ラブリーエンジェル美咲ちゃんの幸せ大作戦! ~み~んな幸せになぁ~れ!~   作:とんこつラーメン

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               オカエリ










『セシリア・オルコット』③

 都内某所 深夜 某駅構内

 

 一人の中年の男性サラリーマンが残業帰りなのか、構内で終電を待っていた。

 

「はぁ…本当に疲れた…。ったく…どうして俺が新入社員のガキの尻拭いをさせられなきゃいけねーんだよ…!」

 

 よっぽど頭にキテいるのか、さっきからずっとブツブツと愚痴ばかりを吐いている。

 まだまだ終電は来ないのを確認した男性は、スーツの内ポケットから煙草を取り出し、同じ場所から出したライターで火を着ける。

 

「ふぅ~…ここって喫煙大丈夫…だよな?」

 

 念の為に周囲を確認すると、自分以外は人っ子一人いない。

 駅員もいなければ、彼以外の乗車予定の人間も。

 

「今から帰っても、やることつったらシャワー浴びてから、軽く超遅めの晩飯を食って、それからベッドにダイブだな。はぁ…人生と時間を無駄に浪費してるって感じがするなぁ…」

 

 こんな日々が一体何日続いただろう。

 そして、これからどれだけ続くのだろう。

 考えるだけで憂鬱になる。

 本気で死にたくなる。

 けど、本当は死にたくはない。

 ただ考えるだけ。

 考えるだけなら何事もタダだ。

 

「なに…やってんだろうなぁ…俺…」

 

 男ってだけで虐げられ、昔以上に過酷な仕事場に変貌した。

 頭の中がネガティブな事ばかりで埋め尽くされていく。

 楽しいことなんて一つもない。

 どれだけ必死に働いても、何の為に頑張っているのかすら分からなくなる。

 

「アハ♡」

「え…?」

 

 ソレは突然、現れた。

 

わぁぁぁっ!?

 

 思わず尻餅をつきそうになるが、なんとか耐えた。

 

 さっきまで本当に誰もおらず、何の気配も感じなかったのに、いきなり自分の隣に『青い服』を着た金髪の少女が出現したのだ。

 肌の色は白く、恐らくは外国の人間だろう。

 

「い…一体どこから…!?」

 

 足音も無ければ、ここに来る瞬間すら見ていない。

 本当に『いきなり』現れた。

 

「お…お前…なんだよ…」

「…………」

 

 恐る恐る尋ねても、少女は何も答えない。

 無言でずっと満面の笑みを浮かべ続けるだけだ。

 

「ち…ちくしょう…! なんだってんだよ……え?」

 

 本能的に後ずさりをすると、背中に何かがぶつかった。

 冷や汗を流しながら『まさか』と思いつつ振り向くと……。

 

「…………」

 

 黒い髪の少女が、同じように満面の笑みを浮かべながら立っていた。

 

「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 ワケが分からない状況に陥ったことによる恐怖心が理性を凌駕した結果、彼は行内全体に響き渡るほどの大声で悲鳴を上げてしまう。

 だが、それでも誰もやって来ない。

 流石に駅員ぐらいは来ても、おかしくはないのに。

 

「ハァ…ハァ…ハァ…!」

 

 今度こそ完全に尻餅を付き、地面に座り込んだ状態のまま、自分の左右に立っている謎の二人の少女を交互に見比べる。

 どっちも年の頃は15~6ぐらいか。

 恐らくは高校生だろう。

 

「ど…どうして…高校生がこんな時間に…?」

 

 とは言ったものの、よくよく考えれば今のご時世、深夜徘徊している女子高生なんて全く珍しくない。

 都会に行けば、そんな奴らは腐るほど見られる。

 

 混乱した頭で必死に色々と考えていると、いきなり二人の少女が

 

 

 グルン!!

 

 

 と勢いよく彼の方を向いてきた。

 

「「こんばんわ!」」

「こ…こんばんは…」

 

 いきなりの挨拶に増々、頭が混乱する。

 こんな状況でも脊髄反射で挨拶を返してしまう辺り、中々に業が深いが。

 

 一刻も早く終電よ来てくれ。

 今すぐにでも自分だけの聖域である我が家へと帰りたい。

 そんな彼の願いが届いたのか、暗闇の向こうから電車のライトが見えてきた。

 

「た…助かった…」

 

 何がどう助かったのかは分からないが、この奇妙過ぎる状況から逃れる事が出来るならば、どうでもよかった。

 

 電車が目の前に止まり、急いで立ち上がろうとする彼の両脇を、誰かが腕を回して持ち上げる。

 

「え? え?」

 

 彼の体を持ち上げたのは、両隣にいる少女達。

 その華奢な見た目からは想像も出来ない怪力で彼の事を軽々と持ち上げた。

 

「一緒に」

「参りましょう♡」

「や…やめろ…やめろ! 離してくれぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

 彼の必死の抵抗も虚しく、少女達二人と共にやって来た電車に半ば強制的に乗せられるのであった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 時間が時間なので当然なのだが、電車内には殆ど客がいない。

 彼以外には、中年の女性が一人乗っているだけだ。

 

(なんなんだよ…なんなんだよ…なんなんだよ…!)

 

 歯をガギガチと鳴らしながら、必死の思いで吊革に掴まり流れ行く外の景色を眺める。

 夜の帳が降りている状態では、真っ暗で殆ど何も見えないが。

 

「ヒッ!?」

 

 窓ガラスに反射し、自分の後ろの席に先程の少女達が並んで座っているのが見える。

 彼女達はずっと彼の方だけを見つめ、変わらず笑みだけを浮かべ続けていた。

 

(俺が何をしたってんだ…! 俺は何もしてない…! 俺は…俺は…俺は…!)

 

 さっきから冷や汗が止まらない。

 まるで極寒の中にいるかのように体が震えている。

 別に何かをされている訳じゃない。

 『いきなり』二人の少女が現れ、『いきなり』電車に連れ込まれただけだ。

 字で書けば、なんてことないように思えるが、何もかもが『いきなり』過ぎて、本当に意味が分からないのだ。

 

 まだか…まだ着かないのか。

 一分一秒が物凄く長く感じる。

 まるで、世界全体がスローモーションになったかのように体感時間が遅くなる。

 

(喉が渇いてきた…。さっきの駅で何か買っておけばよかった…)

 

 後悔してももう遅い。

 どれだけ喉が渇いても、今だけは我慢するしかない。

 

 その時ふと、反射したガラス越しに少女達と目があった。

 

「………っ!!??」

 

 もう悲鳴すら上げられない程に息を飲んだ。

 

 少女達の両目と口が漆黒に染まっていたのだ。

 なのに、歯茎はしっかりと見えていてた。

 

 全身を震わせながら、ゆっくりと後ろを振り向く。

 少女達は漆黒に染まった瞳で彼を見つめながら無言の笑みをしている。

 

 もし何かアクションを仕掛けて来れば、色々と対処のしようはあっただろう。

 だが、彼女達は何もしないのだ。

 彼に付き纏い、見つめるだけ。

 実は、車内に入ってから何回か移動して別の車両に行ったりしているのだが、彼女達はそれでもついてきた。文字通り音も無く。

 

「ちくしょう…ちくしょう…ちくしょう!!」

 

 恐怖が限界に達したのか、彼は金髪の少女に飛び掛かり、その首を締め上げる。

 仮にこれで殺人罪で掴まっても構わない。

 どうせ、もう人生に疲れ果てているのだ。

 自分に失うものは何もない。

 この得体の知れない恐怖心から救われるのなら、何だってやってやる。

 

 だが、どれだけ力を込めて首を絞めても、少女の表情が変わることは無かった。

 苦悶すらすることなく、変わらず笑みを浮かべ続ける。

 

 するとその時、彼の体に触れる者が現れた。

 

「な…なん……え?」

 

 それは、さっきからずっと席に座っていた中年女性だった。

 彼女もまた、少女達と同じように両目と口が漆黒に染まっていた。

 

「アナタ…アナタ…」

「は…はぁっ!?」

 

 いきなり見知らぬ女に『アナタ』呼ばわりされ困惑する。

 彼はまだ未婚で、女性と付き合った経験すらない。

 

「アイシテルワ…アナタ…」

「い…いきなり何言ってんだアンタ!!」

 

 一度吹っ切ってしまったせいか、躊躇う事無く大声を張り上げる。

 他の車両から何の反応も返って来ない事に微塵も疑問を感じずに。

 

『次の駅は~…■■■■~…■■■■~…』

「は?」

 

 次の停車駅を告げる車内アナウンスが流れるが、駅名の部分だけが上手く聞き取れなかった。

 他の言葉はしっかりと聞こえたのに。

 

「オトウサマ…オカアサマ…」

 

 金髪の少女が呟く。

 その目から漆黒の涙を流しながら。

 

「ゴメンナサイ…ゴメンナサイ…」

「何を謝ってんだよ…ワケが分からねぇンだよ!!」

 

 少女は謝罪をし続ける。

 自分の首を絞め続けている男を『父』だと信じて。

 

「マタアイタイ…マタアイタイ…」

 

 少女が男の顔を両手で掴む。

 その力を振り切って、顔面を近づけた。

 

「オトウサマァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 次の瞬間、電車が激しく揺れた。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 線路のど真ん中で一台の電車が横転し、爆発炎上している。

 深夜なのに、炎のお蔭でまるで昼間のような明るさだ。

 

 窓から食み出すようにして、一人のサラリーマンの男が死んでいた。

 電車が横転した時の勢いで窓ガラスを割って飛び出してしまい、そのまま倒れてきた電車に挟まれるように下半身が重量によって切断され、外には無数のガラス片が突き刺さった上半身だけが残されている。

 

 その隣には、中途半端に飛び出してしまったのか、電車によって頭がザクロのように潰された中年女性の死体もある。

 

 そして、その光景を遠くから見つめている金髪の少女がいた。

 

「オトウサマ…オカアサマ…チガウ…イナカッタ…」

 

 少女は目の前の悲劇には目もくれず、踵を返して歩き出す。

 

「オトウサマ…オカアサマ…ドコ…ドコ…?」

 

 亡き父と母を探して…どこまでも…どこまでも…。

 

 そんな彼女の歩いた跡には、数多くの横転し破壊された電車の墓場があった。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 翌日 IS学園 一年生寮 食堂

 

 そこでは、女子生徒達が『とある話題』で盛り上がっていた。

 

「ねぇねぇ! 聞いた? 出たんだって!」

「出たって…何が?」

「妖怪『電車女』!」

「…なにそれ? 新しいラノベの名前か何か?」

「違うって! 都市伝説だよ! と・し・で・ん・せ・つ!」

「都市伝説ねぇ…」

「金髪で青い服を着た美少女が、いきなり電車の中にやって来てジ~っと見つめ続けてきて…」

「それだけ? 別に何にも怖くないじゃん」

「話はここからだから! その子と出会ったが最後、絶対にその電車は謎の横転事故を起こすんだって!」

「そんなの、単なる偶然じゃない?」

「偶然じゃないから! も~…浪漫が無いなぁ~…。因みに、その電車女は何故か『中年男性』や『中年女性』ばかりを狙っているらしいよ? 理由は不明」

「なんじゃそりゃ。意味が分からん」

「ま、私達のようなピッチピチの現役JKには無縁の怪談だけどね~」

「自分でピッチピチのJKとか言うなし。普通にキモいわ」

「ひどッ!?」

 

 朝から賑やかな彼女達を、美咲と一夏は一緒に朝食を食べながら冷めた目で眺めていた。

 

「朝っぱらから怪談話とか、本当に女子高生って噂話が好きだよな~」

「良いじゃないですか。下らない話で賑わえるって事は、それだけ世の中が平和で、皆さんが『幸せ』な証拠ですよ」

「それもそっか」

 

 日替わり定食のシジミの味噌汁を啜り、鯖の塩焼きを解してから口に入れる。

 

「それよりも、織斑君はご自分の事を考えるべきではないのですか?」

「だな。皆に推薦されたとはいえ、俺が(・・)クラス代表(・・・・・)に選ばれた訳だしな(・・・・・・・・・)。こんなのって初めてだけど、これから頑張っていかないとな」

 

 一年一組のクラス代表は、他のクラスの例に漏れず穏便に決められた。

 決して、二人の候補者がISで試合をして(・・・・・・・・・・・・・・・)クラス代表を決めた(・・・・・・・・・)りなんかはしていない。

 

「まだ受領していないとはいえ、これから織斑君は一組唯一の専用機持ち(・・・・・・・・・・)になるわけですからね。必然的に矢面に立たされることは多くなるでしょうね」

「だよなぁ~…。一体どんなISが来るんだろうな…」

「良い機体だと良いですね」

「カッコいいISなら猶良し。俺も男だからな。やっぱ、ソレ系のメカには少なからず憧れはあるんだよ」

「男の子特有の感性ですね」

「佐藤さんも専用機を持ってるんだろ? 時間がある時でいいからさ、俺にISの事を教えてくれないか?」

「私は違うクラスの代表なのですが…まぁいいでしょう。困った時はお互い様…ですからね」

「マジか! ありがとな!」

 

 仲睦まじく話をする美咲と一夏。

 それを見た三組の女子達が、その目をキュピーンと光らせながらニヨニヨ顔で二人を眺めていた。

 

「ほほぅ…? これはこれは…」

「意外なカップリングですな~…」

「是非とも私達で応援しなくては…」

「クラス代表カップルか…いいですなぁ~…」

「今年の夏の薄い本が捗りますにゃ~…」

 

 本人達の知らない所で密かに『一夏×美咲』が誕生しようとしていた。

 

 そして今日も、何気ない一日が始まる。

 

 

 

 

 

 

 












                タダイマ






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