ラブリーエンジェル美咲ちゃんの幸せ大作戦! ~み~んな幸せになぁ~れ!~   作:とんこつラーメン

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           苦しみを共にした家族は、
           幸せも共にする事が出来る。

                     伊藤左千夫











『篠ノ之箒』②

「「「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」」」

 

 屋上に三人の女子の絶叫が響く。

 

「なんで!! なんで体が勝手に動くのよぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

「いやぁぁぁぁぁぁっ!!! 止まって!! 止まって!! 止まってよぉぉぉぉぉっ!!!」

「ママ!! ママ!! ママァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

 ジリジリと三人の体は動き、屋上に設置してある安全用のフェンスを乗り越え、外側へと乗り出してしまう。

 必死に抗おうとする三人の二年生だが、その抵抗も全くの無意味に終わる。

 

「助けて助けて助けて助けて助けて助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃぃぃぃぃっ!!!」

「落ちる落ちる落ちる落ちる落ち…落ち…あああああああああああああ!!!」

 

 見栄も外聞もかなぐり捨て、涙と鼻水と涎を垂れ流し、絶望と恐怖の叫びを喚き散らす。

 眼前に迫る絶対的な死に、二年生たちは小便を撒き散らしながら屋上から次々と落下していく。

 それを止める者も、遮る物も何もない。

 

 その様子を見ながら、美咲は歯茎をむき出しにしながら、両目と口を漆黒に染めながら大爆笑をしていた。

 

「キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!」

 

 グチャァッ!!

 

 ブチャァッ!!

 

 ベチャァッ!!

 

 何かが潰れるような破裂音が真下で三つ鳴った。

 

 美咲がフェンスに腰かけて下を覗くと、そこには鮮血に染まった、ついさっきまで『人間』と呼称されていたタンパク質の塊があった。

 

 これだけの事と絶叫が鳴り響いたのに、誰も騒ぐどころか動こうとすらしていない。

 まるで、この光景が当たり前であるかのように。

 もしくは、最初から何も見えていないかのように。

 

「ふむ…」

 

 美咲はコンクリートの床に横たわる少女を見下ろす。

 どうやら、彼女が先程まで教室で噂されていた人物のようだ。

 

「だいじょーぶですかー?」

「…………」

 

 返事は無い。

 でも、まだ死んではいない。

 どうやら気を失っているだけのようだ。

 

「どうしましょうか…」

 

 このまま保健室まで運んで行くのは簡単だ。

 だがしかし、それでは何も解決しないような気がする。

 

「ん……」

「おや?」

 

 目が覚めたのか?

 そう思って顔を覗き込むが、その様子は無い。

 

「ね…え…さん……」

「…成る程」

 

 彼女の姉に関しての話は、さっき教室で聞いた。

 ISを生み出した張本人であり、稀代の天才科学者。

 

「きっと、アナタは心の奥底じゃ、お姉さんの事が大好きなのでしょうね」

 

 まだ気を失ったままの少女の手をそっと握りしめ、その場に腰を下ろす。

 

「立場上、お姉さんはきっと家族と一緒にはいられない。アナタもこうして、家族から離れた状態になっている。それはいけない!」

 

 急に顔を真上にあげ、何も無い空を見上げる。

 そして、そこにある『なにか(・・・)』を見つめるように視線を斜め上に逸らした。

 

「家族とは大切なもの。掛け替えのない財産! それがバラバラになるだなんて言語道断!! 絶対に許されません!!」

 

 急に真顔に戻り、聞こえていない彼女に語りかける。

 

家族は常に一緒にいるべきです(・・・・・・・・・・・・・・)。だから私が…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幸せにしてあげます(・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 場所 不明

 

 モニターの灯りだけが光源となっている空間。

 そこに『彼女』はいた。

 

「あのクソ虫ども…よくも私の可愛い箒ちゃんを!! 絶対に許せない!!」

 

 篠ノ之束。

 若くしてISと言う超技術を世に産み出した天才科学者。

 ファンタジー風の奇抜なファッションに身を包んでいて、どこから見ても常人ではないと分かる。

 

「こうなったら、あいつら全員破滅に追い込んで…あれ?」

 

 彼女の怒りが一瞬にして収束していく。

 その理由は、IS学園の様子を映しているモニターに、妹を苛めていた女達が次々と屋上から投身自殺していく様子が見えたからだ。

 

「これ…どういうこと? なんで、いきなり自殺なんて…」

 

 天才である束にも皆目見当がつかない。

 ここで彼女達が自ら死を選ぶ理由なんて、どこにも無い筈だ。

 

「しかもこれ…怯えてる? 何かを必死に叫んでいるみたいだけど…」

 

 恐怖と絶望に染まった顔。

 これはこれで溜飲が下がるが、それとは別にどうして誰も駆けつけない?

 生徒達が三人も死のうとしているのに。

 

「なに…これ…? 私は一体…何を見ているの…?」

 

 全く意味が分からないが、考えようとすると疲れる。

 頭を振ってから瞼を揉み、大きく息を吐く。

 

「はぁ~…そんなのどうでもいいか。有象無象がどれだけ死んでも、私は全く関係ないし。それよりも、急いで箒ちゃんの怪我の治療をしに行かないと。だって、あそこには他に誰もいないし(・・・・・・・・)

 

 そう思った時、不意に喉が渇いた。

 水分補給をしてからでも遅くは無いだろう。

 

「クーちゃーん。何か飲み物でも持って来てー」

 

 反応なし。

 いつもならすぐに聞こえる声が聞こえない。

 暗闇の中は静寂が支配するだけだ。

 

「何かしてるのかな? ま、いっか」

 

 冷蔵庫の中にジュースとかがあった筈だ。

 そう思って椅子から立ち上がると、何かが聞こえた。

 水音のような、そんな音が。

 

「…クーちゃん?」

 

 何か零したのか?

 訝しみながらも警戒心を強め、音を殺して足を動かす。

 

 その時、暗闇から『何か』が姿を現す。

 

「ネぇえぇさぁン」

「………え?」

 

 見覚えのある黒髪とポニーテール。

 所々に赤い染みのついた、見覚えのある白い制服。

 

「箒…ちゃん…?」

 

 それは、束の愛する妹である『篠ノ之箒』その人だった。

 

「な…なんで箒ちゃんがここに…? 箒ちゃんはIS学園にいる筈じゃ…え?」

 

 咄嗟に後ろのモニターを見ると、校舎の屋上には誰もいない。

 完全な無人となっていた。

 

「そ…そんな…どうして…」

 

 ついさっきまで、確かに箒は学園にいた。

 それは間違いない。

 だが、今は自分の目の前にいる。

 しかも、暴行を受けていたにも拘らず体や顔には全く怪我の跡が無い。

 最初から何も無かったかのように肌は綺麗だ。

 

「この場所はちーちゃんですら知らない、本当に本当の秘密の場所なのに…」

 

 不可解な事が余りにも多すぎる。

 柄にもなく頭が混乱して上手く働かない。

 

「ひトりハァァ…もウいやダァァ…」

「ほ…箒ちゃん…」

 

 明らかに様子がおかしい。

 その目は真っ黒に染まり、歯茎を剥き出しにしたその口もまた同じように真っ黒だ。

 焦点どころか、生気すら全く感じられない。

 

「ダあぁぁぁカあぁぁらぁぁぁ…」

 

 少女が歪む。

 普通サイズだった口は巨大化し、顔の半分以上を占めるほどになった上に縦向きになって右側に寄って、漆黒の両目も異常なまでに巨大化して左側に移動した。

 なのに、顎や耳や鼻と言った部位の位置はそのまま。

 

「いッしョにぃぃ…いルのォォォ…」

「こ…こんなの…箒ちゃんじゃない…箒ちゃんじゃない!!」

 

 必死に自分を奮い立たせる為に叫ぶが、心の奥底では理解していた。

 目の前にいる異形の化け物は、間違いなく自分の愛する妹なのだと。

 それだけ理性で否定しようとしても、心が全肯定していた。

 

 その時、束はあることに気が付く。

 

「そ…その歯に引っかかってる銀色の髪って…まさか…!」

 

 自分が可愛がっている少女が妹に文字通り捕食された。

 そうとしか思えない証拠が、目の前にぶら下がっている。

 

「おドうザんもぉぉ…おガあぁザんもぉ…いッしョォォ…」

 

 箒の両手には、忘れる筈もない自分を生んだ両親の生首が握られていた。

 

「二人も…食い殺したの…!?」

 

 実の娘に食い殺されたにも関わらず、両親の死に顔は何故か笑顔だった。

 箒と同じように黒い眼と黒い口に変化していたが。

 

「もウ…ひトりは…いヤだぁぁ…」

「箒…ちゃん…」

 

 こんな異常な状況で、初めて聞いた妹の本心。

 束だって分かってはいた。

 自分が家族をバラバラに引き裂いてしまった事を。

 箒を初恋の相手である『幼馴染の少年』から引き離してしまった事を。

 

「でモぉ…こレで…かゾく…いっショぉ…」

「ごめん…ごめんね…箒ちゃん…ごめんなさい…」

 

 全部自分が悪かった。

 何もかもが短絡的過ぎだった。

 どれだけ頭脳が優れていても、所詮は子供だった。

 自分のしたことがどんな影響をもたらすのか、全く理解していなかった。

 その罰が、箒に宿って現れたのだ。

 世界を壊してしまった自分を断罪する為に。

 

「うん…いいよ…。これからは…ずっと一緒だよ…。お姉ちゃんも…お父さんも…お母さんも…ずっと…ずっと…」

「ネぇぇぇぇ…さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

 

 グチャッ グチャッ ブチャッ ビチャッ ブチャッ

 

 グジャッ ブジャッ グジャッ バギィッ ボギィッ

 

 両腕を。両足を。胸を。腹を。尻を。首を。

 内臓を。肝臓を。腎臓を。直腸を。心臓を。

 鼻を。耳を。目を。頬を。口を。頭を。

 肋骨を。鎖骨を。骨盤を。頭蓋骨を。

 

 姉を構成する全てを食べ尽くし、家族は一つになる。

 

 そこに、美咲が現れて満面の笑みを浮かべて拍手を送る。

 

「おめでとう。おめでとう。おめでとう。これでずっと愛する家族と一緒です」

 

 美咲だけでなく、三組のクラスメイト達や担任も次々と現れて『幸せ』になった彼女達を拍手で祝福する。

 箒や美咲と同じように、彼女達もまた目を口が漆黒に染まっている。

 

「おメでトう」

「オめデとウ」

「おめデとウ」

「おめでトウ」

「オメデとう」

「オメデトウ」

「おめでとう」

「オメでトウ」

「オめでトウ」

 

 この狭い空間に沢山の拍手が鳴り響く。

 それは『幸せ』の証。

 

 恍惚な表情をしながら妹の胃の中へと消えていく姉を見届けながら、美咲は笑みを浮かべる。

 

「本当に…本当に…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おめでとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




            世の中がどんなに変化しても、
            人生は家族で始まり、
            家族で終わることに変わりは無い。

                      アンソニー・プラント



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