狂気的な恋   作:96963

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思いついたネタです。
(最後にちょっと追加しました)


エルダーフラワー・コーディアル

「うねり! 重ねて! 染め抜いて!」

 

「エヘヘ、エッへへへへ! 楽しい!」

 

 今日もテンションが高いなぁ、とリソース稼ぎに赴いた特異点の残滓で暴れている彼女─────ゴッホちゃんを見る。

 彼女は白い向日葵になっていて、辣腕を振るって辺りのエネミーを掃除中だ。私はそれを見ながらリソース回収。時々指示を出しながら、順調に回収作業を進めていく。

 その時、ふと目に入るものがある。

「あ、エルダーフラワーだ」

 それは、セイヨウニワトコの花だった。

「確か、これがコーディアルの材料なんだっけ」

 エルダーフラワー・コーディアル。

 エルダーフラワー…………セイヨウニワトコの花に、レモンなどを加えて、シロップに漬け込んだもの。要は、エルダーフラワーという花を材料にしたシロップだ。かの画家…………ヴィンセント・ヴァン・ゴッホの故郷、オランダでは紅茶などに混ぜる伝統的な飲み物として親しまれてきたという。また、ハーブとしての側面もあり、身体に良い作用をもたらす薬膳としての機能があるともされている。…………エルダーという名前に、ちょっと引っかかりを覚えなくはないが、ただの偶然だろう。

 少し前食堂にあったので飲んでみたけど、薬臭さが無くスッキリとした味わいでとても飲みやすかった。

 以来、たまに機会を見つけては飲んでいる。

「そういえば、コーディアルを勧めてきたのはゴッホちゃんだっけ…………?」

 ゴッホちゃんがカルデアに来るきっかけになった夢を思い出す。

「…………ええと、確かノーチラスでだっけ…………? うーん、いまいち思い出せないや…………」

 夢の内容はボヤけてる。大筋は覚えているけど、細部のことになるともう朧げだ。

 そんな風に悩んでいると。

「あの、立香様、どうかなされましたか…………?」

 ゴッホちゃんが声を掛けてくる。周りを見てみると、エネミーの姿はない。考え事をしている内にゴッホちゃんが殲滅したようだ。心配そうにこちらを見ている。彼女に答えようと顔を上げた時、彼女の両手が目に入る(普段は私の方が背が高いけど、白い向日葵なゴッホちゃんは私より服? のせいで背が高い)。知っての通りゴッホちゃんの両手は向日葵の花束で出来ている(実際にはちゃんと普通の手もあるらしいけど)。その向日葵の匂いを感じ、頭に電流が走る。

「いや、なんでもないよ。ちょっと夢を思い出してただけ。さ、回収回収!」

「はぁ…………」

 誤魔化すようにリソース回収を行う。…………心の中でふと閃いた、欲を隠すように。

 

 

 

 

 特異点の残滓から帰還して、数日後。

 私は、ゴッホちゃんの両手に目が縛りつけられていた。

 

「…………………………」

 

 今日も私は気づくと絵を描く彼女の両手に目が吸い付く。

「…………あの、立香様、ゴッホの手に何か付いてます? 悪い気はしないのですが、そんな情熱的に見つめられるとゴッホも少々…………」

 彼女が絵を描く手を止める。

 

「…………あ、ごめん。また見てた?」

 

「…………ええ、はい。その、じっくりと…………数日前からずっとそんな調子ですけど、何かありましたか?」

 

「…………ええっと、その、最近エルダーフラワー・コーディアルが気になってね?」

 

「…………コーディアル、ですか。…………でも、コーディアルに使うのはエルダーフラワーで、ゴッホは関係ないですよ?」

 

「あ、違うの。…………えっと、その、ゴッホちゃんの向日葵で、作ってみたいなって…………ゴッホちゃんの迷惑になると嫌だなって思って今まで言えなかった。迷惑かけたならごめんね」

 

 狂っていると自覚している私だけど、さすがに分別はある。彼女の命とも言える手を傷つけるわけにはいかない。そういうわけからこの数日、言い出せずにずっと目で追うだけだった。

 

「…………」

 

 彼女は沈黙するだけだ。

 

「…………えっと、ゴッホちゃんが嫌なら、無理強いはしないよ。うん、大丈夫。よし諦めた! 変なこと言っちゃってごめんね?」

 

 正直少し名残惜しいが、しょうがない。むしろここで吐き出せてよかったと思うべきだろう。欲を抑えきれずに、取り返しのつかないことをする前で良かった。彼女を襲った最初の夜のことを思い出す。あんな苦い味は、二度と味わいたくない。

 

「…………わたしは別に大丈夫ですよ?」

 

「…………え?」

 

 思いがけない彼女の返答に、思考が止まる。

 

「でも、ゴッホちゃんの向日葵は手の一部なんじゃ」

 

「…………ええ、そうですね。ゴッホの、クリュティエ=ヴァン・ゴッホの、わたしの両腕に咲く向日葵は確かにわたしの手の一部です。ですが、なんと言えば良いでしょうか、あの向日葵は…………手袋のようなものなのです。だから、散っても大丈夫です」

 

 彼女が突然白い向日葵に変わる。

 

「…………エヘへ、ですので、存分にどうぞ!」

 

 向日葵の両手を差し出される。

 手袋、かぁ。あの向日葵がそんなものだったとは。…………じゃあ、大丈夫かな。彼女の命を奪わなくて良いことに安心する。そして、諦めたはずの欲が再燃する。ゴッホちゃんのコーディアルが飲みたいという欲が。

 

「えっと、それじゃあ…………遠慮なく」

 

 その誘惑に抗えず、手が伸びる。

 向日葵の花を少しずつ千切っていく。

 ぶちぶち、ぶちぶちと。

 千切った花を箱に詰めていく。目標量を集め終わった頃、彼女の向日葵は無惨に散っていた。

 害がないとわかっていても、やっぱり手を傷つけることに少し罪悪感。

 

「…………大丈夫ですよ、立香様。ほら、この通り」

 

「…………わ」

 

 一瞬視界が極彩色に染まると、散ったはずの向日葵はすぐ元通りになる。

 

「…………ほんとに、手袋なんだね」

 

「ええ、はい…………むしろこの程度ならすぐ治りますし…………それに…………」

 

「それに?」

 

「一輪一輪向日葵をぶちぶちとちぎられる感触は中々もどかしく痺れるような痛みで出来ればもっと千切って欲しいというかわたしは何故こんな簡単なことに気づかなかったのかと今後悔してまして…………はっ」

 

「…………………………うん、もう慣れた」

 

 私が悩んで、打ち明けるとゴッホちゃんが喜ぶというオチ。なんとなく掴めてた。呆れて半目で彼女を見つめる。

 

「…………エヘへ…………」

 

 まあ、でもそんな彼女が私は好きなんだけど。

 

「…………うん、ありがとうね。ちょっと食堂に行ってくる!」

 

「いってらっしゃいませ、ウフフ…………」

 

 

 食堂のキッチンを借りて、コーディアル作りに取り掛かる。

 

 調べて見ると、コーディアルは意外と簡単に作れるらしい。バケツを借りて向日葵を軽く洗う。

 

 食堂からレモンを貰い、皮は摺り下ろし、本体は絞る。

 

 その後、水を沸かして、砂糖とを加える。煮立ったら、火を止めてレモンの皮、レモン汁、クエン酸を加えて混ぜる。

 

 その後、向日葵を汁の中に浸す。工程によると、ここで寝かせるとあるので一旦マイルームに持ち帰って一日寝かせる。

 

 一日後、液体をザルに通して数回ほど濾す。

 

 濾したものをもう一度沸騰させて、瓶に詰める。

 

 これで完成らしい。

 

「意外に、簡単に作れるんだね」

 

 ゴッホちゃんと一緒に完成したエルダーフラワー・コーディアル(偽)を見ながら話す。

 

「エヘへ…………ですので、オランダでは昔からよく愛飲されていました…………また、エルダー…………セイヨウニワトコは魔除けや幸運のお守りのとして慕われており、薬としても使われています…………」

 

「ところで、このコーディアルの名前、どうしようかな。エルダーフラワーってわけじゃないし…………」

 

 向日葵の花で作ったコーディアル。コーディアルは花をシロップに漬け込んだものだからそのままでいいけど、向日葵だから名前を向日葵に変えないと…………」

 

「ブラッドストーン・コーディアル…………でいかがでしょうか?」

 

 ゴッホちゃんからそう提案される。

 

「ブラッドストーン?」

 

 なんだか、花というより石っぽい名前だ。

 

「はい…………立香様の言葉では、ギョクズイ、でしたか? 鉱石の一つで、カルセドニーとも呼ばれる石ですね」

 

「なんで石の名前?」

 

「…………この石の別名は、ヘリオトロープと言います」

 

「それって…………」

 

 ヘリオトロープ。聞き覚えがある名前だ。

 

「はい。クリュティエがかつて悲しみの果てに変じた、と伝えられる花の名前です…………向日葵と同じように、太陽を追い求める花と呼ばれます」

 

 確か、向日葵は当時のヨーロッパに無く、クリュティエの伝説はヘリオトロープとして伝わっていたのだっけ。それが時代を超えて新大陸から向日葵の花が来て、向日葵と習合されるようになったとか。

 

「…………このコーディアルは、わたしの血肉から生まれたと言っても良いもの。であれば、紅きカルセドニー…………ヘリオトロープとも呼ばれる、ブラッドストーンこそがこの銘にふさわしいかと」

 

 その告白は、重かった。重い、銘だ。

 

「…………わかった。じゃあ、このブラッドストーン・コーディアル…………ありがたくいただくね」

 

 でも、私は受け入れる。この程度、受け止めきれないほど真面じゃない。

 

「…………では、グイッと!! ささっ、どうぞ!!」

 

 ゴッホちゃんがそれまでのシリアスな顔を崩して笑顔で勧めてくる。

 

「流石に一気には飲めないかな…………これ、薄めて飲むやつでしょ?」

 

 苦笑しながら瓶の蓋を開けて、食堂から拝借してきた炭酸水に少し注いで混ぜる。コーディアル1の水10くらいで。

 

「じゃあ、…………いただきます」

 

 ブラッドストーン・コーディアルを飲む。

 

「…………」

 

「…………その、味はどうでしょうか?」

 

「…………よくわかんない味。でも、美味しいね、これ」

 

 ブラッドストーン・コーディアルの味はよくわからなかった。正確には、『色が極彩色過ぎて既存のあらゆる味と合致しない』が正しいかな。でも、美味しい。一口飲むごとに味が変わって面白い。

 

「…………それなら、良かったです…………………………エヘへ、立香様に褒められた…………嬉しい…………ゴッホは美味しい…………ゴッホ食材…………ウフフ…………」

 

「?」

 

 いつものように最後の方は小さくて何を言っているかわからなかったけど、楽しそうだからいっか。

 

 この後、お互いに癖になった私達は、時々、いや結構頻繁にブラッドストーン・コーディアルを作ることになっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────ところで。

 植物を使った飲み物で、ゴッホに関係あるものがもう一つある。

 それは、アブサン。

 ニガヨモギなどの薬草をベースに製造される薬草系のリキュール、つまり酒だ。かのゴッホ──────わたしも、愛飲したという。

 しかし、アブサンには欠点がある。それは、幻覚作用だ。アブサンに主に使われるニガヨモギにはツヨンなどの幻覚作用をもたらす成分が入ってる。

 一説によると、アブサンを愛飲していたせいでゴッホは耳を切り落とした、という話もあるほどだ。アブサンには人を狂わせる力がある。

 無論、エルダーフラワー…………改めブラッドストーン・コーディアルにはアブサンに使われる要素は何一つ存在しない。

 だけど、もしわたしの身体にアブサンの要素があるのなら──────もっともっと、深く、深く、貴女がわたしに狂ってくれますように。

 そう、願っている。

 

 

 

 






最後唐突に文が思い浮かんだので挿入しました
fgoウエハース次ゴッホちゃんですよ皆さん
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