狂気的な恋   作:96963

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お絵描き回




 あの偽物事件から数日。なんだかゴッホちゃんの距離がいつもよりも更に近い。

 今日だって気づいたら膝の上にいる。

「あ、あのゴッホちゃん?」

「エヘヘ…………なんでしょう、立香様?」

「なんか最近、距離近くない?」

「そんなことありませんよぉ…………ウフフ…………」

 そういうと彼女は私に抱きついてくる。

 ゴッホちゃんと距離が近いのは嬉しい。嬉しいんだけどその、いつもこんなに近くにいられると私の理性が保たない。ついつい彼女を襲いそうになる。いや、もしかしたらそれが狙いかも? ゴッホちゃんも貪欲だし。うーん、でも純粋に心配の気持ちだったら申し訳ないしなぁ。

 そんな悶々とした気持ちを抱えながら、しばらく平穏? な日常を過ごす私達だった。

 

 

 

 

 ──────立香様は、わたしのモノだ。他の誰にも、例えマシュ様でも渡せない。逃がさないように首輪をつけて飼わないと…………またこの前みたいに、キモい邪神に連れ去られるかもしれない。ああでも、ただでさえ取り返しのつかない印をつけてしまった自分に、これ以上立香様を好き勝手する権利があるのだろうか。

 焦りがわたしの中で渦巻いてる。立香様を危うく奪われるとこだったという焦りが、より過激な印を立香様に求めている。だけど、彼女にこれ以上手を出す勇気が無く、結局はいつもよりちょっと距離が近いだけ。どうすれば、良いのだろうか。

 それによく考えると今回の事件も元を辿ればわたしが原因だ。やっぱり、このつぎはぎの怪物は、彼女に相応しくないのだろうか。彼女がわたしを求めたとしても、わたしのせいで彼女が危険な目に遭うのなら、もう近づかない方が良いのだろうか。そんな自己否定のスパイラルに陥っていく。それでもわたしは、立香様という光を手放したくなくて、醜くしがみついている。

 わたしは、ゴッホは──────

 

 

 

 数日後。

 今度は、ゴッホちゃんに避けられていた。数日前はあんなにべったりくっついて来たのに。今日も、マイルームに彼女は来ない。彼女の部屋を訪ねても不在で、どこにいるのかわからない。

「…………寂しいなぁ」

 いつも彼女と側にいる生活を送っていたから、彼女が側にいないことがこれほど寂しいだなんて、知らなかった。

「…………ずっと側にいるって、言ったくせに」

 ベッドに倒れ込む。一人きりの空間は、同じ部屋のはずなのに、妙に広く感じた。

「…………どこにいるんだろう」

 気づいたら、思考は彼女を追っている。隣に居ない幻の彼女を求めて、心が疼く。

「…………原因は、あの偽物、かな」

 あの偽物に危うく私は堕とされる所だった。あの気持ち悪い偽物には二度と会いたくない。…………でも、あの偽物は、ゴッホちゃんから生まれたモノだと、彼女は語った。それを気にしているのかな──────私は別に、気にしていないのに。悪いのは邪神で、ゴッホちゃんは悪くないじゃん。…………それに、ゴッホちゃんは私を助けてくれた。

「…………探しに行こう」

 想ってるだけじゃ、お互いの真意が伝わらない。気持ちは、言葉で伝えないと。ゴッホちゃんに告白したように。

 マイルームを出て、ゴッホちゃんを探しに向かう。今度は私が、ゴッホちゃんを。

 

 

 

 ゴッホちゃんの居場所を探す。まずゴッホちゃんの部屋を探したが、当然いなかった。ただ、一つ収穫がある。彼女の部屋は数日前私が訪ねた時と変わっていなかった。つまり、ここ数日自室には戻っていないということだ。つまり、シミュレーターか何かで引き篭もっている可能性が高い。急がないと。ゴッホちゃんは、目を離すと何をするかわからないから──────。

「ダ・ヴィンチちゃん!」

「おやどうしたんだい立香ちゃん? こんな時間に。もうすぐ消灯時間だよ?」

「ゴッホちゃん知らない⁉︎」

「ゴッホ? 彼女なら自分の部屋にいるはずじゃ──────嘘だろ?」

 端末を操作していたダ・ヴィンチちゃんが驚く。

「ど、どうしたの⁉︎」

「彼女、シミュレーターにいるみたい…………どうして⁉︎さっき確認した時は確かに自室にいたはずだったのに…………」

「え。さっきゴッホちゃんの部屋を見たんだけど…………まるでここ数日間帰っていなかったような感じだったよ?」

「何だって⁉︎じゃあもしかして…………うわ」

「やっぱり、部屋に帰っていない?」

「…………うん。彼女、虚数美術か何かで監視を誤魔化していたみたい。しっかり精査したらすぐバレる程度の偽装だけど。最近彼女大人しかったから油断してたなー…………立香ちゃん、恋人の君なら何か思い当たらない?」

「…………やっぱりあれかな。この前報告したあれ」

「ああ、偽物の夢か。まあ別に彼女が悪いわけじゃないから聞き取りだけして特に何もしなかったけど…………それが悪かったかあ」

「早く見つけなきゃ。ゴッホちゃんは何処にいるの?」

「うん。えーと…………なるほどね。彼女、かなり小さい空間でシミュレートしてる。二人しか入れないくらい。これと偽装の組み合わせで見つけられなかったのか…………」

「二人…………」

「…………ははーん」

「ちょっと、何ダ・ヴィンチちゃん」

 何かに気付いたのか、ダ・ヴィンチちゃんがニヤついた顔になる。

「なるほどなるほどねぇ。うん、よし。立香ちゃん、シミュレーターに行ってくるといい! 今回の事は不問にしとくからさ」

「嬉しいけど…………良いの? ゴッホちゃん、また不正利用してたんでしょう?」

「うーんまあそうなんだけどね。さっきも言ったように彼女、狭い空間でシミュレートしててね。そのお陰で消費されているリソースはかなり少ない。彼女が普段カルデアに奉仕してる分のリソースも合わせたら、簡単に賄えるくらいの使用量なのさ。この分だと、戻って来た時にお小言を一つ二つ言うくらいかな?」

 不正利用は不正利用だしケジメは付けないとだねー、とダ・ヴィンチちゃんが言う。

「なら良かった」

 ゴッホちゃんが罰される事が無くて、と胸を撫で下ろす。恋人が罰を受けるのは、悲しいから。…………それに、彼女を罰を与えるとしたら…………

「そ・れ・よ・り・も。ゴッホに早く逢いに行ったら? 恋人なんでしょ? 彼女、きっとキミを待ってるよ?」

 妙にウキウキした様子のダ・ヴィンチちゃんが私に迎えにいくよう催促してくる。

「…………あの、なんか顔がニヤついてるんだけどダ・ヴィンチちゃん」

「ええ〜そんなことないよ〜? まあほらほら、早く行った方が良いよ〜。今夜はシミュレーション、貸しておくからさ」

「…………誰にも言わないでよ」

「…………テヘ☆はいこれ、鍵」

「ありがとう!」

 シミュレーションルームへ急いで向かう。

 

 

 

 

 ゴッホちゃんのいるシミュレーション空間に飛び込む。シミュレーション空間が描き出す世界は、私の部屋だった。私のベッドの上で、座り込んでる。体操座りで。

「…………ゴッホちゃん」

「…………ハウッ⁉︎立香様⁉︎何故ここに⁉︎」

「ダ・ヴィンチちゃんに聞いたらすぐわかったよ?」

「そうですか…………エヘ、エヘヘ…………偽装も満足に出来ないなんて、ゴッホはやっぱり、不出来なサーヴァント…………やっぱり、立香様には相応しく無く…………」

「そんなことない!」

 否定の言葉と共に、彼女を抱きしめる。

「あ…………立香様、いけません…………そんなに近いては、ゴッホ、勘違いしちゃいます…………貴女の側にいて良いと…………」

「勘違いなんかじゃない。例え君が原因だとしても、君は私の助けに応えてくれた。君は、立派な私のサーヴァントで、恋人だよ!」

「…………ああ。やっぱり立香様は、素敵な御方です…………ですが、どうかもうゴッホには関わらないでいただくと…………わたしがいると、貴女に迷惑ばかりかけちゃいます…………」

「…………この馬鹿ニンフ! そんなの全部織り込み済みに決まってるでしょ! 迷惑なんて私も掛けてる、お互い様じゃない!」

「…………わたしが馬鹿なら、立香様はわからずやです…………! 貴女が受け入れようと、わたしは貴女に迷惑をかけることに耐えられません…………!」

「──────じゃあゴッホちゃんは、私が他の誰かとくっついても我慢出来るの? 私は嫌だよ?」

「…………そ、れは…………」

 彼女の声が詰まる。ここが詰め時だと思い、畳み掛ける。

「また邪神が来た時、ゴッホちゃんが居なかったら私は今度こそアレに敗けるかも」

「うぅ…………」

「それでも良いの⁉︎」

「…………………………良いわけ、ないじゃないですか! でも、どうすれば良いんですか…………」

「…………じゃあ、傷つけて」

「…………え?」

「私の心だけじゃなくて、私の身体にも消えない傷を、君のモノであるという証を刻みつけて。そして、その傷を付けた責任を所有者として一生償って」

 ゴッホちゃんの心に付け入るようで、若干心が痛むけど。今の私には、これしか思いつかない。

「…………良いんですね? ゴッホは、わたしは嫉妬深いニンフのサーヴァント。貴女を縛り付ける鎖は二度と解けませんよ?」

「別に構わないよ。どうせもう私は君なしじゃ生きられない」

「…………では、私からも一つ、お願いが」

「良いよ。何をして欲しいの?」

「ゴッホにも、傷を…………霊基に刻み付けられるほどの、貴女の証を」

「…………わかった」

 

 

 

 数分後。

 私はゴッホちゃんとベッドの上で向かい合う。

「…………では、始めますね、立香様。服、脱いでください」

「うん」

 ゴッホちゃんに言われるがままに服を脱ぐ。下着も外してと言われたので、それも外す。

「では、描いていきます…………ゴッホの、証を…………」

「来て、ゴッホちゃん」

 彼女の絵筆が私の胸をキャンパスにして蠢く。一塗り一塗りごとに、彼女の絵の具が身体の奥に浸透していく感触を感じる。絵の具が浸透するたび、彼女との繋がりが強くなるのを感じる。

 しばらくすると、彼女が絵筆を離す。どうやら完成したらしい。

「一つ目、完成いたしました。次は、背中です」

 胸を見てみると、小さな海月が描かれている。それはとても精緻な筆使いで、まるで私の身体で生きているよう。しばらく眺めていると、すーっと消えていく。

「あ、消えちゃった」

「消えたのではなく、擬態です。そのままでは、何かと不便でしょうから…………しかし、わたしができる限りの加護を込めさせていただきました。それは首輪であり、標です。いつでも貴女の側にいられるように…………では、背中を向いてください…………」

「はーい」

 言われた通りに背中を向ける。

「では、二作目…………」

 背中に再び絵筆が蠢く。さっきよりも強く繋がっていくのを感じる。

 さっきよりも時間がかかった後、絵筆が離される。

「…………完成です。これで、貴女はもうわたしから逃げられない。離れられない。一生付き纏っちゃいます…………」

「むしろ大歓迎。一生守ってね?」

「…………エヘヘ」

「さーて、どんな絵なのかなー…………これって…………」

 鏡に背中を映してみる。背中に描かれていたのは、オレンジ色に輝く太陽だった。端に小さく『クリュティエ=ヴァン・ゴッホ』と描いてある。

「エヘヘ…………やっぱり、立香様はわたしの太陽なので…………何処に逃げても、誰に攫われても…………すぐに見つけられるように、太陽を描かせてもらいました。向日葵(わたし)は太陽を追いかけるモノですから…………」

「…………とても素敵。ありがとう、ゴッホちゃん!」

「ウフフ…………では、次はゴッホに傷を…………」

「…………うん」

 彼女の絵筆を手渡される。ゴッホちゃんがベルトを外して、その裸体を露わにする。

「お好きに描いてもらって、大丈夫です…………むしろ、傷つけるだけでも…………ウフフ…………」

「じゃあ、遠慮なく」

 彼女の身体に印を描いていく。彼女に比べたら、私の絵心なんてないようなものだ。だから、彼女に描くのは、私の令呪。わたしのサーヴァント(持ち主)の証。背中に大きく令呪を刻む。彼女に倣って小さく自分の名前を刻む。最後の1文字を描いた時、彼女と私に繋がる鎖を幻視した。

「ゴッホちゃん、出来たよ」

「…………これは、令呪、ですか。…………ウフフ…………立香様。このつぎはぎの化け物にこんな素晴らしいモノをくださり、ありがとうございます…………!」

 彼女が喜ぶ様をみると、これで良かったのだと安心する。

「…………では」

「うわっ」

 いきなりベッドに押し倒される。

「もういきなり? 節操がないなあ」

「立香様も大概じゃないですか…………わたしは嫉妬深いんです。もう誰にも渡しませんよ!」

「…………良いよ」

「…………今は、わたしが所有者(マスター)です…………!」

 彼女の背中から触手が生えて、私を襲う。今日もいつも通りの夜が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 ──────ついに、一線を超えてしまった。彼女の精神だけでなく、肉体にも消えない傷を付けてしまった。ああ、でも何故だろう…………昨日よりも安心する。一生償って。立香様に言われた言葉が蘇る。その言葉は、甘く優しい毒だ。わたしの負い目を利用して、わたしを縛り付けた。なんて、酷い御方…………でも、わたしは立香様の隣にいて良いのだと、今は確信できる。

わたしの恋人(サーヴァント)…………いつまでも、逃しません。貴女に付けた鎖は、もう解けないのですから。貴女が狂っても大丈夫。首輪を引っ張って連れ戻します。いつか平和になったら・・・・・・・一緒に水底に還りましょう。

 

 




ゴッホちゃんPU欲しい
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