月夜が照らす気高き巫女を、とある妖怪の男がじいっと見つめていた。
淡い光が巫女の美しさを際立たせている。男は目が離せなかった。
きっと運命だったのだろうと男は思った。俺はこのときのために生まれてきたのだ。そう思った。
凛とした背筋と美しいかんばせ、神に愛されたその容貌に男は見とれた。
男は反射的に声がでた。
「おい、おい! そこのおんな!」
「何か」
鈴の音のような、しかし、しっかりと、大地に根を張るような声だった。
「オレのつがいになってくれ!西国の大妖怪たる父の名にかけて、お前を幸せにすると誓おう!さあ、さあ!」
女は男の言葉は聞こえていないかのように言った。
「私はこの地を守る者。その為だけに存在している。おまえは悪い妖怪ではないね。見逃してあげるからどこか遠くへいきなさい。」
女はすげない態度で男の告白を断った。
女にはわかった。こやつは殺しを今までしていない。あまり力もないだろう。
「そいつはあんまりにも悲しいじゃねぇか!あんたにはいきる意味ってのがないのかい!?おれは今見つけたよ!あんたを幸せにすることだ!」
「とんだ変わり者だ。」
「俺の名前は●●というんだ。なあ、あんたの名前は?どこに住んでる?あんたのことが知りたいんだ。」
女は振り向いてどこかにいこうとする。男は女の後ろ姿に頬をぽおっとさせる。男はあわてて手を伸ばす。この機会をうしなったら二度はないと思った。男の表情は必死であり、とても二枚目の顔ではない。
「待ってくれ!あんたのすんでいる場所だけでも教えてくれ!どうか、このおれに機会をくれ!俺はまたここにいる。ずうっとずうっとここにいる。また夜に会おう、なあ、美しき巫女よ」
それが二人の出会いであり、そこから何年間も関係は続いた。
「なあ。今日は菓子を持ってきたんだ。俺の家来が寄越してくれた。そいつは頭がよくてうまく商売しやがんだ。マッ、俺ほどじゃねえけどな。」
「よく次々と法螺を吹けるものだ。おまえに学がないのは見ればわかる。」
普段の女はこんなに辛辣ではない。むしろ、村人には、丁寧な巫女として慕われている。
あけっぴろげに好意を示してくる男に対して、少し心を開いているのかもしれなかった。
「……だが、ありがたくいただこう。」
女は隠微であるが薄く微笑んだ。
「あっ、おっ、おう!そうだ!あ、あれはいるか?そう、花!花をあげたい、はぎは?なでしこは?ききょうは?オレ知ってるんだぜ、女にあげる花だ!」
「それは秋の花だろう。今は春だ。」
「えっそうなのか?」
女は笑った。男の顔はさらに赤くなった。
そこへ女の従者がきて言った。
「今日もきたんですかあなたは!○○さま、追い返しましょう!ぴょこぴょこと付きまとわれて迷惑です!村の人たちも妖怪なんて怖がります!」
「俺は人間なんか弱いものを害するような妖怪じゃねぇやい!
おまえかって○○の周りをぴょこぴょこぴょこぴょこ回ってンじゃねえか!!」
「なにおう!」
女はついに声を出して笑った。
「おまえたちは仲がいいな」
女はそういいながら思った。
自らの使命がなければ、この美しい世界をもっと楽しめるだろうか。
ズシンと重いこの責任は、私をどこまで縛り付けるのだろうか。
この呪いの土地を私が浄化しきったとき、神は私のささやかな願いを叶えてくれるだろうか。
女は立ち上がり、二人がいる方向へ歩く。
木々がざわざわと鳴る。
風が、応援するかのように、彼女の背中を押している。
優しい光が、彼女たちをキラキラと照らしていた。
ずっと小説が書いてみたかったので書いてみました ご意見よろしくお願いいたします
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