ヴィンセント・ヴァン・ゴッホはグーピル画商に勤める後キリスト教の伝道師をしようとしてたとか(首になったらしいけど)
訂正
出会い
──────この街には、教会がある。
最大手の十字架教の教会じゃあない。どんな教義かはわからない。どんな主を奉っているのかもわからない。ただ、街の外れに寂れた聖堂があるだけだ。昔からそこにあることは知っているけど、誰も中身を知らない。
わからないだらけの怪しい教会だ。そんな教会に、今日も私は通っている。
「お邪魔しまーす! ゴッホちゃーん!」
「あ…………エヘヘ、いらっしゃいませ…………立香様…………」
彼女に、会うために。
きっかけは、偶然だった。
あれは確か…………そう、友達との予定が突然延期になって暇になったので、部屋でダラダラしていた夏休みの時。
「ひーまーだーなー」
ゴロゴロ、ゴロゴロと特に何をするでもなく転がりながら冷房の効いた自室で寛いでいると
「立香ー?」
母親に声を掛けられる。
「なーにー?」
「悪いんだけど、今日殺虫剤焚くから外に行ってくれない?」
「えー? いきなりそんなこと言われても困るんだけど」
「だって、今日立香友達と遊びに行くと思ってたし…………」
「う…………」
それを言われると弱い。
「まあまあ、ほんの数時間くらいだから」
「…………しょうがないなぁ」
こうして、私は冷房の効いた部屋から炎天下の青空に放り出された。
「あっついなぁ…………どうしよっかなー…………」
ミンミン、ミンミンと蝉の鳴く声が五月蝿い。
外に放り出されたは良いが、やることがない。
金なし(正確には友達と遊ぶ用のお金はあるけど)、時間ありの学生に、一人で何をしろと言うのか。
「図書館…………は冷房壊れてたからパス。プール…………は水着持ってないし。美術館…………ちょっと高い!」
手頃に行ける涼しそうな場所をあげてみるも、見事に今日の私には合っていない。商店街か何かで冷やかしでもしながら涼もうかと思ったが、人が多そうなのでやめておく。今は人混みにいたくない。余計に暑くなる。
しばらく考えていると、ふと思いつく。
「あそこの教会なら、もしかして涼しいかも…………?」
街の外れに寂れた教会がある。結構古い建物で、少なくとも30年前からあるとか。古いけど整備されていて、怪談とかでよくある廃病院みたいに管理する人がいなくなった、わけでもないらしい。ただ、誰も詳細を知らない。そこにあることを知っていても、誰も興味を持たないのだ。
「…………ちょっと面白そうかも」
涼む場所を探す、という不純な動機だが教会に興味が湧いてきた。別にお金もかからないし、見るだけ見てみようと、教会に向かうことにした。
自転車で30分ほど走っただろうか。
「へー、こんな感じなんだ…………」
私は無事に教会に着いていた。
話には聞いていたけど、自分で見るのは初めてだ。若干圧倒されながら、教会を眺める。教会は古さを感じないしっかりとした外見で、荘厳さのようなものを醸し出している。大きな正門があり、その門は開かれている。
「あ、営業時間とかあるのね…………」
よく見ると、門に小さく看板がぶら下がっていて、そこには教会に入って良い時間が記されていた。まるでお店のようだな、と小さく笑う。
中に駐輪場もあるらしく、とりあえずそっちに向かって自転車を押して歩く。
自転車を停めて、入り口の方に向かう。
ドアにはノッカーもベルもなく『ご自由にお入りください』と紙が貼ってある。
「じゃ、遠慮なく」
ドアを開ける。鍵などはかかってなく、すんなりと中に入ることが出来た。入ってすぐに、花の香りが漂っていることに気づく。
「良い匂い…………」
花の匂いは強すぎず弱すぎずちょうど良い強さに保たれていて、不快感を与えない。同時に、外よりも涼しいことに気づく。
「あ、涼しい」
冷房などを使って人工的に涼しくした、というよりは建物が涼しくあるように作られている、と言った感じだ。自然な涼しさ、と言えば良いだろうか。
とりあえず最初の目標の涼しい場所に行く、は達成できたなと思いながら教会の中を歩く。
「誰かいるかな…………」
どうせなら、この教会がどんな教義なのかを聞いてから帰ろうと思い、人を探すことにする。教会の中は結構広く、色々な部屋がある。
歩いていると、地図を見つけたのでそれで当たりをつけることにする。
「…………ええと、とりあえず聖堂? に行ってみたら何かわかるかな…………」
今いる場所から奥に行ったとこに聖堂? があるみたいだ。聖堂? なのは私のイメージから勝手にそう思っただけで、地図に書いてあるわけではないから。
しばらく歩いていると、目的地であろう聖堂? に辿り着く。
「誰かいますよーに…………」
そう思いながら静かにノブに手をかける。こちらも鍵はかかっておらず、抵抗なく扉が開く。
扉の先には──────
「──────」
綺麗な、女の子がいた。
彼女はシスター服? を着ている。恐らくここのシスターか何かだろう。
彼女は絵を描いている。その顔は真剣で、声を掛けてはいけないと思うほどに絵に集中していた。
だがそんなことはどうでも良い。
私は彼女に──────見惚れていた。
絵を描く彼女は美しく、まるで一枚の宗教画のよう。
そんな美しさに見惚れて、身体は動くことを忘れてしまっていた。
どれほどそうしていただろうか。
やがて、彼女が筆を置く。絵が完成したらしい。
そして───────私と、目があった。
「ハウッ…………」
「…………………………あ」
彼女の声に、思わず口から声が漏れる。そして、思考が意識を取り戻す。
「だ、誰ですか貴女…………も、もしかして泥棒…………? け、警察呼ばないと…………!」
彼女は明らかにこちらを警戒した目で見ていた。無理もないと何処か他人事のように思いながら、電話を取り出した彼女を見て慌てて弁明する。
「わー! 待って待って! 泥棒じゃないから警察は呼ばないでー!」
これが、私と彼女──────ゴッホちゃんとの出会いだった。
「…………では、貴女は納涼がてらこの教会に見学に来たと」
「はい…………紛らわしいことをして、すみませんでした…………」
聖堂の床で正座しながら謝る。彼女は若干呆れた目をしながら、私を見下ろしていた。というか、口調が違うような…………
「…………ですが、何故この教会に? こんな寂れた教会に来ても、良いことはありませんよ? ご利益なんてないですし、むしろ…………」
「むしろ?」
「…………いえ、なんでも」
若干苦虫を噛み潰したような顔をしながら彼女が言い淀む。なんだろうと思っていると、
「…………ところで、貴女の名前は」
名前を聞かれる。そういえば名乗ってなかったなと思いながら答えることにする。
「…………藤丸、立香です」
「藤丸、立香。では立香様と…………立香様、何故この教会に興味を持ったのですか?」
「ええと…………暇だったから?」
素直に答えると、余計に呆れた顔をされる。
「…………はぁ。まあ来たものはしょうがないですね…………大して役に立つとも思えませんが」
「この教会がどんな場所か教えましょう。わたしはゴッホ。…………………………一応、この教会唯一の人間で、シスターだったり神父だったりします」
それから、彼女にこの教会について教えてもらった。この教会は花の神? を奉る教会で、花に関する宗教らしい。なんでも、いずれ来る穏やかな終わりのために備えようだとか──────正直、中身はどうでも良くて、私は彼女に見惚れていただけだけど。…………ただ、終始苦虫を噛み潰したような顔をしていたのが気になった。
「──────これで、この教会に関することは伝え終わりました。どう、でしたか?」
「…………えっと、よくわかんなかった、です…………」
素直に答える。実際、彼女の顔しか記憶にない。また呆れらる、と思ったけど。
「───────ぷっ。ウフ、ウフフフフフ…………」
彼女は、笑っていた。実に楽しげに。
「あ、あの…………?」
何かカンに触ってしまったかと思い、つい声が漏れる。
「ハウッ…………いえ、なんでもないです、失礼。…………他に、何かありますか?」
「あ、じゃあ…………絵を描くの、好きなんですか?」
彼女に質問を促されたので、絵を描いていたことについて聞いてみる。
「ハウッ…………もしかして、見ていました?」
「? はい、描き終わるまでしばらく見てましたけど…………」
「…………………………」
彼女は、面食らったかのように止まってしまった。
「ゴッホ、さん?」
しばらく見ていると、ぎこちない動きでこちらに背を向ける。そして
「きょ、今日はこの辺で! 失礼します!」
そう言うと、彼女は逃げてしまった。
「えー…………」
一人残され、どうすれば良いかわからず、途方に暮れる。
「とりあえず、帰ろうかな…………」
時計を見ると、そろそろ夕飯の時間だったので一旦帰ろうと思い、聖堂を後にしようとする。
その時、彼女の絵が目に入る。どうやら忘れて帰ったらしい。
その絵には、大輪の向日葵が描かれていた。
「…………綺麗」
その言葉しか、浮かばなかった。明るい色彩で塗られた向日葵は美しく、まるで太陽のよう。時間も忘れてしばらくその絵を見つめる。
「…………はっ。帰らないと」
あたりが暗くなっていることに気づき、急いで聖堂を後にする。
「…………………………」
私を見つめる視線には気づかずに。
──────今日、ここに来てから初めて人が来た。
ちょっと変わった人。見学に来たっていうから渋々あのキモい神の話をしたけど大して聞いていなかったのは面白かった。ある意味傑作だ。
…………まあ、ちょっとその後醜態を晒してしまったけど。まさか絵を描いていたのを見られてたとは。何故だか恥ずかしくて逃げてしまった。…………教会と関係ない人に見られるなんて、久しぶりだから。
…………ああ、でもそんな恥ずかしいなんて感情も、しばらくしたら吹き飛んでしまった。
だって──────
「…………また、来て欲しいですね、ウフフ…………」
教会パロという謎の概念
某所でもらったアイデア
続きます。