ラブリーエンジェル美咲ちゃんの幸せ大作戦! ~み~んな幸せになぁ~れ!~ 作:とんこつラーメン
ハロー
凰鈴音が転入してから早くも数日が過ぎた。
あれからも彼女は積極的に一夏と美咲の二人に接触をしてきた。
離れたクラスならばまだしも、彼女の所属しているクラスは2組。
一夏の1組と美咲の3組に挟まれているので、どちらのクラスにも非常に行き易い。
と言っても、鈴が絡んでくるのは主に一夏と美咲が二人でいるとき限定だが。
昼休みなんかは勿論、放課後なんかにも絡んでくる。
まるで、自分の事を少しでもアピールするかのように。
そして、それは今日もあった。
放課後の第3アリーナ。
お互いにクラス代表であるが故に中々に時間が合う事が無いということに加え、アリーナの使用予約が思うように取れない事が重なり、ISの練習をしたくても出来ない日が続いていた。
なのだが、今日は珍しくお互いのスケジュールが合った上に、アリーナまで使う事が出来た。
この機を逃して溜まるかと、一夏と美咲は即座にアリーナの予約をして今に至る。
因みに、前にこうして二人で練習をしたのは、鈴がやって来る少し前辺りだ。
余談ではあるが、鈴も二人と同じクラス代表であるにも拘らず、何事も無かったかのように動き回っているのは、単純に何もせずに代表としての仕事を別の人間に押し付けているからである。
「では、前回のおさらいから…と言いたいのですが…覚えてます?」
「な…なんとか…。一応、頭の中でイメトレぐらいはしてたし…」
実機を使った練習が思うように出来ない代わりに、一緒に勉強をして少しでも授業に付いて行けるようにとした結果、知識だけが先行して操縦技術がおぼつかないという皮肉な結果になっていた。
故に、一夏は少しでも忘れないようにと毎晩のように脳内でイメトレをしていたのだが…。
「仕方がありません。一つ一つ、地道に頑張りましょう」
「そ…そうだな」
ISスーツを着たまま、お互いに見つめ合って渇いた笑いを浮かべる。
まずはISを纏わなければ始まらないので、一夏は精神を集中させて自分に与えられた専用機である『白式』を呼び出そうとする。
その時だった。
「佐藤美咲!!」
「「ん?」」
突如として、アリーナ全体に響き渡るような大声で名前を呼ばれた。
反射的に振り向くと、そこにはISを守って空中に浮いている鈴の姿があった。
「このアタシと勝負しなさい! 今すぐに!!」
「はぁ? いきなり来て何言ってんだ鈴?」
「一夏はすっこんでて!! これは女同士の話なんだから!!」
「意味が分からねェ…」
今から貴重な時間を使っての練習だというのに、いきなり割り込んできて『勝負をしろ』という。
一夏でなくても普通に怒る案件だろう。
時に、彼女が転入して来てからコッチ、まるでストーカーのように付き纏われて一夏も半ば、うんざりとしていた。
「どうやら、彼女が用があるのは私みたいですね」
「みたいだけど…別に無理に勝負なんてしなくても良いぞ?」
「私もそうしたいのですが、仮にそうしたら、また癇癪を起しそうですし」
「確かに…」
今の鈴は、まるで破裂寸前の風船だった。
ちょっとした衝撃ですぐに割れて感情が爆発する。
どこか必死に何かをしようとも見えるが、本人が何も言わないので誰もそれを察する事が出来ない。
特に、彼女が所属する2組での評判はすこぶる悪かった。
自分勝手な理由でクラス代表になっておきながら、クラス代表としての仕事は全くしない。
クラス内での彼女に対するフラストレーションは蓄積していく一方だ。
「大丈夫。自分の感情を上手に抑制出来ていない人には負けませんから」
「そう…だな! 頑張れよ!」
「はい。お任せあれ」
爽やかなサムズアップを送り、一夏はピットへと下がっていく。
それを見た他の生徒達も、空気を察してピットへと戻って行った。
そんな彼女達に美咲は申し訳なさそうにお辞儀をするのだが、元々の原因である鈴は何にもせずにふんぞり返ったまま。
「なんなの…あの子…感じワル…」
「あれ…例の転入生だよ。ほら、一年二組の」
「あぁ~…あれが噂の。随分と偉そうにしていますこと」
「あんなのを候補生に選んでる辺り、中国の民度ってのが伺えるわね」
「「「同感」」」
ヒソヒソ話で鬱憤を晴らす生徒達。
当然のように、彼女達は美咲の勝利を祈っていた。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「ほら、とっとと専用機を纏いなさいよ」
鈴はさっきまでのやり取りで更に苛々していた。
一夏は自分の事を全く応援しようとせず、美咲の事ばかりを気に掛けていた。
それが彼女には許せなかった。
別に美咲の事を応援するなとは言わない。
けれど、ならば幼馴染である自分も同じように応援して然るべきではないのか?
そう思わずにはいられない。
「分かってますよ。少々お待ちを」
美咲は精神を集中させ、自身のISの待機形態である眼鏡を手に取る。
一体どんなISなのだろうか。
そんな純粋な好奇心と同時に『どんなISであっても関係ない。実力で分からせてやる』という気持ちが渦巻いていた。
企業所属のテストパイロットと代表候補生。
普通に考えれば勝敗は目に見えている。
「『幽霊』の名を冠する我が愛機よ。『不幸』に嘆く人々の悔恨と苦痛の悲鳴を少しでも理解出来るのなら…力を貸しなさい。この一瞬だけでも構わないから」
美咲の全身が蒼い炎に包まれる。
それと同時に彼女の身体がゆっくりと宙に浮き始め、鈴がいる高度に到達した。
「えい」
右腕の一振りで炎が消え、美咲の姿が変貌する。
それは、全身を緑色の装甲に包んだ機体。
その背に『歪んだ光の翼』を携えた『一騎当千』。
「全身装甲型のIS…それがアンタのIS?」
「えぇ。木星公社の開発した惑星間航行用高速移動能力試験機です」
「わ…惑星間航行…? もう既に外宇宙での活動を想定したISが生まれてるっての…?」
本来、ISとは宇宙での活動を目的に開発されたパワードスーツだ。
それが歪みに歪んだ結果、今のような『競技用』なんて事になっている。
「『ファントム』…それが、この機体の名前です」
「成る程…『
不敵な笑みを浮かべ、鈴はその手に持つ日本の近接ブレードを連結させ回転させ構える。
「なら…文字通りの幽霊にしてやるわ!! この勝負にゴングなんて必要ない! すぐにケリを着けて、人の幼馴染を奪った事を死ぬほど後悔させてやる!!」
怒りを露わにしながら突撃してくる鈴。
それを冷静に見極め、美咲は拡張領域から一丁の銃を取り出した。
「遅い」
「なっ!?」
鈴の顔の真横を一筋のビームが通り過ぎていく。
咄嗟に首を捻らなければ、確実に顔面に直撃していた。
「あ…あぶな……え?」
ほんの少しだけ余所見をした瞬間、美咲は鈴の懐に飛び込んで、手持ちの銃を折り畳むように変形させてビームの剣に変えていた。
「まずは一発」
「きゃぁっ!?」
通り過ぎ様に腹部に一撃を加え、まずは先制攻撃。
そのまま振り返りながら銃形態に戻し、思い切り怯んだ鈴の背中に向けて追撃。
今度は流石に避けきれず、彼女の背中にモロにヒットした。
「よくも…あたしの『甲龍』を…! 絶対に許さない!! これでも喰らいなさい!!」
「ん?」
彼女の専用機『甲龍』の非固定部位の中央部分が光る。
即座に『何か来る』と判断した美咲は、自分の銃『バタフライバスターB』を仕舞い、腰部パーツに格納されているファントム唯一の格納武器を分離、装備した。
「お…らぁっ!!」
「ふん」
一閃。
美咲に飛んで来ようとした『ナニか』は、一撃にて消滅させられた。
「なん…ですって…? 甲龍の『龍砲』が…衝撃砲が…初見で破られるだなんて…」
「成る程。今の不可視の砲弾は衝撃砲と言うのですね」
ファントムの手に握られているのは、まるで炎のようにユラユラと刀身が揺らめく一本の剣。
あの剣で衝撃砲が破壊されたのは明らかだった。
「『
「名は体を表すってわけね…」
見ただけで分かる。
あれの攻撃力は自分の『龍砲』以上だと。
一撃でも喰らえば致命的だと。
だが、ここで美咲は『とっておきのダメ押し』を出してきた。
「鈴さんの本気は分かりました。ならば私も『本気』で挑むのが礼儀と言えるでしょう。さぁ…ファントム。今こそ、あなたの『本来の姿』を見せる時です」
ファントムの頭部の経口部が眩しく光り、まるで口のようにバカっと開く。
それとほぼ同時に、なんとファントムの全身とVの字状のバックパックから『ビームの炎』が噴出した。
頭部。胸部。腰部。両肩部。両脚部。両腕部。
そして…背部バックパック。
展開時と同様に全身が炎に包まれた。
「
「やれるもんならやってみr……え?」
美咲の姿がどこにも無い。
どこに消えた?
彼女の居場所を甲龍のハイパーセンサーが教えてくれた。
「うし…ろ…?」
SEが大幅に削られた。
文字通り、目にも止まらぬ速度で斬り裂かれた。
「まだまだ」
「ちっ!」
こんなもんじゃ終われない。
必死に近接ブレードの柄で防御しようと試みるが、柄の接続部をピンポイントで狙われ、柄ごと一刀の元に斬り伏せられる。
「私も二刀流でいきますね」
「冗談…!」
もう片方の腰部バインダーから、もう一つのフレイム・ソードを取り出して左手に装備。
燃えるような軌跡を描きながらアリーナ全体を飛び回り、すれ違いざまに二振りの剣の斬撃。
最早、防御する事すら出来ず、完全に美咲の成すがまま状態に。
「これで…終わりです」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
最後は二本のフレイムソードによる連続斬りにて地面に叩き付けられ、その衝撃で鈴のISは強制解除された。
「勝負あり…ですね」
「ちく…しょう…!」
非公式の試合であるが故に試合終了のブザーは鳴らないが、誰の目からしても勝敗は明らかだった。
ファントムライトを解除してから、ゆっくりと鈴の元へと降りていく。
それを見た鈴は、痛む体を我慢しながら立ち上がり、腕を抑えながら無言でピットへと戻って行った。
「美咲!」
そこへ駆けつけてくる一夏。
少し早く鈴が去ったのは、不幸中の幸いだったのかもしれない。
「やったな! けど…なんつーか…凄かったな!」
「ありがとうございます」
「そういや、美咲のISを見るのって、これが初めてかもな…」
「そうですね。特に見せる機会なども無かったですし…。もう少し特訓が進めば、私も自分のISを使って指導をしていたのですが…」
「まだ、その段階じゃなかったってわけか。なら、少しでも早く美咲のISと並んで飛べるようにならないとな」
「その時を楽しみにしています。ですが今は…」
「鈴のことか?」
「えぇ。彼女の様子が少し気になりますので、行ってこようかと」
「そうだな…頼むよ。こういうのは、異性である俺よりも、同性である美咲の方が良いだろうしな」
「お任せください」
ファントムを解除し、美咲も鈴の後を追うように彼女が戻って行ったピットへと駆けていく。
その時の目と口は漆黒に染まっていた。
ミテル