single-minded Agnes Tachyon.   作:Nautilus

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3.スピカと来訪者

 今日もスピカは練習場にて走り込みを行っていた。

 

 沖野トレーナーは全員がコーナーを通過したのを見て指示を飛ばす。

「よーし、あと一周走ったら一旦休みだ」

 

 ここ最近、ウオッカとダイワスカーレットの二人の練習意欲が高まっているため、全体がそれにつられペースが上がっている。最も、レースにおいて、やる気の重要性を沖野トレーナーは重々理解しているため諫めようとせず、ゴルシにも協力してもらいながら、逆に利用している。これが東条トレーナーであったら、また違うだろうが。

 

そして、全員走り終えたのを見計らい休むように指示を出す。

 

「よし、全員アイシングや水分補給を忘れるなよ」

『はーい』

「さあ君たち、ここにアイシング用の道具やスポドリ、プロテインバーも用意してあるよ」

「そしてトレーナー君には特性ドリンクがあるよ、さあ飲むんだ」

「お、さんきゅう」

『ありがとうございまーす』

 

 気の利いた差し入れになんとなく空気が緩くなり、各々が自由に休憩し始めた。沖野トレーナーは歩様に異常がないか確認した後、渡されたドリンクを飲み一息ついた後、パソコンにデータを打ち込み始めた。

 

「なあトレーナー」

「ん?どうしたゴルシ」

「体が発光してるぞ、大丈夫か」

「はあ、ゴルシぃ、冗談もほどほどに―…ってなんだこりゃあ!」

 

トレーナーが叫びにより、まったり休憩していたスぺたちも一斉に異変に気付き、俄かに場がパニック状態に陥る。

「ちょっと!なにしたらこうなるのよ!」

「なんで、蛍光色に!?いやでも、少しカッケーかも?」

「そういえば、だれがこの飲み物やタオルを用意なさったのでしょう」

「あ!確かにそうですね!誰なんでしょう?」

 

 

「ふむ、脈拍も正常、瞳孔、体温異常なし、ふぅン、この実験も失敗かぁ」

 

 

いるはずない人物の声に、全員の視線がそちらに向く。

『タキオン(さん)(先輩)!?』

「タッ、タキオン!?なぜここに!?」

 

 タキオンはトレーナーから外した器具を片付けながら質問に答える。

 

「なに、正当な理由があるからそう邪険にしないでくれよ。君たちも気になるだろう?なぜ私が唐突に有馬記念に参戦するのか」

 

 タキオンの言葉に場が静まりかえる。そして、スピカの中で特にタキオンとつながりが深いスカーレットが自然と代表して質問する。

 

「もう、ドリームトロフィーに移籍するからって言われていますけど、違うんですか?」

「違うよ、そもそも私はドリームトロフィーには行くつもりはないからねぇ」

タキオンは質問に答えながら器具をかたずけ終えるとスピカの面々に向き直り、殊更スカーレットの目を見ながら答えを語り始めた。

 

「なぜ私が有馬に出るのか、実はその理由は君にあるのだよ、スカーレット君」

「君の秋天での走りに私は見出したのさ」

 

 タキオンの的を射ない発言に、光ったままのトレーナーが怪訝な表情を浮かべながら質問する。

 

「なにを見出したんだ?」

「ウマ娘の果てに至るまでの可能性だよ」

「果て?」

「まあ、それは今どうでもいいんだ。今日は、スカーレット君にそれを告げに来ただけだからねぇ」

「それだけなのか?」

「一応言っておくのが筋だと考えたからねえ。そろそろお暇とするよ」

 

 タキオンは要は済んだとばかりに背を向け、歩き始めたが、ふと、数歩歩いてからこちらを再度向き直した、

 

「いや、一つ話すことを忘れていたよ」

「まだ何かあるのか」

「スカーレット君のあの秋天での走りについてだ。あれにはリスクが伴うことはトレーナー君は勿論、過去に怪我を経験している者も危うさくらいは感じているだろう」

 

 タキオンの発言に空気が張り詰める。スカーレットは初めて聞いた可能性に混乱し、目を白黒させている。トレーナーはあからさまにうろたえ、苦々しい表情のまま同意した

 

「ああくそ、お前もそう判断したか」

「ああ、それに彼女の脚は頑丈ではないだろう。怪我のリスクは非常に高いと言わざるを得ないよ」

 

 それぞれが顔を曇らせる中、タキオンは努めて明るい声色でスカーレットに向け話す。

 

「まあまだ怪我を負っているわけじゃない。検査でも異常はなかったのだろう?うん、なら対策はいくらでも仕様はあるさ」

 

「スカーレット君、最近はシューズや蹄鉄、ニーソックスまでもが、怪我予防の工夫がなされているものがあるんだ、後でトレーナーに教えてもらうといい。それに、君のチームには怪我を負った経験を持つ者が多い、彼女たち先輩を頼ることも重要だよ」

「タキオンさん…ありがとうございます。」

「何か不安なことがあるのなら、いつものように旧理科準備室に来るといい。カフェも相談に乗ってくれるよ」

 

 いつになく優しい声色のタキオンと、いつものようにという発言からスカーレットとタキオンの予想外の親交関係にスピカの面々が驚いているとタキオンは荷物をまとめ始めた。

 

「思ったより時間がたっていたようだ、それじゃあ私はそろそろ帰るとするよ」

 

 帰路につこうとするタキオンのその背に向かって、スカーレットは宣言する。

 

「タキオンさん、今日はありがとうございました。怪我のこととかおしえてくださったりして…あと、アタシの走りに見出したとか果てとか正直よくわかってませんけど、タキオンさんが相手でも一番は絶対譲りませんから!」

「フフッそれが分かったなら十分さ。君とのレースが実りあるものになることを祈っているよ」

 

 

 

 

 

 

「あと、それらの飲み物やアイシング道具は差し入れだから気にせず使ってくれて構わないよ、トレーナー君も明日には発光は収まるだろうから気にしないでくれ」

「明日には!?じゃあ今日一日中光らないといけないのか!?なあタキオン、おーい、タキオンさん?あ!?おい待て!逃げるな!何とかしてくれ!」

『差し入れありがとうございました~』

「お前らも追いかけろ!」

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