ラブリーエンジェル美咲ちゃんの幸せ大作戦! ~み~んな幸せになぁ~れ!~ 作:とんこつラーメン
僕らは神罰の代行人ってわけ。
学年別トーナメント 一年生の部 第一試合
アリーナのステージに降り立った美咲と一夏の二人は、自分達の一番最初の対戦相手であるラウラと、そのパートナーの事を見ていた。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す…!」
「ひぃぃぃぃぃ…なんか、すっごい怖いんですけどぉぉ…」
「「…………」」
意思の疎通など皆無。
それどころか、さっきからずっと血走った目で美咲の事しか見ていない。
「あの…なんか、凄く睨まれているのですが…」
「もう完全に精神がどうにかなっちまってるじゃねぇか…」
「そうですね。それと、パートナーの方が不憫で仕方がありません」
「あの子に関してはもう、普通に不幸だったとしか言いようがないな…」
この場にいる四人の中で明らかな場違い感。
ある意味、彼女こそが今回の件における最大の被害者かもしれない。
「もう説明するまでもないかもですが、どうやらボーデヴィッヒさんの狙いは私みたいですね」
「最初は俺狙いだったのに、何がどうしてこうなったのやら」
「この間の一件で、彼女のヘイトを稼いでしまったのでしょうか」
「そうかもな。ま、別にいいじゃねぇか。どっちみち、やることは変わらないんだしよ」
「ですね。寧ろ、向こうが私を狙ってくれるのなら好都合というものです」
美咲&一夏チームの作戦は単純明快。
美咲がラウラを引き付けている間に相手のパートナーを撃破し、そこから二人掛かりで一気に仕掛ける…というものだ。
シンプルと言えばそれまでだが、剣一本しかない白式の特性上、一夏に援護行動は期待できない。
それならばいっそのこと、最初は個別で動き、その後に連携するという形にした方が効果的だと判断したのだ。
「もうすぐ…ですかね」
「あぁ…」
賑わっていたアリーナが徐々に静かになっていく。
観客達も、もうする試合が始まると雰囲気で察したのだろう。
そして…遂に…。
ブ―――――――――!
試合開始のブザーが鳴り響いた。
「殺すっ!!」
「「やっぱり!」」
予想通り、試合開始と同時にラウラは全速力で一直線に美咲に向かって突っ込んできた。
強襲と言ってしまえばそれまでだが、来るのが分かっていれば幾らでも対処のしようがある。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!! 佐藤美咲ぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
「残念ですが…それは出来かねます…ね!」
専用機である『シュヴァルツェア・レーゲン』は千冬に没収されていて、試合直前に返して貰った。
故に、修復なんて全くしてはおらず、ワイヤーブレードやAICは破損したままの状態。
現状、使える武装と言えばプラズマ手刀とリボルバーカノンしかない。
しかも、リボルバーカノンはもう既に美咲によって完全に見破られている。
結果としてラウラは接近戦用の武器であるプラズマ手刀を使うしか選択肢が無いのだ。
だが、そんな事は美咲自身が一番分かっていた。
美咲はラウラの一撃を易々と回避し、呆気なく懐に潜り込むことに成功する。
「以前のようなキレのある動きすら無くなっていますね。先日以上に懐に潜り込み易かったですよ」
「だぁぁぁぁぁぁまぁぁぁぁぁぁぁれぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
ほぼ零距離になった美咲に対して蹴りを放とうとするが、それよりも早く美咲がバタフライバスターを変形させたビームサーベルで斬り裂く。
「遅い。遅すぎる。それでは私は倒せない」
「おのれぇぇぇぇぇぇ…!」
斬り抜けるようにして背後に回られたラウラは、腹を抑えながらも美咲を睨む事を止めない。
「一夏くん!」
「分かってる! こっちは任せてくれ!」
「え…ええええっ!?」
ラウラと交戦を開始した美咲を余所に、一夏もまた自分の役割を全うする為に彼女のパートナーの方へと向かっていく。
「悪いけど…本気でやらせて貰うぜ! 恨まないでくれよ!」
「嘘でしょぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「なんで! なんで! なんで貴様なんだ!! どうして私じゃないんだっ!!」
「なんでと言われましても…」
もう戦法も何もない。
ただ只管に、我武者羅にプラズマ手刀を振り回す。
型すらも完全に崩れ去り、体の赴くままに武器を振るう。
その光景はもう、滑稽を通り越して哀れですらあった。
無論、そんな攻撃が美咲に命中するはずもなく、その全てが最小限の動きで回避されていた。
「自分の感情に従って動くこと自体は悪ではありません。それは寧ろ、人間として最も正しい行動ですらある。ですが、感情に飲まれては意味が無い。それでは自分の身を滅ぼすだけですよ」
「うるさい! うるさい!! うるさい!!! お前さえ…お前達さえいなければ私は!!! 私は教官と!!!」
「はぁ…呆れて何も言えませんね。これでは余りにも織斑先生が可哀想すぎます。いいでしょう。それ程までに私との決着を望むのであれば…」
一瞬の隙を突きつつ、バタフライバスターのライフルで牽制をしながら距離を取り、バタフライバスターを拡張領域内へと収納する。
「私も『本気』で戦いましょう」
「!!!」
その濃密な指向性の『殺気』に、流石のラウラも一瞬だけ頭が冷えた。
千冬の怒気を近くで浴びた時よりも遥かに悍ましく、恐ろしい感覚。
思わず、ラウラの全身に冷や汗が出た。
「一夏くん! そちらはどうですか!?」
「もう終わった!」
少しだけ視線を向けると、一夏の近くで対戦相手の少女が目を回しながら地面に横たわっていた。
「はぅ~…や~ら~れ~た~…」
美咲との訓練の日々は彼の実力を想像以上に強大にしたようで、一夏はほぼ無傷に近い形で勝利してみせていた。
しかも、切り札である『零落白夜』を全く使わないで。
「申し訳ありませんが…作戦変更です。彼女とは1対1で戦わせて下さい」
「美咲……分かった!」
話を聞いた途端、いきなり一夏は地面に雪片を突き刺し、腕部装甲のみを解除してから腕組みをした。
「これは美咲の戦いだ。俺からは一切、手出しはしない!」
美咲と一夏との関係性は、もう既に学園中に広まっている。
その事情を知っている生徒達からは、まるで『愛する少女を信じて勝利を待つ彼氏』に見え、一夏に対する評価が爆上がりした。
「…と言うことです。遠慮なく……いきます!!」
「こ…これはっ!?」
ファントムの全身から『炎』が噴出する。
頭部。両肩部。胸部。両腕部。腰部。バインダー。両脚部。そして…バックパックからは大きく揺らめく『光の翼』が出現した。
「『ファントムライト』。我が専用機ファントムの
「フ…フフフ…面白い…やれるものならば…」
ガコン。
リボルバーカノンのシリンダーが回転し、砲弾を装填する。
「やってみろ!! そのこけおどしでなぁっ!!」
ズドンッ!!!
そんな炸裂音と共に電子加速された砲弾が美咲に迫る!
だが…。
「通常時ならばいざ知らず、この状態の時ならば…」
火の粉を散らして、美咲の姿が消えた。
「見てからでも避けれるんです」
気が付いた時にはもう、美咲の…ファントムの無機質な顔が目の前に迫っていた。
まるで美咲の闘志を現すかのように、その口部がフェイスオープンして黄金の粒子が漏れる。
「もうアナタのターンは回って来ません。ここからは全て『私のターン』です」
「貴様ぁぁぁぁぁぁっ!!!」
咄嗟にプラズマ手刀で斬り掛かるが、振り抜いた時にはもう美咲の姿は消えている。
「こっちですよ」
「なっ!?」
いつの間にか美咲はラウラの斜め上の上空にいて、その両手にはファントム唯一の固定武装である『フレイムソード』が握られている。
「そして気が付かない。自分が攻撃されたと言うことに」
「え…?」
ここで初めてラウラは素の表情を見せる。
そう…美咲の言う通り、斬られた感覚が全く無かった。
実際に指摘されて初めて気が付いた。
自分が攻撃されたという事実に。
その事実を認識した途端、体に激痛が走る。
「が…ああぁぁぁぁっ!」
「一気に終わらせます」
そこからは完全に美咲の独り舞台だった。
従来のISの速度を遥かに超越したファントムのスピードに全く追いつく事が出来ず、炎の軌跡が幾重にもラウラの身体を切り刻んでいく。
その現実離れした光景に、一夏以外の全員が視線を釘づけにされていた。
もう何も出来ない。
後はこのまま嬲られて終わり。
頭ではそう分かっていても、心の方は諦めきれなかった。
(イヤだ…イヤだ…! このまま…この女に一矢すら報いきれずに終わるのは…イヤだ…!)
その時、シュヴァルツェア・レーゲンが鼓動したような気がした。
正確には、レーゲンのコアが鼓動したような気がした。
(ふーん…そんなに負けたくないんだ)
頭に中に『誰か』の声が響く。
知っているようで知らない声が。
(だったらさー…)
嫌な予感がする。
取り返しのつかない事になるかもしれない気がする。
それでも…だとしても…。
(『
(あぁ…構わん!! 私に力を寄越せ!! あの忌々しい女を殺す力を!!)
(おっけー。…くふふ…アンタがバカで助かったよ。本当に…本当に…)
もうすぐSEが尽きる。
美咲の最後の一撃が来る。
「これで…終わりです」
(
フレイムソードのクロス斬りが炸裂し、ラウラの体が大きく吹き飛ばされる。
その一撃がトドメとなり、レーゲンのSEは完全に無くなった。
【試合終了!! 勝者…佐藤美咲&織斑一夏ペア!】
勝利宣言がなされ、アリーナは歓声が沸き上がる。
こちらに近寄ってくる一夏を余所に、美咲は倒れ伏すラウラの姿を見降ろしていた。
「どうした?」
「いえ…なんでもありません」
ふと感じた『嫌な予感』。
それを拭いきれずに、美咲はラウラの身体を…その身を覆っているISを注視していた。
その時だった。
突如、ラウラのISに異変が起きる。
「これは…」
「な…なんだっ!?」
観客達の歓声も一瞬で止まる。
完全に機能停止した筈のシュヴァルツェア・レーゲンが、まるで溶けるかのように液状と化し、そのまま取り込むようにしてラウラの身体を覆い尽くしてしまった。
「一体…何が起きてるっていうんだ…」
「これは…まさかあの…」
何があってもすぐに動けるように二人が構えていると、液状化したレーゲンが徐々に変態していく。
縦に伸び、頭が生え、両腕が生え、両足が形成させる。
その手には見覚えのある漆黒の剣が握られていて…。
「なんだよ…これは…」
「矢張り…『VTシステム』…どうしてこれがここに…」
そうして現れたのは、どこか見覚えのある形状に変化したナニかだった。
だが、二人は知っている。
この変化したレーゲンが何になったのかを。
「千冬…姉…?」
「織斑…先生…?」
それは、嘗ての専用機である『暮桜』を纏った千冬を模した
時間は戻らない。