狂気的な恋   作:96963

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再び単発世界線


幼馴染

 わたしには、生まれた時から一緒にいるある幼馴染がいる。その幼馴染はわたしと同い年だけどわたしの姉みたいで、幼い頃からずっと慕っていた。わたしは、絵を描くことが好きだ。でも、絵を描くこと以外は人並みに出来ることが少なくて、わたしはその幼馴染に困った時はいつも頼ってしまう。幼馴染は昔からなんでもできて、わたしを助けてくれるからだ。…………正直、そんな幼馴染に嫉妬している自分もいる。しかし、幼馴染はどんな時も笑顔で助けてくれるため、わたしの小さい嫉妬は吹き飛び、感謝の念しか残らない。…………しかし、最近はそれが揺らいでる。

 ──────その幼馴染、立香と言うのだが、彼女に好きな人が出来たらしい。最近、よくスマホを見ては喜んで何かいじっているあたり、間違いはないだろう。喜ばしいことだ。立香は太陽みたいな存在で、どこでも人気者。しかも可愛く、性格も明るく、頭も良い(彼女は昔から学年トップの成績だ)。誰にでも好かれる彼女のことだ、どんな相手にも好かれるだろう。…………でも、ちくりと胸が痛む。嫉妬、というわけではない。いや、嫉妬が無いわけではないのだけど。彼女にとってわたしは間違いなくお荷物で、彼女の恋路の邪魔になってしまう。彼女がわたしを邪険、あるいは少しずつ遠ざかるのならばまだ良い。今までいつも助けられてきたのだ。辛いけど、受け入れて祝福しよう。けれど、彼女はきっとわたしに今まで通り尽くすだろう。生まれた時からずっと一緒なのだ、それくらいはわかる。それが、とっても嬉しくて──────とっても悲しい。彼女はわたしに尽くすけど、わたしは彼女に何も返せていない。それは、わたしが彼女の負債でしかないことを意味していて、彼女にとっての厄病神というわけだ。恋人が自分より尽くしている相手がいたら、大なり小なり不快感は抱くだろうし、破局の原因にもなるだろう。わたしのせいでわたしが苦しむならまだ良い。でも、太陽のような彼女が、わたしのせいで翳る姿は見たくない。わたしはどうすれば良いのだろうか。わたしは彼女と離れたくない。けれど彼女にこれ以上負担をかけたくない。二つの思いに挟まれながら、わたしは今日も絵を描き続ける。誰に見せることなく、たった独りで。

 今日の絵はなんだか、悲しい彩をしている気がした。

 

 

 

 

 私には、ある幼馴染がいる。その幼馴染──────ゴッホちゃんと言うのだが、ゴッホちゃんは、私にとって初めて見た光だった。彼女とは生まれた病院も一緒で、誕生日も近い。家同士も近くて付き合いがあったから、幼い頃から私は彼女と良く一緒の時間を過ごしていた。

 彼女は危なかっかしいとこがあり、私は彼女を守ろうという無意識の思いからか、物心ついた時には私は彼女のお姉さん? あるいは保護者? みたいな感じの立ち位置になっていた。その時はまだ、彼女を放っておけない、という義務感の方が強かった、と思う。

 転機が訪れたのは、小学校のとき。図工の時間で、絵を描いたことがあった。私はそのとき、彼女の絵を見た。その絵は、月の夜を描いた絵だった。しかし、私にとってその絵は──────太陽だった。それは私の世界を塗り替えた。正直、幼い私は嫉妬した。彼女の才能に。しかしそれ以上に、彼女の見せた光に魅了された。私はその時思った。もっと彼女の絵を見たいと。でも、彼女は正直危なっかしい。割とよく何もないとこでコケるし、忘れ物は多いし、成績は悪いし、朝は弱いし、むらっけが強いし、好き嫌い多いし、偏食するし、割と人の話を聞かないし…………と、絵を描くこと以外の能力を削り落としたように日常生活能力が低い。だけど、彼女は絵を描くことが大好きだ。そんな彼女が絵にかける情熱は美しく、私はそんな彼女と、彼女の絵が好きだ。だから、私は自分に誓った。彼女を守れるくらい強くなる、そして彼女の隣にいるにふさわしい存在になる、と。そこからの私の生活は変わった。

 具体的には努力量が増えた。私はゴッホちゃんみたいな天才と違って、ただの凡人だ。凡人は天才や化け物と呼ばれる異常者達に追いつくことは出来ない。ましてや超えることは。だが、迫るくらいは出来る。才能は時間、金とトレード可能、つまり等価だ。費用対効果は限りなく悪いが、交換は出来る。私に金は無いが、幼い頃から自覚したのが幸いして、時間だけはあった。私はゴッホちゃんと関わる時間や、学校での時間、睡眠時間以外全てを、自分を鍛えるための燃料と焚べた。全ては最短効率で強さを得るために。

 そこからはや数年。

 私達は高校生になり、とある高校に進学した。その高校はまぁ普通の高校だったけど、美術部が有名な高校だった。そこにゴッホちゃんが行きたがっていたので、私はゴッホちゃんの尻を叩き勉強させて、どうにかその高校に一緒に入ることが出来た。ゴッホちゃんは美術部に入部して、予想通り頭角を表し始めた。彼女は一年にして数多くの入賞を果たし、進級する頃には一年なのに半分部長のような扱いを受けていた。またゴッホちゃんはこの手の生徒にしては成績も悪くなく(そうなるように私が教えてるから当然だ)、入賞してもそれを鼻にかけずに黙々と絵を描いてる姿や(まぁ実際の所は批評を見るのが怖いらしいからだけど。私はゴッホちゃんが認められるのが嬉しいからよく結果とか見てる)、たまに見せる小動物的かわいさによって、生徒・教師ともにまずまずの人気を博していた。

 私? 私はなんていうか、ゴッホちゃんのお世話係みたいな認識だよ。別に成績も悪く無いし、まずまずの学校生活って感じ。

 二年生の時、再び転機が訪れた。

 ゴッホちゃんは学校が関係ない美術コンクールにもよく作品を出すのだが、出した後結果を見るのが怖いのか、私に後の処理を投げてくる。

 そんなに不安がることないのにな、と思いつつ、まぁゴッホちゃんがそれで良いなら、とコンクールの処理は全部私がやっている(基本的に入賞とかそういう連絡は全部私の方にやってくる)中、一つの連絡が届いた。それは、留学の誘いだった。ゴッホちゃんは別にネットに絵を上げたりはしてないのだが、流石に応募した数が多いため、結構な数の絵がネットに放流されている。そこから辿ってきたようだ。

 そういうお誘いの数は次第に増えて、今ではそこそこ頻繁に来るようになった。前ゴッホちゃんに留学しないの? とそれとなく振ったら無理です無理です留学なんて…………って震えてたから一旦保留扱いにしてとりあえず今は放置してる。だから、またゴッホちゃんに留学どう? って聞いてみたいんだけど。ゴッホちゃんの進路に関わってくるし…………。でも、なーんかそのお誘いが来たあたりからゴッホちゃんに避けられているんだよねぇ。なんでかなぁ? 休み時間になるとどっか行くし、放課後美術室に行っても居なくて、聞いてみても誰も知らないらしい。それどころか、最近美術部に来ないとか。ふと下駄箱を見てみると、彼女の靴は既に無く、もう帰宅しているらしい。そんなことが数日続き、流石の私も参ってきた。ゴッホちゃんとは長年一緒に帰宅していて、バラバラに帰宅することなんて数回あるかないかレベルだ。こんなコトは初めてで、不安になる。もしかして過保護だったのだろうか。ゴッホちゃんの気に障ったのだろうか。ゴッホちゃんに嫌われていたらどうしよう。今まで積み上げた足場が崩れるような幻聴が聞こえる。彼女に嫌われていたらと思うと、不安で不安でたまらない。彼女は私の光だ。そんな彼女に嫌われることは、光が無くなることで。…………そう思うと、彼女に聞く勇気も出ない。気づいたら私も彼女を避けるようになっていた。

 そのまま、私達がお互いに避けはじめて一週間が経った。

 

 

 

 

 

 

「藤丸さん、最近何かあった?」

「へ? な、何か?」

「いや最近藤丸さんゴッホさんと一緒にいないから、何かあったのかなぁって。ゴッホさんも最近遅刻気味だし…………ちょっと前は一緒に来てたのに」

「多分、何もないはずなんだけどね…………あはは…………」

 そう、何もないはず。だけど私達はお互いに避けあっている。

 確認するのが、怖くて。疑心の鬼は猜疑心を膨らませる。

 もう何日も彼女と話していない。十数年生きてきて初めての事態に、身体は何をすれば良いかわからず、精神はただ震えてる。

 結局私は凡人で、どれだけ時間を焚べても彼女の背中は追えないのか。

 結局何も出来ず、いたずらに時間は過ぎていく。

 そして、彼女は学校に来なくなった。

 

 

 

 

 ただ、部屋に籠り絵を描き続ける。世界はどこまでもわたし一人で、昏く、寒い。それでも手は動き頭は勝手に完成像を示す。部屋には完成した絵が何枚も積み上げられている。

 昏い昏い世界。もはや何のために絵を描いてるかわからない。絵を描くことは好きだったはずなのに、わたしの胸には苦しみだけが積み上がっていく。

 なんでくるしいんだっけ。

 ■■がいないからだ。

 なんでいないんだっけ。

 ■■にはすきなひとがいるから。だから、はなれなくちゃ。

 ──────あれ、わたし、なんでえをかくのがすきなんだっけ。

 そういえば、何故だろう。思考が頭の奥深くに巡っていく。

 ──────ああ、そうだ。絵を描いた時、■■の笑顔が眩しくて、それを見たかったから、絵を描き続けていたんだ。そしたら、絵を描くことが好きになってた。

 なんだ。そうだったんだ。

 ──────あ。■■って、誰だっけ。

 わたしの頭から彼女の名前が消えてることに気づく。慌てて思い出そうとしても、黒く塗り潰されて思い出せない。彼女は、わたしの太陽。でももうきえちゃった。

 ──────そうか。もう、わたしは。

 わたしが生きてきた理由、わたしの大切なオリジンを失くしたことに気づいた私は筆を落とす。空っぽになったその手を、ナイフが埋める。

 ナイフを持った腕は自然にわたしの首を捉え──────

 ──────ごめん、■■。でも、最後に役に立つから。

 脳裏に浮かぶ彼女の眩しい笑顔。それが見られなくなるのは嫌だな、という思いやわたしが死んだら少しは悲しんでくれるかな、ああでもわたしのせいであの笑顔が消えて欲しくないな、という考えが去来する。そんな一瞬の思考の中、ナイフは私の首を無慈悲に捉え──────

 

 

 

 

「…………え?」

 なかった。わたしの腕は、記憶にある暖かい腕に掴まれて、止まっていた。

「良かった…………」

 わたしの腕を掴むのは、■■で。

「…………」

 声が出ない。彼女の名前を叫ぼうとしても、叫べない。

「…………ッこのバカゴッホ! なんでこんなになるまで部屋に篭ってたのよ! …………あ、でも私も同じか…………」

 腕が離され、彼女がゆるゆると床に座る。

「どうして…………」

 疑問が口から零れる。なんで、きたんだろう

「そりゃまぁ、幼馴染が自殺しようとしてたら止めるでしょ」

「そっちじゃなくて、なんで、来たんです」

「…………どういうこと?」

「だって、貴女、好きな人が」

「…………はぁ?」

 彼女から、疑問の声が出る。それは、わたしの質問の意図がわからない、と示しているようで。

「好きな人? どういう意味?」

「…………え。だって、貴女、好きな人がいるから、だから、わたし、迷惑に」

「…………はぁ。そーいうことね。いや、私も悪いか」

 どういうことだろう。疑問に思うと

「あのね、私が最近スマホ見て喜んでいたのは、君の、ゴッホちゃんの留学のお誘いが来てたから! 彼氏とかそーいうんじゃないよ!」

「…………へ?」

「前にゴッホちゃん、留学する? って聞いたら無理ですって言ってたでしょ? だから、一旦保留にして後で聞こうと思ったの。喜んでたのは、ゴッホちゃんの実力が認められたからで、他に意味はないよ!」

 彼女の声が、胸に落ちる。ゆっくり染み込んでいき、しばらくしてようやくその言葉を理解する。

「貴女が喜んでいたのは、わたしのため…………?」

「そうだよ。私は彼氏とか考えたこともないから! だって…………」

「?」

 最後の方が聞こえない。聞き返そうとすると

「とにかく! 私は君を見捨てないから! …………まぁ今回は見捨てる形になっちゃったけど、次は違う。次また同じように引き篭ったら、お尻を叩いてでも引っ張りだすからね!」

「あ、あはは…………」

 彼女はとても怒っていて、凄い迫力だった。それに流されて、自殺しようという気が失せてしまった。

 

 

 

 しばらく後。

 落ち着いたわたし達は、ベッドでお互いに向き合ってた。

「今回の件は、ゴッホちゃんの勘違いだったわけだけど…………だけど、私も怖くて、さっきまで踏み込めなかった。だから、話をしよう」

「話、ですか」

 ■■の名前は未だ塗り潰されている。それを申し訳なく思いながらも、彼女の話を聞く。

「そう。私達は今まで幼馴染として一瞬に過ごしてた。だけど、お互い無意識に壁があったと思うんだ」

「それは…………」

 ない、とはいえない。わたしの無意識な心が暴走したのが今回の原因なのだから。

「本音で話し合おう。それが、どんな結果を招くにしても…………今のままじゃ、いられない」

「…………わかりました」

 未だ塗り潰された■■の顔を見ながら、そう答える。

「…………じゃあ、私から。…………実はね、私、ゴッホちゃんに嫌われてるかもって思ってた」

「…………何故です? ゴッホが、貴女を嫌うことなど…………」

「君に、避けられていたから」

「ハウッ…………」

 まさかの自分の行動が原因だったとは。いや考えたら当然か。思いつかなかった自分に嫌気が刺す。

「今だから言える。ゴッホちゃんは、昔から、あの星の絵を見てからずっと、私にとっての光なんだ…………だから、君という光を失えば私はどうすれば良いか、わからなかった…………」

「へ…………?」

 ■■から言われた言葉が、わたしの脳を揺さぶる。■■が、わたしの太陽が、私を光としていた? 

 それは、衝撃的だったけど、納得出来る言葉だった。わたしが彼女でも、きっとそうなると確信したから。

「そんなふうに私が弱かったから、君に本当に嫌われていたらと思うと、身体が動かなかった。結果的に君を避けて、余計追い詰めることになってしまった。…………本当に、ごめん…………」

 ■■が謝る。彼女は泣いていた。一方、わたしは──────罪悪感で押し潰されそうだ。自分の勘違いでここまで追い詰めてしまったことに、逃げたくなる。…………でも、彼女はこんな出来損ないに心の裡を開いてくれたのだ。だったら、わたしも答えないと。勇気を振り絞って口を開く。

「ゴ、ゴッホは、わたしは、貴女のことが──────好きです」

「え…………?」

 勢いのままに口を走らせる。

「昔から、貴女はずっとわたしのそばにいた。出来損ないのわたしをいつも助けてくれた。ずっと貴女の笑顔が好きでした。貴女の笑顔が見たくて、絵を描いてたらいつのまにか絵が好きになっていました。貴女があの星を追いかけたのなら、わたしは、あなたという太陽に惹かれたのです。──────愛しています、ずっと」

「──────私もだよ」

 彼女に抱きしめられる。彼女の身体はあったかくて、そのぬくもりを離したくなくて、わたしも抱きしめる。

「私も、君を昔からずっと愛してる。君の絵が、君が好きなんだ。だから、もう離さない。君が嫌だって言っても諦めてなんてあげない」

 そう彼女に告白される。その言葉は嬉しかった。彼女はわたしを選んでくれた。自然に口が開く。

「──────嬉しいです、立香」

「…………やっと、名前で呼んでくれた」

 気づいたら私も泣いていた。お互い涙でぐしゃぐしゃで、酷い顔だ。でも、ここ最近で一番幸せだった。そして、わたしは愛しい人の名前を取り戻した。

 わたしはこの名前を、一生忘れない。

 

 

 

 

 数日後。

 私とゴッホちゃんの仲は、すっかり元に戻った。ゴッホちゃんはまた私と一緒に学校に行くようになった。

「うう、眠いです…………」

「はいシャッキリする! 学校行くよ! …………ほら」

 手を差し出す。

「…………! はい!」

 差し出された手が握られる。

 私と彼女は、二人一緒に歩いていく。これまでも、これからも。




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