狂気的な恋   作:96963

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後編



再会②

 ゴッホちゃんと再会して数時間後。再会した嬉しさもひとしお、落ち着いた私はどうやってこの事態を報告するか悩んでいた。一応ゴルドルフ新所長から何かあった時の緊急ホットラインは預かっている。退去したはずのサーヴァントが受肉して私の前に現れた、なんて素人の私でもまずい事態だってわかるから連絡した方がいいのはわかる。けれど、それでゴッホちゃんをまた失ったら。いっそ隠蔽しちゃえば、と思うけどそんなことをする勇気は私には無く、結局ホットラインを頼ることにした。ゴッホちゃんは横でニコニコしている。

「もしもし、ゴルドルフ新所長ですか?」

「うん? その声は立香か。キミがカルデアを離れてほんの数週間ほどしか経ってないと思うのだが、何かあったのかね? それとも寂しくなったのかねキミィ? とりあえず、無闇に連絡するのはよしてくれ。こっちも色々と忙しいのでね」

「すみません、でもちょっとですね、まずいというか連絡しておいた方が良い事態になりまして」

「うん? つまり本当に何かあったのかね。それで、一体何が起きたのだ?」

「とても言いにくいんですが…………その、ゴッホちゃんが受肉して現れました」

「…………………………ハァ⁉︎ゴッホって、あのフォーリナーのゴッホかね⁉︎それが受肉⁉︎なんでそんなことに⁉︎」

「その、どうやらゴッホちゃんが退去前に色々仕掛けていたみたいで…………その仕掛けが先程発動したらしくて」

「…………ちょっと待て。確認する」

 そういうとゴルドルフ新所長は席を外し、しばらく無音の時間が流れる。

 そして

「…………今確認した。立香、貴様の周囲を軽く調べたが、魔術らしき痕跡は一切ない。…………が、いるのだろう?」

「ええ、まあ…………見ますか?」

「頼む…………」

 ホットラインをゴッホちゃんの方に向ける。何故か彼女はWピースで若干恥ずかしそうに笑っていた。

「エヘ、エヘへ…………」

「…………………………うむ、本当にゴッホだな」

「はい…………ゴッホです…………お久しぶりです、所長様…………」

「…………………………どうしようコレ」

「はい、どうしようと思って…………いえ私は嬉しいんですけどさすがにこれは報告しておかないとまずいと思って」

「…………うむ、まあ報告する判断は正しい。報告しなければ何もわからないからな。とりあえず、彼女が現れた経緯を説明してくれ」

 本人に説明させるのが一番だと思い、ゴッホちゃんに説明させる。説明を聞いた新所長は、すっごい変な顔をしていた。新所長は誰かに連絡すると、しばらく話し込む。話し込んだ後、苦々しそうな顔をしてこちらに振り返る。

「…………………………彼女の説明を聞いた上で私の意見を伝える。これはカルデア総意としての意見と聞いて問題ない」

「…………はい」

 何を言われるのか戦々恐々としながら沙汰を待つ。

「彼女の処遇だが…………このまま隠蔽する」

「え…………?」

「つまり、現状維持だ」

「ほ、本当ですか⁉︎」

「ああ、本当に、ほんっとうに不本意極まりないが、このまま隠蔽する方が色々と都合がいい。彼女が魔術的痕跡を一切残さずに受肉した以上、改めて干渉するのはお偉方に逆に疑われかねない。今のカルデアは前科犯のようなもの。不必要に疑われることは避けたい。幸い、彼女は史実に伝わるゴッホとは見てくれどころか性別からして違う。疑われることはあるまいよ。故に現状維持だ。全く、『虚数美術』って奴はなんなのだね本当に…………」

「やったぁ!」

「こら喜ぶんじゃない! …………………………まあ、貴様が彼女と親しくしていたのはカルデア中が知るところだった。それを加味すれば、多少は甘い判決を下してやるさ」

「ありがとうございます、新所長!」

「…………うむ、まあこれで話は終わりとしよう。では、また何か変なことがあったら呼んでくれ…………最後にゴッホ。バレない程度にしろよ。貴様がハメを外して困るのは立香なのだからな。まあ、貴様が画家という生き物なのはわかっているので、こちらで貴様が画家として活動出来るようにはしといてやる」

「はい…………善処します…………それとありがとうございます…………」

「…………まあ、良いだろう。ではな」

 そういうと、新所長との通信が切られる。緊張の糸が切れると同時にお互い脱力する。そして手を合わせて

「やったね、ゴッホちゃん!」

「エヘ、エヘへ…………や、やりました立香様…………ゴッホの作戦勝ちです…………ゴッホ策士…………ゴッホジョーク…………ウフフ」

 お互いに喜んだ。

「全くもう、ゴッホちゃんは。君は本当にやる時はとことんやるよね」

「エヘへ…………ゴッホですので…………」

 ゴッホちゃんが余裕あったのはこういうことかぁ、と感心しつつ、ゴッホちゃんは時たま本当にとんでもないことするなぁと若干呆れる。

 ただ、当面は問題ないみたいで安心する。私はまたゴッホちゃんと別れる、なんてことはないみたいだ。安心すると力が抜けて、床に座り込む。

「良かったぁ…………これからも一緒にゴッホちゃんといられるんだ…………」

 今、ようやく実感が湧いてきた。彼女がいるという事実。彼女と一緒にいていいという喜び。それらがないまぜになって、私の目から涙が落ちる。

「立香様…………」

 私の感情が伝わったのか、彼女が私の顔を両手で包み込んで覗き込む。

「先程も言いましたけど。もう、離れません。誰が何を言おうと、ゴッホは、わたしは永遠に貴女のお側に…………もう、貴女が寂しくて泣くことはないように」

 彼女が私の涙を拭く。彼女の顔はとても優しい顔をしていて──────ん? 

「…………もしかして、見ていた?」

 いやまあこの涙も寂しさからくるものかもしれないけど、さっきの言動とゴッホちゃんの生態を考えると──────

「? ええはい、あの絵はカルデアを出た時点で窓になるくらいには完成していたので、虚数から立香様を見ていましたよ? 立香様、寂しかったんですよね? エヘへ…………不肖このゴッホ、立香様にそこまで想われていたと思うと嬉しくて嬉しくて…………咲いちゃいそうです…………ウフフ…………ですがどうかご安心を! これからはゴッホがついてますので! …………おや? 立香様、顔が赤いようですが」

 今までの醜態を全部見られていたかと思うと恥ずかしくなって顔が熱くなる。

「…………………………ぅ」

「?」

「うにゃ────────ー!」

 耐えきれなくなって床でゴロゴロ転げ回る。火が出るほど恥ずかしい。

「ああ、立香様、暴れないでください…………可愛かったですよ?」

「恥ずかしいものは、恥ずかしいの‼︎」

 しばらく痴態に悶える私とオロオロしているゴッホちゃんだった。

 

 

 

 

 どうにか落ち着いた。まだちょっと顔が熱い。ふと今の時刻を見ると、そろそろ寝る時間だった。

「…………とりあえず、そろそろ寝ようか。良い時間だし」

「そうですね…………ゴッホも、初めての肉体で若干疲れちゃいました…………エヘへ…………」

 お互いにシャワーを浴びて、歯磨きなどをして眠る準備をする。お互いに準備が終わり、寝間着に着替えたのでベッドに向かう。ゴッホちゃんにはとりあえず私の寝間着を貸すことにした。ぶっかぶっかで私の上だけで身体の大部分を覆ってしまった。下はどうかと一応聞いてみたけど、要らないらしい。まあそりゃそうか。明日買いに行こう。カルデアでいつもそうしていたように、二人で一緒のベッドに入る。ただ、受肉してることもあって、いつもよりもちょっと温かい気がする。

「それじゃ寝ようか、ゴッホちゃん」

「はい…………そういえば立香様…………」

「ん?」

「ゴッホを、わたしの絵をあんなに大切に保管してくれてありがとうございます…………」

「何言ってんの、当たり前じゃん」

「ああ、その言葉が身に沁みます…………ゴッホは、生前中々評価されない画家だった、と記憶にあります。そんなわたしにとって、わたしの絵を評価してくれる人物…………弟のテオみたいな人物は、得難いものなのです。それは、死後の評価を知った今でも変わりません…………まあ、わたしは彼ではないのですが。わたしは、クリュティエ=ヴァン・ゴッホはつぎはぎで、かの画家の才能、技術、記憶を受け継ぎ、かの画家の絵を再現出来るようにチューニングされたゴッホでもクリュティエでもない存在で、かの画家とは非なる者。雅号ゴッホを名乗る小娘で、つぎはぎの化け物です。そんな化け物が作った絵を、貴女は大切にしてくれている。…………それは、記憶のゴッホ的に考えても、身体のクリュティエ的に感じても、望外の喜びなのです…………」

 彼女が私を抱きしめる。その手は小さくて、震えてる。

「…………私は、君のファンなんだから。恋人でもあるけど。だから、君の絵は私の宝物。誰に言われても、例え君に言われても、手放す気はないよ」

 私も、彼女を抱きしめる。

「…………エヘへ」

 安心したのか、震えが止まる。

「…………おやすみ、ゴッホちゃん」

「…………はい。おやすみなさいませ、立香様…………」

 二人で抱き合っていると、そのうち意識が溶けて、夢に落ちていく。今夜は、良い夢が見れそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ゴッホ的にも、クリュティエ的にも。やっぱり立香様は手放したくない存在だ。しかし、いずれは別れなければならない。どうしようかと頭を悩ませているとふと閃く。

 じゃあ別れてから再会しようと。そう思ったわたしの行動は早かった。まず、絵を作る。正直賭けでしかないので失敗した時、立香様に相応しい絵でいられるよう本気で作る。本気で作った結果ダ・ヴィンチ様に叱られてしまったが。

 カルデア退去の日。わたしの仕込みはうまく機能するだろうか。不安を抱えながら、これを今生の別れとして立香様と別れる。まあ、これで失敗しても後味は悪くならないだろう。

 仕込みはどうやらうまくいったようだ。わたしは全てが曖昧な虚数空間の中にいる。立香様に渡した扉は、窓としては機能する程度に完成してるため、立香様の様子を覗き込む。

 虚数という性質上、24時間いつでも見れるわけではないが、立香様がわたしを想って泣いているシーンは全て見ていた。嬉しくなると同時に、申し訳ない気持ちになる。早く仕込みが完成しないかな、と待つこと主観で数日。身体が引っ張られる感覚がする。どうやら仕込みは完成したらしい。

 

 

 立香様、今行きます。もう寂しくありません。だって、だって、これからは永遠に一緒なんですから…………ウフフ…………

 わたしは、ゴッホだけど、クリュティエなんですよ? 

 




ゴッホちゃんの精神的なくだりは幕間参照
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