狂気的な恋   作:96963

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ホワイトデー終わり



続 ホワイトデー③

 ーーーーーーー気づいたら、海の底にいた。でも、息はできるし目も開けられるし身体に纏わりつく水の不快感もない、都合の良い海の底。これが、夢の世界ってやつなのかな、と思う。周りは昏く、光は遥か彼方に微かに灯っているだけだ。ゴッホちゃんはどこだろう、と周りを見ようとして、縛られていることに気づく。縛られているから立つことが出来ず、しょうがないので這って周りを見ることにする。どうやら私を縛っているのは眠る前の私を縛っていたと同じ彼女の触手のようだ。つまり、この触手を辿っていけばゴッホちゃんを見つけにいくことが出来る。そう思って這っていくことにした。すると、すぐに彼女は見つかった。彼女は背を向けていて、こっちに気づいていないようだ。

「おーい、ゴッホちゃーん」

 と呼びかける。

「…………ああ、立香様。ようやくお目覚めになられたのですね。いえ、夢の世界で目覚めると言うのも変な話ですが」

「まあ、そうだね。それで、何をしてたの?」

 こっちを向いた彼女は俯いていて、表情を伺うことが出来ない。

「夢の世界であることの確認と言えば良いでしょうか…………」

「?」

「例えば、こうです」

 彼女がその顔を上げると同時に

「ーーーーーーーッ⁉︎」

 身体を、甘い痺れが襲う。この感覚は、あの時身体の中を弄られていたのと同じ感覚。つまり、媚毒だ。でも彼女の媚毒ってこんなに早く回らなかったはずーーーーーーーそう、痺れる頭で考える。

「この夢の世界では、時間の概念が歪みます。だから、わたしの媚毒ーーーーーーー海月の神経毒も一瞬で身体に回ります。エヘヘ…………これなら、好き放題出来ますね?」

 彼女が笑う。その笑みはとても綺麗でーーーーーーーとても嗜虐的な笑みだった。

 瞬間。

「ーーーーーーーあ、アアッ⁉︎」

 身体を弄られる感覚。それは以前の続きだった。彼女の細い触手が私に侵入する。その甘い痺れは苦痛すら無く私を溶かし、暴れてこの快楽から逃げようと言う思考すら鈍らせる。

 縛られている身体から力が抜け、感覚が鋭敏になる。私の身体の中は彼女に占拠され、彼女で満たされている。多幸感が私を支配する。

 私は彼女と今、一つになっている。

「これで、立香様はわたしのモノです」

 彼女の声が響く。その声は甘く濡れていて、私の脳に染み込んでいく。

「立香様には、何をしても良い、そうですよね?」

「そう、だよ」

 息も途切れ途切れにただゴッホちゃんの言葉に応える。

「では、遠慮なく」

 彼女が私の唇を奪う。抵抗する意志すら無い口内に彼女の舌が侵入し、私の舌を絡め取る。舌と舌が絡み合い、さっきよりも長い長いキスが始まる。夢の世界だからだろうか、呼吸が出来無くとも苦しくは無く、ただ、彼女に貪られている幸福と快楽だけが身体を支配する。そして、唇が離れ、再度奪われる。今度は彼女に何かを流し込まれる。拒否することは出来ずそれを飲み込むと、更なる多幸感に包まれる。彼女の唇が離れ、唾液の糸が私達を結ぶ。

「エヘヘ…………立香様を貪るの、冒涜的に気持ちいいです。…………でも、足りません。もっと、もっと!」

 答える気力がないほど、身体は蕩けている。でも、私の意思は伝わったのか、彼女はさらに喜んで私を抱き締める。

「エヘヘ…………貴女は、わたしの一部を飲み込みました。つまり、わたしのモノです。だから、一つになりましょう? ウフフ…………」

 私の身体は彼女の身体と溶けるように繋がっていく。私は溶かされ、わたしの一部になる。私はわたし。ああ、幸せだーーーーーーー。

 でも、夢の時間は終わり。世界は流転し、全ては朝の雲雀と共に消える。そして、わたしの意識は再び沈んでいく。

 

 

 

「…………おはよう、ゴッホちゃん」

 目が覚めた。どうやら私より先に起きていたらしい彼女と目が合う。

「エヘヘ…………おはようございます、立香様…………昨日は楽しかったですね…………」

「…………うん、そうだね。とっても、幸せだった」

「…………ゴッホも、満足しました。ああ、貴女と一つになれたことは、なんと悦ばしい体験だったことでしょう!」

「…………それなら、良かったよ。ホワイトデー、気に入ってくれたなら嬉しいな」

「…………立香様謹製の写真集やマリナードを含めて、とても、素晴らしいモノでした。ありがとうございます、立香様」

「…………君のその顔が見れただけで、用意した甲斐があったよ。ねえ、眠くなっちゃった。もう一回寝ない?」

「…………エヘヘ…………ゴッホも、眠くなっちゃいました。一緒に寝ちゃいましょう…………立香様と二度寝…………ウフフ…………」

 そうして、私とゴッホちゃんは昼過ぎまでお互いに抱き合って眠ったのだった。

 

 

 ホワイトデーから数日、私とゴッホちゃんの距離は以前よりも縮まった。

 以前は割とお互いひっそり人目を避けて会うことが多かったけど、今は人目を避けずに会うことが多い。

 そのせいか、別に隠していた訳ではないのだけど(食堂では一緒に食べていたし、エミヤにはバレていたようだし)、今やカルデア中に私とゴッホちゃんの仲は広がっているようだ。

 あの向日葵畑と夢の出来事は、私達の間に鎖を作った。それは、私達が離れていると縛り付け、苦しめ苛む。そして、二人一緒にいると緩み、離れまいと縫い付ける鎖だ。共依存、ってやつなのだろうか。でも、悪くない。

 寝る時も、どちらかの部屋で一緒のベッドで眠る。彼女と抱き合って眠るのは、とても幸せだ。

 …………まあ、夜は夜で大変なんだけど。

 あの夢と現実で、私は彼女に望んで身を捧げた。それが原因なのか、私の精神には彼女が持ち主と刻まれている。私は彼女の所有物だ。でも、彼女は私のモノだ。お互いがお互いの所有物という奇妙な関係になっている。それは結果的に私の加虐衝動を増加させ、毎夜繰り広げられる狂気の夜はますます狂気じみた夜になっている。

 私は彼女を貪るし、夢では私はわたしと一つになる。

 どんどん深みにハマっている気がするけど、まあ、気にしない。

 結局、どっちもお互いに狂っているのは変わらないんだし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 わたしは、今の関係が恥ずかしく、そして気にいっているという二つの矛盾した感情に襲われている。

 正直いくら立香様が誘っていたとはいえやらかしたなぁって気持ちが抑えられないのだ。夢の世界は、立香様に傷を一切残さなかった。でも、わたしは調子に乗って立香様に傷ではない不可逆の変化を与えてしまった。立香様はわたしの所有物と、彼女の精神に刻まれている。後悔はしてないのだが、マスターでありわたしの尊敬を捧げる存在たる立香様をわたしの所有物だと貶めるのは大変不敬で、冒涜的で頭がおかしくなりそうだ。元から頭がおかしいのは自覚してるけど。でも、立香様はこんな化け物の所有物でいいと、認めてくれたのだ。それは彼女がわたしから逃げる気がないということの証明であり、咲いちゃいそうになるくらいには嬉しいことなのだ。だから、今の関係は気に入っている。

 ーーーーーーーそれに、わたしは彼女のモノだ。わたしは彼女を逃す気は無いが、彼女もわたしを放す気は無いのだ。お互いに縛られているこの関係は、間違いなく狂気の産物だ。でも、元から狂っているようなわたしには関係ない。狂気でも正気でも、わたしには今が全てだ。つまり、結局のところは、今までと変わらない。例えどんな障害があっても、わたし達は、一緒の場所に堕ちていくのだろう。

 

 

 

 太陽は海の月に堕ち、海の月は太陽に堕ちた。

 ああ、とても、とてもーーーーーーー幸せだ。

 

 




ゴッホちゃんは一回ハマると執着心強いと思うんだ

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