ラブリーエンジェル美咲ちゃんの幸せ大作戦! ~み~んな幸せになぁ~れ!~   作:とんこつラーメン

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『臨海学校・一日目』①

「はぁ……」

 

 遂に始まった臨海学校。

 旅館に向かっているバスの中で、美咲は窓を眺めながら流れ行く景色を横目に溜息を吐いていた。

 

「おやおやぁ~? 我等がクラス代表サマは、愛しの彼と違うバスになって憂鬱になってるのかにゃ~?」

「え? ち…違いますよ? 私は決してそんな…そもそも、最初から違うクラスなので、一夏くんと違うバスになるのは当然と言いますか…だから気になどしていないと言いますか…」

「うん。すぐに織斑君の名前が出て来ている時点で、完全にお察しな状態になってますな」

 

 今まで一度も考えたことが無い事実。

 どうして、自分と一夏とは違うクラスなのだろうと。

 そんな事を考えても詮無きことだと言うのに。

 

「大丈夫だよ美咲ちゃん。別に今生の別れってわけじゃないんだしさ。旅館に着けばまた会えるよ」

「そーそー。っていうか、あの美咲ちゃんが、ここまでお熱になるとは思わなかったな~」

「それでこそ、応援のし甲斐があるってものね」

「「「うんうん」」」

 

 臨海学校でも『美咲ちゃん見守り隊』の結束は非常に硬かった。

 ある意味、彼女達もまた固い絆で結ばれているのかもしれない。

 

「しか~し! このまま溜息ばかりを吐かれて車内の空気が重くなるのは見過ごせない。ってことで…」

「ことで…?」

「唐突なカラオケ大会を開催したいと思いま~す!!」

「「「「「おぉ~!」」」」」

 

 またぞろいきなり過ぎて展開。

 しかも、先生すらも完全にノっていて、ニコニコ笑顔で拍手をしている。

 

「まずは言いだしっぺってことで、トップバッターは私から行きたいと思いマ~ス!」

「いいぞいいぞ~!」

「やれやれ~!」

 

 場の空気が殆ど忘年会みたいになってきた。

 もし、このメンバーで卒業後の同窓会とかをやったら、まんまこの空気になっている事だろう。

 

 それからというもの、バスの中は女子達の歌声で溢れかえった。

 途中で担任までノリノリで参加してきて、教え子たちの知らない歌を歌って若干、場が白けたりもしながら、次々と皆の歌唱が披露されていく。

 

「はい。次は美咲ちゃんの番ね」

「わ…私も?」

「当然!」

「うーん…分かりました」

 

 クラス代表として、皆が歌っているのに自分だけが歌わない訳にはいかない。

 そんな使命感と同時に、自分の事を励まそうそしてくれている皆の行為を無下にしたくは無いと言う気持ちでマイクを握った。

 

「では…YOASOBIの『アイドル』でも…」

「まさかのチョイス!? でも聞いてみたい!」

「では…いきます」

 

 そんな訳で美咲の歌が披露されたのだが、まるでプロのような歌唱力に全員が黙り込んでしまい、歌い終わった後には全員が立ち上がってからの拍手喝采。

 当然のようにアンコールされ、その後は美咲のコンサート状態になっていた。

 

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 バスが旅館に到着し、生徒達が次々と降りてくる。

 そんな中、美咲率いる三組の生徒達だけが、なんだか満足げな表情をしていた。

 

「いや~…まさか、美咲ちゃんにあんな才能があったとはね~」

「本当に驚かされたよ~。あの光景、もしアイドル事務所の人とかが見たら即座にスカウトとかされてたんじゃない?」

「有り得るわ~。ま、美咲ちゃんは渡さないけどね」

「だって、美咲ちゃんは私達と織斑君だけのアイドルだしね」

「もう…その辺で勘弁してください…本当に…」

 

 顔を真っ赤にしながら俯き、プルプルと震えながらバスから降りてきた美咲。

 流石にやりすぎたと今回ばかりは本気で猛反していた。

 

 それを見かけた一夏は、すぐに美咲の元まで駆けつけた。

 

「ど…どうした美咲? 具合でも悪いのか?」

「あ…一夏くん。いえ…なんでもありません。単に、私が調子に乗り過ぎただけですので…」

「調子に乗り…? ま…まぁ…大丈夫ならいいんだけど…」

 

 三組バスの中での事情なんて全く知らない一夏は、元気そうな美咲の様子を見て、小首を傾げながらも一組の列に戻って行った。

 それを見計らって、クラスメイトの一人が美咲の耳元でそっと囁いた。

 

「今度は…織斑君の前で歌ってあげなね?」

「!!??」

 

 美咲の顔面、再び急速沸騰。

 

 そうこうしている内に全クラスが並び終えて、千冬の号令の元に旅館の従業員と女将に挨拶をする事となった。

 

「ここが、本日より三日間お世話になる旅館『花月荘』だ。分かっているとは思うが、従業員の方々に余計な仕事をさせないようにしろよ」

「「「「「よろしくお願いします!!」」」」」

 

 全員揃っての挨拶をし、それを聞き女将が優しげに微笑む。

 

「はい。こちらこそ、よろしくお願いしますね。私が、この花月荘の女将をしております『清州景子』と申します。分からない事や困った事があれば、遠慮なく私は他の従業員に尋ねてくださいね」

 

 非常に物腰の柔らかい女性で、それだけでも非常に好感が持てる。

 こんな女性が女将を務めている旅館ならば、この三日間は気持ち良く過ごせることは確実だった。

 

 それから、施設に関する軽い説明などを聞いた後に、生徒達は荷物を持って旅館内に入って行くことになった。

 

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 毎年、IS学園がお世話になっている高級旅館と言うこともあってか、中はかなり広かった。

 ロビーだけでも相当な広さで、見渡す限りに色んな物があった。

 

「あ! あそこにお土産物屋さんがあるよ!」

「ホントだ。後で一緒に見に行ってみようよ」

 

 早速、土産物屋を見つけた生徒がいると思ったら…。

 

「パンフレットあるよ。うぇっ!? ここって、こんなに広いのッ!?」

「すごー…こりゃ今日一日じゃ見て回るのは不可能だわ…」

 

 旅館の広さに度肝を抜かされる生徒もいたり、他にも多種多様な反応を見せる生徒が沢山いた。

 

 そんな中、一夏だけが不安げな顔で周囲をキョロキョロとしていた。

 

「一夏くん? 一体どうしたんですか?」

「あ…美咲。いやさ、俺の部屋はどこかな~って思って。なんか知らないけど、一覧にも書いてなかったんだよ」

「まぁ…一夏くんもですか?」

「え? ってことは美咲も?」

「はい。先生曰く『佐藤さんは特別枠だから』だそうですけど…」

「特別枠?」

「えぇ…それ以外は全く教えてくれなかったんです」

「そっか…」

 

 別に手を抜いたと言う訳でもなさそう。

 それ以前に、IS学園の教師がそんな杜撰な事をするとは思えない。

 

「二人とも、こんな所にいたのか」

「「織斑先生?」」

 

 ここで千冬が腕組みをしながらの登場。

 どうやら、二人の部屋だけが割り当てられていない事に対する事情を知っている様子。

 

「実は今回、お前達の部屋だけ別枠として用意したんだ。着いて来てくれ」

「「別枠…」」

 

 なんとなく言いたい事は察するが、それならばどうしてそこに美咲も絡んでくるのか。

 未だに二人は揃って小首を傾げていた。

 

「どうやら、意味が分からないといったような顔だな」

「そりゃ…」

「まぁ…」

「それに関しては、ちゃんとした事情があるんだ。歩きながら説明してやる」

 

 千冬が先導するような形で前を歩き、その後ろを美咲と一夏で歩く。

 勝手知ったると言った感じで歩いていく千冬の後を着いて行くと、客間が並んでいるフロアに出た。

 

「織斑の部屋に関しては、まず最初は個室にするという話が出てはいたんだが、それだとほぼ確実に就寝時間を無視した馬鹿な女子達が押し掛ける可能性があると言うことで却下されたんだ」

「「あぁ~…」」

 

 その光景が容易に想像出来た二人。

 入学初期頃を思い出せば当然の反応だった。

 

「で、次に提案されたのは教師に部屋に止まらせると言うことなんだが、折角の臨海学校で教師と二人きりと言うのは流石に酷だと言うことでな。そこで最後にして、誰もが納得した案が提出された訳だ」

「誰もが納得した案?」

「それは一体…?」

「それはだな……っと、着いたな」

「「え?」」

 

 到着したのは、一番奥にある部屋で、何やら他の部屋とは装飾と言うか…雰囲気が違った。

 どことなく高級感に溢れていたのだ。

 

「最後の案、それは…織斑と佐藤の二人を一緒に部屋にすると言うことだった」

「わ…私と!?」

「俺を!?」

「「一緒の部屋にッ!?」」

 

 微塵も予想出来ていない展開に、流石の美咲も声を上げて驚いた。

 それと同時に、自分の名前が一覧に記載されていなかった理由も判明した。

 最初から一夏と同室にする予定だったのだから、他の者達と同じように記載されていなかったのだ。

 

「お前達二人が付き合っているのは今や、学園中に知れ渡っている。他の者ならばいざ知らず、佐藤と一緒ならば誰もが納得する上に、佐藤はクラス代表としても非常に評価が高い。満場一致で決定したよ」

「ま…マジかよ…」

「ち…因みに…それを提案したのは…」

「私だ」

「「やっぱりっ!?」」

 

 この間の買い物の時から、なんとなく想像はしていたが、どうやら千冬は本気で美咲と一夏の中を祝福している様子。

 そんな千冬の今の密かな楽しみは、近い将来に美咲から『お義姉さん』と呼ばれる事。

 

「別に、お前達二人ならば問題はあるまい? ちゃんと女将さんにも事情は説明してあってな、その時に教えて貰ったのがこの部屋と言う訳だ」

「「はぁ…」」

 

 もう完全に学園全体で二人をくっつけようと企んでいるとしか思えない。

 それ自体は祝福されているみたいで嬉しいのだが、同時に羞恥心が半端じゃない。

 

「そう言う訳だから、私はそろそろ行く。お前達も、荷物を置いたら海にでも行ってみるといい。折角、水着を新調したんだからな」

「は…はいぃ…」

 

 今の美咲は水着の話題を振られると弱い。

 レゾナンスでの買い物デートの時を思い出してしまうから。

 

 千冬から部屋の鍵を渡され、彼女がこの場から去った後に二人で顔を見合わせた。

 

「えっと…入ってみる…か?」

「そう…ですね…」

 

 鍵を開けてから部屋に入ると、一番最初に見たのは窓から覗ける見事なまでのオーシャンビューだった。

 

「「おぉ~!」」

 

 透き通った海を一面に眺められる部屋を見て、一夏は勿論、美咲も感嘆の声を上げた。

 しかし、驚きはこれだけじゃ終わらない。

 

「こっちも凄いな…バスとトイレがセパレートになってる…」

「洗面所は専用の個室になっているみたいですね」

「んで、こっちにある浴槽は、俺と美咲が一緒に入っても余裕なぐらいに大きい…って…あ…」

「い…一緒…ですか…」

 

 一瞬、本気で二人でお風呂に入っている光景を想像してしまう。

 急いで前言撤回をしようとするが、時既に遅しだった。

 

「い…いや! 今のは言葉の綾と言うか! つい言ってしまったというか!」

「だ…大丈夫…ですよ? 私はそんな…その…」

 

 否定しつつも、二人は揃って『一緒に入ってみたいなぁ…』なんて思っていたりする。

 勿論、絶対に口には出さないが。

 

「そ…そう言えば! ここには大浴場もあるんだったよなっ!?」

「そ…そうですね! 確か、織斑君は男一人と言うことで時間交代制で入浴することになっている筈…でしたよね?」

 

 それらに関しては、臨海学校のしおりに書いてあったのでよく覚えている。

 男女比率が1:99な状態なので仕方がないことなのだが。

 

「…あれ?」

「どうした?」

 

 いきなり美咲が変な声を上げたので、疑問に思った一夏が振り返る。

 彼女はどうやらどこかの襖を開けているようだが。

 

「今、不意にこの襖を開けたのですが…この中に入っている布団が…」

「布団がどうかしたのか?」

「いえ…その…布団は大きいのが掛布団と敷布団のセットが一つだけなのに、何故か枕だけが二つあるんですけど…」

「え…それってまさか…」

 

 完全に二人で一つの布団を使うことを前提にした仕様だった。

 しかも、良く見ると枕元となりそうな位置にティッシュ箱が置いてあったり、謎の意味深な小箱が窓際に置いてあったりと、明らかに『何か』を意識しているような部屋になっていた。

 

「ま…まさか…この部屋って…」

「カップル専用の部屋…なのかもしれませんね…」

 

 女将と千冬の粋な計らい(?)によって、ピンク色な空気の漂う部屋に三日間一緒に過ごすことになった美咲と一夏。

 全てを察した二人は、顔を真っ赤にしてから無言で棒立ちになっていた。

 

 そして、部屋から出て廊下を歩いている千冬は、そんな二人に対して見事なサムズアップで『頑張れ』と激励を送っていた。

 

 

 

 











                ぽぽる







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