狂気的な恋   作:96963

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この世界線は7月


デート

 私が彼女の事を思い出してから数日。気づいたら、私達は同棲していた。元々隣部屋だったのもあるが、ゴッホちゃんが割と片付けに無頓着で見ていられなかったからだ。数日にして彼女の部屋からは絵の具の匂いが漂っている。さすがに絵具の類は整理されているが、他の部分がちょっと、いやかなり散らかっている。まあそんなところもゴッホちゃんのかわいいところなんだけど、放ってはおけない。そういうわけで彼女と一緒にいたい欲望半分彼女をお世話する義務感半分で今は同棲している(彼女の部屋はアトリエと化した)。

 これより綴られるは、そんな彼女との平和な日常の1ページ。

 

「ゴッホちゃん起きて、朝だよ」

 朝、私はいつものようにベッドに潜り込んでる彼女を起こす。彼女は割と夜遅くまで絵を描いているので、私と寝る時間がズレるのだ。だから、普段は私が先に寝て、後から合鍵で私の部屋にゴッホちゃんがやってきてベッドに潜り込む。

「ん、んう…………すいません、後5分…………」

「もう何言ってるの、早く起きて、遅刻しちゃうよー」

「ふぁーい…………」

 彼女は朝に弱く、なかなか起きない。だから、辛抱強く揺すってどうにか起こす。

「はい朝ごはん。早く食べて学校に行こう」

 あらかじめ作っておいた朝食を並べ、彼女と一緒に食べる。

「エヘヘ…………立香様の手作り…………いつも美味しい…………ウフフ…………」

「それはどうも」

 いつも褒められているとはいえ、やっぱり褒められると嬉しい。自然と声が弾む。

 そして、朝食を食べ終わる。私もゴッホちゃんも割と健啖家で急いでることもあり、食事時間自体は短い。

「お粗末さまでした」

「エヘヘ…………ごちそうさまでした…………」

「じゃあ、着替えて学校に行こう」

「そうですね…………学校は憂鬱です…………絵だけ描いていたい…………ウフフ…………」

「はいはい、私が付いてるから。だから着替えようね」

 とりあえず朝でテンションが低めのゴッホちゃんをどうにか着替えさせ、私も制服に着替えて家の外に出て、鍵を閉める。そして、一緒に学校に向かう。夏の明るい日差しが私達を照らしつける。正直言って眩し過ぎるけど、今の私には心地いい。でもゴッホちゃんはそうじゃないようだ。

「うう…………眠いです、眩しいです…………」

「もう全くしょうがないんだから…………ほら行くよ。今日でとりあえず最後なんだし」

 眠そうな彼女の手をとって、握り締める。いわゆる恋人繋ぎというやつで、正直私もドキドキするけど、こうするとゴッホちゃんの目が覚めるから仕方ない。いやまあゴッホちゃんの手の感触を感じて役得だから良いんだけど。

「ハウッ⁉︎…………り、立香様、やっぱりこれは恥ずかしいのですが…………」

「だってこうするとゴッホちゃん目が覚めるんだもん。全く、転校した時はどうやって学校に来てたの?」

 彼女は放置してると、ずっと眠っていて、普通に遅刻するのである(同棲した理由の一つでもある)。

「そ、それは…………立香様にようやく会えた嬉しさと、立香様がゴッホを忘れていた事でちょっとショックであまり眠れなかったんです…………」

「う、それを言われるとな…………」

 思い出したとはいえ、忘れていた時の私は余裕が無かったから割と彼女に冷たかったから、あんまり強く言えない。今はあの悪夢も見ないし、ゴッホちゃんが側にいるから余裕があるんだけど。

 そんな感じで他愛のない会話をしながら歩いてると、学校が見えてくる。同棲してる事はまだ隠しているので、彼女と手を離す。

「あ…………」

「とりあえず、ここまで、ね?」

「そうですね…………続きはまた…………ウフフ…………」

「そういやゴッホちゃんは、今回のテストは大丈夫? 私は一応勉強したけどさ」

 ゴッホちゃんは7月という微妙な時期に転校してきたので、あれやこれやがあってから割とすぐにテスト期間に突入したのだ。私は元々胸の喪失感のせいで碌に趣味が無かったから勉強くらいしかやる事が無くて成績は割と上位なのだが、ゴッホちゃんはどうなんだろう。少なくともテスト期間は家で勉強しているところは見た事がない。テスト前にある程度範囲部分は軽く教えたけど。まあ、テスト解説での反応を見るにあまり悪いわけじゃないんだろうけど。

「エヘヘ…………ゴッホは、サーヴァント時代の影響で、自分の容量がかなり拡張されてるので、授業を聞くだけで大体平均点くらいは取れるのです…………それに、テスト前に立香様にある程度教えてもらいましたし…………」

「えー、良いなあ、羨ましい。まあ、それなら大丈夫か」

「そうなのです…………そして今日で学校は終わり…………一日中絵を描いたり、立香様と過ごしたり出来ます…………ウフフ…………」

「ほどほどにねー…………」

 そう、今日は学校が終わる日。終業式ではなく、夏期講習の方である。今日はテスト結果の返却と夏休みの宿題が配られるだけなので、割と早く終わるだろう。昼食は何にしようかな。

 と、学生らしく話していたら、下駄箱に着いたので上履きに履き替えて教室に向かう。

「おはよー」

「おはようございます…………ウフフ…………」

「おはよー、藤丸さん、ゴッホさん」

 クラスメイトと挨拶して、自分達の机に向かう。もうすぐHRの時間なので準備をしていると、クラスメイトに話しかけられる。

「そういえば、藤丸さんって最近変わったよね」

 後ろのクラスメイトに話しかけられる。

「そう? あーでも、言われて見ると、確かに変わったような?」

「やっぱり! 最近明るくなったと思うんだよね! えーと、ゴッホさんが転校してきたあたりからかな?」

「あはは…………まあ、そのあたりだね」

「ゴッホさんともなんか妙に仲良いし、何かあったの?」

「うーん、内緒」

「えー、残念」

「ほらほら、もうすぐ始まるよ」

「エヘヘ…………」

 そんな事を言ってると、チャイムがなり、担任が入ってくる。

「お前たち、今日が最後の夏期講習だー。予定通りテストの成績返却していくぞー」

 そんな言葉と共に、予想通り、テスト結果の返却が来た。正直各教科の点はわかってるし解説も聞いたから、あまり浮き足立つ事はない。予想通り8割を割らない程度に点は取っていたので良しとする。

 周りを見ると、まあ十人十色という感じだ。ゴッホちゃんのを見てみると、本当に平均点くらいの点は取っていたので驚く。

「今回の結果で追加補習がある奴もいるだろうが、とりあえず今日で一旦1学期は本当に終わりだ。これから本当の夏休みが始まるが、くれぐれも羽目を外しすぎないようにな。まあ長い話は終業式で散々されただろうし、俺からはここまでだ。では、夏休みの宿題を配布する。1番から順に受け取れー」

 ブーイングの声が上がるが、まあ、仕方がない事だ。粛々と皆受け取り、鞄に詰めていく。

「では、今日はこれで終わりとする。1学期、お疲れ様! それじゃほどほどに羽を伸ばせよー。あ、藤丸、お前ちょっと来い」

 割とすぐに終わったが、どうやら先生が何か用があるらしい。とりあえず

「? わかりました。ゴッホちゃん、いつもの場所で良い?」

「はい…………お願いします…………」

 ゴッホちゃんといつもの美術室で待ち合わせることにして、先生の方に向かう。

「なんでしょう先生?」

「まあ、とりあえず職員室に行くか。ここでは、ちょっとな」

「はあ…………」

 よくわからないが、先生と一緒に職員室に向かう。

 職員室に付き、先生の机近くの椅子に座るように言われて座る。

「お前、最近変わったな」

「先生もですか?」

 どうやら先生もクラスメイトと同じ話題らしい。

「もってなんだもって」

「いや、クラスメイトにも同じ事を言われたので…………」

「ほう。まあ、それだけわかりやすかったってことか。とりあえず、彼女ーーーーーーゴッホさんが転校したあたりからか?」

「そんなにわかりやすいですか?」

「まあ、そうだな。彼女が来る前のお前はなんというか、他人を遠ざけてたろ。お前は成績は良いが、そこが気になってな。しかし最近では、随分明るくなった。良かれと思って彼女の世話を任せたが、良い方向に働いたようで良かったよ」

「はぁ…………」

 どうやら、私の態度は先生にはバレていたらしい。あの時の私は疑心暗鬼だったからなぁ…………全部邪神が悪い。

「まあ、話はそれだけだ。悪かったな、呼び止めて。それじゃ、良い夏休みを」

「はーい。それじゃ、さようならー」

「さようなら」

 どうやら、ただの経過観察だったようだ。でもまあ、ゴッホちゃんのおかげで最近楽しいのは確かなので、先生には感謝してもしきれない。挨拶した後、職員室から美術室へ向かう。

「ゴッホちゃーん」

 美術室にいる彼女を見つける。彼女はボーッとしてて、特に何もしていないようだ。

「あ、立香様…………帰りますか?」

 彼女が私に気づく。

「んー、まだ早いし、ゴッホちゃんの自由にして良いよ? ここで絵を描くのでも良いし、帰る道すがらに何処かに寄るのでも良いし」

「では…………デ、デートしましょう、立香様!」

 彼女から予想外の返答が返ってきた。それに対する返答は当然

「ん、良いよー」

 肯定である。彼女とデート出来る、断る理由はない。

「へ…………良いのですか?」

 ゴッホちゃんが不思議な事を言う。

「いや自分から言ったじゃん…………別に、デートくらいいつでもするよ? あっちでは平和なデートはした事なかったし」

「あ、ありがとうございます…………! で、では、一旦家に帰って着替えてから、行きましょう!」

「オッケー」

 話が決まったので、学校を出て帰路に付く。夏休み1日目は、彼女とのデート。羽目を外し過ぎてる、のかな?

 




続きます
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