多分しばらく月下は週一更新
──────立香とゴッホが里で探索をしている頃。
ラムダと綾瀬は、村の外れに足を運んでいた。
「本当にこっちに何かあるのかしら?」
「…………何もないとしても、手がかりは今のところあの日記帳しか無いのですから。例え罠でも、踏み潰すだけです」
「あら、他の家を調べるという手もあると思うわよ? 例えば、この里のトップの家とか」
「いえ、それはやめておいた方が良いですね。この手の長の家には、大抵罠が仕掛けられてあります。下手に手を出したらどうなるか…………それに、時間がどれだけあるかもわかりません」
余裕そうな態度のラムダとは反対に、綾瀬は若干焦っている様子だ。
「そ。なら従うわ…………ただ、根拠は少ないんだから、警戒は忘れないでよ」
「…………………………ええ」
会話はそこで打ち切りとばかりに二人は無言で足を里の外に進めていく。
しばらく経った頃。
「着きました。ここが、日記にあった社です」
そこは、古い社だった。
恐らく、数百年は経っているだろうか。しかし、整備が行き届いていて、寂れた様子はない。
「…………ふぅん。何かありそうな気配じゃない」
その社には、不気味な雰囲気が漂っていた。
妖しく、胎動する様な雰囲気だ。
「…………ええ、探しましょう」
異様な雰囲気に呑まれたのか、少し緊張した様子で綾瀬が言う。
「そうね」
そして、二手に分かれて社の探索が始まった。
しばらく後。
「あら、これは何かしら」
社の事務所を探っていたラムダの目に、一つの箱が目に止まる。
箱は特に何の変哲もない木箱だ。ただ、隠すように置かれていた。配置から、恐らくこの中で重要な品とラムダは直感する。
「よいしょ、っと」
ラムダが箱の蓋をどうにか開ける(持ち上げる、というより押し退けた、という感じだが)。中には一枚の紙が入っていた。
紙をどうにか取り出して、中身を読む。
紙は意外に新しく、少なくともこの社が建てられた時からあったものでは無いらしい。
「これは…………誰かの日記かしら…………えっと…………」
そこには、こう記されていた。
我々は、間違えた。
しかし、もう止まることは出来ない。
数百年前、あの種が堕ちてきたとされる時、我々はヤツを滅ぼさず、封印に留めていた。
しかし、過去の事を知らない卑怯な物言いだが…………あの時、我々はこれを滅するべきだった。
それが、退魔という存在の終わりになっても。
しかし、我々はもうヤツには逆らえない。ヤツに対抗する術は我々には無い。
我々はヤツに喰われるのを待つだけの養分だ。
故に、ヤツを滅するのは里の外の者に任せることにする。
ヤツは…………名の無い魔だ。わかっていることは宇宙からやって来た魔であり、植物の様な特性を持つ、というだけだ。
数百年前の記録によると、ヤツは隕石に乗ってやってきたらしい。ヤツを見た当時の長は分析するために、あえて生捕にして封印した。
この里はそのために作られた、いわば研究施設の様なものらしい。
最も、記録は破棄されていて、記録の残り滓と推測と実験からどうにか捻り出した私の推測なのだが。
魔の性質はこうだ。
・この魔は植物と同じで、種から育ち、いずれ開花する。この魔は花でいえば蕾の段階といったところだろうか。
・自己保存機能が強く、蕾の段階であるにも関わらず種を生成する。
・種と言ったが実態は花粉の様な物で容易に他者の体内に入り込む(ただし、長期間滞在した場合の話で、数日程度なら問題はない)。
・花粉は毒のようなもので少量なら何の問題も無いが、一定量取り込むと通常の場合は魔の養分となり死亡する。強い者ならば、体内を侵食されいずれ魔となる(死体は高濃度の種で満ちていて、触れれば一瞬で種を取り込むことになるだろう)
・魔の種を取り込むと、花の印が刻まれる。
死亡時はいずれも大輪の花の様になる。
という5つの性質を持つらしい。
しかし、実際には記されていない性質が一つある。
数百年前、長は当時名高い退魔だったが、何故かこの魔に関しては一切の手を出さなかった。それどころか魔を利用する事を考えついた。
本来、退魔なら全ての魔は滅するべきなのだ。滅するどころか利用するというのは、少しおかしいと言えるだろう。
いや、利用すると言っても噂に聞く浅神のように混血となるならばまだ理解は出来る。長がやったのはそれ以上の事だ。
長は─────ヤツの種を、ばら撒いた。
当時、魔の数は減少傾向にあった。長はそれに対して退魔の終わりを薄々感じていたのだろう。そこをヤツに付け込まれたのか、種をばら撒き、永遠に退魔の続く世にしようと思ったのだ。
今、世に蔓延る魔の全ては──────ヤツの種より生まれた魔だ。純粋な魔は当の昔に死に絶えた。
退魔を倒すべきと思いながら、退魔を蔓延らせる矛盾。
これが示す答えは一つだ。つまり──────長も周りの人間も狂っていた。
そう、この魔には──────人を狂わせる力がある。
この種を取り込んだ人間は、知らず知らずのうちにヤツに従う。
無意識にヤツに有利な行動を取る。
我々はヤツを封じているが、それはヤツにとって都合が良いからだ。
破棄された分析記録も、長が秘密裏に処分したのだろう。
私は生まれつき他人よりこの種への耐性が強く、どうにかこの事実に気づいた。
しかし、私ではヤツを滅することは出来ない。私もまた無意識に狂い、ヤツに歯向かえないからだ。
故に、この紙を見つけた者にヤツの討滅を頼む。
願わくば、里の外のものであるように。
それまで、ヤツを封じ続けよう。
「…………なるほどね」
読み終えたラムダが一人納得する。
「つまり、この里は──────最初から魔とやらの腹の中だったと」
しかし、疑問がある。
「誰が、封印を解いたのかしら」
種とやらは自分には関係のない話だし、立香やゴッホも大丈夫だろう。その為、紙と今の状況を照らし合わせて見つけた違和感について考える。
紙によれば里はヤツとやらを封じ続けるつもりだったのだろう。いつか来る誰かを待ちながら。
しかし、今の状況は明らかにヤツが解放されている様に見える。
つまり、下手人がいるということだ。
「…………ま、今考えても仕方ないわね」
情報が足りないので今考えるのは諦める。ただ、倒すべきボス以外に警戒すべき存在がいることだけは覚えておく。
「それに、ね」
背後で蠢く怪しい気配を感じながら振り返る。
「どうやら、お客さんが来たようだし」
そこには──────怪しい目をした、綾瀬が立っていた。
最初に動いたのは、ラムダだった。
綾瀬を蹴り飛ばし、事務所から叩き出す。同時に水のフィールドを展開し、自分に有利な環境を作る。
しかし。
「…………ん?」
水の中で綾瀬の動きは悪くなるどころか、良くなっていた。
水の中どころか水の外で考えても尋常ではないスピードで拳が放たれる。
「ちっ…………」
どうにか避ける。
カウンターで蹴りを放つも、蹴りを利用されて飛び退かれる。
「やっぱり相性が良いみたいね、私達」
お互い水中を得意とすることに気づいたラムダが、苦笑しながらそう漏らす。
「でも、これはどうかしら」
スキル──────メルトエンヴィー発動。
一応パーティ内と認識されているのか、スキルは問題なく発動し、綾瀬の魔力を容赦なく吸い上げる。
「う…………」
魔力切れのためか、そんな声を立てながら、綾瀬は倒れた。
「ふぅ。これでとりあえずは大人しく出来たかしら」
戦闘終了。水のフィールドを解除し、綾瀬を介抱しようと近づく。
同時に。
「おーい、大丈夫ー⁉︎」
ゴッホに抱えられた立香がそこに到着した。
「全く、こんな会社を建てるなんて…………どうかしてますね」
「はは、それが良いんじゃないか! 高杉重工改め、高杉商会ってね! さあ、荒稼ぎしようじゃないか!」
「はぁ…………」