狂気的な恋   作:96963

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テンション高くて出来ちゃった
短め


単発
誓い


 季節は夏。

 ゴッホちゃんと再会してから何年巡だろうか、長い時間を彼女と過ごしてきた。今日こそ私は──────彼女にプロポーズする。例え誰にも認められなくても、私は彼女とずっとずっと一緒にいたい。どこまででも着いて行きたい。その思いの丈を、彼女に伝えよう。やっぱり気持ちは、言葉にしないとね。身の回りのものを整理し終えて、準備を終える。きっと、戻ることはないから。

 

「立香様、準備できましたー!」

 

「うん! こっちも出来た、今行くよ、ゴッホちゃん!」

 

 ゴッホちゃんと一緒に車に乗り込む。

 眩しい太陽が、私達を照らしていた。

 

 

 

 車を走らせて、目的地に向かう。目的地は海。ゴッホちゃんが海に行きたいらしいので、じゃあ旅行にちょうど良い、と私達が持っているプライベートビーチに向かうことにする。あの受肉の再会から数年、ゴッホちゃんはゴッホの再来と呼ばれるほど世界的な画家になっていて、今や彼女の絵には億はまず間違いなく下らないほどの値が付く。例えばそれが、下書きだとしても。それだけ稼いでるからこそ、プライベートビーチを買うことも容易かった。最も、ゴッホちゃんは依頼の絵を描くのに、私はそのマネージャーをするのにかかりっきりだったから、行くのはこれが初めてなんだけど。まるで、新婚旅行みたいで心が躍る。

 

「楽しみですね、立香様!」

 

 向日葵畑に似合う大きな麦わら帽子を被った助手席のゴッホちゃんが楽しげに笑っている。その笑顔を見ると私も吊られて笑う。

 

「うん、楽しみだね、ゴッホちゃん! …………思えば、ここまで長かったなぁ」

 

「そうですね…………」

 

 お互いに過去を懐かしむ。始まりは、ゴッホちゃんが描いた一枚の絵だった。ゴッホちゃんが趣味で描いていたものだけど、知らぬ間にネットを通じて何かの賞に応募していたらしい。その賞をきっかけに彼女の絵は世間に知られて、やがてかつてのヴァン・ゴッホに並ぶ名声を獲得していた。その過程でゴッホちゃんに絵を依頼する人も現れ、人見知りなゴッホちゃんの代わりに私が応対することが増え、気づけば私もゴッホちゃんのマネージャーとして世間に知られるようになった(ゴルドルフ新所長には、後始末で死ぬほど怒られた)。その日々は刺激的で楽しい時間だったけど、慣れないスケジューリング、振り込まれる膨大なお金の管理に終われて、ゴッホちゃんと長い間二人きりで過ごすことが出来なかった。だから、今日の旅行はお互いにとても楽しみにしていた。ゴッホちゃんが画家として活動するようになった時に建てた計画。『一緒に二人きりの海に行こう』という、ささやかな計画。

 

「いよいよ、ですね…………たくさん遊びましょうね、立香様!」

 

 彼女の言葉に思考が引き戻される。

 

「うん! ようやく二人きりになれたんだから、うんと遊ぼう!」

 

 そのまま車を走らせていると、港に着く。私達のプライベートビーチはこの先にある。

 私達のプライベートビーチ──────買い取った無人島への船に乗る。

 しばらく船に揺られると、目的地の島に着く。

 船は雇った外部の人で、一旦港に戻る。数日後、また迎えに来る手筈になっている。つまり…………数日間、この島には私達二人きり、ということだ。

 

「…………お船、行っちゃいましたね、エヘヘ…………」

 

 船を見送りながらゴッホちゃんが笑う。

 

「…………うん」

 

 万感の思いを込めて返答する。

 一歩ずつ、一歩ずつ。別れを告げるように島の奥に歩んでく。

 島の奥にはゴッホちゃんと一緒に過ごすためのコテージがある。

 

「とりあえず、着替えようか」

 

「はい!」

 

 持ってきた水着に着替える。カルデアで着ていた水着とあまり違いはないけど、成人してから着るのは初めてだから、ちょっと恥ずかしい。

 ゴッホちゃんは…………競泳水着みたいなデザインの水着を着ている。言い方は悪いけど、凹凸の無い彼女の体型にはとても良く似合っている。まるで、海月みたい。

 

「ウフフ、立香様と来る初めての海…………!」

 

「似合ってるね、ゴッホちゃん」

 

「ハウッ、ありがとうございます…………! 立香様も、よく似合ってらっしゃいますよ?」

 

「あはは、ありがとう」

 

 ゴッホちゃんの賞賛を受け取り、お互いに海に向かう。

 眩しい太陽が降り注ぐ中、海で遊ぶ。

 ゴッホちゃんはやっぱり泳ぎがうまくて、見惚れるくらい綺麗な泳ぎだった。

 砂浜で遊びながら、1日が過ぎていく。

 そして、夕方。

 

「遊んだねー」

 

「ええ、遊びましたね…………だけど、立香様にとっては、ここからが本番なのでしょう?」

「…………あは、バレちゃってた?」

 

「はい、バレバレです、エヘヘ…………」

 

「…………なら、隠す必要もないね」

 

 ドキドキする。胸が高鳴って鼓動が速くなる。でも、この言葉を伝えなきゃ。

 

「ゴッホちゃん…………改めて言うね」

 

「はい」

 

「ずっと、ずっと…………私と一緒にいてほしい。この星が、終わっても」

 

「エヘヘ…………喜んで! …………では、わたしからも」

 

「ゴッホちゃんも?」

 

 彼女も何か企んでいたらしいことに驚きながらも納得する。

 

「はい、ここでは場所が悪いので…………立香様、お手をどうぞ」

 

 いつもと違い、彼女から手を差し出される。私は迷いなくその手を握る。

 

「貴女に、水怪の加護を…………では、参りましょう」

 

 私達は、砂浜を進んでいく。その歩みはやがて海へと続き、少しずつ私達は海の中に入っていく。やがて、完全に海に沈んでいく。

 

「わぁ…………」

 

 海の中には、とても幻想的で狂気的な──────道が広がっていた。それはまるで、バージンロードみたいで。

 

「エヘヘ、ゴッホらしく描かせていただいきました…………! 貴女様のためだけに描いた、式場です!」

 

 彼女と一緒に、彼女が描いた道を歩いていく。その道は海の奥深くに繋がっていて、傍目から見たら私達は沈んでいるのだろう。でも、その道先は暗くない。むしろ輝いている。期待に満ちた足取りで私達は底へ向かう。

 たどり着いた先は──────とても昏く眩しい月。

 

「ここが底です、立香様」

 

 彼女が語りかける。

「貴女はもう、わたしのもの。貴女は、ずっと、ずーっとここでわたしと暮らすのです。良いですね?」

 

「…………もちろん。私の何もかもを、君にあげるよ」

 

「…………エヘヘ」

 

 十字架はなく、鐘はなく、祝福するものはなく。あらゆるものが歪んだ冒涜的な式場で、私達は誓う。

 

「わたしは貴女様の永遠の僕にして、貴女様の主」

 

「私はずっと君のマスターで、君のモノ」

 

 永遠を謳う愛の言葉には程遠い、主従契約のような言葉と共に、誓いは成された。

 昏く明るく眩しい全てが矛盾した狂気の空間で、二人ぼっちになった私達は、愛を積んでいく。

 

 これが、終わり。

 

 

 

 

 

 

『本日未明、行方不明になっていた世界的芸術家のクリュティエ氏と、そのマネージャーである藤丸氏の捜索が打ち切られました。彼女達はクリュティエ氏所有の無人島へ訪れた後、消息が掴めなくなっていましたが、本日、クリュティエ氏及び藤丸氏の自宅から遺書のようなものが発見され、無人島での心中自殺だと判断されたとの発表です。今後は彼女達の捜索ではなく遺体捜索に切り替える方針とのことです──────』

 

 

 

 

 

 やった。やった。ようやく立香様が手に入った! わたしは喜びに打ち震えている。彼女の告白。ニンフに陸上とはいえ海でその言葉を、愛を囁くことは即ち水底に引き摺りこまれることに同意したということだ。伝承に曰く。アルゴノーツの一員にしてヘラクレスの従者にヒュラスという男がいる。ヒュラスは美しい青年であった。それ故に、ヒュラスが水を汲むために偶然通りかかった泉のニンフ達はヒュラスに魅了され、彼を泉の中に引き摺り込んでしまったという。その後、ヒュラスは水底でニンフの花婿になった。という伝承だ。きっと立香様はその伝承を知っていたのだろう。だから、わたしにあそこで告白をした。

 これにより、わたしは彼女を簡単に花婿、そして花嫁に出来てしまった。せっかく色々考えていたのに。

 でも、そんな小さな不満も吹き飛んでしまう。だってだって、これからは永遠に一緒だもの。新しい画家としての日々は、楽しかったけどストレスだった。いつも誰かの邪魔が入る。でも、この海なら。誰にも邪魔されず、二人きりでずっと好きな絵が描ける。時間はいくらでもあるのだから。

 

 わたしは貴女の永遠の僕。いつまでも、いつまでも、貴女のお側に──────




ターンエーポジション
現パロ以外の全てのルートの理想的終着点はここなイメージで描いてます
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