狂気的な恋   作:96963

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ある回想。


ZERO

 全てが終わって、平和になった時。

 私は、カルデアから出るための用意をしていた。これまで苦楽を共にしたカルデアの皆と離れたいわけじゃない。でも、カルデアは閉館される。だから、私は私のいた場所に帰らなきゃ。マシュ達は新所長がどうにかするって言ってるから、きっと大丈夫だろう。それでも、最後まで一緒にいることが出来ないのは残念だ。

 そして、ふと胸に去来する彼女への、クリュティエ=ヴァン・ゴッホへの想い。彼女との出逢いは確か、夢の中だっけ。夢の中で彼女と出逢い、カルデアの皆で大きな事をやった記憶がある。もう、内容も朧げだけど。カルデアのサーヴァントはほとんどが退去してるけど、彼女は、ゴッホちゃんはまだ残ってる。私がわがままを言ったからだ。せめて、カルデアを出るまで彼女と一緒にいたいと。

 今更だけどーーーーーー私は彼女を愛してる。彼女の事が好きだ。その想いは彼女にも伝わっていた。幸せな時間だった。でも、もう別れの時だ。知っている。サーヴァントは私がマスターで、私が喚んだけど、維持してるのはカルデアだ。だから、私がカルデアから離れる時、サーヴァントとは別れることになる。彼女と別れるのは辛い。でも、彼女とは、笑顔で別れたい。だから、この悲しいって心は胸に押し留めようーーーーーー

 そんなことを考えていると、ドアがノックされる。

「どうぞー?」

 誰だろう、と思いながら許可を出すと、入ってきたのはゴッホちゃんだった。

「エヘヘ…………立香様、そろそろカルデアを発たれるのですよね…………なので、最後にカルデアを回りませんか?」

「…………そうだね、一緒に回ろうか」

 彼女からの誘い。嫌なわけはなく、その誘いに乗る。彼女と一緒に、様々な思い出の積もるカルデアを回っていく。

 彼女との思い出がリフレインして、顔を顰めそうになるけど、どうにか抑える。

「色々あったね、ゴッホちゃん」

「…………はい、色々ありましたね。このカルデアは、ゴッホにとって楽しい思い出ばっかりです」

「…………辛いことも多かったけど、私にとっても、楽しい思い出は多かったなぁ」

 でも、終わらせなきゃ。楽しい時は終わる。

「…………ゴッホちゃん、今までーーーーーー」

 力が抜ける。目の前が真っ暗になる。私の意識は閉ざされる。

「立香様? 立香様⁉︎しっかりしてください‼︎」

 最後に聞こえたのは、私を心配する、彼女の声で。

 

 

 

 

 

 誰かの声が聞こえた。

 

 

 やれやれ。最後はこんなオチかよ。ま、お前さんが戦い抜いたのには変わらない。歓迎しよう、この領域へ。存分に休むと良い。しかし、休息は永遠ではない。その強くも傷ついた魂、癒えたらさっさと次の世界に行け。お嬢にはそれが似合っている。これもまた試練ってやつだ。お前さんの戦いは人理保障の後も続いていく。そうだな、外より来るもの。お前さんが最後まで隠していたその心が次の戦いを呼ぶだろう。血が流れない戦いは俺の趣味ではないが、戦いは戦いだ。

 

 

 そんな声が聞こえ、私は灰色の世界にいた。きっと、休むべきなのだろう。しかし、行かなければという思いに駆られる。歩みを止めず、進む。

 おいおい、マジかよ。まあ、俺の領域も今は弱い。お前が拒むなら止めはせんさ。ーーーーーーじゃあな。

 ありがとう。誰かの声に礼を返して、進んで行く。

 傷ついた魂は流転し、次の世界に行く。その代償に、私の記憶は消えるだろう。ーーーーーーだけど、この想いだけは、彼女を愛していたこの心だけは、残していく。ごめんね、次の私。きっと苦しむだろう。辛いだろう。でも、私はこの胸の痛みだけは、忘れたくない。例えどれだけ流転した世界でも、貴女を探し続ける。それがどれだけ微かな希望で、届かないとしても、私は星を追い求める。

 灰色の世界は消えて、いつのまにか黒い世界へと。

 

 全ての意識は溶けていく。全てはゼロに還る。その中で、ほんの少し、光を伴って。

 

 

 

 

 

 立香様が死んだ。

 最後だからと、彼女とカルデアを回っていた時。急に、倒れてしまった。急いで医療スタッフを呼び、蘇生処置を施したが、その甲斐なく、呆気なく死んでしまった。彼女の身体に異常はなかった。つまり、彼女は外傷で死んだのではなかった。今からでは推測するしかないが、彼女は魂が傷ついていたのだろう。でも、彼女を含めて、誰も、気づかなかった。一番近くにいたのに、わたしも気づけなかった。その苦しみを、吐いて欲しかった。わたしを愛していたならば。そんな想いがわたしを支配する。

 目の前が暗くて何も見えない。彼女は私の太陽だ。でも、太陽は消えてしまった。

 マシュ様達が悲しみに暮れる中、立香様の葬儀を始める。彼女は綺麗な死に顔で、まるで、生きてるようだった。わたしも葬儀に参列したけど、彼女の顔を見ることは出来なかった。

 太陽が居ないという事実を直視するのが怖くて。葬儀とは残された者の気持ちの整理を付ける時間だという。でも、わたしはサーヴァント。過去の存在で、まもなく消える存在だ。どうやって、整理を付ければ良いのだろう。ああ、深い水底に沈んで行く。わたしはどうすれば良いのだろう。そんな事を考えながら、わたしの意識は闇に溶ける。気づけば、身体が消えていた。

 

 

 

 

 あなたは、はなしません。

 だれかにつかまれる。

 あなた、貴方、貴女は、重要なコマです。

 次の世界ではきっとーーーーーー

 心を支配するような声。確信する。これはーーーーーーあの邪神だ。

 悪い事はありません。貴女にも、良い事です。

 邪神はそう宣う。失意の底にいるわたしは、その言葉を考える気力もなくただ受け流す。

 彼女がいます。

 目が覚める。立香様が、いる? 

 彼女の魂は、次の世界に、行きました。貴女はそれを捕える足掛かりです。

 やめろ。彼女はもう十分戦った。もう手を出すな。

 やめません。次の世界では、邪魔もないでしょう。それに、彼女に会えるのですよ? 

 ーーーーーーそれでも、わたしは、わたしの存在が彼女を傷つけるなら! 

 どうにかもがき、逃げようとする。しかし、それは不可能でーーーーーー

 理解できません。

 そんな言葉を最後に。

 気づけば、深い深い孔へ、落ちていく。

 

 

 

 

 

 

 目覚めた時、わたしは赤ん坊だった。懐かしい匂いが微かに漂う。わたしはギリシャの、ある夫婦の赤ん坊として生まれたのだった。

 両親は優しい人で、すくすくとわたしは育った。ゴッホの本能として、絵が描きたいと言った時、画材や、美術教室を工面してくれたのは嬉しかった。幸せな子供時代だったと言えるだろう。けれど、胸には焦りがあった。あのキモい邪神共は、恐らくこの世界にいる立香様を利用して、降臨する気だろう。しかし、わたしにサーヴァントの時のような力は無い。どうにかして止めなければ、と思うけど。どうすれば。そんな焦りの中絵を描き続ける。気づくと、わたしはそこそこの画家で、学生にして収入を得るくらい名を得ていた。

 ゴッホからしてみたら望外だろう。でも今のわたしには、そんなのはどうでも良い。どうにかしなければ、焦りで支配される。そんな中、ふと気づく。夢の中ではかつての力を使えることに。邪神共は、この世界で実態を持たない。故に、虚数ーーーーーー言い換えれば、架空の場所から生まれいづる。つまり、夢から降臨しようとしているのではないだろうか。わたしの力も、夢で振るわれる前提でサーヴァントでは無く、人間として生まれたのではないだろうか。だとすると、立香様が危ない。そう思うと、いてもたってもいられず、立香様を探し始めていた。画家としてのコネと収入を利用すれば、立香様はすぐに見つける事ができた。彼女はある地方都市で一人暮らしをしているようだ。

 わたしは両親に、日本に移住したいと頼んだ。留学では無く、移住という言葉に流石に驚いたようだが、どうにか説得すると、渋々受け入れてくれた。ただし、わたし一人で。わたしがすでに収入を得ていたことが大きいだろう。わたしは両親から独り立ち出来る程度には稼いでいる。まあ、未成年なので色々めんどくさい手続きはあったが。それら全てを利用してわたしはどうにか立香様の通う高校に潜り込むことが出来た。

 

 

 そして、運命の日。

 わたしは彼女の高校に転入し、彼女と同じクラスになることが出来た。

 HRで教室に入り、彼女を探す。彼女は後ろの席にいて、興味なさげに本を読んでいるようだった。かつてと違う彼女に驚くも、決意を固める。

 

 

 今度は、わたしが貴女を守るのだ、と。




なんと無くで考えてた前日譚です
ちなみにこの立香はマシュとは良き戦友みたいな距離感です。
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