狂気的な恋   作:96963

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珍しくカルデア時空
時系列バレンタイン後
珍しく健全


食事

──────わたしの中に炎が走る。

水怪なのに炎はどうなのだろうか、とも思うが身体を蒸発させんばかりの熱量を持つ情念は、情熱の炎という以外呼びようがないだろう。・・・・・・・それに、ゴッホ(わたし)は炎の画家とも呼ばれているらしい。だったら、この熱はきっと炎なのだ。ゴッホ(わたし)わたし(ゴッホ)なのだから。一度燃えた炎は止まらず、一つの命令を脳髄に叩きつける。わたしの全霊でもって、我がマスター、立香様に究極の献身を捧げろと。

そう、このバレンタインに!

・・・・・・・そう思って、バレンタインのために厨房の皆様や、(タラスク)を従える聖女様に助力を乞うたのだが。

結果は、なんとも言えないものに終わった。

我が主である立香様にわたしの描く究極の献身を捧げるという点では失敗と言える。立香様はわたしを食べてくれなかったから。

しかし、バレンタイン的には成功と言えるだろう。わたしのバレンタインの贈り物で立香様は喜んでくれたし、彼女の笑顔を見ることが出来たのだから。

・・・・・・・まあ、その後耐えきれなくなって醜態を晒した気がするが、忘れよう。

 

「・・・・・・・足りない・・・・・・・足りないぃ〜・・・・・・・」

 

そんな言葉が無意識に内から漏れ出る。

そう、足りないのだ。

立香様の笑顔が見れたことは嬉しい。しかし、わたしを食べては貰えなかった。それが、どうしても物足りない。しかし立香様が食べなかった以上無理やり迫るのは彼女にとって迷惑だろう。彼女に迷惑をかけるのは忠臣(自称)であるわたしには避けるべきことで。

 

「・・・・・・・どうしましょうか・・・・・・・」

 

食べてもらいたい。迷惑はかけたくない。食べてもらうことは迷惑がかかる。矛盾する感情に板挟みになる。悶々とした気持ちを抑えられず、ベッドをゴロゴロと転げ回る。

 

「・・・・・・・あ」

 

転げ回った末、ある本が視界に入る。その本は・・・・・・・所謂、恋愛系の書物だ。図書館から借りてきたもので、うっかり返すのを忘れて本棚に突っ込まれている。・・・・・・・・・・・・・・ゴッホにしろクリュティエにしろ、わたしを構成(つく)るものは恋に狂って醜態を晒した逸話がある存在達だ。真実かどうかは置いといて。・・・・・・・まあ、つまり。わたしはどっちであろうとも恋愛に疎い、いや大きな失敗をしてるから自信がないサーヴァントで。チョコを贈る時に抱いた不安な気持ちを紛らわそうと、読んだものだ。内容はまあ普通の恋愛指南本だったのだが。

 

「・・・・・・・胃袋を掴め、いや胃袋で倒せ、でしたっけ?」

 

そんなありきたりの文言。情熱に燃えていたわたしには、特に気に止めなかった言葉なのだが(無論、立香様に送ったチョコはわたしの精一杯を込めたチョコで、妥協はない)・・・・・・・今は不思議と心に響く。

 

「・・・・・・・そうです。そうですね!胃袋を掴めば良いんです!ああ、なんでこんな簡単なことに気づかなかったのでしょうか!」

 

それは天啓のようだった。良い題材を思いついた時のように。

 

「ゴッホを食べてもらうんじゃない、立香様が食べるんです!」

 

そう、迷惑じゃなければ良いのだ。つまり、自発的にわたしを食べて貰えば良い。そのためには、立香様の胃袋を掴むことが必要だ。しかし、問題点に気づく。

 

「・・・・・・・でも、どうしましょうか・・・・・・・立香様の胃袋を掴むと言っても、カルデアには料理上手の方が沢山いらっしゃいます・・・・・・・」

 

そう。カルデアには、わたしが教えを乞うた方以外にも、多くの料理上手なサーヴァントがいる。わたしも料理が出来ないわけではないが、その方達と比べてしまうと・・・・・・・

 

「・・・・・・・いえ、考えても仕方ありませんね。わからないことは習うことにしましょう!立香様に食べて貰うために!」

 

とりあえず決意する。こういうのは思い切りが大事だと、絵を描く時の経験が言ってる、と思う。・・・・・・・あ、本返さないと。まず図書館に向かうことにした。

 

 

 

 

 

翌日。厨房にて。

 

「え、と・・・・・・・エミヤ様、ゴッホに料理を教えてください!」

 

とりあえず、前もゴッホに料理を教えてくれたエミヤ様に頼んでみることにする。

 

「・・・・・・・フム。とりあえず理由を聞いても?」

 

「・・・・・・・そのですね、先日立香様にチョコ、いえマリナードを食べて貰ったのですが、それに喜ぶ立香様を見ると、もっともっとゴッホの料理で立香様を喜ばせたいという思いが湧き上がってきまして・・・・・・・」

 

本当の目的を言うわけにもいかないので少し偽装する。まあ、こっちも本当の理由ではあるし大丈夫なはずだ。

 

「・・・・・・・なるほど。確かに、自分の作った料理(モノ)で喜ぶ顔を見るのは悪い気はしない。現に、私がそうだ」

 

「で、では!」

 

「ああ。私も常にというわけにはいかないが・・・・・・・手が空いてたら、教えよう」

 

幸いにしてエミヤ様は快くわたしのお願いを引き受けてくれた。

 

「あ・・・・・・・ありがとうございます!!エミヤ様、不肖このゴッホ・・・・・・・精一杯頑張ります!!」

 

「何、そんなに気負うことはないさゴッホ。君は料理が出来るのだから。あのチョコマリナード、私も確認で味見したが良い味だった。立香を想う心のこもった料理と言えるだろう。その心構えでいればすぐに上達するさ。・・・・・・・・・・・・・・フッ、マスターというのは大変だな、立香?

 

「?」

 

エミヤ様が何か言っているようだが最後の方が聞き取れない。

 

「何、ただの戯言だ。気にしないでくれ。・・・・・・・それでは、早速始めようか」

 

「・・・・・・・はい!」

 

「まずゴッホ、君は立香に何を作りたいんだ?料理も絵画と一緒でまず着地点を決めなければ、迷走するだけだ」

 

「では、ゴッホの故郷の料理を・・・・・・・」

 

「君の故郷か・・・・・・・ヴァン・ゴッホ・・・・・・・オランダ出身の画家としてならズンデルト、クリュティエ・・・・・・・ギリシャに語られるニンフとしてならギリシャ、つまり地中海が故郷、ということになるのかな?」

 

「はい・・・・・・・そういうことになりますね・・・・・・・」

 

「フム・・・・・・・それでは、どちらにするかね。オランダと地中海は両方海に接しているが気候も料理も違うものだ。更にヴァン・ゴッホの出身地であるズンデルトはオランダ南方にあり、内陸部に位置する。一方、クリュティエの伝承が生じたギリシャ、地中海は名前の通り海に接している面積が大きい。ゴッホ、君はどうしたいのかな?」

 

「・・・・・・・えっと、両方、というのは・・・・・・・欲張りでしょうか・・・・・・・?」

 

控えめにわたしが言うと、エミヤ様は目を丸くした後、少し笑った。

 

「・・・・・・・なるほどな。ああ、もちろん構わないさ。料理というのは楽しいものだからな、君のモチベーションに繋がるなら欲張ったって構わないとも。・・・・・・・これは大きな仕事になりそうだ。ゴッホ、覚悟はいいかな?」

 

わたしの返事はさっきと変わらない。

 

「・・・・・・・はい!」

 

そこから、わたしの料理特訓が始まった。

 

「オランダ南方では・・・・・・・シチューや牛肉や豚肉、ペイストリー・・・・・・・所謂パイやキッシュが特徴とされている」

 

「一方、ギリシャ、というか地中海では野菜や果物中心のとこに魚介類や鶏肉が中等度加えられ、赤身の肉は少ないとされている」

 

「つまり、この二地方の料理は然程手順などが被っていないということだ。やることは多岐に渡る。手早くやろう」

 

エミヤ様が暇な時間帯に、一緒に練習する。無論、立香様の目を避けながら。作りたいものの理想像を探していく。

 

普段通りに絵を描きながら料理の練習もやる、というのは中々に大変な日々だった。しかし、ある時わたしは絵と料理の共通点に気づく。絵も料理も想いを込めて作るという点で、然程違いはないのだ。立香様のことを思って描く絵。立香様のことを想って作る料理。出力方法は違えども、注ぐ情熱は変わらない。そのことに気づくと、少しずつ少しずつわたしの腕は上がっていった。

 

そして、エミヤ様に料理を教わって数週間ほどした時。

 

「・・・・・・・どうでしょうか」

 

エミヤ様に味見をして貰う。今回の料理はわたしの中でも改心の出来とも言えるものだ。

 

「・・・・・・・うむ。これは、合格だな」

 

「・・・・・・・!エヘヘ、やりました・・・・・・・ついに、ついに成し遂げました・・・・・・・!」

 

エミヤ様の賞賛が胸に響く。嬉しくて、心が躍る。これで、立香様に胸を張ってお出しできる─────あれ?何か、忘れているような。

まあ、良いか。きっと、些細なことだろう。

 

「今日は彼女の部屋にこれを持っていくと良い。きっと、喜んでくれるさ」

 

「──────はい!エミヤ様、今日までありがとうございました!」

 

「ああ。今回の経験は、きっと君に良いものとなるだろう。ではな」

 

エミヤ様はニヒルに笑って去っていく。その背中はとても晴れ晴れとしていた。

 

さあ、これを持っていこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最近、ゴッホちゃんに避けられている気がする。

いや別に話してないわけじゃないし一緒にご飯を食べたりもするけど、マイルームに呼ぼうとしたら用事があるみたいで断られるしふと彼女を見つけても逃げられてしまう。

 

「なんで最近避けられてるのかなぁ・・・・・・・やっぱり、あれかなぁ・・・・・・・」

 

バレンタインで、彼女のチョコマリナードを断ってしまったのがいけなかっただろうか。チョコマリナードは美味しかったけど、ゴッホちゃんを食べるのは・・・・・・・その、ちょっと無理、というか覚悟が決まらずで断ってしまった。

断り方がいけなかったのかなぁ。

そんなことを思いながら、ゴロゴロとベッドを転げ回る。

ゴッホちゃんとは召喚された時から気づけば一緒にいる仲だったから、隣にいないのは寂しい。

 

「うーん、ゴッホちゃんと話したいなぁ・・・・・・・でもどうやって会いに行こう・・・・・・・」

 

彼女を見つけても、気づいたら逃げられている。事情を聞こうにも聞けないので不安が溜まっていく。

と、その時、ドアが叩かれる。

 

「はーい」

 

「立香様、ゴッホです・・・・・・・入ってもよろしいでしょうか・・・・・・・?」

 

「ゴッホちゃん⁉︎うん、もちろん良いよ!」

 

噂をすれば影、とゴッホちゃんがやってきた。いきなりの来訪に、心が跳ねる。跳ねる心を抑えながら彼女を部屋に招き入れる。ゴッホちゃんは手押し車を押していて、その上には料理が載っていた。そういえば、そろそろ夕食の時間かと思い出す。

 

「エヘヘ・・・・・・・あの、立香様、今日は一緒に食べませんか・・・・・・・?」

 

彼女から食事のお誘い。ゴッホちゃんと一緒にいたい私は直ぐに返事を返す。当然

 

「うん、もちろん!」

 

受け入れる。

 

「エヘヘ・・・・・・・嬉しい・・・・・・・では、運びますね・・・・・・・立香様はそのままで・・・・・・・」

 

そう言うと、彼女が食事を並べていく。

並べられたのは、シチューのような料理と、チーズ?だった。

シチューらしき料理には色々な具材が入ってる。チーズらしき物体は、隣にレモンが添えれれている。どちらも、鼻をくすぐる良い匂いが漂ってくる。

 

「ゴッホちゃん、これは?」

 

「こちらのシチューはオランダ南方・・・・・・・どちらかといえばベルギーなのですけどまあそこは置いといて、ヴァン・ゴッホの故郷に伝わるシチュー、ワーテルゾーイです。こっちはクリュティエの故郷・・・・・・・地中海に伝わる料理で、サガナキと言います。簡単に言えば、チーズを揚げたモノですね。あとはまあ付け合わせの茹でたジャガイモなどを少々・・・・・・・」

 

「ゴッホちゃんの郷土料理・・・・・・・これって、ゴッホちゃんが作ったの?」

 

もしかして、私のために作ったのだろうか。そんな期待からふと疑問が口を突く。

 

「ハウッ・・・・・・・さすが立香様、鋭い・・・・・・・はい、そうです・・・・・・・ここ数週間、エミヤ様に教えてもらってて・・・・・・・立香様が喜ぶ顔が見たかったので・・・・・・・その、ご迷惑だったでしょうか・・・・・・・」

 

「ううん、全然!むしろ、凄く嬉しいよ!」

 

「・・・・・・・エヘヘ。なら良かったです。さ、立香様、一緒に食べましょう」

 

「うん!」

 

「「いただきます」」

 

彼女と一緒に食事を食べる。ゴッホちゃんの故郷の料理はとても美味しかった。味もそうだけど何よりゴッホちゃんが作ってくれたということが私の心を満たす。

 

 

 

 

「ごちそうさまでした。とても美味しかったよ、ゴッホちゃん」

 

「・・・・・・・エヘヘ・・・・・・・ありがとうございます・・・・・・・その、立香様・・・・・・・」

 

「どうしたの?」

 

「もしよろしかったら、これからもゴッホに、立香様のお食事を作らせて頂きたく・・・・・・・毎日は流石に無理ですが、週に一度くらいは・・・・・・・」

 

彼女からの思いがけない申し出に、心が躍る。

返答はもちろん

 

「・・・・・・・うん、こっちからもお願い!ゴッホちゃんが出来る範囲で、作ってくれると嬉しいな」

 

「・・・・・・・エヘヘ!」

 

 

 

 

 

「・・・・・・・そういえば、この前はちょっとごめんね」

 

「・・・・・・・なんのことでしょうか?」

 

心当たりのない謝罪に戸惑う。

 

「いや、バレンタインでゴッホちゃんのチョコ・・・・・・・あの、ゴッホちゃんを食べるのを断ったことなんだけど・・・・・・・」

 

「──────あ」

 

その言葉に、当初の目標を思い出す。

 

「ゴッホちゃん?どうしたの?」

 

「い、いえななななんでもないですよ?」

 

完全に忘れていた当初の目標を思い出して動揺する。

 

「・・・・・・・ゴッホちゃん?」

 

「い、いえ立香様の胃袋を掴んでいずれゴッホ自身を立香様自身の意思で頂いて貰おうとかそんなことは決して思ったりして」

 

「ゴッホちゃ〜ん〜?」

 

「ハウッ・・・・・・・・・・・・・・でででではこのあたりで失礼します!あ、これは最近できた習作です宜しかったらどどどうぞ!!」

 

「あっ逃げるなっ!」

 

耐えきれず、立香様に最近出来た習作を押し付けてその場から逃げ出してしまった。・・・・・・・・・・・・・・料理を作るのが楽しくて、忘れていたなんて、実に本末転倒だ。苦笑しながら、脱兎のように自分の部屋に帰る。

 

 

 

「逃げちゃった・・・・・・・全く」

 

私がしばらく気にしてたことを本人に聞いてみたら、ゴッホちゃんは気にしてないどころか次の作戦を立てていた。なんだか馬鹿らしい。彼女が押し付けていった絵を見てみる。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・ふふっ」

 

絵を壁に飾る。

 

「ま、この絵に免じて許してあげようかな」

 

その絵には、一緒に食卓を囲む笑顔の私とゴッホちゃんが写っていた。




良い感じにかけた気がする
オランダ料理美味しそう
地中海料理も食べてみたいね
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