血に濡れた木々の一つ一つが、意思をもって、今にも女に襲いかかりそうである。
歩いていく。
女は歩いていく。
女はゆっくりと、歩いていく。
『いいことは長続きしないものだ。これが夢だったらよかったのに。』
戦が起こった。
初老の男性が、遺体の前でうずくまっている。
しわの深いその男は、女を見つけると、涙を流し叫んだ。
「私の息子は死にました。隣の村との戦で死にました。村のものの多くが死に、たくさんのものが奪われました!ああ、ああ巫女よ、どうして私たちの味方でいてくれなかったのですか?どうして、どうして!」女は黙っている。
「そんな!そんな!あんまりじゃあありませんか!もし私の村にあなたがいたなら!一人だって死ななかった!あなたが村にいなかったから!食料が足りなくなり、若者たちは戦にでた!幾人も死んだ!!」
女は黙っている。
「あなたはなんのためにいらっしゃるのか!?その人外の力で私たちを守っていただけるのではないのか?ああ、私は一人だ、身内は全て死んでしまった。私はひとりだ、あなたのせいだ、あなたのせいだ、あなたのせいだ!あなたのせいだ!!」
女は黙っている。
初老の男性は泣きながらうずくまっている。
隣の村との戦だった。此度の戦で若い衆の多くが死に、山を血で染めた。
女は去る。
「何か言い返せよ。おまえにもできないことがあるだろう。」
木の上で見ていた妖怪がいう。
この妖怪は人間に恋をした変わり者で、いつもこの巫女の後を追っている。
女は言葉を返す。
「あの方が悪いわけではないよ。あの方は今、心に深い傷を負っているんだ。」
男は木から飛び降りて女に食って掛かった。
「だからって、おまえは何をいわれても黙ってるのか!?理解できねぇな。それじゃ限界がくるぜ。きっとな!今は戦乱の時代、命は軽い。私の責任ではないとか、戦をしたおまえたちが悪いとか!一言言い返すぐらいカミサマとやらも見逃してくれるだろうさ。」
「戦をしなければならないこともある。絶対に正しい選択なんてないよ。仕方がなかったんだ」
「だからっておまえのせいじゃねえだろう!俺だってむやみやたらとヒトを傷つけるような悪趣味じゃねぇがよ、 この世は弱肉強食さ!オロカモノは増長するもんだ。反撃しないとどんどんひどくなっていくぜ。人間は数だけはいるからな!」
「…誰も悪くないんだ、私にできるのはただ、ただ見守るだけだよ」
「これからも、同じようなことが幾度も起こるぜ!おまえは耐えられるのか!?」
「私ができるのは、この地を守ることだけさ。」
女は去る。
女はゆっくりと歩いていく。
神に愛されしこの巫女は年を取らない。
ああ、なんと美しいのだろう。残酷な現世に、こんな汚れのない存在がいたなんて。
神はそういって彼女に祝福を与えた。
彼女は呪われし土地を守る巫女である。
かつて魑魅魍魎が跋扈したこの土地が、力を取り戻さぬように、
彼女はこの土地を守り続ける。
女は唄う。
『行く川のながれは絶えずして、しかも本の水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとゞまることなし。』
アドバイスよろしくお願い致します