この話はあるTRPGのシナリオモチーフです。
「なに、これ」
──────たどり着いた先は、一面に咲く死体の山だった。皆、さっきの死体と同じ様に甘い匂いを漂わせながら、死んでいる。
あまりにも異様な光景に、頭がフリーズする。
「…………吐き気のする光景ね」
「…………………………」
「これは、一体────」
綾瀬さんが近くの死体を探ろうとしたその瞬間。
『待って、その死体に触らないで!』
ダ・ヴィンチちゃんからの制止が入る。
「ダ・ヴィンチちゃん?」
『今観測できた、その里内部だけ異常に魔力が凝集してる! 下手に里内のモノに触ると、何が起きるかわからない!』
「…………ッ!」
その言葉に、急いで綾瀬さんが手を引く。
『こっちで解析する、少し待って欲しい』
その言葉と共に向こうで解析機器を動かしているのだろう音が響く。
『…………うん、解析出来た。とりあえず、村の住人は全員死んでるね、これ』
「一体、何が…………」
『そこまではわからない。ただ、死体から麻薬にも似た植物成分が見つかったのが気になるね』
「麻薬?」
『うん、甘ったるい匂いが漂ってないかい? それだよ。幸い、匂い自体には麻薬成分が無いみたいだけど』
確かに、周囲には甘ったるい匂いが漂っている。これが麻薬と聞かされると、少し背筋が凍る。
『おそらく死因は中毒死。なんで住民全員がほぼ同時に中毒死したのかはわからないけど…………これも、魔ってやつの仕業かい?』
「ええ、おそらく────⁉︎」
綾瀬さんが答えようとすると、いきなり体勢を崩す。
「え?」
『──────あ、まずい! 立香ちゃん、彼女を村の入り口付近に連れてって!』
「わかった、ラムダ、手伝ってもらってもいい?」
「しょうがないわね…………」
ラムダのリヴァイアサンに手伝ってもらって、村の入り口付近に戻る。
彼女の意識はある様だが、ぐったりして動かない。
「う…………何故、体が…………」
『魔力濃度のせいだね。この隠れ里、外に比べたら異常なほど魔力が濃い。外界からの観測じゃ気付けないほど内部で凝集されてる。立香ちゃんは礼装のおかげで、ゴッホとラムダはサーヴァントだから不快感を感じる程度で済むけど…………いきなり飛び込んだら、体調も悪くなるだろうね」
「ああ、だから気持ち悪いのね、ここ」
「…………この感覚は…………」
「ゴッホちゃん? 何か気になるの?」
ゴッホちゃんが怪訝な顔をしていたので気になって聞いてみる。
『ゴッホ、何か感じたのなら教えて欲しい』
「…………確証は無いのですが…………ゴッホ達は、既に魔とやらの腹の内、という様な感覚がするのです…………きっと、これが嫌な予感の正体…………」
「…………なるほど。既にここは魔のテリトリーであると。そういうことなら」
倒れたままの綾瀬さんが目を閉じる。しばらく目を閉じた後、いきなり起き上がる。
『わ、いきなり起き上がって大丈夫なのかい?』
「…………意識を切り替えました。これで動けます」
そういう彼女の立ち居振る舞いはしっかりしていて、とてもさっきまで倒れていたとは思えない。
『なるほど。強烈なマインドセットによる自己強化か…………こちらの世界にもある手法だけど、ここまでとはね」
「…………退魔に関わるものなら、手法は違えど魔に対抗する手段はあるものなので」
そう言って立ち上がった彼女の手の甲に、なにやら変な印があることに気づく。
「…………あれ、それなんですか?」
「ん? どうしました?」
「その、手の甲に何か付いてるような…………」
「…………確かに何かありますね」
どうやら彼女も知らないらしい。よく見ると、印は花のような形をしている。
『どれどれ? …………うーん、確かに何かあるね。ただ、これが何なのかまではわからないや。少なくとも、害があるってわけじゃ無さそうだけど…………」
「では、とりあえず置いておきましょう。今は、この魔に対処する方が先ですから」
綾瀬さんの言葉に納得しながらも放置して良いのだろうか、と少し胸がざわつく。
何だか、嫌な予感がする。ただ、それを言っても今はどうにもならないので胸にしまっておく。
彼女の言う通り、魔への対処をする方が先なのだから。
「…………魔の正体がわからない以上、例え腹の中に飛び込むとしても情報を探すべきです。里の探索をやりませんか?」
そんな風に考えていると、綾瀬さんがこの里の調査を行わないかと提案をしてきた。
『そうだね。現状、手がかりは里にしか無いと私も思う。敵性反応も今のところは見当たらないし。立香ちゃんはどうかな?』
「…………私も、賛成」
情報が無い以上、罠でも踏み込むしか無い。
「では探索に向かいましょう。効率のため手分けした方が良いと思うのですが…………皆さんは戦えますか?」
「立香はともかく、私は一人でも戦えるわよ」
「ゴッホも、それなりには…………」
「では立香にはラムダかゴッホのどちらかを付けて、1、1、2の三手に分かれて探索するというのはどうでしょう?」
『いや、それには反対だ。この場所で単独行動は自殺行為も良いとこだろう。効率が落ちるとしても、二人ずつに分けた二手で探索した方が良い』
「…………それもそうですね。では、どちらかがわたしと組むということで」
「じゃあ、私が行こうかしら。どことなく貴女とは、相性が良さそうな気がするもの」
とラムダが言う。気難しい彼女が相性が良いと思うなんて、何か刺さるものでもあったんだろうか。
「…………そうでしょうか? まあ、組めるのならどっちでも良いのでわたしは構いませんが」
「じゃあ、私はゴッホちゃんとだね」
「…………………………」
ゴッホちゃんの方を見てみると、何か考えていて、こちらの声が聞こえていないようだ。
「ゴッホちゃん?」
「ハウッ…………エヘヘ…………よろしくお願いしますね、立香様…………」
声をかけてみると、いつも通りの反応が返ってきたので良しとする。
「では、始めましょう」
二手に分かれて、里の内部の調査を始めた。
綾瀬とラムダが里の中を歩いている。
「…………そういえば、何故わたしと相性が良いと思ったので?」
「別に、カンよカン。何となく、貴女は水に慣れていそうと思っただけ」
「…………なるほど。そういうことですか」
何かに気付いたのか、綾瀬が笑う。
「そうよ。それ以外に理由はないわ」
「…………」
お互い、無言で里の中を歩いていく。
「そういえば、何処に向かってるのかしら?」
「…………知人の家です。いつも武器を作ってもらってる」
「ああ、そういえばそんなことを言っていたわね」
「ええ。手がかりがあるのではないかと思いましてね」
やがて、二人は綾瀬が目指していた目的地にたどり着く。
その中には、当然のように死体があった。
「…………………………」
「あら、大丈夫かしら」
「…………別に。よくあることです」
死体を邪魔にならない場所に移動させ、家探しを始める。
「…………あら」
気になるものでも見つけたのか、ラムダの視線がある場所を捉える。
「どうしました?」
「ほら」
ラムダが指し示した先には、小さなな箱があった。
「これは…………?」
疑問に思いながら、綾瀬が箱を開ける。
その中には手帳が入っていた。
パラパラと中をめくりながら、綾瀬がその中身を検める。
「これは…………日記帳のようですね」
そこに書かれていたのは──────
「…………ところでさ、戦国時代ってこんなに魑魅魍魎の類が多いものかな?」
刀で雑に小鬼を斬り殺しながら、長身の男が言う。
「私に言われても困りますよ。日本生まれじゃないので」
徒手格闘で小鬼を蹴散らしながら、長身の女が言う。
「ハハ、そりゃそうか。面白いものが見つかるかと思ったら、変な連中ばかり集まってくるのも困りものだな、全く。来るなら志のあるものが良いんだが」
「馬鹿なこと言ってないで、報告しに行きますよ」
男と女が去っていく。
その跡には、無数の小鬼の亡骸が積まれていた。
次は多分息抜きに単発書きます。