ラブリーエンジェル美咲ちゃんの幸せ大作戦! ~み~んな幸せになぁ~れ!~ 作:とんこつラーメン
ダイスキ
アリーナから去って行った鈴を追い駆けた美咲。
彼女は、ピットの端の方に蹲るようにして座り込んでいた。
ピット内には誰もおらず、彼女一人だけだ。
「ここにいたんですね」
「…………」
何も話さない。
俯いた顔からは表情が伺えず、何も分からない。
「…んで…のよ…」
「え?」
いきなりガバッと起き上ったと思ったら、美咲の胸倉を掴んで壁に押し付けた。
「なんでアンタなのよ!! アタシの方が…アタシの方がずっとずっと先だったのにっ!!」
「先…?」
「アタシは一夏の幼馴染なのよ!? アンタなんかよりもずっと長い付き合いで!
アンタよりも沢山アイツの事も知ってて! 色んな事をして遊んで…一緒に勉強とかもして…他にも…色々……」
「鈴さん……」
段々と声が小さくなっていく。
胸倉を掴む手からも力が抜け、手が離れると同時に床に座り込んだ。
「ずっと…ずっと…アイツとまた会える日を楽しみにしてて…その為に一生懸命頑張って…また日本に来れるようになったのに…なのに…これじゃあ…アタシ…」
鉄の床に涙が落ちる。
それは、鈴の目から零れ落ちた涙だった。
「何の為に戻ってきたのか…分からないじゃないのよぉ…」
彼女の心の吐露を聞き、ようやく美咲は鈴の本心が分かった。
どうして彼女が今までずっと自分や一夏に絡んできたのか。
その理由が。
「そうだったんですね。鈴さん…アナタは一夏君の事を…」
「そうよ…昔からずっとそうで…その気持ちは今も変わってないんだからぁ…」
同じ女性として流石に不憫に感じたのか、美咲は泣き崩れる鈴の肩を抱き寄せ、優しく頭を撫でた。
「申し訳ありません。そうと知らずにアナタの事を…」
「今さら言っても…もう遅いのよ…バカぁ…」
我慢の限界だったのだろう。
鈴は美咲の胸に顔を埋めて泣き始めた。
声を上げずに泣き続けた。
「一つ気になったのですが…」
「なによ…」
「鈴さんは、ご自身の気持ちを一度でも一夏くんに言った事があるのですか?」
「そ…それは……」
恥ずかしそうに口籠る。
これは確実に言っていないと見た。
「昔…その…『料理が上手になったら、毎日アタシの酢豚を食べてくれる?』って言った事なら…ある…」
「…? それはどういう意味ですか?」
「え? 分からない?」
「全く」
「…………」
同性である美咲が理解出来ていないとなると、異性である一夏はもっと理解出来ていない可能性が高い。
そもそも、デートのお誘いを買い物と勘違いしてしまうような男が、非常に遠まわしな告白なんて分かるだろうか。
「一夏くんはエスパーではありません。ちゃんと気持ちを口にしなければ、伝わるものも伝わりませんよ?」
「うぐ……」
超正論パンチがモロに入った。
そんな事は鈴だって分かっている。
だが、思春期特有の羞恥心がそれを阻む。
これまでもずっと、その繰り返しだった。
『振られたらどうしよう』とか、そういう恐怖心以前の問題。
「…もういい」
「え?」
「もういいって言ってんの。一夏はアンタにゾッコンみたいだし…」
「はぁ…」
本当は分かっていた。
一夏にとって、自分はいつまでも『友人』でしかないと言うことが。
けど、認めたくなかった。
もし認めてしまったら、今までの自分が抱えてきた気持ちや努力が全て無駄になってしまいそうだから。
だがしかし、ここまで来たら認めざる負えない。
自分は負けた。
恋も実力も、どっちにも完全敗北した。
「アタシは…もう何もしない。遠くから二人を見守ることにするわ。これ以上は…かなりキツいし…」
「鈴さん……」
目を赤く腫らし、疲れたように笑う。
その表情には諦めの色があった。
「ダメです」
「は?」
「それはダメです」
「ちょ…いきなり何を言って…」
「そこにどんな理由が有れど、自分が一度抱いた気持ちを捨ててはいけません。それでは決して『幸せ』になんてなれない」
「美咲…?」
いつにも増して真剣な表情。
今までには無い迫力がソコにはあった。
「私は皆さんに『幸せ』になって欲しい。それはアナタだって例外じゃないんですよ…鈴さん」
「幸せ…か。そんな事を言われてもね…」
まだ碌に人生を堪能していない十五歳の小娘に幸せの定義を問われても普通に困る。
仮に答えるとしても、漠然としたことしか言えない。
「大丈夫。私に任せてください」
「アンタに…?」
「そう。鈴さん。私がアナタを……」
「『幸せ』にしてあげます」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
夕方となり、鈴は寮にある自分の部屋へと戻って来ていた。
「ティーナー…ただいまー…って、いないの?」
同室の生徒がいない事を最初は訝しんだが、彼女がよく友人の部屋で過ごしているのはここ数日で理解していたので、今回も『またどこかに行っているのか』と思って、特に怪しむような事はしなかった。
「はぁ~…なんか今日はいつも以上にドっと疲れたような気がする…」
室内に入ってからすぐにベッドの上に寝転がる。
少しの間だけ目を瞑って静かにしていたが、いきなり起き上がってから備え付けの冷蔵庫へと向かう。
「…喉乾いた」
冷蔵庫の中にはジュースとかがあった記憶がある。
それでも飲んで落ち着こう。
そう思った瞬間…。
「え?」
突如として彼女の全身が発光し、自身の専用機である『甲龍』が強制展開された。
「ちょ…何よこれ!? なんで甲龍が…!」
ワケも分からないまま、急いでISを収納しようと試みると、機体の各部装甲内から機械の触手のような物が伸びてきた。
「は…はぁっ!? こんなの甲龍には無かった筈よ! ちょ…止めなさい甲龍!!」
触手は何本も機体から生え、鈴の全身を這いずり回る。
生理的嫌悪感から鳥肌が立つが、そんな事などお構いなしに触手は体の至る所に絡みつく。
「こん…のぉぉ…! あんまし調子に乗って……!?」
なんとかして触手を振り解こうとしている途中で気が付く。
触手の先端にプラグのような物が二本生えている事に。
それを見た鈴は、猛烈に嫌な予感がした。
「ま…まさか…冗談よね…?」
思うように身動き出来ない鈴の背中に狙いを定めるかのように、一本の触手の動きが止まった。
「や…止め…! だ…誰か!! 一夏!! 美咲!! 助けt…!」
グチャ
「か…は…!」
背中に触手が突き刺さる。
血が流れ、呼吸が出来ない。
「い…ちか…!」
涙を流す鈴に対し、無慈悲に触手が次々と突き刺さっていく。
腹に。胸に。両足に。両腕に。首に。両耳に。
『両目』と『口』以外のありとあらゆる場所、穴に触手が刺さる。
それは股間にある『二つの穴』も例外では無かった。
「あ…ああぁ……」
トドメと言わんばかりに、最後に脳天に触手が深々と刺さり、鈴の全身がビクッと反応し…それを最後に彼女の抵抗は完全に終わった。
「…………」
ダランと鈴の身体から力が抜け、弛緩する。
その両目と口が漆黒に染まり、黒い涙と涎を流す。
「イチカ…イチカ…イチカ…イチカ…」
停止したかと思われた鈴の身体が再起動し、まるで譫言のように想い人の名前を呟き、両腕を虚空に彷徨わせる。
勿論、その手の先には何もいないが、彼女にはナニかが見えているようだ。
「アハハハハハハハハ! アイシテルワイチカ! ダイスキヨ! アハハハハハハ!」
歓喜の笑みを浮かべながら、ついさっきまで『凰鈴音』と呼ばれていたソレは宙へと浮かび上がり、部屋の窓を突き破って夕闇に染まった空へと消えていく。
学園のシステムに全く検知されず、誰にも見られることなく。
その後ろ姿を美咲が、その黒く染まった瞳で静かに眺めていた。
「
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
とある森の一角。
白衣を着た数人の男達がナニかを見つけて観察していた。
「研究所近くにある森から変な反応が検知されたから急いで駆け付けてみれば…」
「なんだこれは?」
ソレは、赤いISと融合した少女だった。
まだ幼さが残る体とツインテールが特徴的で、もし『普通』だったなら、とても可愛らしかったのは想像に難くない。
最も…今はその面影すら残されていないが。
「モット…モット…スキニシテェ…イチカァ…」
全身が機械の触手に支配され、その目と口は真っ黒。
不気味な笑みを浮かべ続け、想い人と愛し合っている幻を見続けている。
「気持ちワリィな…。見た目は間違いなく美少女なのによ…」
「こうなっちゃお仕舞だな。全く抜けねぇよ」
「あぁ…。だが、どれだけ気持ち悪くても貴重なサンプルには違いない。研究所に持って帰って、徹底的に調べまくるぞ」
「だな。人間とISの融合体…ある意味、例の男性IS操縦者以上に貴重だ」
「このチャンスを逃す手は無い。研究所から搬入用の車両を持って来て、こいつを運ぼう」
研究員の一人が電話を掛け、どこかに連絡をする。
その間も少女はずっと愛しの彼との楽しい夢を満喫していた。
「イチカァァ…イチカァァ…イチカァァ…スキ…スキ…スキィィ…」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
研究所内。
研究者たちによって『キメラ』と名付けられた融合体は、回収された後に全身の至る所を調査された。
融合しているISは当然のように分解されたが、それでも人体には全く影響がないばかりか、元に戻る様子が全く無い。
流石に触手は取ることが出来ず、そのまま放置の形となる。
その後も研究は続き、遂には人体解剖にまで至ることに。
解剖している最中も彼女の譫言が収まる気配はなく、麻酔もしていないのに痛がることすらしない。
延々とその黒い目で虚空を見つめ続け、その両手を存在しない男に向けて伸ばし続ける。
「ホラミテ…アタシトイチカノアカチャンヨ…カワイイ…カワイイ…」
徐々に人の形を失っていく中でも、彼女の幻は終わらない。
その様子に恐怖を覚えながらも研究者たちは仕事を続ける。
やがて、彼女は神経と脳髄だけとなり、ホルマリン漬けになって研究所の一角に保管される事に。
剥き出しになった脳に直接、機械の触手が突き刺さっており、脳から繋がっている眼球も相変わらず黒いまま。
何も喋る事が出来ず、何も聞く事が出来ず、何にも触れる事すら出来なくなった今でも、彼女は夢の中で愛する男と天国のような幸せを味わっていた。
やがて…遠い未来にて廃棄処分されるその日まで、彼女は永遠とも言える『幸せ』を堪能し続けたのだった。
永遠に……永遠に……。
(イチカ…キョウノユウハンハナニガイイ…? アンタノスキナモノヲナンデモツクッテアゲル…)
トワニ