トレセンで数学教師をやっていたらいつの間にかサトノのトレーナーになっていた件。   作:提督兼指揮官兼トレーナー

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トレセン学園ってトレーナーでも先生になれるのかな……




まぁ、トレーナーがウマ娘の勉強見てるし大丈夫かな………?










第1話 その男、数学教師であり、トレーナーである。

 

 

トレセン学園某所

 

 

 

 

「……というわけで、今年も新入生が入学する! 彼女達が普通の学生同様に教養を身につけるのが君たちの使命だ! 以上! 解散!!」

 

 

 

トレセン学園の理事長である秋川理事長から訓戒を受けているのは、トレセン学園の中等部担任の教師たちだ。

 

 

 

トレセン学園。

 

 

正式名称を「日本ウマ娘トレーニングセンター学園」とする東京都府中市に存在するこの学園には日本中から集まった優秀なウマ娘達が学び、競い合いながら成長していく全寮制の学園だ。

 

 

在校生は人間で言うところの中学生から高校生に当たるウマ娘達で、トゥインクルシリーズでの活躍を夢見て多くのウマ娘達がしのぎを削る。

 

 

 

だが、そんな彼女たちも、やっぱり学生。

 

 

 

普通に勉強もしなくてはならない。

 

 

 

普通の学校と同じように、定期考査もあれば期末試験もある。

 

 

 

更には、大学進学を見据えて勉強しなくてはならないウマ娘だっている。

 

 

 

当然成績が悪くては追試や留年すら有り得る。

 

 

 

また、この学園特有の自由で柔軟な入試方法も相まって、中途編入や、推薦入学などを経たウマ娘達は、この学園の勉強の進度についていけるようにする必要もある。

 

 

 

 

そこで、トレセン学園にも普通の学校のような教師達がいるのだ。

 

 

 

彼らは通常の学校の教師のように、教員採用試験を経て採用され、自分の担当科目を持ってウマ娘達を指導する。

 

 

 

 

 

基本的には教員免許しか持っていない彼らだが、いつの世界にも例外というものは存在する。

 

 

 

 

その例外こそ、今作の主人公にして、トレセン学園中等部数学科教員の中田洸希(29歳、独身、彼女無し、趣味:旅行並びに卓球)なのだ。

 

 

 

彼は一般大学を卒業後、トレセン学園のトレーナー採用試験を突破しつつ、教員採用試験にも受かるというキチガイな人物であり、当初は先輩トレーナーに師事しつつG2制覇を成し遂げるウマ娘の指導にあたり、その後はトレーナーにはならず教師になるつもりだったものの、担任になりたくないがために担当の付いていないウマ娘達へのトレーニング指導を3年行った後、中等部数学科に異動してきたという割と(かなり)変わった経歴の持ち主。

 

 

 

 

 

数学教師として2年目になるそんな彼が持つ数学のクラスは1-4

 

 

なんと今年入学予定の1年生なのだ。

 

 

 

更には1-4の副担までやるとのこと。

 

 

 

<うわっ、担任じゃなくて良かった〜>

 

と、普段からサボり気味の中田はとりあえず安堵した。

 

 

 

そんなわけで、入学式数日前の数学研究室で仕事をしていると、早速同僚の1人が話しかけてきた。

 

 

「よう洸希! お前今年の1年生知ってるか?」

 

「んぁ? 噂程度にはな……」

 

 

授業内容を考えていた中田はとりあえず返す。

 

 

「なんせ、あのサトノ家のご令嬢と、キタサンブラックが入学してくるって話じゃないか! 2人とも既に光るモノがあるらしいぞ!」

 

「らしいなぁ……」

 

 

新入生に向けた資料整理に忙しい中田は多少流し気味な返しをする。

 

 

「おいおい、人の話はしっかり聞けよ、それでな、たった今入った情報によると、そのサトノ家のご令嬢と、キタサンブラックは………

 

 

 

 

お前が副担と教担を受け持つ1-4なんだってさ!」

 

 

 

「あっそう。」

 

 

「いや流すんかい!!」

 

 

予想通りの反応が得られなかった同僚がツッコミを入れつつ続ける。

 

 

「お前確かトレーナー資格も持ってただろ? この際なっちまいなよ、トレーナーに!」

 

「いや、俺今数学教師だぜ?」

 

「いやいや何をおっしゃいますかコウキさん~」

 

 

急に猫なで声を出し始めた同僚

 

 

「お前さんがトレーニング指導をした年のウマ娘へのスカウト数が増えるのはよく知られた話しでっせ~」

 

「誰だよそんなデマ流したやつ……」

 

 

呆れながら、新入生指導の資料をまとめあげた中田。

 

 

「実際、副担とかはやらされているくせに、その歳で一向に担任の話が来ないのは、理事長だって思うところがあるからだと思うぜ。」

 

 

 

中田は今年で29、そろそろ体力の衰えが見える30代を手前にしているのだが、ここまで過去3年のトレーニング指導担当後の教員生活では教担止まりになっており、今年は副担を担当するのだが、むしろこの年齢で担任にならないのは誰かが意図的に配置しないとありえない。

 

 

 

(実際教職に就いて2年以内に担任を持つことは多く、23でトレセン学園に就職した中田がここまで担任を経験してないのは異常とも言える)

 

 

 

「まぁ、俺は担任って柄じゃないからな、毎年トレーニング指導担当か、行って副担レベルに止めてもらえるように希望は出してる。」

 

「おいおい、それ毎回通ってるってかなりヤバいからな。俺だって毎年副担か教担希望を出してるが、去年高等部に1クラス上げた直後で今年は1-2の担任だぞ。それなのにトレーナー資格があるからトレーニング指導担当にもなっているとはいえ、今年も担任を持っていないなんて、俺じゃなかったら今頃1発入れてるぞ?」

 

 

 

急に真面目な顔になる同僚。まぁ、それもそうだ。

 

 

 

 

 

教師とはかなり忙しい。そしてブラックである。

(あとは薄給(推測)だが、一応トレセン学園は普通の学校に比べ、教員も給料は高いためその辺についてはまだマシな方ではある)

 

 

 

 

クラス全員を見なくてはいけない担任なんぞ、誰だって持ちたくないのだ。だから、副担の希望は多く、また教科担任だけを希望する教師も多い。

 

 

 

「秋川理事長の温情が続くうちに、トレーナーになったらどうなんだ? 実際3年やってたトレーニング指導でも担当して欲しいって言ってくる子は多かったんじゃないか?」

 

 

中田はなにかを思い出したかのように一瞬苦い顔をした後……

 

 

 

「あいつらはまだ、指導してくれる人が俺しかいなかったからだ。俺しか見えなければ俺に指導を頼むだろ。それに、俺以外だって指導担当はいたんだから、俺だけ際立っているわけじゃない。」

 

 

自分に言い聞かせるがごとくそう返した。

 

 

「まぁ、そう卑下なさんな、実力は確かに……、おっとたづなさんが来たぞ」

 

 

扉の方を見ていた同僚が、たづなさんを見つけた。

 

 

 

「失礼します。中田先生はいらっしゃいますか?」

 

「ソイツはここにおりまっせたづなさん。それにしても今日も美人ですなぁ。」

 

 

 

その言葉には一切反応せずに、中田の方を向くと……

 

 

「中田先生、理事長室に来てもらってもよろしいでしょうか?」

 

「わかりました。」

 

 

 

サラッと流された同僚を尻目に、中田はたづなさんとともに理事長室に向かった。

 

 

 

 

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理事長室にて

 

 

 

「理事長、中田先生をお連れしました。」

 

「ご苦労! たづなは控えていてくれ!」

 

「わかりました。」

 

 

 

たづなさんは退出し、中田と理事長だけが残った。

 

 

 

「質問! なぜ私が君を呼んだかわかるかね!」

 

「いえ、全く」

 

 

即答した。いや、本当はわかっていたのだが、答える気がしなかったのだ。

 

 

「では言おう! 中田君! 君は教師として教壇に立つ力もあるが、何よりそのウマ娘への指導力があるからだ! このまま教師にしておくには惜しい! 是非ともトレーナーになって欲しい!」

 

 

中田の顔が一瞬歪む。

 

 

「なにかデータがあるのですか?」

 

「当然! 君がトレーニング指導をした年のウマ娘へのその後のスカウト数は他の年や平均と比べて多く、逸材も多数排出している!」

 

 

再び一瞬嫌な顔をする中田。この手の話は理事長以外からも何人も言われている。

 

 

「それは彼女たちの努力であったり、その年たまたま優秀でも埋もれていたウマ娘がいただけです。誰だってできます。」

 

「疑問! 本当にそうかね! 彼女たちは皆他でもない君の存在を挙げているぞ!」

 

「彼女はまだトレーナーが付いていないからそう感じるだけです。実際……」

 

 

 

彼女たちは今のトレーナーでちゃんと成果を……、と言おうとした矢先。

 

 

 

 

「まだあの事を引きずっているのかね?」

 

 

今度ははっきりと苦い顔をした中田。古い記憶が蘇る。

 

 

 

 

 

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苦虫を噛み潰したような顔をした男

 

(「…………もういい、お前はサブなんだ、これ以上口を……」)

 

 

その数ヶ月後に絶望に打ちひしがれる男。

 

(「…………そんな……、俺のせいだ……」)

 

 

やがて、トレセン学園を立ち去る男。

 

 

(「………待ってください! 先輩!!」)

声をかけても男は止まらなかった

 

 

 

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「……君! 中田君!!」

 

 

意識を理事長にむけなおす。

 

 

「理事長、私にはトレーナーは務まりません。このまま副担と教担、それとトレーニング指導だけでいいんです。」

 

 

その言葉に目付きが変わる秋川理事長。

 

 

「君はなぜ、その年になっても担任を持たずにいられているのかわかるかね?」

 

「いえ。」

 

「君は本当に類まれな才能がある。埋もれたままにするのは惜しい。だからこそ、いつでもトレーナーになっていいように担任からあえて外すようにしているんだ。それを理解してくれ。」

 

 

 

どうやら同僚の言う通りらしい。いや、薄々、というよりほぼ確信してはいたのだ。

 

ただ、信じたくなかった。

 

それだけなのだ。

 

 

 

「とりあえず、今年の選抜レースにはトレーナーとして参加してみます。ですが、必ずなるとはお約束できません。」

 

 

「わかった。あまり私を待たせないでくれよ。」

 

 

 

その言葉のあと、中田は理事長室を退出した。

 

 

 

 

 

 

「は〜……。」

 

 

ため息をつきながらも、足取りは数学研究室へと向ける。

 

 

 

 

 

研究室に戻ると、時計はまもなく定時の時間を示していた。

 

 

 

 

普段から省力化に務めている中田は残った教師としての仕事をさっさと終わらせ、多くの教師が羨む定時で帰宅した。

 

 

 

 

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教師、トレーナー寮の一室にて………

 

 

「ふぅ………」

 

 

シャワーを浴びて体の汚れを落とした後、浴槽に浸かりながら、一日の疲れを癒す。

 

 

風呂には1週間前に行ってきた草津温泉の湯の花。

 

 

旅行好きな中田は、こうして各地の温泉地に行くと必ずその地の入浴剤を買ってその時の雰囲気を楽しむ。

 

 

 

温泉の匂いが風呂場を包む

 

 

 

ふと、秋川理事長の言葉を再度思い出す。

 

 

 

 

<<君は本当に類まれな才能がある>>

 

 

 

「類まれな才能……ねぇ……」

 

 

 

正直、あの事を引きずっていないかと言われればそれは嘘になる。

 

 

 

苦痛にまみれた顔をして、渦巻く感情を吐露する。

 

 

 

「…………あれは俺のせいで引き起こされたんだ……………、俺さえいなければ、先輩だって! あの子だって!」

 

 

 

一旦浴槽に潜り、続く言葉をどす黒い空気の塊に変える。もし人間の呼吸の空気に色がつけられたのなら、きっと気が狂いそうなほどのどす黒さだろう。

 

 

 

何も聞こえない、目を閉じているから何も見えない浴槽の中に潜ることしばし。

 

 

 

「ゴホッ!ゴホッ!」

 

 

水中で息を吐き出し、息を荒らげながら顔をあげる。

 

 

 

どうやら、胸の中で渦巻いていた黒い塊は空気とともに追い出したようだ。

 

 

 

 

「………、上がるか。」

 

 

 

そのまま脱衣場に向かい、着替える。

 

 

 

 

普段から省力化に務めているとはいえ、書類仕事で疲れてはいるようで、ベッドへと向かった中田はそのまま眠りについた。






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