狂気的な恋   作:96963

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3/30日記念兼マイナーゴッホちゃん絆15レベル120アペンド全開放兼槍降スコア完全開放兼ゴッホちゃん宝具20記念です



太陽二人

 色々あったゴッホちゃんとのミステリーハウス大冒険からしばらくして。

 今回の事件の顛末に関するレポートやらトロフィーやらを受け取って始末を付けた私は、同じく始末をつけて解放されたゴッホちゃんと一緒にマイルームで二人、最新バージョンのアルクラに勤しんでいた。

 

「にしても、今回の特異点も大変だったねー…………」

 

「はい…………振り返ってみれば、辛い事も楽しい事も沢山あった山あり谷ありの事件(ヤマ)でしたね…………今のゴッホ的には、兄弟揃って立香さま達に迷惑をかけた申し訳なさの方が大きいですが…………ハウッ、胃痛…………!」

 

「まあ、それはほら…………カルデアじゃよくある事だから、そこまで気にしなくても…………」

 

 例えば今回も裏で暗躍していた某美の女神とか。

 いやミステリーハウスにいたのがカルデアのと同じって訳でも無いけど、カルデアのイシュタルも昔やらかしてるし。

 

「いえそれはそれ、これはこれ、です! なので迷惑をかけた分、これからはもっと頑張りますね! まずはここ一帯をジャガイモ畑にしてやりましょう! うおおおおー!」

 

「あはは…………」

 

 落ち込んだと思ったら打って変わってテンション高く開発を続けるゴッホちゃんの様子に苦笑しながら、元気そうで良かったと内心安堵する。

 まあ特異点の中でも元気だったからそこまで心配はしてなかったけど、カルデアに戻ってからは初めて会うし。

 あのミステリーハウスでゴッホちゃんは、テオとアポロンという彼女を構成する二つの存在にとって重要な因縁を超克した。

 その結末に口出しするつもりは無いし、そもそもそんな資格も無い。

 それでも…………自分を構成する要素に決別を告げたのだ、全く心配しない訳には行かない。

 私はゴッホちゃんのマスターだし…………それに、私はゴッホちゃんの事が大好きなのだから。

 …………まあ、ゴッホちゃんの好みとは私は違うみたいだから、そこはちょっとショックだけど。

 とにかく、心配が杞憂で終わって良かった。

 

「立香さま? どうされたので?」

 

 そう思っていたら、ゴッホちゃんに声を掛けられる。

 どうやら、考え事に夢中になって少し手が止まってたらしい。

 

「何でもないよ。ちょっと考え事してただけ。どんな風景を作ろうかなって思って」

 

 本人に向かってわざわざいう事でも無いので、軽く誤魔化してコントローラーを握り直す。

 

「なるほど…………ちなみに、立香さまはどんな風景を? ゴッホもお手伝いしますので!」

 

「んー? そうだなぁ…………」

 

 すると、目をキラキラさせたゴッホちゃんが訊いてくる。

 さてどうしよう。

 誤魔化す為に言っただけで、何を作るかは全く決めてないんだけど。

 …………まあ、良いか。

 心配事は片付いたし、後はゴッホちゃんと一緒にゲームを楽しもう。

 さて、何を作ろうかな。

 

 

 

 

 

 カチカチ、とコントローラーのボタンを押す音が静かに響くと共に、画面の中でパーツが動き回り、建物が形を成していく。

 その建物は、あの特異点を形成していたミステリーハウスによく似ていた。

 そう。

 私達が今作っているのは、あのミステリーハウスだ。

 ゴッホちゃんに訊かれて、ふと脳裏に浮かんだのがこのミステリーハウスだったので、ゴッホちゃんと一緒に作る事にした。

 今作ってるのは骨組みだけだけど、基礎工事が終わったらツタン達を呼ぶのも良いかもしれない。

 そう思いながら、重要な骨組みをゴッホちゃんと手分けして組んでいく。

 今私が作っているのは地下部分だ。

 特異点だとテオの攻撃の余波でゴッホちゃんと落ちた場所、だったかな。

 ダイダロスの残したテオの記憶のかけらと、ミステリーハウスの家主が遺した手紙があったはず。

 その出来事を思い返しながらチラ、と隣のゴッホちゃんを見る。

 熱心にミステリーハウスを建築中の鉱夫(ゴッホちゃん)はカルデアに帰還した時、「暗闇に赴かれるとき、どうかおそばに置いてくださいね」と私に言ってくれた。

 それは暴かれた自らの罪に嘆き苦しみ、私に裁きを求めた弱々しい姿とはまるで違った、決意の灯火が宿った姿だった。

 きっとゴッホちゃんの言う通り、あの出来事を経て成長したのだろう。

 暗闇の中、ランタン片手に進む事を決意したその姿は輝いていて…………目が眩んでしまいそうだった。

 もう一度、ゴッホちゃんの方を盗み見る。

 過去を超克し、自分で輝く事を選んだその顔は燃え盛る炎の様に煌めいていて、やっぱり眩しかった。

 でも、その眩しさは不快なものじゃなく、むしろ心地良いくらいだった。

 多分それは、ゴッホちゃんの光が夜空を切り裂く夜明けの太陽の様に、道を照らしてくれるものだったからだろう。

 だから眩しくても、心地が良い。

 勿論、そう感じるのは私がゴッホちゃんを好きだからっていう贔屓目もあると思う。

 だけど、客観的に見てもきっと…………ゴッホちゃんは変わっている。

 ゴッホちゃんが望んだ通りの、自分に向かって。

 それが嬉しくて、自然と頬が緩む。

 ゴッホちゃんが苦しむ姿を見た。

 罪を突きつけられ、嘆く姿を見た。

 だけどゴッホちゃんは、それを全部受け止めて…………自分の力で、乗り越えた。

 その果てに今、私と並んでゲームをしている。

 だから嬉しくて、頬が緩んでしまってもしょうがないと思う。

 そんな事を考えつつ建築を進めていたら、いつの間にか私達がテオの攻撃の余波で落っこちて来た場所まで作り終わっていた事に気づく。

 確か、ここら辺にあった記憶のかけらを再生しようとしたら道具が無くて、ゴッホちゃんが映写機をクラフトしてたような…………組み合わせは確か、バニースーツとダイナマイトだった筈…………

 …………今更だけど、ダイナマイトはともかく何でバニースーツ持ってたんだろうゴッホちゃん。

 組み合わせも謎だけど、バニースーツが一番謎だ。

 聞いてもあの時は色々あったから誤魔化されちゃったし。

 その後も色々あって忘れていたが、改めて思い出すと無性に気になってくる。

 もしかして、着る予定でもあったのだろうか。

 何となく、ゴッホちゃんのバニースーツ姿を想像してみる。

 想像の中のゴッホちゃんが、耳に手を当ててウサギのポーズをした。

 …………結構似合ってる気がする。

 ちょっと見てみたいかも。

 

「…………立香さま? どうされたので?」

 

 そんな事を思っていると、怪訝な色を浮かべたゴッホちゃんがこちらを見ている事に気づいた。

 どうやら、脳裏に浮かべたゴッホちゃんのバニースーツ姿に気を取られて手が止まっていたらしい。

 

「あ、いやなんでもないよ。ただちょっと、思い出しただけで…………」

 

 そう言って出来掛けの地下フロアを指で示すと、ゴッホちゃんが首を傾げながら私の画面を覗き込む。

 

「これは…………テオの攻撃でゴッホ達が落ちた地下フロア、その始まりの場所、ですか…………。ゴッホの記憶では、色々と情けない姿を立香さまに見せてしまったという以外、特段思い浮かぶ様な当ては…………あっ」

 

「?」

 

 すると、ゴッホちゃんが何かまずい事でも思い出してしまったと言わんばかりに固まってしまった。

 …………まあ、この状況で思い出したのなら十中八九あの謎のバニースーツの事なんだろうけど、そんな反応をするものだろうか。

 ゴッホちゃんのその反応に私もどうしたものかと戸惑ってしまい、お互いに沈黙の時間が流れる。

 

「…………あの、立香さま」

 

 そこからやや間を置いて、ゴッホちゃんが音でも出そうなぎこちない動きでこちらを向く。

 そしてかなり躊躇いがちに、私達の間に流れる妙な沈黙を破った。

 

「…………念の為、確認しておきたいんですが…………立香さまが思い出したものは…………ゴッホが持っていたバニースーツ、ですよね…………?」

 

「え? う、うん…………なんで持ってたのかは知らないけど、ゴッホちゃんが着るつもりだったなら、似合うと思って」

 

 沈黙を破ったゴッホちゃんが躊躇いながらも、妙に焦った様子で訊ねてくる。

 どうやらお互いに考えている事は同じだった様だったけど、何やら様子が変だ。

 だけどゴッホちゃんのその雰囲気に飲まれてしまい、言ってる事が正しかった事もあってつい頷いてしまう。

 

「…………あぁ、なるほどそういう…………」

 

「ゴッホちゃん?」

 

 すると、ゴッホちゃんが妙に安心した様な顔で何事かを呟く。

 

「あ、すいません立香さま。ゴッホも忘れていたので、少々驚いただけで…………その、アレは徹夜のアルクラでハイになったついでにクラフトしたのですが冷静になっていざ目の前にしてみると着るには些か度胸が足りなくてですね、それでどうしようかと思ったのですが処分するのにもやはり他の皆様に見られるのも少々恥ずかしいと思いリュックの底に押し込んでたモノで決してゴッホがお姉さんに着せて夜のお散歩を楽しみたいとかそういう邪な欲望で所持していたという事は一切なくたまたまあそこで役に立っただけでしてあ、今のナシで…………その、立香さまがお望みなら、ゴッホは喜んでウサギになりますよ?」

 

 そして、いつも通りの調子に戻ったゴッホちゃんがその小さな胸を撫でながら、つらつらと捲し立てる様に語り出す。

 …………もしかして、胸が無いだけに度胸が無いみたいなゴッホジョークだろうか。

 そんな事を考えつつも、ゴッホちゃんがバニースーツの事を煙に巻こうしている事はなんとなくわかった。

 …………というか、自分で答え言ってるし。

 つまり、私の勘違いを理由にゴリ押そうとしているらしい。

 …………ちょっと腹が立つな。

 いやまあ、ゴッホちゃんに、ってよりはゴッホちゃんが言ったお姉さんとやらだが。

 

「…………ゴッホちゃん、正座」

 

「はい…………」

 

 なので、八つ当たり気味だけどゴッホちゃんに少しお灸を据えることにした。

 まあ、以前シミュレーターでやらかしそうになった時の事もあるので、普通にお説教でもあるのだけど。

 

「全く…………ほら、本当の事を言って?」

 

「はい…………まあ、本当の事と言っても、先程ゴッホが喋ってしまった通りなのですが…………その、お姉さんに着せて、夜のお散歩をしようとした次第で…………」

 

「はぁ…………もう、この前の時にダメって言ったでしょ? それとも、またオシオキされたいの?」

 

「エヘヘ、痛いのなら大歓迎です…………!」

 

「じゃあ経済的にオシオキするね」

 

「ハウッ…………立香さま、それは流石に…………あれ、でも経済的オシオキならゴッホが労働する機会が増える…………?」

 

「…………」

 

 何だろう。

 ミステリーハウスで色々と図太く強く成長したからか、お灸が効いてない気がする。

 いやまあ、経済的オシオキをしたらそれはそれで効くんだろうけど、この小さな鉱夫はそれ以上に喜んでしまいそうだ。

 思わぬ成長につい頭を抱えるが、ある意味この図太さがゴッホちゃんらしいと内心笑う。

 …………そして、それだけに少し、胸が痛む。

 ゴッホちゃんが言う「お姉さん」への嫉妬に。

 

「…………私だったら、良かったのに」

 

「…………へ?」

 

 私は、ゴッホちゃんが好きだ。

 強いところも、弱いところも、良いところも、ダメなとこも、全部引っくるめて、ゴッホちゃんが好き。

 だから、その…………ゴッホちゃんがそういう事を望むなら…………私を求めて欲しかった。

 だけど、ゴッホちゃんの好みは恋愛的な意味でも性的な意味でもお姉さん…………所謂、マタ・ハリさんみたいな未亡人で、私とは似ても似つかない。

 …………それだけなら、ゴッホちゃんに告白すれば良かったのかもしれない。

 好みが違っても…………好きになる事なんて、よくある事だ。

 というか、私がそうだし。

 でもゴッホちゃんは…………恋愛はもう、こりごりだとあのミステリーハウスで語っていた。

 つまり…………私に対して、ゴッホちゃんがそういう感情を抱く可能性は低い訳で。

 そんな状況でゴッホちゃんと恋仲になりたい、なんて告白をする勇気は…………私には無かった。

 告白してしまえば、ゴッホちゃんとの今の関係を壊してしまいそうな気がして。

 それが怖くて、ずっと心に仕舞い込んでいた。

 そりゃ、自分の一部を食べてくれって言ってくれるくらいだから、嫌われて無いとは思うけど…………それは多分、ある種の尊敬から来るゴッホちゃんの親愛故の行動、だと思う。

 ゴッホちゃん、私の事を太陽って言ってくれるし。

 でもそれは…………私のゴッホちゃんへの気持ちとは、きっとズレている。

 同じ愛でも…………恋愛と親愛は、全然違うものだ。

 だから、ゴッホちゃんが語るお姉さん…………顔も知らぬ誰かが妬ましい。

 その人は、恋愛的では無くても…………ゴッホちゃんに、求められているのだから。

 …………本当は、告白も出来ない自分勝手な私がこんな嫉妬をしてもしょうがない、とはわかってるんだけど。

 一度抱いてしまうと、澱んだ嫉妬は止まりそうになかった。

 …………そんな風に、自分で作った感情の沼に溺れていたからだろうか。

 

「良いんですか、立香さま⁉︎」

 

「…………え?」

 

 何故かキラキラと期待に満ちた目をしたゴッホちゃんの言葉に、私は反応出来なかった。

 良いって、何がだろうか。

 

「…………あれ? 立香さまがバニースーツを着てくれるのでは?」

 

「はい?」

 

 困惑していると、ゴッホちゃんが更に訳の分からない事を言う。

 私、そんな事言ったっけ? 

 そりゃ、私だったら良かったのに、とは思ったけど…………あ。

 

「…………もしかして、声に出てた?」

 

「? はい、先ほどポツリと呟く様に『私だったら、良かったのに』と仰られたのでゴッホはてっきり、立香さまがバニースーツを着てくれるものだと思ったのですが…………」

 

 なるほど、無意識に声に出てたらしい。

 それで勘違いした、と(いや正確には勘違いじゃないのだけども)。

 一つ疑問は解けたが、同時に新しい疑問が湧いてくる。

 

「…………ゴッホちゃんの好みって、私と違うタイプじゃ無かった?」

 

 そう。

 ゴッホちゃんの好みは、未亡人だ。

 これは本人の行動から見るに間違いない(たまに薄幸未亡人の出るゲームやってるし)。

 それなのに、私が相手でそこまで目をキラキラさせるものだろうか。

 そんな事を思っていると。

 

「? ええ、確かにゴッホの好みは薄幸の年上未亡人なお姉さんで、立香さまは少し違いますけど…………だからといって、立香さまが好きじゃない、なんて事はありませんよ?」

 

 ゴッホちゃんが可愛らしく首を傾げながら、予想外の事を言い出した。

 それは、ガツンと頭をハンマーで殴られた様な衝撃だった。

 だって私は、諦めてしまっていたからだ。

 ゴッホちゃんの好みは、私じゃないと。

 ゴッホちゃんはもう、恋愛に懲りていると。

 その二つを理由に心の中で諦念の壁を作って、恐怖で足を止めてしまっていた、のに。

 だけど目の前のゴッホちゃんが、その壁を崩してしまった。

 そのせいで閉じ込めていた筈の気持ちが溢れて、感情の濁流に呑まれてしまう。

 

「…………もしかして、嫌、でしたか?」

 

「…………っ、それは、違う…………でも」

 

 そんな私の様子を不安に思ったのか、ゴッホちゃんが心配そうな顔で尋ねてくる。

 当然、嫌な訳が無い。

 だって…………私は、ゴッホちゃんが大好きなのだから。

 好きな人に求められて、嬉しく無い訳が無い。

 …………だけど。

 

「ゴッホちゃん…………本当に、良いの?」

 

 嬉しい筈なのに何故か、ゴッホちゃんを遠ざける様な言葉が溢れていく。

 

「…………良い、とは?」

 

 嫌じゃない、と言いながら自分を遠ざける素振りを見せる私に、ゴッホちゃんの顔が困惑に染まる。

 さもありなん、と頭の何処かが冷静に告げる。

 だけど、私の口は黙ってはくれなかった。

 

「…………ゴッホちゃんにそんな風に求められたら、私、今のままじゃ我慢出来なくなる。もっと欲しくなっちゃう。…………マスターとサーヴァントじゃ、足りない。肩を並べる仲間でも、まだ足りない。もっと深い関係に、なりたい。でも…………ゴッホちゃんは、それで良いの?」

 

 溢れたのは、諦めの壁に押し込んで隠していた筈の、ゴッホちゃんへの欲望だった。

 

「…………そういうこと、ですか」

 

 私の言葉を聞いたゴッホちゃんが、そっと目を伏せる。

 ゴッホちゃんのその顔に、感情の濁流に飲まれるままだった思考が水をかけられた様に冷えていく。

 …………いつか、恋愛は懲り懲りだとゴッホちゃんは言った。

 だから、諦めて仕舞い込んでいた。

 この想いを告白してしまえば、今の関係をどう転ぶにせよ壊してしまうと、何となく気づいていたから。

 それなのに、ゴッホちゃんに求められてるとわかった瞬間抑えが効かなくなり、感情に流されるまま、ゴッホちゃんへの欲望を告白してしまった。

 その事実が何故か、無性に私の胸を締め付ける。

 やってしまった、と後悔と共に足元が崩れる様な感覚に囚われて、目の前が暗くなっていく。

 その時。

 

「…………え?」

 

 柔らかく、ちょっと土の混じった様な、鉱夫っぽい匂いが私を包んだ。

 見ると、ゴッホちゃんが私の身体を抱きしめていた。

 

「ゴッホ、ちゃん…………?」

 

「…………立香さまの言う通り、確かにわたしは、恋愛にこりています。ゴッホ的にもクリュティエ的にも。…………でも、それだけじゃ、ないんです」

 

「どういう、こと…………?」

 

 ゴッホちゃんの予想外の行動に戸惑っていると、ゴッホちゃんが耳元で囁いてくる。

 それは私にとって予想外の言葉で、沈み込んだ心の暗闇が困惑で一瞬吹き飛ぶ。

 

「…………わたしも、我慢出来ないんです。ゴッホ的にもクリュティエ的にも、恋愛には苦い思い出ばかりの筈なのに…………立香さまが欲しくて、たまらないんです」

 

 そんな私に畳み掛ける様に、抱きしめる力を強くしながらゴッホちゃんが耳元で囁き続ける。

 

「立香さまは、わたしの太陽です。だからフォーリナーの時はずっと、太陽に惹かれる月の様に、立香さまの事を慕っていると思っていました。…………だけど、鉱夫(マイナー)になったからでしょうか。フォーリナーの時よりも感情がはっきりとわかるようになって、気づいたんです。ゴッホは、わたしは…………立香さまの事を太陽としてではなく…………人として、貴女を愛しているのだと」

 

「…………っ」

 

 それは、紛れもない…………ゴッホちゃんからの、告白だった。

 ゴッホちゃんの告白は小さな声だったけど、内に燃える様な熱を秘めた言葉だった。

 その熱に心を覆うゴッホちゃんへの暗い感情の壁がこじ開けられて、奥底にまで熱が手を伸ばしてくる。

 心を熱で撃ち抜かれて、ゴッホちゃんの告白が嘘偽りの無い本音である事がこれ以上ない形で伝わってくる。

 …………だけど。

 

「…………ゴッホちゃんは、どうして、そこまで…………」

 

 ゴッホちゃんの告白が本当だとわかっているのに何故か、私はゴッホちゃんの伸ばした手を掴む事が…………ゴッホちゃんの告白を受け入れる事が、出来なかった。

 好きなのに。

 告白されて、嬉しい筈なのに。

 手を伸ばせば掴めるくらい、近くにいるのに。

 足が竦んで、進む事が出来なかっった。

 でも。

 

「…………え?」

 

 ゴッホちゃんは、そんな私でも離す気は無いらしい。

 それを示す様に、自分の力じゃ振り解けそうに無いくらいに私を抱きしめる力が強くなる。

 その結果、お互いの体温が混ざってしまいそうなくらいに密着する事になり、思わず胸がドキり、と跳ねた。

 

「立香さまが、立香さまだからです」

 

 本能的に興奮してしまった私の隙を見逃さないと言わんばかりに、ゴッホちゃんが更に畳み掛ける。

 そして。

 

「私が、私だから…………?」

 

「はい。立香さまはずっと、人類史を一身に背負い、闇に向かっておられます。何度も、何度も、迷いながら…………それでも、足を止める事なく…………ただひたすらに、果てを目指して。その在り方が…………わたしにとっては、どうしようもなく眩しくて、愛おしいものなのです」

 

「──────」

 

 …………ああ、そうか。

 私は、怖かったんだ。

 だって、太陽と私を慕ってくれる彼女は…………自分で輝く事を選んだから。

 勿論、それが嬉しくないって訳じゃ無い。

 だけど…………ゴッホちゃんは、元々自分で輝ける人だった。

 対して、私は凡人だ。

 輝けるものなんて、何一つ無い、ただ目の前の事に取り組む事で精一杯な、普通の人間だ。

 だから、太陽なんてたいそれた鍍金が本当の輝きに溶かされて、地金を見せてしまうのが怖かった。

 見せたら、きっと失望されると思ったから。

 それが怖くて、ゴッホちゃんに求められた時、遠ざけようとしてしまっていた。

 だけど失敗して、結局は地金を見せてしまった。

 改めて気づいた自分の小ささに、内心ため息を吐く。

 だけど、ゴッホちゃんはそんな醜態を見せた私の事をそれでも太陽だと言ってくれたし…………人として、私を愛していると言ってくれた。

 だからなのか、自分の小ささを見てもさっきの様に暗い感情に閉じ込められる事は無かった。

 …………好きな人に色々と見せてしまった事には、一抹の恥ずかしさを覚えないでもないけど。

 

「…………わかっていたけど、やっぱゴッホちゃんは強いね」

 

 フラットになった心が、素直な感想を口から溢す。

 実際、ゴッホちゃんの姿は私の目にはとても眩しく、強く見えた。

 ゴッホちゃんが望んだ在り方である、闇を照らす光の様に。

 

「…………ゴッホは、強くなんてありませんよ。正直に言えば、今立香さまに告白してるだけでも、少し怖いです。今でもまだ…………恋愛には、トラウマがありますから。でも…………同時に、ゴッホはこうも思うのです。人の繋がりは色々あって良いし、移り変わって良いのだと。崇拝、依存、孤立、そして恋愛…………どのように移ろう関係性も、添い遂げることができればきっと、良い関係性になる事が出来ると、今のわたしは思うのです。だから立香さま、立香さまがよろしければ…………ゴッホの手を、取ってください」

 

 そんな事を考えていると、ゴッホちゃんが苦笑しながら抱きしめる腕を解き、私の手に重ねた。

 その手を見て、確信する。

 この手を取ったらきっと、今の関係では無くなってしまうと。

 それがどう変わるにしろ…………私は私の手で、この関係を壊す事になると。

 ゴッホちゃんへの想いを諦める程に執着した、この関係を。

 …………きっと、さっきまでの私なら手を取る事が出来なかったのだろう。

 自分で勝手に諦めて、壁に閉じこもっていたのだから。

 だけど今の私にそんな壁はもう、ない。

 ゴッホちゃんに壊されて、全部消えてしまった。

 そして壊された壁の境界で…………ゴッホちゃんが手を伸ばして、私を待っている。

 だから。

 

「…………嬉しいです、立香さま」

 

 伸ばされた腕を掴む以外の選択肢なんて、今の私には存在しなかった。

 境界を踏み越えて、ゴッホちゃんの手を握りしめる。

 

「…………これからも、よろしくね、ゴッホちゃん」

 

「はい。ずっと、一緒です…………エヘヘ…………」

 

 掴んだ手の先でゴッホちゃんが笑いながら、私の手を握り返す。

 そして。

 

「え?」

 

 ゴッホちゃんが、いきなり私に体重をかけてきた。

 数字上は私よりかなり軽いゴッホちゃんだけど、流石はサーヴァントと言うべきかその力は人間の私よりよっぽど強く、抵抗しきれずに徐々に身体が傾いていく。

 やがて、ゴッホちゃんに力負けした身体が押し倒される形で床に敷かれていたクッションに沈み込む。

 クッションの柔らかさのおかげで痛くは無いけど、ゴッホちゃんに抑えつけられているのと相まって身体を起こす事が出来なくなってしまった。

 

「ご、ゴッホちゃん?」

 

「エヘヘ…………すみません、立香さま。立香さまが受け入れてくれたと思うと我慢出来ず、つい…………」

 

 いきなりのゴッホちゃんの行動に驚いて思わず名前を呼ぶと、そんな声が耳元で聞こえてくる。

 最も、言葉の割に私を押し倒すゴッホちゃんの力は緩んでいなかったが。

 それどころか、更に身体を絡ませてくるせいでゴッホちゃんの柔らかい身体の感触や匂いが鮮明に伝わり、胸が早鐘を打って止まらなくなってしまう。

 

「それに…………立香さまも言っていたじゃないですか…………私だったら、良かったのにって…………」

 

 興奮して理性が弱まっていく私に追い討ちをかける様に、ゴッホちゃんが囁く。

 見れば、ゴッホちゃんの顔は既に興奮の色に染まっていた。

 そして、気づく。

 ゴッホちゃんの瞳の中にいる私も、同じ色をしている事に。

 

「…………」

 

 それに気づいてしまうと、後はもう、言葉もいらなかった。

 どちらからともなく、唇が触れる。

 その味は、とても甘かった。

 

 

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