ラブリーエンジェル美咲ちゃんの幸せ大作戦! ~み~んな幸せになぁ~れ!~ 作:とんこつラーメン
「更識楯無さん…ですか」
「そ。知ってる?」
更識姉妹の関係修復をする為に妹である簪に接触をした美咲。
最初はどうなるかと思ったが、自身の専用機であるファントムが切っ掛けとなって話が進み、気が付けば簪の方から姉の事を話してきた。
「それは勿論。自分の通っている学園の生徒会長さんですから」
「そう…真面目なんだね」
「それ程でも」
美咲的には常識だと思っているが、今年の一年生の中に生徒会長の事を知っている人間が果たして何人いる事やら。
少なくとも、生徒会主催の全校集会でもない限りは名前すら知られないだろう。
その気になれば、すぐに調べることも可能なのだが。
今時の少女達がご丁寧に学園の運営サイトやパンフレットを熟読するはずもない。
結果として、実際に紹介されない限りは生徒会に関心も興味も持たないのが現実である。
「昔から、あの人は…お姉ちゃんは何でも出来た。私より頭も良かったし、運動能力も上。そして…ISの腕も…」
まるで自嘲するかのように視線を下に向けながら語り出す。
その顔は薄い笑みを浮かべており、完全に諦めの色が見えていた。
「お姉ちゃんは、あの歳で他の国の国家代表にまでなれた。けど、私は代表候補生止まり…」
「それでも十分に凄いことだと思いますが…」
「うん…そんな事は私だって分かってる。代表候補生になれたこと自体が物凄いことだって事は。でも、それでもやっぱり比べられてしまう」
「お姉さんと…ですか?」
「そう。『お姉さんは出来たのに、その妹である貴方はどうして…』そんな台詞を今までに何回吐かれてきた事か。余りにも聞かされすぎて、もう何も言われても動じなくなった。感覚が麻痺しちゃったのかな」
罵倒や比較をされても何も感じない。
それは『麻痺』と言うよりは『諦め』の境地に至ってしまったのだろう。
自分の事を過小評価し、何を言われても『仕方がない』で片付けてしまう。
人によっては経験があることかもしれない。
「専用機だってそう。お姉ちゃんはたった一人で自分の機体を組み上げてみせた。だから倉持技研の人達は『姉に出来たのならば妹にだって出来る筈だ』なんて意味不明な根拠を押し付けて、私の専用機を中途半端な状態で勝手に押し付けてきた」
真実は全く違うのだが、姉から距離を取っている簪がそれを知る術はない。
故にロシア政府が発表した世迷言を信じるしかなくなる。
それが自分の心を更に追い詰める事だと知っていても。
「…機体の方はどれぐらい完成しているんですか?」
「一応、色んな方法で調べながら頑張って、形だけはなんとかなった」
「形だけ?」
「うん。この『打鉄弐式』は、多数のミサイルを『マルチロックオンシステム』を使って、一度に複数の目標を同時に攻撃することは出来るのが最大の特徴…なんだけど…」
「その『マルチロックオンシステム』が完成していない…ですか?」
「…私の所に来た時、この機体は殆どハリボテ状態に近かった。当然、機体の要とも言うべき『マルチロックオンシステム』なんて微塵も完成していなかった。機体の仕様書にそう書かれてあっただけ」
「仕様書に何かその…アドバイス的な事は書かれてなかったのですか?」
「特に何も」
「そうですか…」
とことんまで簪の事を舐め腐っている。
恐らく『姉が出来たから妹も出来る云々』と言うのは単なる建前であり、本当は厄介払いがしたかっただけに違いない。
いち候補生の機体と世界唯一の男性操縦者の機体。
しかも、政府からの要望と来れば、即座に損得勘定で考えてどちらを取るかは明白だった。
「…どうしても、一人で造らないといけないのですか?」
「どういうこと?」
美咲は考えた。
この状態は上手く利用できないかと。
「まずは、この機体を完成させるところから初めて、お姉さんの事はそれから考えればいいのではないかと思いまして」
「でも、それだと…」
「皆に認められない…ですか?」
「…………」
この場合の沈黙は肯定であると相場が決まっている。
「簪さんも本当は分かっているんじゃないんですか? このままでは完成しないと」
「そ…れは……だけ…ど…」
そう…簪は分かっている。
自分一人ではどうしても限界があることを。
このままでは卒業までは愚か、一生かかっても完成するかどうかも怪しいと。
だが、彼女の心の中にある『意地』が、その『本心』を否定していた。
「どうせなら、お姉さんにお願いしてみたらいかがですか?」
「お…お姉ちゃんに? で…でも…」
「今更、話しかけるのが怖い?」
「…………」
再び沈黙。
だが、ここで否定の言葉を出さない事は、それだけでも進展していると考えた。
「時間がたった今だからこそ話せることもある…私はそう思います」
「時間がたったから…話せる…?」
「えぇ。恐らく、本当はお姉さんもアナタと仲直りがしたいと思っている筈です。だって…この世でたった二人の姉妹なんですから」
優しく諭すように話しかける美咲に、簪も考える姿勢を見せる。
これがもしも一夏が相手だった場合は簪もムキになっていたかもしれないが、相手は同性であり、自分と趣味が合う(と思い込んでいる)少女。
だからこそ簪も美咲の言葉に耳を傾ける。傾けてしまう。
「…どうして」
「ん?」
「どうして…そこまで真剣になれるの? アナタにとって私は今日会ったばかりの赤の他人なのに…どうして…」
「困っている誰かを助けるのに理由が必要なのですか?」
「え?」
「私は全ての人々の『幸せ』を願っている。簪さんにも『幸せ』になって欲しい。ただそれだけです」
「それだけ…」
他者の幸せの為に必死になれる。
今の世に、まさかこんな人間が存在していたなんて。
簪は本気で驚いていた。
「…私には血の繋がった家族がいません」
「家族が…いない…?」
美咲が言った言葉が意味すること。
それが分からない程、簪は愚かではない。
「だからでしょうか。血の繋がった兄弟姉妹、家族同士がいがみ合う姿はどうしても見ていられないんです。どうにかしてあげたいと…そう思ってしまうんです。これは…私の我儘ですね」
「そんなこと…ない。全然…違うと思う」
優しい。余りにも優しすぎる。
ここまで他者の事を考えられる人間が、今の世界にどれだけいる事やら。
一夏が美咲と付き合った理由が、なんとなくではあるが分かったような気がした。
「別に一足飛びに仲直りをする必要はないんです。まずは実際に会って話をするだけでもいい。それが難しいなら、電話やメールでのやり取りでも構わない。今までずっと自分が思っていた事の全て。文句や罵倒でもいい。兎に角、思いの丈をぶつけるんです。一歩でもいい。半歩でもいい。ほんの少しでもいいから『前』に進む事は一番重要なんじゃないかと思います」
「少しでも…前に…」
簪だって本当は分かっている。
いつまでも、このままではいけないということは。
昔のように姉妹で仲良く過ごしたい。
話したい事、やりたい事がいっぱいある。
今まではずっと『姉に拒否をされたら』という『恐怖』によって足が竦んでいたが、美咲の言葉で僅かではあるが簪の中にある勇気に光が灯る。
「とはいえ、無理強いをするつもりはありませんし、今すぐに話に行けとも言いません。話をする、しないは簪さんの自由ですし、仮に行くとしても今すぐに行けとも言いません。ご自身の好きなタイミングで行っていいと思います。心の準備などもあるでしょうしね」
ここまで心配されると、流石に心苦しくなってくる。
なんかもう、美咲の天職はIS操縦者ではなくてアドバイザーとかではないかと錯覚してしまいそうになる。
「や…て……る…」
「はい?」
「やって…みる…。上手くいくかどうかは…分からない…けど…」
「…そうですか。頑張ってください。私に出来る事があれば、何でも言ってください。喜んで力になりますから」
「うん…ありがとう…」
そうして話し終えた頃にはもう、簪の顔から暗さは消え、少しではあるが笑顔が浮かんでいた。
因みに、話している間にそこそこの時間が経過してしまっていて、整備室の使用時間が迫っている事を知り、慌ててやれる範囲でファントムの整備をした。
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・・
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次の日。
簪は美咲に言われた通り、放課後に姉である楯無を屋上へと呼び出した。
別に何処でも構わなかったのだが、特に良い場所が思いつかなかった。
廊下は論外だし、自分の部屋に呼ぶのはなんだか恥ずかしい。
かと言って、姉の部屋に行くのは別の意味で勇気がいる。
そんな事を色々と考えて言った結果、最後に残ったのが屋上だった。
「えっと…簪ちゃん…? 何の用…かしら?」
「…昨日…佐藤さん…ううん。美咲と話した」
「え? 美咲ちゃんと?」
確かに彼女は自分たち姉妹の仲をどうにかしたいと言っていたが、まさかここまで行動が早かったとは。
大人しい顔をしていながら、実は凄く行動力が高かったのか。
「名前で呼んでるって事は、やっぱりお姉ちゃんも美咲の事を知ってたんだ」
「まぁ…一応ね。織斑一夏君の件で少しお話したから…」
「そうなんだ。別に、お姉ちゃんが美咲を私の元に寄越したとか…そんなんじゃないんだ?」
「寄越したと言うよりは、美咲ちゃんの方から言ってくれたと言うか…」
「…そうだと思った」
昨日、散々話して簪は佐藤美咲と言う少女の本質を少しだけ理解した。
彼女は絵に描いたような、典型的な『お人好し』だ。
困っている人がいたら助けずにはいられない。
かといって、自分の主張を押し付けるような事はしない。
あくまで、最終決定権は相手に委ね、自由意思を尊重する。
クラス代表に選出されるのも納得の仁徳だ。
「美咲が言ってた。まずは話すことが大事だって」
「話す…?」
「そう。なんでもいいから、まずは話をしてみなくちゃ始まらないって」
「そっか…そうね」
簪が今までずっと気持ちを溜めこんできたように、楯無もまた同じように気持ちを溜めこんできた。
美咲に言う通り、まずは互いに話をしてみたくては。
「じゃあ…お話ししましょうか。今まで出来なかった分…沢山ね」
「うん…お姉ちゃん」
そうして、姉妹の数年振りの会話が始まった。
時折、屋上から泣き声や叫び声、謝るような声が聞こえて来たと言うが、気を利かせて誰も聞かなかった振りをしたと言う。
『ほほぅ…? これはこれはまた…面白いことになって来ましたね。まさか、こんな事になるとは。そう言えば、あの『姉妹』と『彼女達』とでは明らかに『違う部分』が存在している。それが『結末』を分けたのか。成る程成る程…こんな『ケース』も存在するのですね。実に興味深い。それだけ『ミサキ』さんも『馴染んできた』…という事なのでしょうか。どうやら『今回』は、画面の向こうの皆さんが想像しているような事にはならなさそうですね。最初は『そうなる』予定だったようですが。まぁ…途中で脚本が変更になることなんて、そう珍しいことではないですから』