ラブリーエンジェル美咲ちゃんの幸せ大作戦! ~み~んな幸せになぁ~れ!~ 作:とんこつラーメン
こんにちは
ようやく、待ちに待ったIS学園の夏休みが訪れた。
だが、初日からフルに夏休みを満喫できるのは無所属の一般生徒達だけであり、国家代表や代表候補生、企業所属の生徒達は夏休み突入と同時に国に帰ったり、会社に出向しなければならない。
木星公社所属の美咲も決して例外では無く、夏休み開始とほぼ同時に本社にて今まで溜まった仕事を消化する為に奔走させられていた。
一日でも早く一夏の待つIS学園に帰ろうと頑張ってはいたが、結局は七月の後半の殆どを仕事に費やしてしまい、美咲がIS学園に戻れたのは八月になってからだった。
「はぁ…やっと帰って来れた…」
夏の日差し眩しい八月一日。
疲れ切った顔で、自分で自分の肩を揉みながら美咲はIS学園の学生寮へと戻ってきた。
今は兎に角、何も考えずにベッドの上に寝転がってジッとしていたい。
美咲の身体が全力でそう訴えていた。
「おーい! 美咲~!」
「一夏くん?」
愛しの彼の声に即座に反応し、一瞬で背筋が伸びる。
反射的に『情けない姿は見せられない』と思ったのか。
声の主を急いで探すと、一夏は寮の中から手を振りながら出てきた。
タイミング的に、どうやら美咲が戻ってくるところを見てからやってきたようだ。
「お帰り。そして、お疲れ様」
「ただいま…です。一夏くん」
肉体的疲れは兎も角、精神的疲労はこれで一気に吹き飛んだ。
愛の力は偉大である。
「って、なんかマジで疲れてないか?」
「えぇ…どうやら、想像以上に仕事が溜まっていたようでして…それを消化するのに文字通り全身全霊を使ってきました…」
「そ…そうか…」
まだ高校一年生なのに、もう既に社会の厳しさを体験している美咲を見て、一夏は今日は全力で美咲を労ってあげようと思うと同時に、大人になったら就職する場所はよーく考えてから決めようと心に決めた。
「疲れてるならさ、まずは食堂にでも行って甘い物でも食ったらどうだ? ほら、疲れた時には甘い物ってよく言うだろ?」
「そうですね…仕事中はデザートなんて食べてる暇なんてありませんでしたし…」
「だろ?」
「…猛烈にチョコレートパフェの大盛りが食べたいです」
「大盛り…」
これが甘い物に飢えた女子高生の姿なのか。
清楚そうに見えても美咲も立派な女子高生。
やっぱり甘味は大好きだった。
「今日はゆっくりと休んでさ、明日から楽しもうぜ。まだまだ夏休みは始まったばかりなんだからさ」
「そうですね。実は、八月からに備えて、会社の方で夏休みの宿題も全て終わらせてきたんです」
「だから必要以上に疲れたんじゃね?」
仕事をしながら宿題もこなすとは、普通に考えても超人の所業である。
少なくとも、一夏には絶対に真似できないと思った。
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一日タップリと休んで完全に元気を取り戻した美咲は、まるで当然のように一夏と一緒に前にも訪れたレゾナンスへとデートに来ていた。
全く約束なんてしていないにも拘らず、しれっとこんな事をしているのは、それだけ二人が想い合っている証拠なのだろう。
「あはは…我ながら、なんか芸が無いなぁ…。でも、いきなり遠出するのもアレだしなぁ…」
「私は別に構いませんよ? レゾナンスは非常に広いですし、前に来た時には見れなかった場所も沢山ありますし」
「んー…それもそっか。それに、あれから更に新しい店舗もオープンしているみたいだしな」
「みたいですね。このような場所は、グルッと見て回るだけでも十分に楽しいですし、時間も潰せます」
「ウィンドウショッピングって奴か。前の時は水着売り場に直行してたし…偶にはいいかもな」
「でしょう? では、行きましょう」
「おう」
そうして二人は一緒に歩き出す。
ごく自然な流れで美咲が一夏の腕に抱き着いてきたが、それを普通に受け入れている一夏も、色んな意味で成長したのかもしれない。
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「普通に見て回るだけのつもりだったんだけど…」
「思ったよりも買い物をしてしまいましたね…」
ベンチに座って小休止をしながら、自分達の若さ故の過ちを悔いていた。
とはいえ、本人達は特に何も持ってはおらず手ぶら状態だ。
「良さそうな包丁とまな板とフライパンがあったから、思わず衝動買いをしてしまった…」
「私もです…。この夏に良さそうな最新式の扇風機を買ってしまいました…。学園の寮はエアコン完備だと言うのに…」
各々に全く年頃じゃない買い物内容。
ある意味、人柄がよく出ていた。
ここで余談だが、臨海学校以降『美咲ちゃんを見守り隊』は活動を完全に休止している。
複数の意味で無事に結ばれた二人にはもう自分達は必要ないと判断し、彼女達はクールに去って行った。
本当はどこにも去ってないけど。
「IS学園に直接、送ってくれるようにして助かったな」
「そうですね。流石に、あれらの荷物を持ったまま歩き回るにはキツいですから…」
二人が購入した品は、宅配便で後でIS学園の寮に運んできてもらうように手配をしておいた。
店側のサービス精神には感謝するばかりだ。
「もうそろそろ昼か。どこかで昼飯にでもしたいけど…」
「今からじゃ難しそうですね…」
「だな…。夏休みで尚且つ、ショッピングモールだしな…。ある意味、この周辺じゃ最も人が集まっている場所かもしれない…」
周囲を見渡すと、そこかしこに親子連れに友達連れ、恋人連れなどの集団に賑わっていた。
これが日本の夏休みかと視覚で思い知らせてくる。
「まずは喉の渇きでも癒すか。自販機で何か買って来るよ。何がいい?」
「あ…ちょっと待ってください。今、お金を出しますから」
「いいよいいよ。これぐらいは俺が奢るって」
「しかし…」
「大丈夫だよ。これでも今の俺、そこらの高校生よりは金持ってるんだぜ?」
「…分かりました。では、私は烏龍茶をお願いします」
「了解。んじゃ、ちょっくら行ってくるよ。美咲はここで休んでてくれ」
そうして、一夏は財布片手に少し離れた自販機へと小走りで向かって行った。
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「ふぅ…」
美咲がベンチで休んでいると、そこにシスター服を着た人物が静かに近づいてきた。
「…やっと出てきましたね」
「気が付いていたんですか? いつから?」
「最初から。ずっと私の事を見ていましたよね?」
「…矢張り、貴女の目は誤魔化せませんか」
その人物は美咲の隣に座り、目線を合わせることなく真っ直ぐと目の前の喧騒を見つめていた。
「お久し振りです。前にも自己紹介をしたかと思いますが、念の為にもう一度だけ自己紹介を」
シスター服の人物は、まるで仮面を被っているかのように無表情で、声もまた中性的で、かなりの厚着をしているのか、見た目などからでは男なのか女なのか全く判別が出来なかった。
「私は『怪異物蒐集協会』の『実動部隊:乙-36【するっとのどごし千本丸】』の隊長を務めている『
「佐藤美咲です」
「えぇ…存じています。それが『今』の貴女の名前なのですね」
『今』と言う言葉が強く聞こえたが、美咲は敢えて聞こえない振りをした。
「正直、驚きました。まさか、貴方が普通の人間の振りをして人間社会に完璧に溶け込んだ上に企業の所属となり、ISの操縦者となり、あのIS学園に入学した上で女子高生をやっている。極めつけは、あろうことか彼氏まで作る始末」
「悪いですか?」
「いえいえ。どのような形とはいえ、貴方が人類と共存してくれる道を選んでくれたのは、こちらからしても重畳の極みです。なんせ、我々の実力では真っ向勝負でも搦め手でも絶対に勝てませんからね。倒せないし封印も出来ないとなれば、我々としては完全にお手上げです」
表情を全く変えないまま、棘崎は両手を上げて顔を振る。
「しかし…全く何もしていない…と言う訳ではないようですね?」
「さぁ…何の事やら」
「…まぁいいでしょう。今の所、そこまで目立った被害は出ていない。幾つかの電車が事故ったりはしているようですが…そんな事は、今までに比べたら微々たるもの。寧ろ、よく『その程度』で済んだものだと関心すらします」
目の前の親子連れが楽しそうに話していると、子供が握っていた風船が飛ばされてしまう。
子供が泣き出しそうになってしまうが、親が慌てて『また別のを買ってあげるから』と言って慰めていた。
「どうやって『企業』に入り、どうやって操縦者となり、どうやってIS学園を受験したのか…その辺を問う事は止めておきましょう。聞いた途端に死にそうな気がしますから」
「そうですか」
少しだけ美咲の雰囲気が変わる。
だが、周囲の人々はそれに全く気が付かない。
気が付いたのは、隣りにいる棘崎だけだ。
「皮肉なことに、貴方が人々を『幸せ』にしたことで『この世界』は驚くレベルで『穏やか』になっている。本来ならば、今頃は『表』も『裏』も過労死しそうな勢いで忙しい筈なのに。そんな事は微塵も無い。まるで凪に満ちた海のように静かだ。まさかとは思いますが、貴女は最初からそのつもりでIS学園に…?」
「さぁ…どうでしょうか」
さっきから美咲は曖昧な事しか言っていない。
心ここにあらずのような…そんな感じだ。
「これからも、貴女は人々を『幸せ』にし続けるおつもりですか?」
「いえ…恐らく、『次』で『最後』だと思います」
「次…? 最後…?」
「はい。私には分かるんです。この『世界』で『幸せ』を欲しているのは、後はもう『あの姉妹』しかいない。それさえ終われば、後はもう自然とこの『世界』は『良い方向』へと向かって行くことでしょう」
「ふむ…『姉妹』とは誰の事を指しているのかは分かりませんが、世界が良い方へと向かうのは間違いないでしょうね。なんせ、この『世界』の『裏』に潜んでいた最大勢力である『亡霊』が、ある日突然に完全消滅したんですから。奴らがいなくなった以上、他の『勢力』も放置しておけば勝手に瓦解していくでしょう。それ程までに『亡霊』の持つ影響力は大きかった」
美咲と同じように、棘崎にも全てがお見通し。
この人物の前では隠しごとなんて不可能だろう。
「最後の一つだけよろしいですか?」
「なんですか?」
「『ミサキ』さん…貴女は今『幸せ』ですか?」
「はい。『幸せ』です」
「…そうですか」
自分の質問に即答してみせた『ミサキ』を見て、棘崎はどこか安堵をしたような目を見せた後にベンチから立ち上がった。
「どうやら、もうそろそろ貴女の彼氏さんが帰って来そうなので、私も失礼します」
「そうですか。また、どこかで出会う事があるんでしょうか?」
「それは貴女次第ですね。次に会う事があれば、今日みたいに有意義な会話をしたいですね」
「えぇ。私もそう願います」
「そうそう。お昼を食べたいのなら、この先にあるうどん屋さんがお勧めですよ? このショッピングモールにある飲食店は、どこも人気でお客がひしめきあっていますが、あのうどん屋は端の方にあって余り目立たないんです。だけど、味は絶品で知る人ぞ知る隠れた名店になっています」
「良い情報をありがとうございます」
「いえいえ。大人として、恋する学生の手助けをするのは当然ですから」
そう言うと、棘崎は手を振りながら喧騒の中へと消えていった。
そこへ、入れ替わるかのようにして一夏が二人分のドリンクを持って帰ってきた。
「待たせてゴメン! いやー…マジで参ったよ。夏休みのレゾナンスともなると、自販機にすら軽い行列が出来るんだな。お蔭で地味に待たされちまった」
「別に私ならば平気です。いい暇潰しも出来ましたし」
「暇潰し?」
「えぇ。ついさっきまで、偶然にもここに来ていた『知人』とお話をしていたんです。一夏さんと入れ替わるような形で帰られましたが」
「そうだったのか」
どんな人物かは少し気になるが、美咲の様子から察するに、本当にただの友人だったのだろう。
なので、一夏もすぐに忘れて頼まれていた烏龍茶を美咲に手渡す。
「ほら。ご注文の品です」
「ありがとうございます。そうだ。実はさっき、その知人から良い情報を貰ったんです。なんでも、この先のうどん屋が…」
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レゾナンスの喧騒の中を歩きながら、棘崎は二人の男女の部下と合流をして情報を共有していた。
割と堂々と話しているが、この喧騒の中では逆に他の声で誤魔化せているのでも問題は無い。
「…で、どうだったんですか? 例の『怪異物』は?」
「凄かったですよ。目の前に行くまで『彼女』だと分からないぐらいに『隠蔽』していました。流石としか言いようがない」
「感心してる場合ですか?」
「場合ですよ。前にも言ったでしょう? 彼女は『最凶』で『最優』でもあると。最高に頭が良くて、しかも実力も最強なんて手の出しようがないですよ。私達じゃ天地がひっくり返っても絶対に勝てません。なので、我々はこのまま帰ります」
「「えぇっ!?」」
まさかの撤退命令。
またとない機会にも拘らず、またもや敵前逃亡しなくてはいけないことに、部下の二人は思わず大声を出す。
「大丈夫。彼女の『幸せ』は、良い感じに『膿』だけを取り除いてくれている。傍から見ているだけでは絶対に分からない『膿』だけをね。二人だって気が付いているでしょう? この『世界』の異常なまでの『清浄さ』に」
「そりゃ…まぁ…有り得ないぐらいに『平和』ですけど…」
「だからと言って、このまま放置ってのは我々の業務的にはどうかと思うんですけど…」
「心配ご無用。枯巻くんや管理官には私から伝えておきますから」
「「はぁ…」」
一応、棘崎は自分達の上司なので、その人物がそうすると言った以上は従うしかない。
それでも腑に落ちないが。
「さ~て! それじゃ、帰る前にこの辺にある麺類系のお店を全制覇していきますよ~!」
「「マジでッ!?」」
「マジのマジの大マジで~す! まずは、そこにあるとんこつスープの匂いを漂させているラーメン屋さんから!」
棘崎が近くにあったラーメン屋に突撃していくので、仕方なく二人も店に入って行くことに。
この後、彼ら三人は夜遅くまで色んな店を限界まで梯子して行ったのだとか。
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美咲と一夏がレゾナンスから帰ってきて、寮へと入って行く姿を物陰から覗く人影があった。
「ふーん…あの子が噂に聞く『佐藤美咲』ちゃんに、隣りにいる子がIS学園唯一の男子である『織斑一夏』君か。どうやら、二人が付き合っているという話は本当みたいね」
IS学園の制服を着て、リボンの色から二年生だと思われる彼女の手には扇子が握られていて、そこには『リア充』と書かれていた。
そして、物語は再び動き出す。
『そんな訳で、今回からは作者やミサキさんに代わって、この私が感想の返信をしていこうと思います! よろしくお願いしますね~!』