──────さあ、罰の時間だ。
家に戻り、後ろ手で鍵を掛ける。私の心はいつになく昂り、興奮している。浮気をする悪い子には、お仕置きをしなきゃ…………罰を与えなきゃ…………。昏い思考が、頭の中を満たして行く。
「り、立香様…………?」
「ゴッホちゃん…………」
「ひゃ、ひゃい…………」
「とりあえず、片付けようか!」
私は笑顔で、ゴッホちゃん用の服を収納に仕舞って行く。元々あまりモノを入れていなかったこともあり、彼女の服はすぐに収納出来た。
「よし、これで片付けは終わり、と…………」
「あ、あの…………」
「ん? どうしたの、ゴッホちゃん?」
「何卒、何卒、経済制裁だけはご容赦を…………」
「あはは、何言ってるのゴッホちゃん。そんなことするわけ無いじゃん。それに──────今のゴッホちゃんは、そんなことしなくたって、私に全て握られているでしょ?」
「ハウッ…………⁉︎」
まあ、実際に経済制裁なんてやる気はさらさら無いけど。でも、ちょっとイラッとしたからお仕置きはするよ。思い返せばカルデア時代も良く女の人にちょっかいかけてたし…………
そろそろ、私が恋人だってことをわからせないと。帰る途中に寄ったディスカウントストアで買ったモノを机に並べて行く。
「あ、あの立香様、こ、これは一体…………」
「んー? ちょっとしたお仕置きアイテムだよゴッホちゃん? まあこのくらいの安物じゃゴッホちゃんには効かないだろうけどさ。ゴッホちゃんは、そんな悪い事はしないよね?」
笑顔で彼女に問いかける。
「あ、あのゴッホが悪かったので、どうか落ち着いてください…………」
「落ち着く? 私は冷静だよ? ただ、移り気な恋人にはちょーっとお灸を据えないとなーって」
「ひ、ひぃ…………て、テオ助けて…………」
「ここにいるのは、私達だけだよ…………」
とりあえず、お仕置きの第一歩として、服を脱ぐよう命じる。
「よし、脱いだね。じゃあ、これを来て」
「はい…………」
彼女に手渡したのは、カジノなどでもよく見られる服装──────所謂、バニースーツと呼ばれる服だ。まあ、コスプレ用の安いモノなので質はそれなりだが。
「き、着ました…………」
ゴッホちゃんはいわゆる子供体型なので、小さめのサイズがぴったり似合ってる。まあ、胸の部分がちょっとめくれちゃってるけど。彼女の怯える目が、私の嗜虐心を増幅させる。
「じゃあ、次はこれをつけてくね? …………壊さないでよ?」
「は、はい…………」
そう言って、彼女に目隠しを付ける。その後、手錠、首輪と彼女を拘束し、ベッドに寝かす。
「あの、何も見えないのですが…………」
「──────これで、ゴッホちゃんは私しか感じられない」
彼女の耳を両手で包む。
「────ヒッ⁉︎立香様、一体何を⁉︎」
「…………………………」
そのまま、彼女の唇を奪う。かつてのカルデアで何度も交わしたもの。しかし、再会してから、初めてのキス。受肉してから、初めてのキス。だけど、それはキスなんて生易しいモノではなく。彼女が動けないのを良いことに口の奥まで貪り食らう。舌と舌、唾液と唾液が絡まる感触を飽きるほど貪り、唇を離す。彼女を私のものだと誇示するように、身体に印を刻んでいく。それは、とても背徳的な悦びで。
「…………立香様、もっと、もっと!」
「…………お仕置きで喜ぶ悪い兎には、もっと罰を与えないとね」
彼女の手錠を一度解き、今度は後ろ手に拘束する。そして、今度は足枷と耳栓も付ける。
「…………今度は何を、してくれるのですか?」
期待に満ちた彼女の声を無視して、バニースーツを着てるからこそ強調されるゴッホちゃんのお腹をなぞっていく。
「…………あは、あはははは! 立香様、くすぐったいです…………」
喜声混じりの悲鳴にも一切耳を貸さず、身体の各所を舐めるように触って行く。視覚と聴覚が奪われている分敏感なようで、触るたびにゴッホちゃんが身を捩る。彼女の身体を愛撫し続け、時折感覚が麻痺しないように唇を奪う。彼女の嬌声だけが響く静かな部屋の中、次の案が脳裏に閃く。ゴッホちゃんの首輪をベッドに繋ぎ、彼女の耳栓を取り、
「これからしばらく外出するけど、壊さないでよ、ゴッホちゃん? これはお仕置きなんだから」
と伝える。
「…………ひゃ、ひゃい…………」
若干震えた声で返答が返ってきたので、再び耳栓をつけて、外に出る。
例のディスカウントストアに向かう。目的のものを見つけたので、購入する。これで良いだろう、と満足したので帰宅する。
数分後。
「…………あの、立香様ですよね?」
帰宅した私の気配を察したのか、ゴッホちゃんからそんなセリフが飛び出す。彼女の声には若干怯えが混じっている。視覚と聴覚を奪われている彼女には、一度離れた私が再び戻ってきたのかどうか、確証を持てないからだろう。
「…………………………」
無言のまま、お仕置き用に買ってきたもの…………ローションというやつを、彼女の胸からスーツの中に流し込みながら、塗りたくっていく。
「ハウッ⁉︎冷たいです…………」
そのまま彼女の身体を起こして、再び愛撫する。先程よりも敏感なのか、大きめの嬌声が部屋に響く。
「…………立香様、なんですよね?」
しばらく続けていると、先程よりも怯えと困惑の強い疑問が彼女から飛び出す。
その疑問も黙殺し、笑い続けて喉が渇いただろう彼女に、水をあげることにする。ミネラウォーターを口に含み、恋人を疑う悪い口を塞ぐ。
そんなことを数回繰り返していると
「…………あ、あの、もう、やめてください…………ゴッホが、わたしが悪かったので…………ゆ、許してください立香様…………もう、耐えられません!」
彼女から悲鳴混じりの懇願が飛び出す。ここら辺が潮時だと思い、お仕置きを終わらせることにする。
彼女の耳栓を外し、無言で彼女を抱きしめる。
「──────ゴッホちゃん、愛してるよ。愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる…………だから、君を離さない。私は、一度君を失った。だから、もう一度失う事が耐えられないの。私だけを見て、とは言わない。だけど、恋人なんだから…………せめてゴッホちゃんの劣情は、全部私に向けて欲しいな」
若干歪な愛の言葉を、彼女に囁く。
「はい…………すみませんでした…………」
謝罪の言葉が出たのでこれで終わり。私も切り替える。手錠や首輪、目隠しなどを外す。
「よし! じゃあお風呂に入ろうか! 私が原因とはいえ汚れちゃったしね!」
「はい! …………エヘヘ…………立香様とお風呂…………」
さっきまで泣きそうになってたくせに、もう立ち直っている彼女に若干呆れながら、さっき帰った時に沸かしておいたお風呂に彼女と入る。
「ローションって、結構ヌメるんだね…………」
やっぱりというか彼女の身体はヌルヌルで、洗うのに少し手間がかかる。
「そうですね…………でも、ゴッホ的にはいつもの感じでちょっと親近感…………それに、立香様が洗ってくれるからプラマイならむしろプラス…………エヘヘ…………」
「こーらっ。全く、お仕置きのつもりだったのに…………」
「ハウッ…………そ、その、あのお仕置きは嬉しい面もありましたが、本当に怖かったので、どうか許してください…………ゴッホにとっても、貴女を失うことは筆舌に尽くし難く…………ゴッホだけに」
「…………………………」
お仕置きの効果が無かったかな、と半目で見ていると
「エヘヘ、ゴッホジョーク…………あ、でも、立香様と離れたくないっていうのは、本当ですよ?」
「…………まあ、なら良いか」
一応あったようなのでヨシとする。そのまま彼女の身体を洗い続けたら、どうにかローションが取れたので、ついでに頭も洗っていく。なんかちょっと親戚の子供を洗っているようだった、というのは胸に秘めておこう。
「はい、洗い終わったよ、ゴッホちゃん」
「ありがとうございます…………ウフフ…………では、次はこのゴッホが!」
「お? じゃあお任せしようかな」
どうやら彼女が洗ってくれるらしいので、立ち位置を入れ替える。丁寧に洗ってくれるので、ホッと一息付いてると、
「⁉︎」
突如走る違和感。身体を見下ろすと、見覚えのある触手が身体を這い回ってる。
「…………ゴッホちゃん?」
振り返ると、彼女は海月の姿に変わっていて、
「エヘ、エヘヘ…………その、ゴッホの愛欲を全部ぶつけても良い、とのことでしたので…………我慢しきれず、つい…………」
「…………えっち」
若干非難を込めた視線を送る。
「ハウッ…………」
ゴッホちゃんが手を止める。
「…………しないの?」
今度は、期待を込めた視線を。
「! …………エヘ、エヘヘ…………遠慮なく、行きますよ…………! 後悔しても、遅いですからね…………!」
こうして、デートのつもりだった一日は、嬌声に塗れて過ぎていった。
今日は、色々あった。まず、憧れのニホンの文化である浴衣を筆頭に、色々な服を買ってもらった。良いインスピレーションに繋がるだろう。
…………うっかりいつもの悪癖が出て、お仕置きされてしまったけど。良い思いも出来たけど、怖かった。わたしにとって彼女はネモちゃんと同じようにわたしを繋ぎ止めてくれた救世主で、どこかのキモい邪神よりよっぽど畏敬、敬愛、忠義…………様々な愛を捧げる対象だ。そんな彼女がわたしの前からいなくなるのは、想像するのですら筆舌に尽くしがたい。
…………だけど、彼女の本音が聞けた。最後に囁かれたあの愛の言葉はわたしの奥に響き、刻みつけられた。あの言葉をわたしは忘れない。…………だって、わたしだっておんなじだもの。もう貴女を離したくない。だから──────水底に連れていく。
彼女はわたしの愛欲を全て受け止めてくれた。わたしの独占欲も、劣情も、醜い欲望を何もかも。ああ、そんな貴女は、いえ、そんな貴女だからこそ…………不幸にもこの水怪の花婿に、見初められてしまったのです。
貴女の未来はもう、わたしのもの。いつか一緒に、海の底へ還りましょう──────
(ベッドにバスタオルは敷いてます)