狂気的な恋   作:96963

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久しぶりの全年齢
単発だけど誓いの方を読んでもらう前提だったり



信頼

───────カルデア、ある日の午後。

 

「・・・・・・・・・ハァ」

 

本日はなんとなくコーヒーでも飲もうとひとり食堂でコーヒーブレイクがてら軽食を摘んでると、疲れた声で溜息が聞こえた。

見ると、立香様が食堂に入って来たみたいだ。

 

「立香様?」

 

こちらは彼女にとっての死角になっているので声をかける。

 

「・・・・・・あ、ゴッホちゃん」

 

彼女が振り向く。その顔はとても疲れていて、今にも倒れそうだ。

 

「・・・・・・その、大丈夫ですか?」

 

思わず心配になって聞いてみる。きっと、彼女のことだから返答は決まっているのだろうけど。

 

「・・・・・・・・・・・・まぁ、大丈夫だよ。ちょっと疲れただけ」

 

予想通りの返答。正直そんな顔で言われても心配になるだけなのだが。彼女の目には深い隈があり、どうやら眠れてないということがわかる。

 

「・・・・・・あの、ここ座りますか?空いてますよ?」

 

ちょっと放っておけないので近くの席に座るように促す。幸い、食堂にはわたしと立香様、厨房のエミヤ様以外いない。咎められることはないだろう。

 

「ほんと?じゃあ遠慮なく。エミヤ〜、コーヒーお願い〜、ブラックで〜」

 

そう言って立香様がわたしの正面に座る。それにしても

 

「・・・・・・今の立香様にコーヒーはお身体に悪いのでは・・・・・・」

 

彼女の顔は見覚えがある。休めていない人間のそれだ。そんな人間にコーヒーは、素人目にもいささか以上に良くないのではないだろうか。そんな考えが頭をよぎる。

 

「平気だって。それに、コーヒーでも飲まないとちょっとね・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

小さく嘆息する。

立香様は態度こそ気丈だが、明らかに弱っている。しかし、それを指摘したところで素直に認めるような方ではない。むしろ悪化するタイプな気がする。

 

「・・・・・・では、お話でもしましょう。多少気を紛らわすことが出来ると思うので」

 

なので、他愛ない世間話をすることにした。今の彼女は疲れている。世間話でもしていたら、口が緩んで今彼女が疲れている理由でも聞けるだろうと思いながら。

・・・・・・余裕のない時の心というものは、張り詰めているように見えて緩んでいるものだから。

そう、ゴッホの記憶が言っている気がした。

 

「・・・・・・でね、ちょっとキツいなーっていうか・・・・・・」

 

「・・・・・・はい、そうですね・・・・・・」

 

話を聞いてみると、あっさりわたしの思惑通りになった。かなり疲れているようで、軽い世間話から始まったものが、次第に彼女の愚痴へと変わっていく。狙い通りだ。

曰く、どうやらここ最近、微小特異点の多発やカルデアでのサーヴァント同士の小競り合いなどの仲裁に追われていたせいで碌に休息が取れてないとか。

幸い、それらの仕事は全て終わったのだが、忙殺された環境で過ごしたため、いざ休もうとしてもなかなか休めないとか。

まあ、彼女はカルデア唯一のマスターであるし、他人に頼れないとこもあるのだろう。それこそ、マシュ様にすら。

あるある、とゴッホの記憶が喋った気がする。はて、ゴッホの生涯において今の立香様のような日々があっただろうか・・・・・・

グーピル画商の日々だろうか。いやこれは違うだろう。・・・・・・グーピル画商を思い出すと、態度がクソ罪で解雇された嫌な記憶に繋がるのでここまでにしておこう。

ただ、グーピル画商で思い出した。激務というわけではないが、追い詰められていた時期。

『星月夜』を描いた時ではない。そのもっと前。わたし(ヴァン・ゴッホ)が、道を追い求め、勉強していた時。夢破れ、放浪の旅を経て家に帰った時。

・・・・・・ヴィンセント(かれ)が絵を描く前にして、グーピル画商を辞めた後の話だ。あの時、ゴッホ(わたし)は世間的に見れば奇行にしか見えない自罰を繰り返していた。

・・・・・・きっと、その時の心境に近いのだろう、今の彼女は。

どうしたものかと考える。記憶の上ではそこから多少は立ち直った経験がある。が、あいにくとわたしの記憶は借り物でわたし自身のものじゃない。だから、彼女の心労を取り除くための方法がわからない。

──────ふと、あの海の記憶を思い出す。ああ、そうか。そうすれば良いのか。

解決の道筋が見えたその時。

 

「盛り上がっている所が悪いが失礼する。注文の品だ、立香」

 

と、エミヤ様からコーヒーが渡される。

 

「あっ、ありがとうエミヤ・・・・・・ゴッホちゃん、ごめんね?なんだか愚痴になっちゃって。これ飲んだら帰るからさ」

 

「いえ、ゴッホは別に・・・・・・」

 

口ではそういうものの、エミヤ様の横入りが入ったせいで緩んだ糸が張り直されたことに内心舌打ちをする。これでは振り出しだ。

どうしようか内心頭を抱えると、ゆらり、と立香様が倒れる。

 

「わわっ・・・・・・」

 

慌てて立香様を支える。

 

「りっ・・・・・・」

 

慌てて大声を出そうとすると、褐色の手に口を塞がれる。

後ろを振り返ると、エミヤ様が苦笑しながら口を塞いでいた。

訳がわからず硬直していると、すーすーと音がする。

視線を戻すと、立香様がかわいらしい寝息を立てて眠っていた。

 

 

「・・・・・・では、立香様を無理矢理休ませるために一服盛ったと」

 

「ああ。最近彼女のバイタルが荒れているのは傍目にもわかっていたからね。無論ダ・ヴィンチ達にも許可を取っている」

 

とりあえず立香様を椅子に寝かせて、エミヤ様に訳を聞く。確かに無理矢理眠らせるというのは一つの手段だろう。

 

「さて、私は厨房の仕事があるのでそろそろ戻ろう。だから、立香を部屋に連れて行ってくれるかな、ゴッホ?」

 

「・・・・・・わかりました。でも何故ゴッホに?」

 

「ふむ。まぁ近くにいたというのもあるが・・・・・・キミも私と同じことをしようとしたように見えたのでね」

 

「・・・・・・・・・・・・それは」

 

「おや、違ったかな?」

 

「・・・・・・いえ」

 

見透かされたことが恥ずかしく、ついぶっきらぼうな返事になる。

 

「では、頼んだよ」

 

そう言って、厨房の方にエミヤ様が去っていく。

 

「えっと・・・・・・」

 

一人残されたわたしは、どうやって立香様を運ぼうかなと、しばらく悩んだのだった。

 

 

どうにかして、誰にも気付かれず立香様の部屋にたどり着いた。

ベッドに立香様を運び、寝かせる。

眠っている彼女の顔は安らかで、先程までの疲れた顔とは別人のよう。

 

「──────どうかゆっくり、おやすみください」

 

どうか彼女が休めるようにと、そっと彼女の頬に唇を落とす。

安らかな彼女の顔を尻目に、スケッチブックを取り出し時間を潰す。

静かな時間が流れていく。カチコチ、と針が文字盤をなぞる音が聞こえるのみだ。

長い針が、何周かした頃だろうか。

 

「ん・・・・・・・・・・・・」

 

彼女の声が聞こえる。どうやら、目が覚めたらしい。

 

「お目覚めですか、立香様」

 

スケッチブックを閉じる。

 

「ゴッホ、ちゃん・・・・・・あれ、ここ、私の部屋・・・・・・」

 

「はい。食堂でお眠りになられたので・・・・・・ここまで、運ばせていただきました」

 

「そう、なんだ・・・・・・」

 

「・・・・・・その、迷惑でしたか?」

 

「・・・・・・ううん、全然。ありがとう、ゴッホちゃん。こっちこそごめんね、気を遣わせちゃって」

 

そういう立香様の顔からは多少疲れが取れていたが、元気かと言われたら答えはノーだ。そんな状態なのにこっちを気遣ってくる彼女は、その痛々しい。

 

「・・・・・・立香様」

 

「ん?」

 

「入っても、良いですか?」

 

「?うん、良いけど・・・・・・」

 

立香様に許可を取ったのでベッドに乗り込む。そして、彼女の頭を胸に抱くように抱き締める。

 

「ゴッホちゃん、何を・・・・・・」

 

「立香様」

 

「・・・・・・・・・・・・何かな」

 

「無理をしなくても、良いんですよ」

 

「私は、無理なんて・・・・・・・・・・・・」

 

「はい。人類最後のマスターである貴女の肩には、重い荷物が乗っているのでしょう。無理を許容するほどに」

 

「・・・・・・うん。でも」

 

「わかっています。同情されたい訳ではないんですよね?貴女にとってその道は、きっと輝くもの。だから、そこには何も言いません。・・・・・・・・・・・・ですが」

 

「重い荷物を背負っているのですから、余分な荷物はゴッホ(わたし)に押し付けても良いんですよ?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

「些細なことで頼って良いんです。力を抜いて良いんです。少なくなくともわたしは──────貴女のために、あの海から落ちてきたのですから」

 

ほんとはうっかり落ちてしまったのだが。言わぬが花というやつだ。

 

「・・・・・・・良いのかな」

 

「ええ、もちろん。それに・・・・・・・ゴッホは生前、多くの人に迷惑をかけたんですよ?なら、立香様に迷惑をかけられても、きっとそれ以上にかけてしまうでしょう!ですので、大丈夫です!」

 

「あはは、何それ。めちゃくちゃだよ、ゴッホちゃん。・・・・・・・それなら、迷惑かけちゃおうかな」

 

「はい。存分にどうぞ!」

 

「じゃあ、まず・・・・・・・一緒に寝て欲しいな」

 

「はい!・・・・・・・へ?」

 

予想外の言葉に面食らう。

 

「ダメ、かな・・・・・・・?」

 

不安気な瞳で彼女が見返してくる。

答えは、当然。

 

「──────いえ、喜んで!」

 

その日からわたしは、立香様としばしば一緒に寝るようになった。

 

 

──────ゴッホの記憶。追い詰められたゴッホは、自罰的な行動を繰り返していた。両親にも見放された。夢である伝道師にはなれず、失意のまま放浪した。

そんな彼が画家として出発出来たのは、ひとえにテオのおかげだ。テオの献身が、画家の彼を造り上げた。・・・・・・・正直、テオにも苦言を言われた時は辛かったけど。

 

──────わたしの経験。あの邪神の思惑通り、花開こうとした時、貴女とキャプテン・・・・・・・ネモちゃん達に救われた。邪神の尖兵としてつぎはぎされたわたしを、貴女達は掬いあげてくれた。名乗りたい名を名乗って良いと教えてくれた。

 

だから、今度はわたしが返す番だ。誰かに頼ってばかりのわたしだけど・・・・・・・貴女の荷物を、背負えるように。

 

 

 

 

 

 

──────どこかの海の底。

 

 

「──────そう言えば、そんなこともあったねぇ」

 

海の底で月を眺めながら、横にいるゴッホちゃんに語りかける。

 

「はい。懐かしいですね・・・・・・・」

 

「あの時さ。ゴッホちゃんがああ言ってくれて、嬉しかったんだ」

 

「あの時は・・・・・・・先輩としてマシュにカッコつけたいって思ってて、結構一人で抱えてたから」

 

「その荷物を、受け止めてくれてありがとう、ゴッホちゃん」

 

「いえ・・・・・・・わたしがそうしたかっただけですから・・・・・・・」

 

「・・・・・・・ふふ」

 

ゴッホちゃんの手を握る。

 

「これからも、ずーっと一緒にいようね、ゴッホちゃん!」

 

「・・・・・・・はい!」

 

 

 

 




調べるほどやばいエピソード出てくるのなんなんだヴィンセント・ヴァン・ゴッホ
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