ラブリーエンジェル美咲ちゃんの幸せ大作戦! ~み~んな幸せになぁ~れ!~ 作:とんこつラーメン
ちげ
「…と言う訳で、少しの間だけですが生徒会長と、その妹さんをどうにかすることになりました」
「そっか…美咲も大変だな」
楯無と話をしてから、美咲は当初の予定通りに一夏と合流してから図書室で一緒に勉強をしていた。
机の上に広げてある教科書や参考書を見つつ、ノートにペンを走らせる。
すぐ隣で美咲が体を寄せているが、もうこの程度の事では全く動じなくなった。
臨海学校であれだけ激しく体をぶつけ合えば当然だが。
「それにしても、普段からよく皆の悩み相談とか受けてるけど、遂に生徒会長まで相談しに来るとはな。もしかして、美咲の噂って学園中に広がってる?」
「そう…なんでしょうか?」
別に上級生が美咲の元に来ること自体は、そこまで珍しいことではない。
前にも美咲の元に、二年生でイギリスの代表候補生である『サラ・ウェルキン』が訪ねてきたり、三年生でアメリカの代表候補生である『ダリル・ケイシー』が恋愛関係の悩み相談に来た事がある。
それでも、生徒会の人間が来たのは流石に今回が初めてだが。
「けど…まさか、俺の専用機がそんな拙い企業で造られていた上に、そのせいで生徒会長の妹さんが割を食っていたなんてな…全く知らなかったよ」
「無理もありません。倉持技研だって情報統制はしていたでしょうし。それと、今回の一件は一夏くんは全く悪くはありません。全ての元凶は研究所にあるまじき行為をした倉持技研なんですから」
「珍しく憤ってるな…美咲」
「当然です。私も企業所属のIS操縦者ですからね。決して他人事ではありません」
木星公社は小さい企業ではあるが、だからこそクリーンな会社でいようと普段から心掛けている。
だがしかし、倉持のような連中のやった事の巻き添えを受けないと言う保証も何処にも無い。
だからこそ美咲は静かに憤っていた。
一生懸命に頑張っている人々を嘲笑うかのような倉持技研の所業に。
「とはいえ、世に悪が栄えた試しはありません。倉持技研は必ず誰かの手によって告発され、その悪行が白日の下に晒される事でしょう」
「だな。今の俺達にはそれを信じるしかないか」
少し前までは一般人だった一夏だったからこそ、一般人視点での意見が言える。
自分の専用機が、そんな連中の欲望に塗れた手で造られたと思うと非常に複雑な気持ちになるが。
白式自体には何の罪も無い。
大事なのは『どんな風に作られたか』ではなく『どんな風に使うか』なのだから。
「俺も一度会って、謝ったりとかした方がいいのかな…」
「最終的には実際に会った方がいいかもですが、今はまだ止めた方が良いでしょうね。まだ何も解決はしていませんし、向こうも一夏君に対して良い感情は持っていないでしょうから」
「…そっか。そうだよな。まずは気持ちが落ち着いてから…か」
「その通りです」
ちゃんと話せば理解してくれる一夏に最大の敬意を払いつつ勉強を続ける。
この時間が今の二人にとって一番の至福の時だから。
「俺の方は大丈夫だからさ、美咲は会長さん達の方に専念してくれ。血の繋がった姉妹でいがみ合うのは悲しいことだしな…」
「一夏くん…」
美咲もそうだが、一夏もまた両親がおらず、血の繋がった家族は姉の千冬だけ。
だからこそ必要以上に考え、同時に心配もしてしまう。
「では、お言葉に甘えましょうか」
「おう。そうしてやってくれ」
「ありがとうございます…一夏くん」
「どういたしまして」
お互いに礼を言い合う二人。
そして、そんなお熱いカップルを見て、図書室であるにも拘らず普通に真っ黒なブラックコーヒーを飲みながら良い笑顔をする生徒達。
「…うん。今日もリア充、ブラックコーヒーが美味い」
「口から勝手に砂糖が生成されていく」
「もう微糖のコーヒーは飲めないわね」
「ブラックコーヒー万歳」
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・
次の日。
美咲は簪がいつも放課後に入り浸っているという整備室に足を運ぶことにした。
まずは話をしてみない事には進展のしようがないからだ。
勿論、姉である楯無と接触したことは黙っていて、整備室にはあくまで『機体の整備に来た』という体裁だ。
「こんにちは。お隣、使ってもよろしいでしょうか?」
「…別にいいよ。独占している訳じゃないし」
「ありがとうございます」
ぶっきらぼうではあるが、入りは上々。
美咲の事をチラっと一瞥だけして、その後にすぐまた作業に戻っていた。
(…成る程。お姉さんと比べられたことで他人に対しても壁を作っていると…そんな感じでしょうか)
美咲から見た今の簪は、姉に対する劣等感の塊だった。
その劣等感をどうにかするための手段として、姉と同じように一人で専用機を組み立てようとしている。
(これはまた…中々に難儀そうですね)
久々の強敵。
どう攻略するか美咲が考えていると、不意に視線を感じた。
この場にいるのは美咲と簪の二人だけ。
となると必然的に視線の主も簪と言う事になる。
「えっと…どうかしましたか?」
「あなた…三組のクラス代表の…」
「はい。佐藤美咲と申します」
「やっぱり…」
「私の事を御存じなんですか?」
「うん。だって有名人だし」
「有名人?」
「クラス対抗戦で優勝して、例の男子と付き合ってるって」
「……ソーデスカ」
前言撤回。
攻略云々は兎も角、意外と話すこと自体は簡単かもしれない。
「というか、対抗戦で私…普通にあなたと試合をして負けてるんだけど」
「そ…そうでしたっけ…?」
「覚えてないんだ…」
「すみません…」
あの時は普通に決勝の一夏との試合に夢中になって、それまでの試合の事をすっかり忘却していた。
流石にこれは申し訳ないと思い、素直に謝罪した。
「ま…別にいいけど。専用機持ち以外との試合なんて、覚えられなくても仕方ないし」
「申し訳ありません…」
これは完全に自分が悪い。
どうしよう。初手から普通にミスったかもしれない。
「それよりも整備…しないの?」
「あ…そうでしたね」
急いで整備用ハンガーにISの待機形態をセットし、ハンガー内に機体を展開する。
実は、整備と言う名目自体は割と嘘ではなく、美咲もファントムの整備をしたいと思っていた。
夏休みに木星公社に戻ってファントムの本格的な整備は行ったが、美咲が急いでIS学園に戻りたがったせいで最後の仕上げがまだ終わっていなかった。
なので、どこかでその『仕上げ』をしなければいけないと考えていたのだ。
「…凄い」
「え?」
ハンガーに屹立するファントムを見て、簪が子供のように目を輝かせた。
意外過ぎる反応に、思わず美咲は目をぱちくりとさせる。
「最初見た時からずっと思ってたけど、全身が緑色とか斬新…。特に、あの胸のドクロとか最高…」
「あぁ…実はあれ、特に意味とか無いんです」
「そうなの?」
「えぇ。整備班の班長をしているお爺さんが『カッコいいから』という適当な理由で取り付けたレリーフなんです」
「その気持ち超分かる…!」
「そ…そうですか…」
簪の意外過ぎる一面を見て戸惑う美咲であったが、同時にこれは良い糸口になるのではとも考えた。
というか、これ以外にいいのが全く思いつかなかった。
「そう言えば、決勝戦でなんか全身から炎みたいのを吹き出してたけど、あれって…」
「ファントム・ライトの事ですか?」
「ファントム・ライト? もしかして、この機体の単一使用能力?」
「えぇ。あれは…」
そこからは、美咲と簪との間でIS(主にファントム)の話題で盛り上がることに成功した。
一時は本気でどうなるかと思っていただけに、美咲は本気でホッとした。
・・・・・
・・・・
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「なんか…久し振りに充実した会話をした気がした…」
「そ…そうですか…」
長々と簪を話をして一つだけ分かった事がある。
彼女は所謂『オタク気質』だった。
途中からは完全に向こうがリードをして、美咲は見事に受けに回されていた。
ここまで誰かに翻弄されたのは生まれて初めてだった。
「ところで、ご自分の機体の整備はよろしいのですか?」
「あ…しまった」
どうやら普通に忘れていたらしい。
それだけ夢中だったと言う事なのだろうか。
「…少しだけ見せて貰っても良いですか?」
「別にいいけど…なんで?」
「企業所属者故の好奇心です」
「ふーん…」
代表候補生と企業所属。
似ているようで似ていない関係。
だから簪も『そんなものか』の一言で片付けた。
「打鉄弐式。私の専用機。と言っても、まだ完成はしてないんだけど」
「完成していない?」
事情は全て把握しているが、敢えて何も知らない風を装う。
ここからが本番で、必要以上に慎重になる必要があるからだ。
「倉持技研…知ってる?」
「はい。色んな意味で有名な研究所ですから」
「…やっぱり、企業に所属してると、その辺の事にも詳しくなるんだ」
「仕事柄…ですけどね」
実際には楯無から聞かされてから…なのだが、それ以前にも倉持技研の黒い噂は知っていた。
だが、彼らは絶妙な隠蔽工作をしているようで、自社の黒い噂が一切外部に流れないようにコントロールしている節があった。
それでも『人の口には戸が立てられない』のが現実で。
何らかの形で当人たちが知らない所で着実に黒い噂が流れ始めている。
「この機体はそこで造られてたの。けど…」
「けど? どうしたのですか?」
「…貴女の彼氏がISを動かしたことで製作を打ち切られたの。『男性IS操縦者専用の機体を作る方が先決だ』って言って」
「…そうだったんですか。ですが…」
「うん…分かってる。彼は何も悪くない。だけど、それでもそう簡単には割り切れない。割り切れたら苦労しない」
「…でしょうね」
人の感情は、そう簡単には出来ていない。
頭では分かっていても、気持ちが理性を上書きしてしまう。
「抗議はしたのですか?」
「勿論した。ふざけるなって。そしたら『そんなに専用機が欲しかったら自分で造れ』って言われて、中途半端に組み上がった機体を寄越された」
「完全にふざけているとしか言いようがありませんが、どうしてそんな事に…」
「私の『お姉ちゃん』が原因だから」
「お姉さん?」
「うん。『更識楯無』…ロシアの国家代表で、IS学園の生徒会長で…私の実の姉でもある人…。あの人がいるから私は…!」
まさか、本人から姉の話題を振って来るとは。
だが、これでこちらも話しやすくなった。
ここからが本番だ。
『うふふ…最近、妙に連続で話が続くと思っていませんか? きっと、画面の向こうにいるアナタの予想通りですよ。そう…この『物語』は、もうすぐ終焉を迎えることになります。少なくとも今年中には確実に。どんな風なエンディングになるかは…その時までのお楽しみ』