ラブリーエンジェル美咲ちゃんの幸せ大作戦! ~み~んな幸せになぁ~れ!~   作:とんこつラーメン

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                てん










『更識楯無』②

「…妹さん…ですか?」

「えぇ。一歳下の女の子で、ここの一年生でもあるわ」

「クラスは?」

「4組。更識簪って名前の、眼鏡を掛けた女の子なんだけど…知ってる?」

「4組ですか…」

 

 楯無に言われて頭の中の記憶を整理していく。

 基本的に、美咲は他の組の生徒と積極的に交流はしない。

 例外は一夏がいる一組だが、それとて彼と付き合うようになったことが切っ掛けであって、もしそれが無かったら一組とは未だに交流はしなかった事だろう。

 

「そう言えば…クラス対抗戦の時に、そんな名前を見た事があるような気が…すいません」

「別にいいのよ。気にしないで。普通はそんなものよ。中学時代からの知り合いとかいないと、他のクラスの子と仲良くなったりはしないわよね」

 

 そこら辺の心理は楯無も分かるのか、美咲の事を責めたりはしなかった。

 ほんの少しだけ残念そうにはしていたが。

 

「詳しいことは話せないんだけどね。ウチの家は所謂『由緒正しい名家』ってヤツでね。アナタだから教えちゃうけど…私のこの『楯無』って名前も、実は本名じゃなくて更識家の当主のみが名乗ることを許された『称号』みたいなものなの」

「そうなのですか…。でも、今日会ったばかりの私に話しても大丈夫なのですか?」

「普通は完全にアウトね。でも、美咲ちゃんの事は今までの会話で信頼できる子ってのは理解出来たし、貴女は無暗矢鱈に人に言い触らしたりはしないでしょう?」

「勿論です」

「だから、話したの」

 

 この短い間に随分と強い信頼を得たようだ。

 それだけ楯無が甘いのか、それとも美咲にそれだけの人望を感じたのか。

 

「当然、私の妹もその『由緒正しい家』の人間ではあるんだけど…」

「何かあったのですか?」

「…………」

 

 余程思い出したくない事なのか。

 それとも言い出しにくいことなのか。

 楯無は急に黙り込んでから、自分を落ち着かせるように紅茶を飲んだ。

 

「…私が家の当主になった時にね…つい…言っちゃったのよ…」

「なんて?」

「『家の事は私がするから、貴女はそのままでいなさいな』…って」

「うわぁ…」

 

 これには流石の美咲も絶句。

 勿論、楯無が本心で言った事ではない事はすぐに察したが、それでも普通にドン引きした。

 

「なんでまたそんな事を言って…」

「私的には『家の事は私に任せて、簪ちゃんは好きに生きて頂戴』って意味で言ったつもりだったんだけど…」

「言葉選びを間違えてしまったと…」

「うん…。自分で言うのもあれだけどね…私って妙な所で不器用なのよね…はぁ…」

 

 さっきまでの元気はどこへやら。

 自分が妹にしてしまった所業を思い出して完全に落ち込んでしまった。

 

「しかも、それだけじゃ無いのよね…」

「まだあるんですか?」

「うん…。美咲ちゃんは、私が自由国籍を持ってロシア代表になっているのは知ってる?」

「はい。IS学園の公式サイトにも記載してありましたし」

「そうなんだ…」

 

 公式サイトの事は余り知らないので、一体どこまで自分の事が書かれているのか後で見てみようと思った楯無であった。

 

「私がロシア代表になったことで、私の専用機もロシアで製作された機体を使ってるんだけど…」

「けど?」

「ロシア政府が少しでも他国に自分達の代表が優れているアピールをする為に、あろうことか『ロシアの国家代表は自分の専用機を自分一人で全て製作した』って勝手に吹聴しまくったのよ」

「なんともまぁ…」

 

 国の威信が掛かっているとはいえ、そこまでやるかと美咲は呆れるしかなかった。

 

「実際には?」

「仕上げの部分とかは確かに私が一人でやったし、私も製作には携わったけど、ちゃんと色んな人達に手伝って貰ったわよ。幾らなんでも私一人でIS製作とか不可能だから。専門家じゃないんだし…」

「御尤もですね」

 

 幾らなんでも嘘が過ぎる。

 それを信じた者達も者達だが。

 

「しかもそれを、あろうことか簪ちゃんの耳にも入ってしまって…」

「あぁー…」

 

 もう先の展開が読めた。

 でも一応、楯無の話を聞くことに。

 

「昔から私に対して劣等感を抱いていたのが、ロシア政府の世迷言を聞いて更に酷くなって…」

「今まで以上に溝が広がってしまったと」

「言わないで~!」

 

 遂には泣いてしまった。

 でも、今の食堂には美咲と楯無しかいないので誰も慰めてはくれない。

 流石に食堂のおばちゃんは厨房の奥にいる。

 

「しかも、これに付随する形で更なる不幸が簪ちゃんに襲い掛かって来て…」

「まだあるんですか?」

「まだあるのよ。しかも、今度のは織斑君も少なからず関係している事なの」

「え?」

 

 まさか、ここで一夏の名前が出てくるとは思わなかった美咲は、反射的に変な声が出てしまった。

 

「美咲ちゃんは『倉持技研』って知ってる?」

「勿論です。日本製第二世代量産機『打鉄』を製作した研究所で、一夏君の専用機である『白式』もソコで製造されたとか」

「その通り。そして…簪ちゃんの専用機も倉持技研で製作される予定だったの…」

「予定だった? しかも専用機と言う事は、まさか…」

「そのまさか。簪ちゃんは日本の代表候補生なの」

 

 ロシア代表の妹は日本の候補生。

 普通に考えても物凄い姉妹だった。

 

「最初は簪ちゃんの専用機が順調に製造されていった。けど、そんな時に織斑一夏くんが男であるにも拘らずISを動かしたという報道がされた」

「…なんかもう話が分かりました。多分ですが、日本政府の命令で簪さんの専用機の製造を中止し、一夏君の専用機である白式を製造しろ的な命令が下されたのでは?」

「…美咲ちゃんって女子高生探偵だったりする?」

「私は普通の社会人兼女子高生です」

「それもそれで凄い肩書だと思うけど」

 

 言われてしまった。

 

「美咲ちゃんの推理通り、簪ちゃんの専用機『打鉄弐式』は突然、製造が中止されたの。当然、簪ちゃんは納得が出来なくて倉持技研に抗議したわ」

「当たり前です。で、どうなったのですか?」

「『そんなに専用機が欲しければ自分で造れ。お前の姉も一人で造ったんだから、妹であるお前も出来るだろう』…そう言って、製造途中の中途半端な状態の打鉄弐式を簪ちゃんの元に寄越してきたの」

「…それはもう普通に契約違反なのでは?」

「その通り。だから、今度は更識家として厳重に抗議したんだけど、倉持技研側は全く聞く耳を持たなかった」

 

 同じ企業人として、とてもじゃないが信じられない事だった。

 一度でも引き受けた仕事を『急遽、別の仕事が入ったから』などと言う理由で勝手に放棄した挙句、それを依頼主に丸投げすると言う暴挙。

 美咲には全く理解出来ない思考だった。

 

「それに対して向きにになると同時に、私に対する当て付けと対抗心で、あの子は本当に一人で自分の専用機を作ろうとして、いつも放課後をIS学園の整備室で過ごしているの」

「そうだったのですか…」

 

 間接的とはいえ、確かに一夏も少なからず関与している。

 彼がISを動かさなければ何も起きなかったのだから。

 だからと言って一夏に非があるのかと言えば、そうでもない。

 今回の事は一夏にとってもイレギュラーの事であり、立場的には彼もまた立派な被害者なのだ。

 強いて言えば、今回最大の加害者は自分達に課せられた仕事を最低最悪の形で簪に丸投げをした倉持技研だ。

 

「簪さんではなくても、誰だってそんな事をされれば憤って当たり前です。この事はちゃんと公表したのですか?」

「そりゃ勿論。だけど、倉持技研にはこれまでの実績があるから、一回や二回の不祥事じゃビクともしなかった」

「普通、大きければ大きい程、ミスをした時の代償は大きい筈なんですけどね」

「もしかしたら、政府もグルになって揉み消してる可能性もあるわ」

「それが一番最悪のパターンですね」

 

 政府が相手では手の出しようがない。

 少なくとも、美咲にはどうしようもないことだった。

 

「どうやら、思った以上に深刻みたいですね…」

「そうなのよ…。私の失言が元凶とは言え、まさかここまで事態が悪化するなんて誰も予想出来ないわよ…」

 

 まるでドミノ倒しのように、最初の切っ掛けが原因で次々とトラブルが舞い込んでいる。

 これでは楯無でなくても落ち込んでしまうだろう。

 

「せめて、簪ちゃんとの仲が修復出来ればいいんだけど…そう簡単にはいかないのが現実なのよね…はぁ~…」

「更識先輩…」

 

 困っている人は見捨ててはおけない美咲は、自分の目の前で完璧に気落ちしている先輩を見て放置することは出来なかった。

 

「私から話をしてみましょうか?」

「え? いいの?」

「はい。と言うか、目の前でここまで落ち込まれたら、誰だってどうにかしてあげたいって思いますよ」

「あ…ははは…お恥ずかしい…」

 

 さっきまで飄々としていた楯無の『素』の部分が少しだけ垣間見えた気がする。

 本来の彼女はきっと、明るくて陽気な性格をしているのだろう。

 

「それに、一夏くんも関係していると分かった以上は放ってはおけないですし」

「それは…あなたの彼氏だから?」

「……はい」

「否定しないんだ…凄いわね…」

 

 人間とは、恋をするとここまでメンタルが強くなるのか。

 恋する乙女の強さを直に思い知った楯無だった。

 

「先輩と出会った事は隠してから会ってみます。同じ一年生なら話しかけやすいでしょうし。私も一応は専用気持ちです。『機体の整備をしに来た』という名目ならば整備室を利用しても違和感は無いでしょう」

「ここまで話しておいてなんだけど…本当に良いの?」

「構いません。私は皆に『幸せ』になって欲しいと常日頃から願っていますし、そうなるように努力しているつもりです」

 

 今まで少しだけ表情が解れていた美咲の顔が急に真剣になる。

 

「そこにどんな深い事情があろうとも、家族同士がいがみ合って過ごすのは悲しいことです。貴女たち姉妹の間に空いてしまった溝を少しでも埋める事が出来るお手伝いをしたい…。それが今の私の素直な気持ちです」

「美咲ちゃん…貴女って事は本当にどこまで…」

 

 どうして美咲がクラスの皆や一夏から絶大な信頼を得ているのか。

 その理由がようやく分かったような気がする。

 困っている相手に迷わず手を差し伸べ、助けるために全力を尽くす。

 そんな人間が皆に好かれない訳がない。

 

「大丈夫。必ずや今の状態よりは進展させてみせます。楯無先輩。私の手で絶対に貴女の事を……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「幸せにしてあげます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 











               カン







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