single-minded Agnes Tachyon. 作:Nautilus
~タキオンがまだウマッター上で有馬出走を表明する前~
「会長、こちらがレース申請に関係する書類になります、こちらに置いておきますね」
「ああ、助かるよエアグルーヴ。すまないがブライアン、頼んでもいいかな?」
「ああ、わかった」
シンボリルドルフとエアグルーヴが書類を処理している傍らで、面倒そうにしていたナリタブライアンがその書類に目を通す。その瞬間、面白いものを見たと口元に笑みを浮かべた。
「どうかしたか?ブライアン」
「ほら、見てみろ」
書類が、ルドルフのもとへと渡される。
「なんと、アグネスタキオンとマンハッタンカフェが有馬に出走するのですか。これは話題になりますね」
「ほう…ふふ、今年はダイワスカーレット君も出走を表明していたな…これは面白いことになったな」
シンボリルドルフが目を細めながら語る。しかし、タキオンの脚部不安を知っているだけに、これが最後になるのではという憂いを抱えながらだが。
(あとで彼女のもとを訪ねてみるか)
ルドルフは心内でそう決めた。
「すみません、タキオンさんはおられますか?」
ダイワスカーレットはタキオンに有馬記念出走の件について聞こうと旧理科準備室まで足を運んでいた。
「タキオンさんなら、今日はいませんよ。スカーレットさん」
「あ…そうなんですか…すみませんカフェ先輩」
不安そうな表情を浮かべながら、帰ろうとするスカーレットに対し、カフェは優しい声色で語り掛ける。
「タキオンさんの脚が心配ですか?」
驚いた表情で振り向くスカーレットに対し、カフェはコーヒーとお茶請けの準備を始めた。
「あの、カフェ先輩は何かタキオンさんから聞いてますか?」
「脚については、調整をしてきたから、問題ないそうですけど…」
「そうなんですか…でも…」
まだ不安の色が消えない彼女に対し、カフェはコーヒーを淹れながら微笑みかける。
「とりあえずコーヒーを淹れたのでそこに座ってください。一旦落ち着いて話をしましょう」
「…ありがとうございます」
「あなたの考えている通り、あの人がどれだけ努力しても、脚へのダメージは当然あるでしょう」
「そうですよね、タキオンさんはわたしが理由で走るって聞いたので、今回が最後になっていしまったらわたしは…」
マンハッタンカフェは、先輩への優しさに溢れている彼女に諭すように語りかける。
「確かにあの人に残された回数は少ないです。ですがそれはタキオンさん自身が一番理解しています。ですから、その残り少ない脚をあなたのために使ってもいいとあの人が判断したその意味をよく考えてみてください」
その言葉を聞き、よく自分の頭の中で何度も繰り返し咀嚼し考えたダイワスカーレットの目は元の輝きを取り戻した。
「ありがとうございます!カフェ先輩!」
彼女はもう普段の元気と自信にあふれる顔色に戻っている。
「すみません、相談に乗ってもらって」
「いえ、大丈夫です。それに私としても最後のレースにすると決めていますので、本調子ではないと困りますし」
カフェが目に剣呑な光を煌めかせ、スカーレットを凝視する。それに対し、スカーレットは宣言する。
「カフェ先輩が相手でも絶対に一番は譲りませんから!」
そして一緒にコーヒーとお菓子を食べながら二人っきりでの会話を楽しんだ後、スカーレットはカフェにお礼を言いながら帰った。その行きと違い軽くなった足取りのスカーレットを見ながら、カフェは独りごちた。
「…うん、少し…いや、かなり羨ましい。私はあの人にとって、走る理由足り得なかったから」