狭間の地から四方世界へ   作:段々畑

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ここから本編は、しばらくの間お針子視点になります。


もう一つの遭遇ーお針子

 星が輝く夜空の下、褪せ人は霊馬を駆る。何かに導かれるように駆け続ける。

 やがて、褪せ人は遠くに街が見える丘の上に出た。そこには小さな廃墟があった。屋根は無くなり、壁は既に風化し始めている。どことなく、狭間の地で見た教会に似ていた。褪せ人と霊馬が廃墟に入ると、星の灯りが集まり光輝く場所があった。

 馬から降りて、光に手をかざす。かざした手に呼応するように、光の輝きが増した。

 

 褪せ人は光の側で腰を下ろし、休息する。ふと予感めいたものを感じて、褪せ人は懐からある物を取り出して、話しかけた。

 

 

 

 

 

 ……ふふ、やはり気づくか

 こうして話すのは、久しぶりだな

 

 ああ、この光か?

 これは星々の祝福。その一片だ

 例え、異界であろうと

 異なる神が作り出したものであろうと

 星々は夜の王たる、お前の味方だよ

 

 ……あの二つの()()()は別だがな

 視界に入るだけで気分が悪くなる

 全く忌々しいものだ

 

 話が逸れたな

 星々の祝福も、導きをお前に示す

 導きの先には、狭間の地より

 この世界に流れたものが見つかるはずだ

 残念ながら、異変の原因そのものには導かれないがな

 それは星々にも私にも分からぬ事だ

 

 案ずるな

 この世界にいる限り、いつか必ず異変の原因に辿り着く

 今は導きを頼りにこの世界を駆け巡れば良い

 

 一先ずは、三本指を探せ

 封印は解けておらず、狂い火の王も誕生していないが

 奴の居場所は把握しておくべきだろう

 全く封印ごと異界へ移動するとはな

 

 それと、これは警告だが……

 冒険者には決してなるなよ

 冒険者になるという事は、

 この世界の神々の影響下に入ることを意味する

 知恵を回せば影響を最小限に抑えられるが、

 それとて限界があるからな

 

 また、この世界の人々との接触は最小限にしておけ

 この世界の者が、お前と深く接触することで

 神の影響下から脱してしまう可能性がある

 面倒事は避けるべきだろう

 

 では、頼むぞ。永遠なる私の王よ

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 辺境の街、その郊外にある牧場。

 ある日の朝、牧場に住む牛飼娘は荷車を引きながら街のギルドまで歩いていた。彼女の幼馴染、ゴブリンスレイヤーと共に。久しぶりに一緒にギルドに行けるので、牛飼娘はとても上機嫌だ。

 

「……そういえば」

 

 ゴブリンスレイヤーから話しかけられて牛飼娘は少し驚いた。いつもは自分の方から話しかける事が多く、彼の方から話しかけてくる事はほとんどないから。

 

「変わった奴に出会った」

 

 お前にだけは言われたく無いわ!

 と、ギルドの冒険者達なら思ったことだろう。

 

「へぇ〜、どんな人なの?」

「奇妙な魔法を使う者だ」

 

 後から少し調べたが、火で毒の治療を行う魔法は奇跡にも呪文にも見つからなかった。火を扱うものは幾つかあるが、体内に巡った毒を治療するものは無い。熱に弱い毒を火で対処することはある。だが、それは主に食材などに使われるものだ。

 

「強いの?」

「少なくともゴブリンよりはな」

 

 それは答えになっていないよ、と牛飼娘は笑いながら思う。最弱の怪物と言われているゴブリンより弱いのは、それこそ子供ぐらいだろう。

 

「何より不思議なのは、冒険者ではないことだな」

「え?冒険者じゃないの?」

「ああ、奴は旅人だと言っていた」

 

 てっきり冒険者の話だと思っていた。

 詳細を聞いてみるが、聞けば聞くほど奇妙な話だった。

 騎士を思わせる装備を身につけ、聞いたことが無い魔法を使い、褪せ人と名乗る旅人。

 

「う~ん、何者なんだろうね?」

「ギルドで褪せ人に救われた駆け出しが調べていたらしいが……」

 

 結局、何も分からなかったらしい。

 ゴブリンを倒し、冒険者を助けたのだから悪人では無いのだろうが。

 

「……あ、そう言えば」

 

 牛飼娘は最近聞いた噂話を思い出した。

 

「最近、異国から集団で流れてきた人達がいるみたいだよ」

「そうか」

 

 噂によると、その奇妙な集団は王国内に突如現れたそうだ。戦闘能力が高いので、国で雇入れようとする動きがあるらしいが、彼らが何処から来たのか良く分からないので反対する者も沢山いるとか。

 

「褪せ人さんと何か関係があるのかな?」

「わからん」

 

 現れた時期から、褪せ人と奇妙な集団は関係がある可能性が高い。しかし、それをわざわざ調べたり、証明する必要はないだろう。特に、ゴブリンスレイヤーにとっては。

 

「何にせよ、ゴブリンが現れるよりはマシだ」

「それはそうだね」

 

 しかし、噂とは関係なくゴブリンは現れる。

 ゴブリンスレイヤーはまたゴブリン退治に行くだろう。だからこそ、こうして一緒にいられる時間が牛飼娘にとって大切な時間なのだ。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 最初の冒険から月日が経ち、女神官はゴブリンスレイヤーと共に行動していた。色々と迷ったが、彼女は冒険者として彼について行くことにした。

 

 女魔術師はいない。杖を折られた彼女に戦える術は無く、冒険にはとても出られない。更に言うなら、彼女は心が半分折れてしまっていた。

 褪せ人を見送った後、女魔術師も洞窟で惨状を目の当たりにした。それは、心が折れるには十分な出来事だった。しかし、学院にいる弟と褪せ人にもう一度会いたいという思いから、再起する気持ちを捨てなかったのだ。

 いずれにせよ、杖を買うにしろ、宿代にしろ資金が必要だ。女魔術師は現在、ギルドで事務仕事を手伝って日銭を稼いでいる。

 

 どうか立ち直って欲しい。

 できれば、もう一度一緒に冒険したい。

 

 女神官はそんな思いを抱きながら、今日もゴブリン退治に赴く。

 

「見えてきた」

 

 ゴブリンスレイヤーが呟いて、女神官は視線を遠くに移す。森の近くにある切り立った岩山に洞窟が見えた。錫杖を握る手に自然に力が入る。大きく深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。

 

「行くぞ」

「はい!」

 

 

 

──────────

 

 

 

 洞窟の入り口にたどり着くと、ゴブリンスレイヤーは周囲の状況を確認して作戦を練る。

 女神官は思わず溜息をつく。

 大概その作戦は、ゴブリンを殲滅するためとはいえ、女神官にとってやり過ぎであったから。おまけに、臭いで居場所をバレないように血を浴びたりするので、散々であった。

 今日は何をさせられるのだろうと思っていると、ゴブリンスレイヤーが洞窟の中を凝視していることに気づいた。どうも、耳を澄ましているようだった。女神官も耳を澄ましてみる。

 

「う……うぅ……」

 

 すると、小さな呻き声が聞こえてきた。どうやら何かが苦しんでいるようだ。

 

「……ゴブリンの声ではないな」

「えっ!大変、はやく助けないと!」

 

 事前に聞いた話では、誰かが誘拐されたという事は無かったはずだ。しかし、自分たちが洞窟につく前に誰かがゴブリンに捕まった可能性はある。女神官は、はやく助けに行こうとゴブリンスレイヤーを急かす。だが、ゴブリンスレイヤーはそんな女神官を諌める。

 

「罠かもしれん。警戒を怠るなよ」

「っ!はい、わかりました」

 

 最初の冒険の失敗を思い出す。慌てては駄目だ、と女神官は自分を制する。

 女神官が落ち着いたことを確認して、ゴブリンスレイヤーは警戒しながら洞窟の中へと入っていった。

 

 

 

──────────

 

 

 

 呻き声の主は、洞窟の入口からそう遠くない場所にいた。壁に寄りかかり、泣いているようだ。

 

「うぅ…痛いよ………何でオイラが…に、荷物……」

 

 どうやらゴブリンに襲われて荷物を奪われたらしい。殺されなかったのは幸運としか言いようがない。ゴブリンスレイヤーは周囲を警戒しながら、声の主に近づく。

 

「う……あ、あんたら誰だい?」

 

 声の主が、ゴブリンスレイヤーと女神官に気づく。女神官は声の主を見て、少し驚いた。

 耳は大きく、眼は鈍い黄色、顔はどことなくネズミに似ており、手足は体の割に大きく、その爪は長かった。只人でも森人でも鉱人でも無い。獣人のようだった。

 

「こ、ここにいちゃ駄目だよ。凄く乱暴な奴等がいるんだ。オイラを殴って、荷物を盗んで……」

「待て」

 

 ゴブリンについて警告する声を遮り、ゴブリンスレイヤーはポーチから水薬を取り出す。

 

「飲め、傷が癒える」

「え?ほ、ほんと?いいのかい?」

 

 恐る恐るという感じで、ゴブリンスレイヤーから水薬を受け取ると、それを飲み干した。水薬はお世辞でも美味しいものではないので、その顔は少し苦しそうだ。

 

「ふぅ〜……ほんとだ。怪我が治った」

「そうか」

 

 ありがとう、と獣人らしき者の感謝をゴブリンスレイヤーは淡々と流し、質問を始める。

 

「お前は何者だ?」

「オイラ?オイラは亜人だよ」

 

 ……あれ?と女神官は首を傾げた。亜人というのは、森人や鉱人、獣人など只人以外の人々を指す言葉だ。だが今の話では、まるで亜人という種族がいるように聞こえる。

 今度は女神官が質問をする。

 

「あの、あなたは獣人ですよね?」

「え?違うよ。獣人じゃないよ。オイラは亜人だよ」

 

 どうも話が噛み合わない。彼の言う亜人は、どうやら自分達が知っているものとは違うらしい。亜人は話を続ける。

 

「オイラは亜人のお針子……あ、そうだ。今は星見でもあるんだった」

「お針子と…星見ですか?」

「そうさ、お針子と星見だよ。でも呼ばれるのなら、お針子の方が嬉しいかな」

 

 お針子という職業は知っている。文字通り、針仕事をする者のことだ。しかし星見という職業は聞いたことが無い。星読みという知識神の信徒が行う占いは知っているが。

 女神官が思案していると、亜人のお針子は急に暗い表情になる。

 

「でも、オイラはお針子としても星見としても失格だよ。縫い針と杖を盗られちゃったから……」

「盗んだゴブリンはどんな奴だ?」

「ゴブリン?あいつらゴブリンって言うんだ。ええと……」

 

 お針子は盗られた時の状況を語り始める。この洞窟で一休みしようとしたら、頭を殴られたこと。その際、杖と荷物を盗まれたこと。体の小さいやつが沢山いて、その内の1匹がお針子の杖を気に入り、持って行ってしまったこと。

 ゴブリンスレイヤーはお針子の話を聞いた後、女神官に話しかける。

 

「どう思う?」

「はい。入口にトーテムが無かったので、シャーマンは居ないはずです。しかし杖を盗んだという事は、呪文使いは居ると思います」

 

 ふむ、とゴブリンスレイヤーは頷くと、お針子にまた話しかける。

 

「荷物を取り戻したいか?」

「え?う、うん。あれはオイラにとって大切なものだから」

「そうか」

 

 荷物を取り戻すのなら洞窟を崩すのはマズイか、とゴブリンスレイヤーは考える。彼の考えている事を推測して、女神官は溜息をついた。

 

 

 

──────────

 

 

 

 洞窟を崩せないから、火の秘薬は使えない。幸い、以前使い損なった燃える水があった。何匹かのゴブリンはそれで焼き殺し、後は地形を利用して誘い出しながら確実に仕留めていった。

 

「良くある定番の巣だな」

 

 ゴブリンスレイヤーは、最後のゴブリンである呪文使いに止めを刺しながら、そんな感想を呟く。女神官はそんな彼に呆れ、その背後でお針子は震えていた。お針子はゴブリンスレイヤーにすっかり怯えてしまっている。

 

「終わったのかい?」

「ああ」

 

 ゴブリンスレイヤーは呪文使いが持っていた杖を拾い上げる。

 それは先端に輝く石が嵌め込まれ、王笏のような装飾が施された立派な金属製の杖だった。

 なるほど、ゴブリンに奪われる訳だ。

 ゴブリンスレイヤーは杖をお針子に差し出す。

 

「あ、ありがとうございます」

「もう盗まれるなよ」

 

 こうした品がゴブリンの手に渡るのは良くない。例え杖であろうと質の良い武器をゴブリンが手にするのは避けねばならないことだ。

 次にゴブリンの略奪品を調べると、亜人の荷物を入れた鞄がすぐに見つかった。お針子は鞄の中身を確認していく。袋、瓶、包み紙……荷物を取り出しながら一番の目当てを探す。

 

「……母さまの縫い針、王より頂いた縫い針……ああ、両方無事だ!」

 

 良かった良かった、と二つの縫い針を手に握って胸に抱く。その姿は、先ほど杖を手にした時よりも喜びに満ちていた。やはりお針子としては、杖よりも縫い針の方が大切な物らしい。その姿に、女神官は笑顔で話しかける。

 

「盗られたものは全部ありましたか?」

「はい、おかげさまで」

「ふふふ、良かったですね」

 

 女神官は、前回の冒険からゴブリン退治に何処か暗いイメージを抱いていた。それは今も変わらない。しかし、こういう事もあるのだと思うと嬉しくなる。

 

 ギルドに帰ったら、女魔術師に話してみようか?

 いや、杖を取り戻せた話は返って傷つくかもしれない。

 

 そんなことを考えていると、入り口の方から音がした。意識を切り替え、聞き耳を立てる。聞こえてくるのは、何者かの足音だった。

 

「ゴブリンでしょうか?」

「恐らくな」

 

 同じく聞き耳を立てていたゴブリンスレイヤーが答える。

 

「偵察が帰ってきたのでしょうか?」

「いや、『渡り』だな。巣を移動してきたか」

 

 偵察なら複数いるのが普通だ。だが、今聞こえる足音は一つだけ。加えて、その足音はゴブリンにしては大きい。巣から巣へ渡り歩き、成長した大物のようだ。

 巣の状況を見れば襲撃を受けたことは一目瞭然だが、ゴブリンは待ち伏せされることには慣れていない。待ち伏せの準備をしていると、お針子がゴブリンスレイヤーに声をかけた。

 

「……オイラも戦うよ」

「む?」

「戦うの、好きじゃないけどね」

 

 お針子は杖を手にしっかりと握りながら、ゴブリンスレイヤーを見つめる。その目は、震えながらも決意に満ちている。

 

「何ができる?」

「攻撃の魔術を幾つかと《星灯り》を使えるよ。それとナイフも」

 

 ……聞いた事が無い魔法だ。魔法の詳細を聞きたいところだが、もう時間が無い。

 

「……援護を頼む。無理はするな」

 

 

 

──────────

 

 

 

 そのゴブリンは自分を偉大な英雄だと信じて疑わなかった。同族は偉大な己の踏み台であり、利用されることが正しいのだと。今日も前の巣が利用し終わったので、新しい巣を探して同族の臭いがする洞窟へ足を踏み入れた。

 

 同族よ喜べ、英雄がやってきたぞ!

 

 尤も、それは成長したゴブリンには良くある思い上がりで、祈る者にとって彼は英雄(チャンピオン)には分類されていない。並みの大小鬼(ホブゴブリン)よりは経験を積んだ戦士(ファイター)ではあったが。

 

 意気揚々と洞窟に入るが、出迎えも何も無い。不機嫌になりながら洞窟の半ばまで入ると、同族の焼け焦げた臭いがしてきた。冒険者によって襲撃され、殺されたらしい。

 間抜けめ、と同族の遺体に悪態をついていると奥に明かりが見えた。どうやら冒険者はまだ洞窟にいるらしい。

 明かりが近づいて来るので武器を構えると、小汚い兜をかぶった奴が来た。見るからに弱そうな奴だ。小汚い兜は小さい刃物を投げつけてくるが、武器で弾いてやる。続けて何本か投げてくるが、全部弾いてやった。弾き終わると、小汚い兜は慌てたように逃げ出した。

 

 思った通り弱い奴だ。逃がすものか。

 

 小汚い兜は洞窟の奥へ逃げていく。奥で追い詰めて殺してやる。追いかけて、洞窟の奥の広間にたどり着くと──

 

 ─《聖光》─

 

 強烈な光が目の前に現れた。堪らず目を手で覆うと同時に、何かが足に絡まって転倒する。その隙に小汚い兜が攻撃してくる。頭を狙ってくるので、武器をめちゃくちゃに振り回して抵抗する。

 

 この、小汚い卑怯者め!

 

 目が見えてくると同時に立ち上がる。目の前に小汚い兜がいる。その周辺には、帽子を被った奴と小さい雌がいた。小汚い兜を殺した後の楽しみが増えた、と口角が上がる。

 武器を振り上げ、小汚い兜を殺そうとする。だが、振り下ろそうとした時に真横から光の塊が飛んできた。体に激痛が走る。光の塊が飛んできた方を見ると、帽子が杖を持っているのが見えた。

 

 先ずは帽子、小汚い兜はその後だ。

 

 標的を帽子に変える。小汚い兜が剣で切り付けて邪魔をしてくるが、構わず帽子へと突撃する。帽子が怯えているのが分かる。走った勢いのまま押しつぶそうとして――

 

 ─《星灯り》─

 

 再び目の前に光が現れ、目がくらむ。ひるんだ隙に、背後から小汚い兜が剣を背中に突き刺してきた。足にも帽子がナイフを突き立ててくる。耐え切れず、前のめりに倒れてしまう。

 

 その後、ゴブリンは再び立ち上がろうとしたが、背後から首を剣で突き刺されてしまい、二度と立ち上がることは無かった。

 

 

 

──────────

 

 

 

 ゴブリンが死んだことを確認してから、ゴブリンスレイヤーは剣を引き抜いた。そして、お針子に話しかける。

 

「魔法で攻撃するときは、なるべく前衛の背後からにしろ。杖持ちが危険なことはゴブリンも知っている」

「う、うん。気を付けるよ」

「それと《星灯り》だったか?目くらましに使ったのは良い判断だ。タイミングも悪くない」

 

 叱られたと思ったら、その次には褒められていた。お針子は何だか気恥ずかしくなってしまう。

 

「あんたの指示で、女の子が光を使ったのを見たから真似したんだ」

「そうか」

 

 お針子の頭上には、光り輝く球体が浮いている。女神官は自分が使う《聖光》とは異なる、魔法の光を興味深そうに観察する。

 

「星の光ですか。不思議な光ですね」

「不思議じゃないよ。何処にいようと星は常に側にあるんだ」

 

 星は常に側にある、何だか神秘的な話だ。星見とは、ひょっとしたら星を信仰する者なのかもしれない。

 

 あ、と女神官が思いついたようにお針子に再び話しかける。

 

「そう言えば、お針子さん」

「はい、何ですか?」

「私は神官です。女の子じゃありませんよ?」

 

 指を立てながら女神官は説明する。お針子は小首をかしげながら、それを承諾した。

 

 

 

──────────

 

 

 

「お針子さんは、これからどうするんですか?」

 

 洞窟から外へ出たところで、女神官がお針子に質問する。

 

「オイラ、王を探しに来たんだ」

「王ですか?」

「そうだよ。我が王はここの何処かにいるはずなんだ」

「当てはあるんですか?」

「それが……全くないんだ」

 

 お針子の王という事は、亜人の王であろうか。しかし、当てが全くないとは一体どういうことであろうか。お針子は落ち込んで、悲しそうに語る。

 

「オイラ、我が王の行き先を知らないんだ。そもそも、どうして我が王がここに来たのかもよくわかってないんだ」

 

 ……それでは、探しようが無いのでは?と言いたい気持ちを女神官は抑えて、何とか励まそうと考える。とりあえず人探しで尋ねる場所と言えば、この辺では一つしかないだろう。

 

「え~と、人探しをするならギルドに尋ねるのはどうですか?」

「ギルド?」

「はい。ギルドには人も多いですし、様々な情報が集まるのできっと何かわかると思いますよ」

「そんな場所があるんですか」

 

 どうやらお針子はギルドの事を知らないらしい。ならば、尚のことギルドに尋ねるべきだ。案外、ギルドが何か知っていて簡単に見つかるかもしれない。

 

「でも、オイラみたいなのが人がいっぱい居る所に行っても大丈夫かな?」

「心配いりませんよ。ギルドには色んな種族の人が来ますから」

「……いや、やめとくよ。街って何をするにもお金が必要でしょう?オイラ、お金を持って無いんだ」

 

 ギルドは慈善事業では無い。人探しを依頼するにも依頼料を支払う必要があるし、情報収集も情報料を支払う必要がある。

 

「針仕事でお金を稼ぐのはどうです?」

「それは嫌なんだ。オイラは我が王のお針子であって、針を商売に使いたくはないんだ」

 

 自分の縫い針は王の為にある。恩人のためなら兎も角、見知らぬ人の為に針を縫いたくはない。彼なりの矜持らしい。

 

「我が王は自分で探すよ」

 

 彼は頭を下げた後、去ろうとする。しかし、ゴブリンスレイヤーが呼び止めた。

 

「待て、まさか外で野宿する気か?」

「そうだけど?」

「……やめておけ」

 

 一党を組んだ冒険者ならともかく、1人で野宿などゴブリンや野盗の格好の餌食になるだけだ。馬小屋でも良いから何処かに泊まるべきである。

 

「せめて寝泊まりは街か村に行くべきだ」

「でも、さっきも言ったけどお金が無いよ。それにオイラ、人が沢山いるところじゃ寝れないよ……」

 

 お針子は人の多い所が苦手らしい。

 ゴブリンスレイヤーが、少し考えてから話し出す。

 

「牧場の納屋でも構わないか?」

「え?確かに牧場なら人も少ないから良いかもしれないけど……」

「なら付いてこい。確証はできないが当てはある」

 

 お針子はしばらく悩んでいたが、どのみち行く当てが無かった。杖と針を盗まれるのも避けたい。お針子はゴブリンスレイヤーの言う牧場に行くことを決めた。

 




 補足説明

 お針子の杖
 お針子が彼の王から頂いた杖。亜人の女王が所有していたものを、それなりに鍛えあげた物。元々、知力の低い者が手にした時に真価を発揮するよう作られている為、ゴブリンに奪われると割と洒落にならない事になる。杖の説明を聞いたゴブリンスレイヤーは、顔を顰めたらしい。兜をかぶっている為、誰も気付くことはなかったが。
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