狂気的な恋   作:96963

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多分変なテンションで書いてる


偽物

 ──────気づいたら、自分の部屋で縛られていた。

「え? なんで?」

 そんな疑問がつい口から出る。縛られているのは、両手両足首と首の部分。ただ、両手両足が手枷足枷を嵌められてベッドに繋がっているのに対して、首はどこにも繋がっていない。首輪から伸びる長い鎖が途中で切れている。

「あ、でも身体は動くな…………」

 両手足の鎖もかなり長く、ベッドに括り付けられているにも関わらず、部屋の中でならかなり自由に動ける。

 一体誰が縛ったんだろう。そんなことをぼんやりと考えながらベッドに腰掛ける。長い鎖は私を苦しめることはなく、しかし私をこの部屋から離さない。私の部屋はいつのまにか、寝床から私を閉じ込める小さな牢獄と化していた。

 しばらくぼーっと過ごしていると、私の右手に異変があるのに気づいた。令呪が、無い。正確には、何かに覆い隠されている。

「あ、あれ? 令呪、どうしたの⁉︎」

 右手の令呪の上には、謎の紋様が刻まれている。それは鎖のデザインで、私の右手を這う様に縛り付け、令呪を封印しているようだ。

「な、何これ…………」

 考えてもわからず、ただ私は、この場所で令呪を使うことは出来ないという現実を理解させられる。

「どうすれば、良いの…………」

 途方に暮れながら横になる。部屋の通信機能を試してみたが機能しない。あらゆるものから遮断されたこの小さな牢獄で、誰も頼れないことに心が折れそうになる。

「…………でも」

 諦めることだけは、しない。諦めたらそれで終わりだ。折れそうになる心をどうにか立て直す。

「きっと、助けが来る…………」

 その時をじっと待つことにする。

「…………とりあえず、寝よう」

 どんな目的で閉じ込めたのかはわからないけど、殺してないってことはきっと私に何か求めているはず。それなら、少しでも体力を休めてそれに備えよう。そんな思考を巡らせながら眠ることにする。意識はすぐに落ちていった。

 

 

 

 ひたひた、ひたひた。ぐちょぐちょ、ぐちょぐちょ。そんな水音が耳朶を叩く。意識が覚醒し、目を開けると───────ゴッホちゃんがいた。

「ゴッホ、ちゃん?」

 助けに来てくれたのだろうか。でも、彼女の顔はいつもと違う気がする。いつものように笑っているけど、言いようのない違和感が脳に警告を与える。

「…………マスター様。貴女のサーヴァント、ゴッホです。お迎えにあがりました」

「迎えって、どこに…………」

 彼女はいつもの愛らしい彼女ではなく、言いようのない違和感で身体が震える。だけど、その違和感の理由がわからない。縛られてから頭に靄がかかったようだ。だけど、確信がある。彼女は、偽物だ。

「…………さあ、行きましょう」

「…………いや、来ないで! あの娘の顔で、騙らないで!」

「しょうがないマスター(サーヴァント)ですね…………はぁ」

 彼女の右手が掲げられる。右手にあるのは、私の令呪。なぜ彼女がそれを、と思う前に右手が怪しく光る。

「令呪を持って命じる。私に、従いなさい」

「…………ッ‼︎」

 抗いようのない重圧が私を縛る。カルデア製の令呪は、補充が効く代わりに強制力自体はそこまでないという話だけど、一般人だった私には関係ない話で。意思に反して身体が動く。彼女に跪いてしまう。

「舐めなさい」

「…………ッ」

 従いたくないのに、身体が動く。私の唇は彼女の靴に触れ、靴を舐める。しばらく舐め続けていると、令呪の効果が切れたのか相手が満足したのか、重圧が消える。

「これで、立場はわかりましたか? 私がマスター。貴女はサーヴァント。私の方が強いんですから、貴女がサーヴァントになるのは必然の理ですよね?」

「彼女の声で、騙るな…………ッ‼︎」

 精一杯反論する。それが気に食わなかったのか、首輪の鎖を引っ張られる。

「まだ、立場がわかってないようですね…………では、これならどうでしょうか」

「…………ッ⁉︎」

 口内に彼女の舌が差し込まれる。彼女の顔でされるキスは、とても気色が悪くて仕方がない。しかし、否応なく身体が反応してしまう。身体が、この偽物を主人だと認めつつある。

「や、め、ろッ…………!」

 どうにか拘束から抜け出す。

「わかりませんね。サーヴァントはマスターに従うものではないですか?」

「お前みたいな偽物に、従うわけないッ…………!」

「偽物、偽物とうるさいですね…………それに、彼女の方が偽物でしょう。自我も記憶もずれている、つぎはぎだらけの怪物」

「お前が、彼女を、ゴッホちゃんを語るな!」

 彼女の顔で彼女を侮辱されることに耐えられず、つい殴りかかる。ここが敵の術中であることも忘れて。

「おっと」

「ウッ…………」

 気づくと、長かったはずの鎖は私の動きを阻害するほどに縮んでいた。耐えられず倒れ込む。

「どうやら、貴女にはいくら優しく言っても無駄なようですね」

「なら、諦めてくれる?」

 そんな軽口を叩きながら、突破口を探す。

「いいえ? ──────令呪を持って命じる、私に従え。重ねて令呪を持って命じる。私に全てを捧げろ」

「ああ、アアアアアッ⁉︎」

 令呪の二角使用。身体が勝手に動く。もう私の思い通りに動かない身体は彼女を主人として再び靴を舐め始める。そして、精神もそれに引っ張られ、彼女に対する悪感情が薄れていく。私の心が書き換わっていく。吐きそうな汚泥の味しか伝えなかった舌はいつしか甘い蜜のような味しか伝えなくなり、不快感が消えていく。変わっていく心の有り様に恐怖を感じる中、ペットでも扱うような気やすさで首輪が引っ張られる。私の身体はもうそれにすら悦んでしまう。

「やめて…………もうやめて、これ以上、私の心を変えないで…………」

 私の心から出た懇願は、嘲笑と共に踏み躙られる。

「さあ、行きましょう? マスター様?」

 手足の鎖はいつのまにか私を犬の格好に縛り、本当にペットのようになってしまう。もはや僅かにしか残っていない自我は部屋の外に出るなと必死に訴えるも、クスクスと嘲笑う彼女の声に溶かされ、意味をなさない。

 

 全てが消えゆく中、最後に脳裏に浮かぶのは彼女の顔で──────

 ──────たすけて、ゴッホちゃん

 届くはずのない願いを、最後に願う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────はい。例えどんな場所でも、わたしは貴女のお側に。

「何──────」

「わたしの姿を使って、立香様を誑かすな!」

 消えゆく自我の中、見覚えのある黄色いひまわりが偽物を斬り刻む。

「ああほんとにほんとに本当につまらない連中! わたし達の目の前から…………消え失せろ!」

 偽物が消滅する。その後ろに立っているのは、本物のゴッホちゃんで。

「ああ、ゴッホちゃん…………」

 涙が流れる。

「立香様! 大丈夫ですか⁉︎」

「ありがとう…………ありがとう…………怖かった…………怖かったよ…………」

 本物の彼女に、それを確かめるように抱きつく。

 彼女はただ優しく私を抱きしめて

「大丈夫ですよ、立香様。ゴッホは、わたしは貴女のサーヴァント。気が済むまで、貴女の心のままに…………」

 彼女に暖かく包まれる中、右手に熱が再び灯った感覚と共に私は意識を手放した。

 

 

 

 

 しばらく後。ようやく落ち着いた私は、元に戻った私の部屋でゴッホちゃんと一緒にベッドに腰掛けていた。

「それじゃ、あれは夢の話だったの?」

「ええ、はい…………その、邪神の残滓が、ゴッホを通して立香様に干渉していたようで…………本当に申し訳ありません!」

「なんだ、そうだったんだ。良かった…………ありがとう、助けてくれて」

「? ええはい、ゴッホの不始末なのでゴッホが助けるのは当然というか…………」

「それでも、ゴッホちゃんは来てくれた。別にゴッホちゃんが悪いわけじゃないからね。気にしないよ。それより…………」

「なんでしょうか? ゴッホに出来ることなら、なんでも仰ってください…………」

「えっと、その…………」

 口にするのがちょっと恥ずかしい。でも思い切って言うことにする。

「ゴッホちゃんに、私を縛って欲しいの」

「…………へ?」

「ゴッホちゃんも見てたと思うけど、その…………あの偽物が私を縛っていたでしょ? それが気持ち悪くて気持ち悪くて…………ゴッホちゃんに、上書きして欲しいなって」

「…………ああ、そういうことでしたか。それでしたら喜んで。ゴッホも、ゴッホのモノに気持ち悪い唾を付けられたままでは…………怒りが抑えられませんから」

 こうして、私は再び縛られることになった。でもこれは、私が選んだことだ。誰かに選ばされたものじゃない。

 

 

 

 数分後。

 私は縛られてベッドに括りつけられている。さっきと違うのは、縛っているのは鎖じゃなくてゴッホちゃんの触手ということ。彼女の触手に包まれて、嬉しくなる。

 しばらくすると、青いゴッホちゃんがやってくる。

「エヘ…………エヘヘ…………今日は、たっぷり責めちゃいますね…………!」

「うん、滅茶苦茶にして! ゴッホちゃん!」

「ではまず…………わたしを舐めてください、立香様…………!」

 ゴッホちゃん(所有者)の命令に従い、彼女の足を舐める。心も身体も一致して、彼女に奉仕することはとても心地よく、先程の甘ったるい気持ち悪さが押し流されていく。しばらく舐め続けていると、彼女が震える。何があったのかと舐めるのをやめると。

「──────駄目じゃないですか。勝手にやめたら…………お仕置きです…………ウフフ…………」

 彼女に顔を掴まれ、唇を強引に奪われる。彼女に口内を蹂躙され、幸福感に包まれる。ゴッホちゃん(ご主人様)に好き勝手されることが、こんなに気持ちいいなんて。

「…………ぷはっ。ウフフ…………良い感じに仕上がって来ましたね…………立香様…………」

 彼女の声に脳が蕩ける。甘く蕩けた脳は、まともに考えることも出来ずにただ彼女の声を聞いている。まるで馬鹿になったみたい。

「こんなものじゃないですよ、キモい邪神の跡なんて全部わたしで塗り替えちゃいます!」

 彼女の言葉と共に、無数の触手が私の中に侵入する。あの偽物に汚された身体を消毒するように。

 身体の中を自分のものだと主張するように彼女が駆け巡る。そのうち、私とわたしの境界線は曖昧になり──────

 ひとつになる歓びを感じながら、わたし()の夜は過ぎていく。

 

 

 

 

 ほんとにほんとに本当に、あのキモい邪神共にはウンザリする。我が救世主でありわたしのモノでもある立香様に手を出すなんて! 幸い、ギリギリの所で救い出せたが。間に合ってなかったらと思うと、ゾッとする。わたしの不始末で出た以上、今度はもっと気をつけないと。

 …………今度はもっと、立香様にわたしを刻みつけないと。邪神の狂気なんて、意にも介さないくらい狂ってもらわないと。

 …………わたしは嫉妬深いニンフのサーヴァント。貴女はわたしに狂っているけど、わたしだって狂っているのだから。




主従逆転プレイ
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