本編後、もしゴッホちゃんと再会したら─────という世界
なんとなく言峰のバレンタインとゴッホちゃんの絆礼装バレ入ります
再会
──────全てが終わって、平和になった後。サーヴァントは全て退去して、私はカルデアを退館する。マシュや新所長達と別れ、私は日常に帰る。カルデア勤務で得た身に余る大量の資産は、ゴルドルフ新所長がどうにか誤魔化してくれるらしい。私はある神父がくれた腕時計を腕に巻き、私の日常に、私の故郷に帰る。そこに、カルデア由来のものは腕時計とある「物」を除いて存在せず。多くの思い出が詰まったカルデアを去ることに言いようのない寂しさが去来する。楽しい思い出だけじゃなかった。苦しい思い出も、哀しい思い出も沢山ある。それでも、その思い出はどんなものでもかけがえのないもので。でも、帰らないと。しばらくカルデアを振り返った後、背を向けて、私はカルデアを去っていく。止まっていた腕時計は、静かに時を刻み始めた。
数週間後。
私は一人暮らしを始めていた。いや別に両親と仲が悪いとかそういうわけではないんだけど。なんといえば良いのか。有り体に言えば、──────私は燃え尽きていた。もうなんかやる気が薄い。ちょっとしばらく一人でいたい。長年異常事態の只中にいた私の感覚は結構周りとズレていて、そのズレに翻弄されて疲れてしまった。だから、家を出て今は自堕落な生活を送っている。まあお金は沢山あるし、高校は何故か卒業資格を認められているし、ちょっとした休暇みたいなものだ、と誰にいうでもなく言い訳をする。時計が無駄に時を刻む音を聞きながら。その時、ふと壁にかけているものが目に入る。それは、布が掛けられていた。その布は床に落ちて、隠されていたものが露わになっている。
それは─────ゴッホちゃんの自画像だった。昔、カルデアで彼女が手紙と共に贈ってくれたモノだ。彼女の直筆で、この世に新たに生まれたヴァン・ゴッホ、いやクリュティエ=ヴァン・ゴッホの真筆。
「確か、絵の具を沢山使ったとかで、ダヴィンチちゃんに怒られてたんこぶ作ってたっけ」
彼女との記憶が蘇る。彼女を召喚したのは確かアトランティスに行く前?だったかな。何か、大きな出来事があった気がするけども、ぼんやりとしててあんまり覚えていない。覚えているのは、ゴッホちゃんと夢の中で大冒険をしたこと、それと、その夢が覚めたらゴッホちゃんが何故かベッドに潜り込んで召喚されていたことだ。
「うーん、懐かしいなぁ」
それと同時に、胸に思い出さないように蓋をしたはずの寂しさが蘇る。
「会いたいなぁ、ゴッホちゃん」
彼女の絵は、額縁に入れた上で特殊なケースに入れて飾っている。お金だけは沢山あるから、彼女に貰ったモノだ、大切にしたいという思いと──────彼女の記憶を劣化させたくないと思うエゴ。これは、私がカルデアにわがままを言って持ち出した物品の一つだ。彼女との記憶は自分の中ではかなり大きい。きっかけはわからない。きっと、些細なことだろう。私は彼女に恋をして、彼女はそれを受け入れてくれた。私達は恋に落ち、そして──────退館の日、別れた。まあ、寂しいけど円満な別れだったと思う。お互いに胸の想いは全て吐き合った。その結果喧嘩もした。その上で別れを受け入れ、笑顔で別れることが出来たんだから。寂しいと思いこそすれ、そこまで未練があると思わなかったん、だけど
「会いたいよぅ、ゴッホちゃん・・・・・・・」
わたしの顔から涙が落ちる。彼女の存在は私の中でとても大きく、それが無くなった今、私の心はぽっかり穴が空いた気分だ。その寂しさから無性に涙が溢れ始める。流れ出した涙は止まらず、否応なく悲しくなってくる。いつもこうだ。ゴッホちゃんの絵を見ると彼女を思い出して悲しくなる。だから、思い出に蓋をして隠していたのに。今日はたまたま封が解けていたみたいだ。初めからこれを持っていなければ良いっていうのはわかってる。だけど、私は、彼女からの贈り物を・・・・・・・消したくはない。そんな小さなエゴで、私は今も悲しみながら記憶の彼女を振り返っている。
「そういえば、ゴッホちゃんの手紙、なんて書いてあったっけ」
この絵と共に贈られて来たゴッホちゃんの手紙も、私は持ち帰っている。無くさないように、絵の裏に入れて保管している。久しぶりに読もうと思い、保管ケースを開けて手紙を取り出す。カルデアを出てからは、初めてだったかな。手紙は、彼女らしくない文体で長々と綴られている。饒舌なゴッホちゃんらしいな、と思いながら目を通して行くと、ふとある一文が目に入る。
「『不幸にして将来きみが困窮したなら売り払ってくれて一向にかまわないが』ってそんなことあるわけないのに、あはは・・・・・・・それにそうなっても、私が君の絵を手放すなんて有り得ないよ、ゴッホちゃん」
彼女らしい文に苦笑しながら次の文を読む
「『その時はぜひ、「得体の知れない怪物娘を描いたゴッホの真筆」がいくらで売れたかを土産話に、コーヒーの1杯でもおごってくれたら幸いだ。』」・・・・・・・え?」
違和感が走る。絵を売り払って良いというのは、今の私のように、全てが終わった今みたいな時を想定しての文だろう。でも、次の文のコーヒーの話は、まるで、再会を予期しているような文章で。
「いやいや、まさかね?」
誰もいないはずの空間で独り呟く。いやでも、彼女なら、ゴッホちゃんなら何かやりかねないという妙な確信が胸を走る。
その時、急にガタガタと音がし始めた。
「え?」
ガタガタと不気味に鳴る音は、どうやら保管ケースからしているらしい。
「え。ちょっと、なに」
「・・・・・・・てくださーい」
「はい?」
「・・・・・・・してくだーい」
なんか声が聞こえる。しかも聞き覚えがある。おかしいなぁ、カルデアから帰ったからこんなことは起きないと思ってたんだけどなぁ。
半分くらい確信を抱きながら、保管ケースに近寄る。保管ケースはゴッホちゃんの自画像面を底にして倒している。よく聞くと底の方から声がする。
「・・・・・・・出してくださーい」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・あの、立香様、出してください・・・・・・・」
その呼び方を聞いて確信する。ここから出ようとしている謎の存在は、間違いなくゴッホちゃんだと。急いでケースを開けて自画像を取り出す。
「うわっ⁉︎」
絵を取り出すと、絵から飛び出て来た何かに押し倒される。幸いベッドを背にしていたので痛くはない。恐る恐る目を開けると
「エヘへ・・・・・・・立香様、また会えましたね・・・・・・・」
「ゴッホちゃん・・・・・・・」
予想通りゴッホちゃんが目の前にいた。こうして、私と彼女は再会した。ちょっと締まらない再会だけど、その再会はなんだかゴッホちゃんらしくて。しばらく顔を見合わせた後、私達は示し合わせたようにお互い笑いあったのであった。
時計の音が、いつもより大きく聞こえた。
数分後。
絵を元の場所に片付けた後、私とゴッホちゃんはベッドで向き合っていた。
「・・・・・・・それで」
「はい!エヘへ・・・・・・・」
「なんでここにいるのよ、ゴッホちゃん」
「そ、それはですね、立香様と別れるのはゴッホ的にもクリュティエ的にもナシと思いまして、こっそり裏経路と言いますか、カルデアの皆様にも認識されないようにバックドアを繋いでいまして。退去する際、いつか立香様に会えるように虚数に潜んでいたんですよ!エヘへ!」
「・・・・・・・それが、あの絵ってこと?」
「はい。ご存知の通り、ゴッホは虚数を手繰ることに秀でたサーヴァントでございました。その能力により、ある条件を満たしたら再会出来るようにさせてもらいました!」
「・・・・・・・ん?ちょっと待って、サーヴァント『でした』?」
「?ああそうですね、説明していませんでした。ゴッホはもう『受肉』しています!これで死ぬまで、いえ死なせまん!ずっと、ずーっと一緒にいられますね、ウフフ・・・・・・・」
「は、はあッ⁉︎」
何か後ろの方にも気になる発言があったが、驚くべきは最初の方だ。
「え、受肉してるの?」
「ええはい、また出会って消滅というのも嫌なので。それならいっそ受肉しようと思いまして!こうちゃちゃっと」
「受肉って、そう簡単に出来ることだっけ・・・・・・・」
「そこはもう、ゴッホパワーで・・・・・・・実のところ、仕組みは簡単なのです」
「そうなの?」
「ええはい、まずゴッホが贈ったあの絵ですね。あの絵には虚数美術による仕掛けを施しておりまして、あの絵は立香様が見るたびにある術式が完成するようになってました。ゴッホは魔術師ではないので見様見真似ですが・・・・・・・それは、誰にも悟られないよう少しずつ少しずつ進行し・・・・・・・そして、たった今、その術式は完成いたしました!」
「その術式って一体何?」
「ウフフ、それは・・・・・・・ゴッホ受肉の術式です!ただこれはあくまで術式だけ。下書きのようなものです。それだけではええと・・・・・・・ニホンだと、画竜点睛でしたっけ。とにかく、術式起動には至りません。様々な問題をクリアするため、もう一つ仕掛けを用意いたしました!」
「それが、この手紙ってこと?」
「ええはい、その手紙には、絵の術式が完成した後に視認することで絵の術式の歯車を回す鍵の役割を果たす術式が完成するよう仕掛けられています。これにより、先程術式が起動して、見事立香様のお膝元に参上出来た次第でございます!」
そう胸を張るゴッホちゃんは可愛くて、我慢出来なくなった私は彼女を抱き締める。彼女の身体は確かに、暖かい生の感覚が伝わり、サーヴァントとは違ったものになったと実感出来る。
「ハウッ⁉︎立香様、一体何を・・・・・・・」
「ありがとう、ゴッホちゃん。寂しかったんだ、この数週間。でも今会えた。こんなに嬉しいことはないよ・・・・・・・」
「・・・・・・・エヘへ」
ゴッホちゃんは笑いかけると、静かに私を抱き締める。
「大丈夫ですよ、立香様。ここからはずっと、ずーっと一緒ですからね・・・・・・・ウフフ・・・・・・・」
「うん・・・・・・・」
暖かい、静かな時間が流れて行く。時計がかち、かちと時を刻んでいく。
でも、これは嵐の前触れ。ここから私はある意味穏やかな日常から、破茶滅茶な日常へと足を突っ込んで行くことになるのだった。
「そういえば、今までどうやって維持してたの?」
「虚数は、あらゆるものが曖昧になる関係上、時間の感覚も変わりますよね?それにより、ゴッホの主観では数日ほどしか経過していないのです。数日なら、まあなんとか」
「なるほどねー。あと死なせないって?」
「ハウッ、それはその言葉の綾というか・・・・・・・その、いつか話します・・・・・・・今は、恥ずかしいので・・・・・・・」
「ふーん、まあ良いや。これから時間はたっぷりあるんだしね!」
「・・・・・・・はい!」
術式云々は割とノリで書きました。ゴッホちゃんの虚数美術は割と色々出来るっぽいので。
言峰のバレンタインは趣味。