑まれた頃。

 一夏は真耶に言われた書類を書き上げてから職員室を出ようとしていた。

 

「ふぅ…思ったよりも沢山あって大変だったな…」

 

 これまでずっと書類とは縁が無い生活をしてきたが故に、慣れない事は嫌でも疲れてしまうのだ。

 大きく溜息を吐きながら、アリーナに行く途中で何か飲み物でも買って行こうかと思っていると、何やら廊下が騒がしいことに気が付いた。

 

「ん? なんだ?」

 

 どうやら、女子達は慌てながらどこかに向かっている様子で、自然と一夏もそれが気になって聞き耳を立てた。

 

「ねぇねぇ! さっきの話ってマジッ!?」

「マジもマジ! 大マジ! 第三アリーナで、例のドイツの候補生の子が三組のクラス代表の佐藤さんに喧嘩売ってきたんだって!」

 

 美咲がラウラに喧嘩を売られた?

 それを聞いた時、一夏の背筋に冷たい物が流れた。

 

「でも、佐藤さんって専用機持ってる上にクラス対抗戦でも優勝する程の実力者なんでしょ?」

「うん。実際、先輩達も『あの子の実力は次元が違う』って言ってたぐらいだし」

「幾ら候補生って言っても…勝てるの?」

「どうだろ…そこら辺はこの目で確かめてみない事には…」

 

 確かに美咲はかなり強い。

 素人である一夏からしても、間違いなく一年生の中ではトップクラス…いや、最強かも知れない。

 でも、相手はドイツの代表候補生。

 その実力は完全に未知数だ。

 

「美咲…!」

 

 漠然とした不安感に駆られながら、一夏は後で説教を受けることを覚悟の上で廊下を猛ダッシュし、第三アリーナにいる美咲の元まで急いだ。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 

 それは一方的な蹂躙だった。

 

「遅い」

 

 炎を纏った一筋の流星と成り、緑の幽霊は黒の雨へと襲い掛かる。

 その余りの速度に、碌に攻撃する暇すら与えて貰えない。

 

「おのれ…おのれぇっ!!」

 

 自慢のリボルバーカノンを発射したくても、発射までに発生する僅かなタイムラグを突かれ、砲弾を撃つ事が叶わない。

 

 ならば、切り札とも言える『AIC』にて敵の動きを封じればいいのではないか?

 そう思うも、美咲にそんな思惑はお見通しだった。

 

「ふざけてるんですか?」

「なっ!?」

 

 腕を翳して『慣性停止結界』を発動させようとした瞬間、いつの間にか美咲が懐に潜り込んでいて、シュヴァルツェア・レーゲンの腕部にある『AIC発生装置』をフレイムソードの炎を発生させない状態で使用可能な『ヒートダガー』にて突き刺し、破壊していた。

 

「エ…AICがっ!?」

「まさか、こんな玩具が私とファントムに本気で通用すると思われていたとは…心外ですね」

「なんだ…ぐあっ!?」

 

 AIC破壊に気を取られ、心が乱れた所に腹部を思い切り蹴られ、ラウラは派手に吹き飛び地面に転がった。

 

「もう終わりですか? それでも代表候補生ですか? 織斑先生に直々に指導を受けたのでしょう? 立ち上がって来なさい。立ち向かってきなさい。ほら。ほら」

「貴様ぁ…! うあっ!? くぅっ! あぁっ!?」

 

 震える体を気合で起き上がらせようと試みるも、その直後にバタフライバスターのライフルモードから放たれるビームが命中し、すぐにその場に横転してしまう。

 

「まだこちらは『切り札』すら出していないのですよ? 私を倒すんじゃなかったんですか?」

「佐藤…美咲ぃ…!」

 

 美咲の名前は一組でも有名だったため、碌に会話をしないラウラでも聞き耳を立てる事ですぐに名を知ることが出来た。

 少し前に開催された『クラス対抗戦』で見事に優勝し見せたほどの実力者であると。

 それを聞いた時、ラウラは鼻で笑った。

 なんだそれは。

 たかだか、学園内のイベントで優勝した程度で認められるとは、ここの意識は想像以上に低いのだな…と。

 

 だが、現実は違った。

 

 完全に手玉に取られ、AICは破壊された。

 今の自分は地面に無様に倒れ、逆に美咲は悠然とした姿でこちらを見下している。

 

 この差は何だ? どうして自分が負けている?

 現役の軍人であり、候補生で部隊長である自分が。

 相手は単なる学生。

 専用機を所持しているとはいえ、自分とは今まで潜ってきた修羅場が違う筈だ。

 違う筈…なのに…。

 

「私はまだ…まだ負けてなどいない!!」

「ほぅ?」

 

 膝を付いた状態で機体に搭載されたワイヤーブレードを射出。

 半ば苦し紛れの攻撃だったが、それすらも簡単に迎撃される。

 

「甘い」

 

 バタフライバスターを一瞬でサーベルモードに変形させ、飛来した全てのワイヤーブレードを切り裂く。

 

「ダメか…ならば…!」

 

 一か八か。

 ダメ元でリボルバーカノンの発射を試みるも、その前にまたしても美咲が懐へと潜り込む。

 

「無駄ですよ。その一撃は威力はあっても発射までに時間が掛かり過ぎる。奇襲攻撃とかにしか使えない。どうして、それが理解出来ないのですか?」

「う…うるさい!! 黙れ!!」

 

 もう言葉でしか攻撃が出来ない。

 この距離ならば『プラズマ手刀』で行けるかと一瞬だけ思ったが、すぐに『どうせ簡単に躱される』という考えに至り使えずにいる。

 つまり、もう完全に詰んでしまっていた。

 この勝負は、もう誰が見ても美咲の圧勝。ラウラの完全敗北だった。

 

「AIC…一見すると便利に見えますが、便利なものほど弱点もまた多い。そんな事すら理解出来ずに使おうとし、あまつさえ依存していた。それがアナタの敗因です」

「なに…?」

「そもそも、『アナタのAIC』には致命的な弱点が多すぎる」

 

 ラウラに見えるようにし、指を一本だけ上げる。

 

「弱点その一。機能発動までのラグが掛かり過ぎる点」

「ラグだと…!?」

「そうです。対象を視界に入れる。対象に腕を向ける。対象に意識を集中させる。少なくともアナタがAICを発動させるためには、この三つのプロセスを踏まないといけない。違いますか?」

「うっ…!」

「発動させるのに、そんなにも手間を掛けないといけない装置なんて論外です。私が調べたところによると、本来のAICは対象を視界に入れたり、腕を翳したりせずとも、対象を脳内でイメージするだけで簡単に発動することが出来る筈。それが出来ないと言うことは、アナタがAICを十全に使いこなせていないと言う証拠。恐らく、アナタはまだその機体に乗って日が浅いのではないですか?」

「…っ!?」

 

 まるで全てを見透かされているかのように事実を述べられる。

 ここで意地になって否定すれば、それは美咲の言葉を肯定しているのと同じ。

 黙っていてもまた同じ。

 つまり、何をしてもラウラにとっては意味が無い行為だった。

 

「弱点その二。AICが停止させられるのはあくまで『物質』だけ。実弾。実体剣。それのみ。レーザー兵器やビーム兵器と言った相手には全くの無力。そして、私のファントムの主武装は、その殆どがビーム兵器。武器の相性に加えて機体の速度もこちらが上となれば、AICが全く通用しないのも道理というもの」

 

 確かに美咲の言う通り、AICが停止させられるのは『実体がある物』に限定されている。

 光学兵器系には悲しい程に無力なのだ。

 

「弱点その三。AICは確かに一対一では殆ど無敵に近い能力ですが、その力は相手が増えた途端に致命的な弱点へと変貌する」

「なん…だと…?」

「AIC使用中は身動きが出来ない。機能の使用に集中しないといけないから。対戦中に棒立ちになるとか、相手に『狙って下さい』と言っているようなものですよ?」

 

 実力でも負け、更には論破までされたラウラは完全に戦意喪失、意気消沈していた。

 それを見た美咲は顔を離してから立ち上がり、打ちひしがれているラウラに向かって優しく話しかけた。

 

「…アナタは一体、何がしたかったのですか? 織斑先生をドイツに連れ帰って…その後は?」

「私…は…」

「そもそも、あの人は日本出身の日本人です。ここにいる事こそが普通であり、ドイツにいる事はあの人にとっては単なるイレギュラーでしかない。故に『戻る』という表現は正しくないですね」

「それでも私は…あの人に…」

「憧れていた…いや、違いますね。その執着の仕方はまるで…そう…」

 

 何かを察した美咲が、容赦なく『確信』を突いた。

 

「…織斑千冬のようになりたかった(・・・・・・・・・・・・・・)…そのように見える」

「!!!」

 

 ここで初めてラウラはあからさまな反応を見せた。

 それを見て、美咲は自分の予想が正しかったと判断する。

 

「憧れの人みたいになりたい…そう思うのは決して不自然な事じゃない。誰だって似たような事は考えるものです。アナタの過去に何があったのかは知りませんが、そう思わなければ精神を保てない程の事があったのでしょう。『ソレ』がアナタの望みと言うのならば…私が…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「幸せにしてあげます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 美咲の言葉の意味が良く分からない。

『幸せ』とは一体なんだ?

 

「…おや。どうやら来たみたいですね」

「え…?」

 

 美咲がISを解除してから後ろを振り向くと、そこには腕組みをしながら歩いてくる千冬の姿が。

 

「その様子だと、どうやら良い感じに収めてくれたようだな」

「織斑先生」

「教官…」

 

 ラウラではなく美咲の方まで行き、彼女に向けて優しげな笑みを浮かべる。

 自分には一度も向けられたことのないような笑顔を。

 

「最初に話を聞いた時は少し驚いたが、流石は佐藤だな。見事に『この愚か者』を制圧してくれた。クラス対抗戦優勝者は伊達ではないと言うことか」

「いえいえ。私などまだまだ未熟。学ぶべき事は多いです」

「その謙虚な姿勢…嫌いではないよ。今回は本当に助かった。礼を言う。こいつが完全に暴走する前に止めてくれて」

 

 美咲を労った後に、今度はラウラの目の前までやってくる。

 その時の千冬は、さっきとは打って変わって怒りの表情となっていた。

 

「一度ならず二度までも…お前には学習能力が無いのか?」

「きょ…教官…私は…」

「ここでは『織斑先生』と呼べと…何度言えば分かる!!」

「ひっ!?」

 

 千冬の怒号にラウラが完全に委縮する。

 先程までの強気な態度は完全に消え、怯えた小動物のように体を震わせる。

 

「他人を散々と見下し、自分の都合ばかりを考え、他者に平気で迷惑を掛ける。今の貴様は、軍人としても、候補生としても、人間としても最低だ。恥を知れ。愚か者が」

 

 淡々と感情の籠らぬ口調で畳み掛ける。

 その間に自分の名前をまだ一度も呼んで貰っていない事に気が付き、ラウラは大きく目を見開いた。

 

「…佐藤。頼む」

「はい」

 

 千冬に呼ばれ、美咲は再びファントムを纏い、その手にバスターモードのクジャクを装備していた。

 

「な…何を…」

「ふん!!」

「がぁっ…!?」

 

 両手持ちしたクジャクを全力で振り下ろし、ラウラにトドメを刺す。

 それによってレーゲンが強制解除され、ラウラはISスーツ姿に戻る。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ。今日から学年別トーナメントまでの間、貴様には反省室での謹慎を命じる。無論、反省文100枚を書く事も忘れるな」

「は…い…」

「それと……」

 

 ラウラの身体に装着されているレーゲンの待機形態を取り、スーツのポケットに入れる。

 それを見たラウラは、信じられないようなものを見るような目をした。

 

「貴様のISはトーナメント開始まで没収しておく。分かったか」

「……はい」

 

 千冬の言う事には逆らえない。

 ラウラはそのように出来ていた。出来てしまっていた。

 

「…今回は本当に済まなかったな…佐藤。お前には迷惑を掛けた。折角の練習時間を無駄にさせた」

「気にしないでください。突然の事ではありましたが、いい実戦練習が出来たと思えば」

「お前って奴は本当に…。三組の担任の先生が、お前を頼りにする気持ちが良く分かるよ…。少しだけ羨ましいな…」

「そう言って頂いて光栄です。織斑先生」

 

 なんだこれは?

 自分は叱咤された挙句に専用機を取り上げられ、美咲は逆に労われた上に褒められた。

 どうして、こうなる?

 自分は単に、千冬に戻ってきてほしいだけなのに。

 どうして、こうも全てが駄目な方向に行く? 空回ってしまう?

 分からない。何も分からない。

 

「何をしている。とっとと着替えてから反省室に行け」

「はい……」

 

 心も体もズタボロになりながらアリーナを後にしようとするラウラが、ふと後ろを振り向いて見たのは、千冬に頭を撫でられながら二人一緒に去っていく美咲の姿。

 そして、そこに駆けつけた心配そうな顔をした一夏の姿だった。

 

「美咲!! 大丈夫…みたいだな。っていうか、どうしてちふ…じゃなくて、織斑先生が?」

「お前と同じだ。佐藤が、あの馬鹿に襲撃されたと聞いて駆け付けた。だが、到着した時にはもう既に決着はついていた。無論、佐藤の圧勝でな」

「そっか…流石は美咲だぜ…。本当に良かった…」

「ふっ…すっかり彼氏面だな」

「「なっ!?」」

 

 なんて和気藹々とした光景なのだろうか。

 あそこだけ完全に空気が違う。

 それに比べ、なんて自分が惨めな事か。

 

(おのれ…おのれぇ…! 佐藤…美咲ぃぃ…!)

 

 ラウラの頭の中から一夏への執着が消え、完全に美咲にターゲットが変わった。

 その憎悪はドス黒く、食い縛った歯が折れそうになる程。

 

(この屈辱…絶対に忘れんぞぉ…!)

 

 

 












          この暴力こそが、貴様の身から出た錆。






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