狂気的な恋   作:96963

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なんかテンションあがっちゃった


深淵を穿つ 後編

 ーーーーーーー深い、深い、深淵にいる。

 ーーーーーーーああ、いつも見る夢だ。言い様のない喪失感と悔恨を抱えながら私は溶けていく。亡くした彼女の顔はぼやけて思い出せない。ただ昏い世界。ーーーーーーーでも、とおくに、ほしがみえる。いつもなら、ここで終わりだ。私はあの星に届く事なく、沈んでいく。何もかも失って、失意の底に沈んでいく。でも、今日は違った。彼方にみえるのはとてもきれいな、つきのよる。初めて見る光景、しかしその光景には見覚えがある。誰かが言う。あの月を目指せと。あの月に求めているものがあると。溶けていく身体に力が入る。上に向かうほど、身体が急速に溶けていく。だけど、月を目指す意志に翳りはなく、私は上を目指し続ける。そして、身体を動かす足すら溶けきり、再び沈み始めるころ。

「…………立香様!!」

 誰かに、手を掴まれた。

「…………ああ、ようやく逢えたね…………ゴッホちゃん」

 

 亡くしたはずの、彼女の顔が見えた。

 

 

 目が覚める。いつのまにか、彼女と一緒に寝ていたようだ。顔に違和感を覚え、触れてみると、涙が流れていた。夢で見た彼女のせいだろうか。その顔は誰かに似ていて、だけど思い出せない。ただ、彼女に逢えたことに夢の私は喜びを感じていた。しかし、喪失感は強まる。夢では彼女に逢えたが、現実に彼女はいない。その事実が私の胸を締め付ける。ふと時計をみると、時刻は深夜を示していて、気づくとお腹が鳴る。そういえば今日は朝から何も食べてなかったな。ゴッホちゃんを起こさないようにベッドを抜け出して、何か作ろうとキッチンへ向かう。冷蔵庫の中身を見ると、卵と鶏肉とケチャップ。オムライスでも作ろうか。そう思って、彼女の分も含めて二人分のオムライスの用意をする。彼女はぐっすり眠っていて、見ていると安心する。そうこうしている間に、オムライスが完成し、ついでに軽くサラダを用意して、盛り付ける。

「ゴッホちゃん、ゴッホちゃん」

 彼女を優しく揺すって起きさせようとする。

「ん、んう…………ハウッ、立香様⁉︎す、すみませんいつのまにか寝てしまいました!」

「私もさっき起きたから気にしなくて良いよ。それよりほら、お腹空いたでしょ? ご飯出来たよ」

「色々迷惑かけてすみません…………」

「良いって良いって。それよりほら? 食べよ?」

「は、はい…………では…………」

「「頂きます」」

 彼女と一緒に食卓を囲み、遅めの夕食を始める。久しぶりに人と一緒に食べる夕食は、少し暖かった。

「美味しいですねこれ…………立香様、料理がお上手…………」

「うふふ、ありがとう。そういえばさ」

「はい?」

「ゴッホちゃんってなんで私のこと、様付けで呼ぶの?」

「そ、それはなんというか昔からの癖というか…………」

「ふーん。私、ゴッホちゃんにあったことあったけかなぁ」

「…………いえ、無いはずです」

「…………まあ、良いや。私が誰で、君が何者でも、一緒に居たい。これだけは変わらないんだから」

「…………エヘヘ、そうですね」

 そう、若干気まずくも穏やかに時間は過ぎていった。

「そういえばゴッホちゃん、今日泊まっていく?」

「へ? よ、よろしいのですか?」

「私もゴッホちゃんと一緒にいたいし、部屋、隣でしょ?」

「で、では遠慮なく…………」

「じゃあ、ゴッホちゃんの部屋から着替え持ってこなくちゃね。制服、皺になってるし」

「そ、そうですね…………では、行ってきます」

「うん、いってらっしゃい」

 ゴッホちゃんが部屋に戻った後、ベッドの用意や軽くシャワーを浴びたりしてゴッホちゃんが戻って来るまでに寝る準備を済ませておく。

 ゴッホちゃんが着替えやその他諸々を終わらせて戻ってきた。私達は同じベッドに朝と同じように潜り込む。

「…………なんだか、こうしていると、少し恥ずかしいね」

「エヘヘ、そうですね。でも、ゴッホはこれで幸せです」

「うん、私もそう。君といると、私の心が満たされていくのを感じる」

「そう言われると、照れちゃいますね、ウフフ…………」

「じゃあ、寝ようか。おやすみ、ゴッホちゃん」

「おやすみなさい、立香様」

 疲れていたのだろうか、昼間あれだけ寝たのに私達の意識は直ぐに落ちていった。

 

 

 

 気づくと、私は沈んでいた。いつもの夢だけど、なにかおかしい。周りを取り囲むのはいつもの海底のような深淵ではなく、光すら通さない、暗黒の世界だ。頭上に見える星は無く、月もない。ただ暗黒の世界だけが広がっている。そして、私の身体がその闇に吸い込まれる感覚が発生している。

「なにこれ、こんなの一度も無かったのに」

 彼女と出逢えたからだろうか、周りの闇は逃げる私を逃がさないとばかりに荒れ狂っている。苦しくも穏やかだったあの深淵は、もういない。全てが私に立ちはだかる。

 だけど。

「例え夢の中だけでも、彼女に出逢えたんだ。私は、わたしはもう、手放さない! 諦めない!」

 もう諦めない。可能性がゼロじゃ無いなら、それに賭けるだけだ。私は周りを睨み、天高く右手を掲げる。理由は無い。ただ、魂が叫んでいる。彼女を呼べと。右手に仮初の熱が宿る。

「来て! 私の、フォーリナー!!」

 何かを消費した感覚が走る。

 その言葉は、確かに口にしたのに私の知識に無く、どう発音したかもわからない。ただ、確信はあった。彼女は来ると。

「お願い、こんな世界を、ぶち壊して!!」

懸けまくも畏き水の司祭よ風の貴公子よ。夏日星の大輪より一滴の狂気に換えて、今ひとたび星辰を永眠の座へと導かん。wgah'nagl fhtagn! 『星月夜』! 

 世界が塗り変わる。闇黒は全て塗り潰され、世界は月の夜の絵と描き変わる。

 私は知っている。この絵を、そしてこの絵の作者を。

 題名は「星月夜」、作者は、ヴァン・ゴッホ。私が物心ついた時から興味を持ち、惹かれていた綺麗な夜の絵。私が覚えていたただ一枚の絵。

 ああ、そうだ。この作者はーーーーーーーヴァン・ゴッホ。いいや違う。この絵の、この宝具の作者はーーーーーーークリュティエ=ヴァン・ゴッホ。

 その名前を認識した瞬間、世界の全ては砕け散る。

「うわっと⁉︎」

 落ちる。と思ったが、私の手を誰かが掴む。もう見なくてもわかる。その向日葵の手を、私は知っている。

「ーーーーーーーありがとう。ゴッホちゃん」

「エヘヘ。ようやく逢えましたね。立香様」

 

 

「まさか、転生なんてあるとはなぁ。いや、冥界の神様達から概念だけは知ってたけどね?」

「エヘヘ…………ゴッホも最初は、驚きました…………」

 なんでも、私達は転生したらしい。何故か魂の形が変わることもなくそのまま、魔術なんてない別の世界に。

「にしても、サーヴァントのゴッホちゃんも転生ってどういうこと?」

「そ、それはですね…………ゴッホは、つぎはぎの不安定なサーヴァントです。故に、その魂は見つけやすかったのでしょう。キモい邪神達に捕まって、立香様の後を追うように同じ世界に入れられたのです」

「ふーん。ってことは、ゴッホちゃんもあの後すぐに…………」

 記憶を思い出した私が、転生なんて聞いても驚かなかったなのは、単純だ。私は明確にーーーーーーー死んだ記憶がある。あれは、そう。全てが終わって、平和になった時だろうか。ゴッホちゃんと離れたくなくて、でも離れなきゃいけないのはわかってたから、カルデアを離れるその時まで最後まで一緒にいようとしたんだ。

 だけど。度重なる無茶を重ねたせいだろうか、そのツケを払うように私は死んだ。あっけなく。身体は健康そのものだったのに。魂が傷ついていたのか、私の身体は突然機能を停止してしまったのだ。それ以降の記憶はないが、皆が悲しんでいたと聞くと、胸が苦しくなる。

「ええ、まぁ…………居座る理由もありませんでしたので…………」

「なるほどなぁ…………」

 気まずくなって話題を変える。

「邪神に捕まったってことは、私がみていた夢は邪神の戦略なの?」

「ええ、そうですね。邪神達は一度干渉した立香様の魂ならやりやすいと思ったのか、立香様に偽りの夢を見せてこの世界に干渉しようとしたようです」

「偽りの夢って…………?」

「あの夢は…………ゴッホの悔恨です。目の前で失った立香様への感情をあの邪神達に利用されました。本当に本当に本当につまらない連中…………」

 どうやら、邪神達にお怒りのようだ。でも、ゴッホちゃんの悔恨ってーーーーーーー

「立香様」

「どうしたの? ゴッホちゃん」

「ゴッホは、わたしは、あの日を後悔しなかった日はありません。貴女の魂は傷ついていた。だけど、貴女は自分ですら気づかないほど、それを隠していた。一番近くにいたわたしが気づいていればーーーーーーーきっと、こんなことにはならなかったでしょう」

「ゴッホちゃん…………」

「ですから、どうかお願いします立香様。今世ではゴッホをそばに置いてください。そして、頼ってください。貴女はわたしの苦痛を背負ってくれた。わたしというサーヴァントに意味を与えてくれた。だから今度はわたしに、貴女の苦痛を背負わせてください…………」

「うーん、それは嫌かな」

「ハウッ⁉︎ど、どうしてですか立香様…………」

「だって、今の世界ではサーヴァントとか関係ないし。どうせ背負うなら、一緒に背負おうよ。マスターとサーヴァントじゃなくて、藤丸立香とクリュティエ=ゴッホとしてさ」

「立香様…………相変わらず、お変わりないですね…………ウフフ…………」

「まあ、私は私だしーーーーーーーあ、でも言いたいことならあった」

「エヘヘ…………なんでしょう…………ゴッホになんなりと…………」

「愛してるよ、ゴッホちゃん。世界が変わった今でも」

 そう、ストレートに自分の想いを言ってみた。ゴッホちゃんはしばらく何を言ってるかわからない様子だったけど、いきなり赤面して、

「ず、ズルいです立香様…………」

 と返してきた。

「だって、これからもずっと一緒にいるんでしょ? じゃあ先に告白しとかないとなって。ところで、返事はあるのかな」

 と聞くと「…………わかってるくせに」と呟いて

「ーーーーーーーええ、もちろん。ゴッホも、わたしもお慕い申しております。立香様」

「ーーーーーーーありがとう」

 そして、夢の時間は終わっていく。

 

 

 

 目が覚めた。目を開けると、もう起きていたのか、ゴッホちゃんと目が合った。

「おはよう、ゴッホちゃん」

「お、おはようございます…………その、立香様、覚えています?」

「うん、愛してるよ、ゴッホちゃん」

 そう言って抱き締める。彼女は赤面して、しばらく暴れていたが、やがて諦めて私を抱き返す。

「…………わたしもですよ」

 

 

 私の欠落は埋まった。私は彼女と、再会することが出来た。きっと邪神はまだ諦めていないだろう。でもきっと、大丈夫。だって私の隣には、ゴッホちゃんがいる。

 




とりあえず現パロ?編終わり
ホワイトデー続き書きます
気が向いたらこの世界線書きます
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