ラブリーエンジェル美咲ちゃんの幸せ大作戦! ~み~んな幸せになぁ~れ!~ 作:とんこつラーメン
一組と三組の生徒達の粋な計らいによって、一緒に学園祭を見て回ることになった一夏と美咲。
執事服と着物姿の組み合わせは、普段ならばかなり目立つ組み合わせの筈だが、今日は学園祭。
いつもとは違う格好をしていても全く目立つ事は無く歩き回ることが出来た。
「こうしてみると、各クラスで色んなことをやってるんだな。さっき見た『情報検索部』なんて『パソコン占い』をやってたぞ?」
「それ以前に、この学園にそんな部活があること自体を今知りましたよ…」
流石は全国や各国から色んな人間が集うIS学園。
普通の学校じゃないような部活も存在していた。
「結局、一夏くんが所属してる剣道部は何をする事になったんですか?」
「占い」
「…へ?」
「部長のマイブームが占いらしくて、部長権限を使って占いの館にしてた」
「剣道部で占いって…それでいいんですか…?」
「俺にも分らない。けど、俺に手伝えることは殆ど無いから、クラスの方に専念してくれていいって言われた」
「不幸中の幸い…なんでしょうか」
「かもな」
そんな剣道部の占いの館は、流石に剣道部っぽさが微塵も無いせいで、完全に閑古鳥が鳴いていた。
それでも部長はなんとか頑張っているが、他の部員たちは『やっぱり妥当に剣道体験とかにしておけばよかった』と本気で嘆いていた。
「あ…美咲。二人でデート?」
「あら。簪さん」
唐突に二人の前に現れたのは、何故か白装束を着た簪。
よく見たら、口の所には血を表現したと思われる食紅が塗られ、頭には火のついていない蝋燭を白い鉢巻きで括り付けている。
「その格好は…お化け屋敷か?」
「正解。四組はお化け屋敷になったの。で、私は休憩しながら客引きしてる。この通り」
そう言いながら簪が持ち上げた立札には『一年四組 お化け屋敷やってます』とおどろおどろしい感じの文字で書かれてあった。
「二人も、気が向いたら来てよ。歓迎するよ…色んな意味で」
「その『色んな意味』が怖いんだが…」
お化け屋敷と言う時点で嫌な予感しかしない。
そもそも、IS学園は何もかもがハイテクの塊だ。
そこらの学校がするお化け屋敷とは、確実に一線を画すレベルの出来になっているに違いない。
「因みに、何を考えたのか、真っ先にお姉ちゃんがうちに来て、見事に気絶して回収されていった」
「何やってんだ生徒会長」
「楯無さん…」
大切な妹の様子が気になるのが理解出来るが、だからと言って真っ先に来るのはどうか。
しかも気絶までして。
「というか、学園祭の時の生徒会って滅茶苦茶忙しいんじゃないのか?」
「その筈なんだけどね。でも、お姉ちゃんが仕事をサボるのなんて日常茶飯事だし」
「「それでいいのか生徒会長」」
遂には美咲までもが思わずツッコんでしまった。
姉妹仲を話していた時にシリアスな彼女はどこに消えてしまったのか。
「因果地平の彼方じゃない?」
さいですか。
「それじゃ、私はそろそろ行くから」
「はい。お疲れ様です」
「お疲れー」
「ん…じゃあね」
軽く手を振りながら簪は去って行き、二人は再び来客と生徒で賑わう廊下を歩いて行った。
・・・・・
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・・
・
「「あ」」
「え?」
それは、二人がふと目に入った『美術部の爆弾解体ゲーム』と言う看板が気になり、美術室に入ろうとした瞬間の事だった。
二人とほぼ同時に、赤い髪をした少年…一夏の親友である『五反田弾』も一緒に入ろうとしたのだ。
「ちょ…おま…一夏か? なんだよ、その格好は…」
「いや、これはクラスの出し物で…ってか、いつの間に来てたんだよ?」
「ついさっき来たんだよ。って言うか…」
いきなり一夏の肩を掴んでから端の方に連れて行く弾。
一人取り残された美咲は、何が何だか分からずにポカーンとしていた。
「隣に立ってた、あの和風美少女が、もしかして例の『美咲ちゃん』かよっ!?」
「う…うん…そうだけど…」
「うぐぐ…写真越しでも美少女だったけど、実物はそれ以上の美少女じゃねぇかよ…! しかも、着物にフリル付きエプロンって…男心を理解し過ぎかよ!! 世の男が求めている物の全てを詰め込んでるじゃねぇかコンチクショウ!!」
「ま…まぁ…確かに、美咲の格好は良いと思うけど…」
「そーゆーことを言ってんじゃねぇよ!! あと、ナチュラルに惚気るな!! 羨ましい!!」
血の涙を流しながら弾が一夏の腹を軽く小突く。
それは嫉妬と悔しさの涙だった。
「チクショウ…見渡す限り美少女だらけの楽園なのに…逆にレベルが高すぎて誰ともお近づきになれるビジョンが全く浮かばない…」
「普段通りにすれば、割と誰とでも仲良くなれると思うんだけど…」
「それが出来れば誰も苦労はせんのじゃい!!」
もうすっかり今の環境に慣れてしまった一夏と、初めてIS学園に来て緊張しまくりの弾とでは感性が全く違う。
最初は『可愛い彼女を作る唯一無二千載一遇の大チャンスかもっ!?』と思って一夏から貰った学園祭の入場券を片手に意気揚々とやっては来たが、いざ実際に入ると弾の想像を遥かに超える場所に、彼のキャパは完全にオーバーしつつあった。
「最初は羨ましいって思ってたけどさ…お前はスゲェよ…。こんな環境で普通に過ごしてて、しかも…あんな可愛い彼女までゲットしてさ…人生勝ち組じゃねぇか…」
「まぁ…環境に関しては普通に慣れただけって言うか…。美咲に関しても、いつの間にかって感じだしな…」
「いつの間にか彼氏彼女の関係に…か。変なお膳立てをされるよりは遥かに良いじゃねぇか…」
もう嫉妬の血涙すら出てこない。
この学園は、自分のような庶民には敷居が高すぎる。
そう理解した弾の目は、まるで仏のように澄み切っていた。
「そうか…これが悟りって奴か…。ははは…」
「だ…弾? 大丈夫か?」
「俺なら大丈夫だ。さぁ! 一緒に爆弾解体ゲームでもやって友情を深めようじゃないか! 一夏君!」
「お前…普通に気持ち悪いぞ?」
「うっせぇ!」
男同士のやり取りを終えて戻ってきた一夏と弾。
待ちぼうけをくらっていた美咲は、当然のように何があったのかを尋ねた。
「えっと…どうかなされたのですか?」
「あ…いや。別になんでもないよ。久し振りに中学時代の友人に会ったから、ちょっと話してただけさ」
「その通りです。美しいお嬢さん。俺の名前は五反田弾。一夏とは中学一年の時からの親友でして、今日も一夏に入場券を貰って来た次第で」
「そうなのですね。初めまして。佐藤美咲と申します」
自分なりに緊張を隠すような挨拶をしたら、非常に優美な挨拶で返されてしまい、その仕草が弾のハートにダイレクトアタックをぶちかました。
「こ…これが…大和撫子…か…! スゲェ破壊力だぜ…!」
「この人は何を仰っているのですか?」
「気にしないでくれ美咲。ちょっと頭が可哀想なだけだから」
「可哀想言うな!」
その後、三人一緒に美術部の爆弾解体ゲームにチャレンジしたのだが、美咲は兎も角、IS学園で半年近く過ごしてきた一夏が自分の想像以上に機械に詳しくなっていて、いとも簡単に爆弾解除(練習用の爆弾で、失敗しても爆発はしない)をしてみせた事で、さっきまでとはまた別の意味で驚かされた弾であった。
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「なんか小腹が空いてきたな」
「でも、まだお昼には微妙に早いですしね…」
現在の時刻は午前11時ジャスト。
丁度、お腹が空き始める時間帯だ。
「ここで食い過ぎたら、逆に昼が食えなくなるしな…」
「かといって、何も食べないと言うのも嫌ですしね…」
「「うーん…」」
何かいい妥協案は無いかと考えていると、何処からか漂ってきたソースのいい香りが不意に二人の鼻孔を刺激した。
「この匂いは…まさか?」
「その『まさか』みたいですよ。ほら、あそこ」
美咲が指さした場所にはタコ焼きの屋台があった。
どうやら、先程のソースの匂いはあそこから漂ってきたようだ。
しかも、屋台をやっているのはIS学園の生徒のようで、制服の上に水色の法被のような物を羽織っている。
「たこ焼きか…。二人で半分すれば丁度いいかもな」
「そうですね。屋台に『料理研究部』と書いてありますし、味の方も問題は無いでしょう。値段もリーズナブルみたいですし」
「あ…ホントだ。300円って書いてある。普通の屋台なら最低でも500円ぐらい取るのに」
「生徒が焼いているから…でしょうか?」
「かもな。取り敢えず、行ってみようぜ」
「ですね」
今は丁度、誰も並んではいないようなので、遠慮なくたこ焼きを買おうと屋台に近づいていく。
すると、そんな二人と同じタイミングで近づいてくる二人組の影が。
「「たこ焼きください。え?」」
一夏とやってきた二人組一人が同時に注文して、同時にお互いの方を見る。
「お前…美咲か?」
「ほぅ…」
「これはこれは…シーブックさんにザビーネさん。お二方ももう来ていらしたのですね」
「誰かさんのお蔭でな」
皮肉を込めて言ったシーブックだが、美咲には全く効いていない様子。
もう何度言ったか分からないが、恋する乙女は無敵なのだ。
「そこの少年が、例の織斑一夏か。中々に精悍な顔をしているではないか」
「ど…ども…。美咲…この人達は?」
「こちらの黒髪の方は『シーブック・アノー』さん。昔は木星公社にて『キンケドゥ・ナウ』という偽名を使って勤めていたのですが、少し前に学生時代からの付き合いである女性と御結婚成されて退職をし、その後は会社の近くに御夫婦でパン屋さんを開き、そこで暮らしておられるんです」
「ご丁寧な説明どーも」
「学生の頃の付き合いの女性と結婚…」
シーブックについて聞かされた途端、一夏は不意に自分と美咲の将来を考えてしまう。
もしも結婚したら、どんな家庭を築くのだろうかと。
だから、偽名云々の事は微塵も気にしなかった。
「そして、こちらの金髪眼帯の男性が『ザビーネ・シャル』さんと言って、昔からシーブックさんとは何かと因縁がある方で、昔はブッホ・コンツェルンに勤めていらしたのですけど、木星公社からヘッドハンティングを受けてから移ってきた経緯があるんです」
「い…因縁?」
「主に女性関係ですよ」
「あぁ…」
それだけでなんとなくではあるが分かってしまった。
要は、一人の女性を巡っての争い的なやつなのだと。
その勝負に勝ったのがシーブックなのだと。
「おい少年。どうして私に温かい視線を送る?」
「いえ…なんでもないっす」
一夏の中でザビーネは可哀想な男となってしまった。
「あのー…注文…」
「「「「あ」」」」
完全に忘れてた。
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・・・・
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・
購入したたこ焼きを、中庭のベンチに座りながら半分こして食べながら、喧騒で賑わうIS学園を二人で眺めていた。
因みに、シーブックとザビーネはまたどこかに行ってしまった。
「まさか、女の子と一緒に学園祭を楽しめるとは思ってなかったな」
「そうなんですか?」
「あぁ。中学の時って、文化祭とか有っても基本的に男同士でつるんでる事が多かったから」
「そうかもしれませんね。その頃から異性と積極的に交流しようなんて思う人は少ないでしょうから」
中にはそんな者達もいるかもしれないが、恐らくはかなり少数だろう。
殆どは二人のように、高校生になってから初めて異性と交流をするようになる…と思っている。
「こんな日が…ずっと続けばいいのにな…」
「いいのに…ではなく、続けられるようにしましょう。私達二人で」
「…そうだな。まだ俺達は一年なんだし。時間はたっぷりある…か」
「その通りです」
そして、互いに至近距離で互いに顔を見合わせた。
二人にはもう、最初の頃に会ったような初々しい羞恥心は存在しない。
「これからもよろしくな…美咲」
「はい…こちらこそ、よろしくお願いします…一夏くん」
言葉を紡いだ直後、人目も憚らず二人は自然とキスをする。
二人の絆が更に強固になった瞬間だった。
因みに、二人の周囲ではいつものようにブラックコーヒーを飲みに行く者達が続出した。
『そして…次回は遂に…?』