筆者は田舎
翌日。
昨日通販で頼んだゴッホちゃんのよそ行き用の服が届いた。彼女が選んだ服は、いつかの祝祭で見たものに似ている。白の上着に、短ズボンとベレー帽。それに茶色のリュックサック。過去のカルデアを思い出すようで、少し懐かしい気持ちになる。まだ数週間前だけどね。
「よし、服も届いたし今日こそ外に行こう!」
「やっと、ですね…………エヘヘ、楽しみです…………」
「それにしても、ゴッホちゃん、そんなアウトドアなタイプだっけ? カルデアでは、どちらかといえばインドア派な気がしてたけど」
「エヘヘ…………やはりゴッホのマスターであり恋人であらせられる立香様の故郷となれば、好奇心が疼く次第で、ウフフ…………」
「…………なんかそう言われると、ちょっと恥ずかしいけど、まあ良いや。悪い気はしないし」
ぽりぽりと頬を掻きながら、
「さ、着替えとか、色々準備しなきゃ!」
そう言って、お互いに外出の用意をする。
数分後。
着替え終わった私達は、窓の鍵やガスの栓のような火元を確認しておく。
「えーっと、ガス栓良し、水道良し…………ゴッホちゃーん、そっちはどう?」
「あ、はい…………こっちも大丈夫です」
「オッケー、じゃあ出ようか」
かちゃり、とドアに鍵を掛けて、ドアが閉まっていることを確認する。
「これでよし、と。じゃあまずどこから行こうかな…………私も最近戻ってきたから、ちょっと知らないとこもあるんだよねー」
「ゴッホはこの街のことを何も知らないので、どこでも良いですよ?」
「んーそうだなぁ、とりあえずあそこに行ってみるかなー」
「どんな場所、なのでしょうか…………」
「まあ、ちょっと大きい商業施設、かな? さ、行こ。ゴッホちゃん」
「はい!」
彼女と手を繋ごうと、手を差し出す。ゴッホちゃんも察したようで、手を握ってくれる。彼女の体温を手に感じながら、目的地に向かう。
彼女に道すがら見えるものを説明して歩きながら数分ほど。とりあえずの目的地である、大型商業施設へと着く。
「ここだよ、ゴッホちゃん」
「これが、目的地…………随分大きい店なのですね…………」
「まあ、そういう場所だからねー。あ、これが一つのお店ってわけじゃないよ? 中にそれぞれ独立した小さなお店が沢山入ってるんだ」
「ふむふむ…………現代の商店は、そういうスタイルなのですか…………新鮮ですね…………」
「そういえば、ゴッホちゃんの弟さんは、画商の一員で、店舗の経営を任されていたんだっけ?」
「はい、テオは…………テオドルス・ヴァン・ゴッホは、グーピル商会という画商に勤め、パリの大通りの店を任されていました。それにより、画家としては振るわなかったゴッホ…………ヴィンセント・ヴァン・ゴッホの生活を、援助していてくれたのです…………」
私の中に、幼い少年の顔が蘇る。彼は確か、ゴッホちゃんがシミュレーターを不正利用していた時のシミュレーション上の彼女の故郷、ズンデルトだったかな? で見かけた記憶がある。
「ああ、そういえばあの時は大変だったなぁ。確か、ゴッホちゃんが娼婦の人を…………」
「あわ、あわわわわわ! そ、それは忘れてください…………ゴッホとしては、あの事件は恥ずかしい限りでございまして…………い、いえ結果的には良かったかなーなんて思ったりでもやっぱりおねえさんを買っているとこを見られたのは恥ずかしくてああでもしかし無論今は立香様一筋です! なんでしたら今からでも…………!」
いきなり彼女が手を離す。彼女が何をするのか容易に予測ができたので慌てて止める。幸い、早めの時間に出たこともあり、周りに人目はなかった。
「危なッ⁉︎ちょっとちょっと、何やってんのゴッホちゃん…………」
「…………ハッ⁉︎す、すみません…………」
「はい、とりあえず手を繋ぎ直して、と。ゴッホちゃんの服、まだ少ないし、とりあえず服屋に行こうか」
「は、はい…………」
彼女の手を引っ張って、服屋のあるフロアへ向かう。
「ええと、ゴッホちゃんはどんな服が着てみたい?」
「そうですね…………立香様に選んでもらえるのならば、なんでも良いというのも一つの本音ではありますが…………ゴッホは、ニホンに憧れた画家である、と後世でもゴッホの記憶でも刻まれております。ですので、やはり和服に興味が…………!」
「和服かぁ。ええと…………うん、売ってるね」
店内の案内看板から、呉服店って言えば良いのかな? とにかく、和服を売ってそうな場所を見つけたので向かう。…………ゴッホちゃんは女の子だけど、甚平はどうなんだろう? 後で聞いてみよう。
「そういえば、ゴッホちゃんは浴衣と着物、どっちが良い?」
「へ? 違うものなんですか? ゴッホはてっきり、一緒のものかと…………」
「うーんまぁ、今の日本じゃ着物も浴衣も日常で着ている人は少ないからね。私もカルデアに行く前まではごっちゃになってたんだけど」
着物はまあ、普段着といっても良いだろう。今でいう洋服と基本的には変わりない。対して、浴衣は入浴後に着る服、今でいうパジャマみたいなポジションだ。まあ、涼しい外出用の服でもあるんだけど。と、カルデアで日本出身のサーヴァントと触れ合って行くうちに感じたことをゴッホちゃんに語る。
「そうなのですね…………となると、ホクサイのあれも普段着ということでしょうか?」
「まあ、そういうことになるのかなぁ? お栄さんは着崩していた気もするけど。それで、どっちにする? 個人的には、浴衣の方が楽だったけど」
「では、浴衣の方で…………ゴッホも、楽な服が好きなので…………」
「あはは…………」
うんまあ、説得力があるな、と彼女の普段の服装を思い返しながら苦笑する。
そんな話をしていると、浴衣を売っている店に着く。
「すいませーん」
「はーい、いらっしゃいませー。本日はどのようなご用件でしょうか?」
店内に声を掛けると、店員らしきお姉さんが駆け寄ってくる。
「あの、この娘用の浴衣が欲しいんですけど」
「はいはい、なるほど。…………ええと、購入ですか? レンタルですか?」
「購入でお願いします」
「はーい。でしたら…………」
店員のお姉さんが何かを探しに行ったのか、奥の方へと向かう。浴衣が似合う綺麗な人だったな、と思いながらゴッホちゃんの方を見てみると
「エヘ、エヘヘ…………綺麗なおねえさん…………エヘヘ…………」
そのまま、フラフラとお姉さんの方向に向かおうとしたので、釘を刺しておく。
「ゴッホちゃん?」
「ハウッ⁉︎ヒャ、ヒャいすみません! 決してゴッホ好みの綺麗なおねえさんだったのでゴッホのゴッホがゴッホッホしたというわけではないのですがやはり綺麗なおねえさんというのはどうにも抗い難くついつい引き寄せられてしまうものでして…………」
「反省」
「はい…………」
「全く、君って娘は…………」
「すみません…………」
「私っていう恋人がいるでしょ? よし、帰ったら罰ね」
「ば、罰⁉︎それはどのような…………経済制裁だけはご容赦を⁉︎へるぷみー!」
「なーいしょ。移り気な恋人にはお灸を据えなきゃ」
「そんなぁ…………」
と、彼女と軽くじゃれあっていると
「あらあら、随分仲が良いんですね?」
「⁉︎」
いつの間にかお姉さんが戻ってきていた。その手には、浴衣が携えられている。
「ええと、彼女さん? に似合うのはこの浴衣だと思います」
しかも動じてない。まあ助かるし良いか、とちょっと恥ずかしくなりながら彼女が持ってきた浴衣を見る。
その浴衣は白と青を基調としたカラーリングで、確かに彼女に似合いそうだ。
「試着されますか?」
「…………では、お願いします。…………あ、そのゴッホは浴衣が初めてなので…………着方を教えてもらえると」
「はい、大丈夫ですよ」
「ありがとうございます…………ウフフ…………」
「では、こちらにお願いします」
心なしかだらしない顔をしながら試着室の方へ向かうゴッホちゃんに呆れながら、店員さんの方が上手だろうししょうがない、とどうにか気を取り直す。
しばらくすると、試着室から浴衣を着たゴッホちゃんがやってくる。予想通りその浴衣は彼女に似合っていて、素直に賞賛の声が出る。
「おぉー。似合ってるじゃん、ゴッホちゃん」
「エヘヘ…………ありがとうございます…………立香様に褒めて貰えると、嬉しいですね…………ゴッホも、この色合いは好みです…………」
「ならこれを買う? 他にもリクエストがあったら遠慮なくいってね?」
「エヘへ…………ありがたい申し出ですけど、ひとまず、これで大丈夫です…………」
「オッケー。じゃあこれ一式お願いしまーす」
「かしこまりました」
ゴッホちゃんが再び試着室に行き、元の服に着替えて戻ってくる。その間に私は支払いを終わらせておく。
「あ、すいません。まだまだ回るんですけど、帰るまで預かってもらうことって出来ますか?」
「勿論大丈夫ですよ。また、宅配サービスも承っていますけどそちらをお使いになられますか?」
「あ、家は近いので大丈夫です」
「かしこまりました。では、お受け取りの際にこちらのタグを提示してください」
「はーい」
丁度話終わったタイミングで、ゴッホちゃんがやってくる。
「お待たせしました、立香様」
「よし、じゃあ次行こうか。浴衣は帰るとき受け取ろう」
「はい…………! 浴衣、楽しみです…………ウフフ…………!」
「喜んでもらえたならよかったよ。じゃあ次は…………こっちに行こう!」
その後、私達は色んな場所の服屋さんを周った。色々な服を着せてみて、ゴッホちゃんと私が気に入ったものを選ぶ。
一つ一つは少なくても、回った場所が多かったため、来た時は空っぽだった手には、たくさんの服が詰め込まれていた。流石に疲れたので、休憩がてらバーガーショップで昼食にする。
「いやー、買った買ったー。こうして回ってみるのも楽しいね、ゴッホちゃん!」
「ええ、はい…………楽しかったのですが…………その、こんなに使って大丈夫なのでしょうか…………今更ですが…………」
「大丈夫大丈夫。そりゃ毎日こんなことしてたら足りないけどね? このくらいなら平気だし、何よりゴッホちゃんの服だから、奮発しないと」
「そういうものでしょうか…………」
「そういうもんそういうもん…………おっ、このハンバーガー美味しいな…………」
「あっ確かに美味しいですね…………立香様、そちらのも一口頂けますか?」
「ん、良いよー。はい、どーぞ」
彼女にハンバーガーを差し出す。彼女はそれにむしゃぶりつくと、今度は彼女の方のバーガーを差し出してくる。
「ありがとうございました。ではこちらも、どうぞ…………」
「じゃあ、遠慮なく」
私も彼女のバーガーにかぶりつく。私は普通のバーガー、彼女はチーズがたっぷり入ったクワトロチーズバーガーだ。チーズの風味が口の中に広がって美味しい。
「ん、これも良いね、今度はこれ頼もうかな」
「エヘ、エヘヘ…………そうですね…………ゴッホも今度はそっちを…………ウフフ…………マスター様との間接キス…………」
「?」
ちょっとテンション高めなゴッホちゃんを不思議に思いながらも、お互いにバーガーを食べ終えて、バーガーショップを後にする。腕時計を見ると、時刻は午後3時近く。ちょっと早いけど、切り上げることにする。やることもあるしね…………
「よし、そろそろ帰ろうか、ゴッホちゃん」
「はい、わかりまし─────ハウッ⁉︎」
「罰、忘れてないよね?」
「は、はい…………」
「じゃあ、帰ろう」
「はいぃ…………」
帰る前に浴衣を受け取って、帰路に着く。
──────さあ、罰の時間だ。
何故こうなった