狂気的な恋   作:96963

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健全話
ぐだゴホ要素は薄め



立香が色欲を自覚する話

「立香さんって、性欲、あるんですかぁ?」

 

 ──────それは、突然の質問だった。

 

「え。何いきなり」

 

 マイルームでレポートを書いているといきなり入ってきたカーマにそんなことを言われる。

 

「だってぇ、立香さんって私の誘惑に全っ然反応しないじゃないですかぁ」

 

 と、言われてもなぁ。

 

「そもそも私女なんだけど…………」

 

 私はノーマルなはずだし。同性に性的感情を持たないのは普通じゃないかな。

 

「えぇ〜? じゃあ、これならどうですかぁ〜?」

 

 すると、カーマが男の姿に変わる。

 

「私は愛の神ですし、需要には応えますよぉ?」

 

「…………………………」

 

 男の子のカーマも女の子の時と変わらず美形だ。

 しかし、私が思うのはそれだけで。

 特にこれ、という感情が上がってくるわけでもなかった。

 

「…………ほら、男の姿で誘ってみても毛程も反応しないじゃないですかぁ。性欲、枯れてるんですか? それとも枯れ専って奴ですかぁ? それなら…………」

 

 そう言うとカーマの身体がまた変わろうとしたので慌てて制止する。

 

「…………むぅ」

 

 どうにかお願いを聞いてくれたのか、最初の少女姿、いつものカーマに戻る。

 

「…………本当に、性欲あるんですかぁ?」

 

「…………失礼な。私にだって性欲の一つや二つくらい…………」

 

 と、過去を振り返ってみる。

 

「…………………………あ、れ?」

 

「…………ほら、やっぱり」

 

 思い返してみると、確かにカーマの言う通り性欲っぽいものを抱いた記憶が少ない。

 

「…………いやほら、忘れがちだけど今って異常事態だし。性欲を抱く場合じゃないっていうか」

 

 そうそう。だから私は普通普通。

 

「…………でも立香さん、イベントとか、普通に楽しんでますよねぇ? ほら、この前の冒険とか」

 

「うっ…………」

 

 それを言われると弱い。

 思い返したらそういうイベント事は結構はしゃいでる気がするし…………ドキリ、と胸が跳ねるような気持ちにならないだけで。

 

「…………はぁ。まあ良いですけどぉ。立香さんに性欲が有ろうと無かろうと、私は変わりませんし」

 

「あはは…………」

 

 私の性欲が薄いことに気がつきながらも、めげないカーマの姿に苦笑する。

 

「…………いつかきっと、堕としてみせますからねぇ?」

 

「…………う」

 

 そう耳元でカーマ囁き、去っていく。

 

「…………………………」

 

 その囁きは、きっと聞くものを魅了する声なのだろう。

 しかし私の胸は…………………………ピクリとも、跳ねなかった。

 

 

 

 

「うーん…………」

 

 レポートを書き終えて、ベッドに転がりながらさっきカーマに言われたことを思い返す。

 

「性欲かあ…………」

 

 自覚していなかったけど、言われてみると確かに、と頷けてしまう。

 ドキドキと胸が跳ねたことも無いし。

 愛欲、情欲、色欲…………およそ性欲と呼ばれるものを纏めて司る愛の神、カーマの言うことなら、多分間違ってないんだろう。

 

「…………うーん、別に誰かを好きじゃない、ってわけじゃないんだけどなぁ…………」

 

 マシュやダ・ヴィンチちゃん、キャプテン達のことはかけがえのない仲間で大切だ。

 でも…………それは家族に向けるような愛情で。

 性欲じゃないな、と思う。

 いやまあ確かこういう家族に向けるような愛も性欲の仲間に分類されるとかされないとか聞いたことはあるけどとにかく性的な感じに思ったことはなく。

 

「…………まあ、考えても仕方ないか」

 

 気を取り直して、寝る用意を始める。

 すると。

 

「エヘヘ、失礼します…………」

 

 ゴッホちゃんが入ってくる。

 

「いらっしゃい、ゴッホちゃん。タイミング良いね」

 

 いつものように、同衾しに来たのだろう。

 ちょうど着替え終わったタイミングだ。

 ベッドに腰掛けて、ポンポンと隣を叩く。

 

「エヘヘ…………立香様の就寝タイミングを読むのも、寵臣であるゴッホの勤めですので…………これでゴッホの寵臣度もアップ…………ウフフ…………」

 

「あはは…………」

 

 いつも通りのゴッホちゃんに苦笑しながら、ベッドに横たわる。

 ゴッホちゃんも私の横に潜り込んできた。

 

「それじゃ、おやすみ、ゴッホちゃん」

 

「はい、おやすみなさい…………」

 

 灯を消して、布団を被る。

 目を閉じると、すぐに意識が落ちていった。

 

 

 

 

 朝。

 

「ん…………」

 

 目が覚める。

 瞼を上げると、隣にゴッホちゃんの顔。

 

「…………すー、すー…………」

 

 まだ眠っているらしい。

 

「…………ふふ」

 

 彼女の寝顔に無自覚な独占欲に似た感情が湧き上がる。

 無意識に手が伸び、彼女の頬に触れる。

 

「んぁ…………っ」

 

 その感覚が伝わったのか彼女が声を上げ、目を開ける。

 

「…………ぁ」

 

「!」

 

 彼女と目が合い、慌てて手を退ける。

 

「…………ごめん、起こしちゃった?」

 

「…………いえ。エヘヘ、おはようございます立香様…………」

 

「…………うん、おはよう」

 

 ゴッホちゃんと一緒にベッドから起き上がる。

 

「お腹空きました…………ウフフ、今日のご飯はなんでしょうね…………」

 

「そうだね…………無難に鮭定食とか?」

 

「お魚…………! ウフフ、良いですよねお魚…………!」

 

「そうだねー」

 

 そんなとりとめのない会話をしながら服を着替えていく。

 

「…………………………」

 

 その時、さっきゴッホちゃんに触れていた手が視界に入る。

 そういえばなんであんなことしたんだろ。

 手を見つめながら考える。

 どうしてさっき、あんな過敏に反応しちゃったんだろう。

 いやそもそもなんで手を伸ばしちゃったのか。

 普段はそんなことしないのに。

 

「立香様?」

 

「…………っ、どうかした、ゴッホちゃん?」

 

 ゴッホちゃんの声に思考の海から浮上する。

 

「いえ、何か考え事をなさっていた様子だったので…………」

 

「…………ううん、なんでもないよ」

 

「そうですか? なら良いのですが…………」

 

 その時、ぐうと大きな腹の虫の鳴き声がする。

 

「…………エヘヘ、すみません。話してたらお腹がますます減っちゃって…………」

 

「ううん、大丈夫。…………よし。いこ、ゴッホちゃん」

 

「…………はい!」

 

 一緒に食堂に向かう。

 尚鮭定食ではなく秋刀魚定食だったことをここに記す。

 惜しい。

 

 

 

 

 

 朝食を食べた後。

 ゴッホちゃんと別れた私は、マイルームでゴロゴロしていた。

 今日は休みだし。

 

「…………うーん」

 

 考えるのは、さっきの事。

 なんでゴッホちゃんに手を伸ばしたんだろう。

 

「…………昨日カーマに言われたことでちょっと意識してるのかな」

 

 うん。きっとそうだ。

 私、女だし。ゴッホちゃんはかわいいけど、女の子だし。…………それにゴッホちゃん、子供だし(実際は置いといて水着のイリヤ曰く子供で仲間扱いらしい)。

 さすがに子供に欲情するのは…………なんかダメでしょ。しかも女の子に。

 いや男の子なら良いってわけでも無いけど。

 

「よし、ナーサリー達のところに行ってみよう」

 

 そう言って、部屋を出る。

 

 

 

 

 結果。

 特に何もなかった。

 良かった、とほっと胸を撫で下ろす。いや幼女趣味を否定するわけじゃないけど。さすがに女の私がそれ(幼女好き)なのはまずいと思う。

 とりあえずこのまま少年組の方も見ていこうかな、と踵を返した時。

 

「立香様?」

 

「⁉︎」

 

 いきなり背後から声をかけられて、びっくりする。

 恐る恐る振り返ると

 

「…………あ、ゴッホちゃん」

 

 ゴッホちゃんがいた。

 

「どうしたの?」

 

 この付近はゴッホちゃんの部屋から離れていたはず。てっきり自室で絵を描いてると思ったんだけど。

 

「エヘヘ、ちょっとお散歩がてら探求を…………立香様も、お散歩ですか?」

 

「…………まあね」

 

 自分が少年趣味か幼女趣味か確かめるためにカルデアを歩いていた、とかを原因である本人に言えるわけもなく誤魔化す。

 

「ウフフ、それなら…………ご一緒しても、良いですか? ご迷惑でなければですが…………」

 

「あー…………」

 

 どうしようか、とちょっと迷う。

 ゴッホちゃんには知られたくないことだしなぁ。

 でも、ゴッホちゃんが原因ならゴッホちゃんと一緒に過ごせばわかるのでは? という考えも湧いてくる。

 二つを天秤に乗せた結果。

 

「…………うん、良いよ。何処に行く?」

 

 一緒に散歩することに決めた。

 

「エヘヘ…………良かった…………では、気ままにぶらりと歩きましょう…………ウフフ…………それでは、お手を拝借…………」

 

「ッ⁉︎」

 

 いきなり手を握られて、びっくりする。

 ドキリ、と胸が跳ねる。

 

「…………せっかくなので、手を繋ごう、と思ったのですが…………もしかして、手を繋ぐのは嫌、でしたか? …………それなら…………」

 

 それに勘違いしたのか、ゴッホちゃんが悲しそうな顔をしたので慌てて否定する。

 

「あ、違う違う! ちょっとびっくりしただけだよ。良いよ。手、繋ごう」

 

「…………そうですか? …………ウフフ、ゴッホの手、ちょっとひんやりしてますもんね…………それでは、改めてお手を拝借…………」

 

 ゴッホちゃんにぎゅっと手を握られる。

 密着する彼女の手から繋がる感触にドキドキ、と鼓動が早くなる。

 

「…………なんだか、デー…………いえなんでもないです…………ウフフ、ゴッホジョーク…………では、行きましょう」

 

「…………うん」

 

 ゴッホちゃんが何か言っていたけど、彼女から伝わる感触を意識していた私の頭には、何も入ってこなかった。

 

 

 

 

 

 

 数時間後。

 一日が終わる頃。

 夕食も食べたので、ゴッホちゃんと別れてマイルームに戻る。

 

「…………はぁ」

 

 椅子に腰掛けてため息をつく。

 

「…………まさか、あんなにドキドキするなんてなぁ」

 

 ゴッホちゃんと一日歩き回っていたけど、ドキドキしっぱなしだった。

 こんなのは初めての体験で、どうすれば良いか分からず戸惑う。

 

「…………まさか本当に幼女趣味なんじゃ…………」

 

 そんな考えが頭に出るくらいには。

 いやいや、と頭を振る。

 仮に幼女趣味ならナーサリー達と遊んだ時もそうなるだろう。

 

「…………じゃあ、ゴッホちゃんのことが好きなのかな?」

 

 性的に。という枕詞がつく気がするけど。

 

「うーん…………」

 

 頭を抱えて悩んでいると。

 

「立香様、呼びました?」

 

「…………うわっ⁉︎」

 

 いきなり背後から声をかけられる。

 

「…………なんだ、ゴッホちゃんか…………どうしたの? というかいつの間に…………」

 

 振り返ると、ゴッホちゃんがいた。

 

「…………いえ、何やら悩みながら、ゴッホの名前が聞こえたものですから、どうしたのかな、と思いまして…………後、ゴッホはさっきからいましたよ? ちゃんとノックもして、立香様も入って良いと言ってましたし…………」

 

 マジか。記憶にない。悩んでたから生返事で返してたかも。

 …………ん? というかさっきからいたって…………

 

「…………あー、もしかして、聞いてた?」

 

「…………えっと、幼女趣味がどうとかというところから…………」

 

「あー…………」

 

 一番聞かれたくないとこを聞かれていた。

 

「…………その、立香様は、ゴッホのことが好きなんですか…………?」

 

「…………………………」

 

 どう答えれば良いか分からず、沈黙する。

 これが性愛なのか、それとも純粋に慕っているからなのか。

 

「…………ゴッホは、嬉しいですけど…………」

 

「…………正直、わかんない」

 

「…………………………そうですか」

 

「…………でも、嫌いってわけじゃない。むしろ好き。好きなんだけど…………」

 

「…………なんでしょうか?」

 

「…………ちょっと長いけど、良いかな」

 

 そう言って、昨日あったカーマとの一件を話す。

 

「…………って感じなんだけど…………だから、ゴッホちゃんにドキドキする理由がどうしてなのかなって…………」

 

 性欲に関するあれこれを正直に吐き出して、ゴッホちゃんの反応を伺ってみる。

 

「…………ウフフ」

 

「ゴッホちゃん?」

 

 しかし、予想していた反応と違う。

 何かゴッホちゃんの様子がおかしい。

 

「…………いえ失礼。纏めると、立香様はゴッホに慕情を抱いておられると」

 

「…………まあ、うん」

 

 ゴッホちゃんに特別な感情を抱いているのは確かだ。

 

「でも、それは性欲からくるものか、はたまた純粋に慕っているのかは分からないと。おまけに立香様は初めて自覚した感情だからどうすれば良いかわからないと」

 

「…………そういうこと、になるかな」

 

「…………ウフフ。では勝手ながら、このゴッホに言わせてもらいますと…………」

 

 そう言うと、ゴッホちゃんが抱きついてくる。

 飛びかかるように抱きつかれたので、椅子がちょっとグラつく。

 

「…………そんなのどっちでも、良くないですか? ウフフ…………」

 

「え…………」

 

 予想外の答えに、しばし惚ける。

 

「ゴッホは立香様がどんな理由でも、ゴッホを求めてくれるのが嬉しいですよ? 立香様がゴッホをいじめたいと、ゴッホを敵地に放り出して傷付く姿が見たいという欲望のために、ゴッホを酷使してもゴッホにとっては嬉しいです」

 

「…………いやそれゴッホちゃんの願望混じってない?」

 

 なんかそんなこと前言ってた気がする。

 

「おや失敬。…………ウフフ、立香様はよく覚えていますね…………とにかく」

 

「立香様がどんなサディスティックな欲望をゴッホに抱いていても、ゴッホは嬉しいです!」

 

「…………………………」

 

 もしかして私、Sだと思われてるんだろうか。

 半目で彼女を見つめる。

 

「…………それに」

 

「?」

 

「…………立香様は、釣った魚に餌をあげないお方では、ないですよね…………?」

 

「…………まあ、流石に好きになった相手を放置する、なんてことはしないと思うけど」

 

 常識的に考えれば。

 

「なら、良いじゃないですか、ウフフ…………立香様はゴッホが好き、ゴッホは立香様が好き、それで何の問題があるでしょう?」

 

「…………そういうもの、なのかな?」

 

 なんか流されている気がする。

 

「…………ウフフ」

 

 あ、これはぐらかそうとしてるな。

 なんとなく直感する。

 だけど。

 

「…………まあ、そういうものなのかな」

 

 流されることにした。

 ゴッホちゃんに性欲を抱いてるのは確かだし。

 それが愛になるのかどうかはこれからゆっくり、確かめていこう。

 

「…………エヘヘ」

 

 

 

 

 




あえて性欲とか色欲に関するあれこれはぼかしてます
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