本当にありがとうございます
一応、構想自体は最後まで練ってあります
DLCが販売される前には、完結させたいと思います
お針子がゴブリンスレイヤーたちと出会った、その次の日の朝。
「おはよう!今日も早いね」
「ああ」
牛飼娘は幼馴染に挨拶する。彼は朝から牧場の柵を修理していたようだ。彼の作業を観察していると、昨日から牧場に寝泊まりしている客人が来た。彼の手伝いをしているらしい。手に木材と道具を抱えている。
「おはよう、ありがとうね」
「いえいえ、どうもおはようございます」
獣人に似た帽子を被ったその客人はお針子らしい。ただし、針仕事は特定の人物にしかやらないとか。
昨日、彼がお針子を連れて来た時は大変だった。というのも、日が悪かったのだ。
その日、牧場主の伯父と牛飼娘は朝から体調を崩した若い牛の面倒を見ていたのだ。しかし、その甲斐は無く牛の様子は悪くなる一方だった。横になってしまい、もう何も食べない。
「駄目か……」
伯父が暗い顔で呟き、牛飼娘は胸が締め付けられる気持ちだった。どうか元気になって、と祈るように牛を撫でる。
そんな時だ、彼がお針子を連れて帰って来たのは。牛のこともあり、疲れきっていた伯父がお針子を泊めることに難色を示したのは、ある意味仕方のないことだった。
「あ、あの…これを食べさせて下さい」
そう言って、お針子がある物を差し出して来た。何かの実を干して乾燥させた物だった。蜜を含んでいるのか、金色に輝く不思議な実だった。
伯父は駄目元で、その実を牛に与えた。伯父は弱った牛が実を食べるわけが無いと思っていたらしい。ところが予想に反して、実の匂いを嗅いだ牛は直ぐさま食べ始めた。一口食べたかと思うと、立ち上がり与えた実を全て口にした。そして反芻を繰り返し、完全に食べ切ると元気な声で鳴いたのだ。まるで、「もっとちょうだい」と催促しているかのようだった。
こうしてお針子は宿泊の許可を得た。彼と同じ納屋で寝るよう伝えたのだが、お針子はベッドよりも藁の方が好みらしい。結果、使っていない小屋に藁を敷いて寝泊まりしている。
後で聞いた話によると、あの不思議な実はお針子の故郷の高原地帯で採れるもので、お針子が探している王も愛馬が怪我した時によく与えていたらしい。
「よく眠れた?」
「はい、おかげさまで」
一晩泊めてあげたお礼か、お針子は彼と一緒に良く働いてくれる。彼が誰かの手を借りているところを見ると嬉しくなる。
「終わった」
「では、オイラは先に街の側まで行ってます」
「本当に朝食はいらないの?」
「はい、お気持ちだけで十分です」
只人の食事は、お針子には合わないようだ。洞窟などに生えるキノコが好みらしい。
お針子は手を振って、街の方へ向かって行く。見送りが終わり、牛飼娘は彼に話しかける。
「頑張り屋さんだね」
「そうだな」
朝食に向かう途中、牛の声が聞こえた。顔を向けると昨日の若い牛が他の牛と一緒に牧草を食べていた。昨日倒れていたのが嘘のようだ。
「お針子さんの王様、見つかるかな?」
「わからん」
見つかると良いなと、牛飼娘は心から思った。
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ゴブリンスレイヤーは街の入口でお針子と合流した。女神官は、神殿に用があるらしく今日は来ていない。ギルドに入り、カウンターまで移動すると受付嬢が一行をにこやかに出迎える。
「ゴブリンスレイヤーさん、お疲れ様です」
ゴブリンスレイヤーを出迎えることは、受付嬢の楽しみの一つだ。彼の様子を確認していると、やたら周りをキョロキョロしている獣人らしき人物が居ることに気付く。
「そちらの方は?」
「昨日、ゴブリンの巣にいた」
ゴブリンスレイヤーとお針子は椅子に座ると、昨日の報告を始める。ゴブリン退治のこと、お針子のこと。受付嬢は報告を聞きながら、お針子の方を見る。彼は落ち着かないらしく、ずっと周囲の様子を伺っているようだった。
(まるで王都に初めて来た、お上りさんですね)
思わず、クスッと笑ってしまう。相手を緊張させないよう、穏やかに話しかける。
「人を探しているのですね。その人の特徴や特定できるものはありますか?」
「え、え〜と……我が王は、鎧を着てて剣を持っていて……」
「あ〜そうではなくてですね……」
わかりやすい言葉を探す。こうした経験は初めてではない。受付嬢は何年もこの仕事をしてきたのだから。
「装備や身につけている物に何か特徴はありませんか?」
「ああ、それなら。鎧の外套に紋章があるよ」
「外套に紋章ですか」
「そう、オイラが縫ったんだ」
お針子は誇らしげに語り、受付嬢は小首を傾げる。
はて、こんな話を最近聞いたような……
気になるが、外套や盾に紋章を描くのはよくある話だ。それに、まずは聞いておかなければならない事がある。
「その紋章はどの様な形をしていますか?」
受付嬢の質問を聞いて、お針子は自分の鞄を漁り出した。やがて、鞄から1枚の紙を取り出す。
「これ、縫うために書き写したやつです」
「拝見しますね」
受付嬢は、お針子から紙を受け取ると広げて中身を確認する。
(あら?これって……)
そこには、剣と杖が交差した紋章が描かれていた。つい先日、この様な紋章について調べていた人がいた。その人も外套に紋章が描かれていたと語っていた。
「……少々お待ち下さい」
そう言うと、受付嬢はカウンターの奥に入っていく。そして、1人の女性を連れて直ぐに戻ってきた。その女性、女魔術師はカウンターにいたゴブリンスレイヤーと目が合うと、気まずそうに挨拶する。
「…どうも、お疲れ様です」
「ああ」
「あの、女神官は?」
「今日は神殿に行っている」
「そうですか、良かった」
女魔術師は緊張した様子で、女神官の無事を確認するとほっと息をつく。
挨拶が終わった事を確認して、受付嬢は女魔術師をお針子の方へ促す。そして、例の紋章を見せる。
「女魔術師さん、あなたの見た紋章とは此方ではありませんか?」
女魔術師は紙をみると、目を見開いて返事をする。
「はい!間違いありません!」
女魔術師の返答を聞き、ゴブリンスレイヤーは何処か納得したかの様に俯く。
ゴブリンスレイヤーがお針子に尋ねる。
「褪せ人という者を知っているか?」
「褪せ人?当然、知っているよ。我が王も褪せ人だよ」
「やはり…」
お針子は状況を良く理解できていないようで、周囲を見回している。女魔術師がお針子に説明する。
「私、外套にこの紋章を付けた人に助けられたのよ」
「え、本当ですか」
「居場所とかわかる?まだお礼を言えてなくて…」
「すみません。オイラも探してて……」
「そう……」
目に見えてシュンとしてしまった女魔術師に、お針子が申し訳なさそうに言う。
「あ、あの…我が王と出会った時のことを詳しく教えてくれませんか?」
その言葉に女魔術師は顔を上げ、ゴブリンスレイヤーと共にその日見たものを説明する。
祈祷という魔法を使ったこと、身につけていた装備のこと、最後には馬に乗って立ち去ったこと。
お針子は話を聞き終えて、体を震わせながら口を開く。
「古き黄金樹の祈祷、夜と炎の剣、獣集いの鎧、角を生やした馬、間違いありません。我が王です」
お針子は眼から涙を流す。王はやはりここに来ていた。涙を流しているお針子に、受付嬢が申し訳なさそうに話す。
「お針子さん、申し訳ありません。あなたの探している王、褪せ人さんはギルドも行方がわかっていません」
「大丈夫です。我が王がこの地にいる事がわかっただけでも、ありがたいです」
お針子に動揺した様子は無いため、受付嬢はほっと息を吐いた。何せ全く情報が入らないのだ。目立つ格好にも関わらず目撃情報が一切無いため、ギルド職員の中には存在を疑うものも居たぐらいだ。
「しかし、困りましたね。情報収集するにしても資金が無いと……」
ギルドの掲示板に張り紙をしても、懸賞金が無ければ情報は集めづらい。冒険者は生活費や冒険に必要な費用を稼ぐだけで精一杯な者が多いのだ。
お針子は無一文、女魔術師も金銭的な余裕が無い。女神官も同様で、ゴブリンスレイヤーには金銭まで支払う理由が無い。
少し考えて、受付嬢がある提案をする。
「お針子さん、冒険者になりませんか?」
「オイラが冒険者に?」
「はい、先程の話によると魔術を使えるようなので」
お針子は戦うことが嫌いだそうだが、戦えないわけでは無い。しかもゴブリンスレイヤーと一緒だったとは言え、ゴブリンの上位種と戦った経験がある。並の新人冒険者よりも期待が持てる。
「う〜ん……」
しかし、お針子はどうも乗り気では無い。どうしても嫌ならそれは仕方がない。冒険者になる事を強制することなどできない。
その時、受付嬢が依頼を張り出す時間が近づいている事に気づく。
「すみません。依頼を張り出す時間なので続きはまた後にしましょう。こちらの紋章は書写して掲示板に貼っておきます。お針子さん、大事なことなのでゆっくり考えてください」
受付嬢は張り出しの準備にかかり、女魔術師もその手伝いに行く。ゴブリンスレイヤーとお針子も、ギルドの端の席に移動する。
しばらくすると依頼が張り出され、冒険者が群がり依頼を取り合う。ゴブリンスレイヤーは動かない。ゴブリン退治は人気が無いので、取り合いに参加する必要は無いのだ。人が少なくなるまで、待てば良い。その間もお針子はずっと悩んでいた。
人が減ってきた所で、ギルドの扉が開いた。外から冒険者の一党が帰って来たようだ。
「はぁ、無事に帰ってこれたぁ……」
「生きているのが、まだ不思議なぐらいです」
帰って来たのは女性4人で構成された鋼鉄等級の一党だった。圃人の野伏、森人の魔術師、只人の僧侶、そして頭目の貴族令嬢の自由騎士だ。かなり危険な目にあったらしく、見るからにボロボロになっている。自由騎士が、疲れた様子でカウンターへやって来る。
「冒険の報告をしたいのだが……」
「はい、少々お待ちください」
受付嬢は報告を受ける準備を始める。すると掲示板を眺めていた只人の僧侶が声を上げた。
「あ、あー!皆さん、これ!」
自由騎士を含め、彼女達は掲示板に群がる。何かに注目しているようだ。
これだよね?うん!これだよ!ああ、間違いない。
そんな会話が聞こえたと思ったら、自由騎士が掲示板から紙を剥がしてカウンターに持って来る。それは、あの紋章が描かれた紙だった。受付嬢が応対する。
「聞きたいことがあるんだが」
「はい、何でしょう?」
チラッとお針子とゴブリンスレイヤーの方を見る。ゴブリンスレイヤーはこちらの様子を見ているが、お針子は頭を抱えているせいか気づいていないようだ。近くにいた女魔術師も反応し、聞き耳を立てているのがわかる。とりあえず、彼女達の話を聞く。
「この紋章を付けた人に助けられたのだが……」
「なるほど、少々お待ちください」
受付嬢はお針子とゴブリンスレイヤーを呼んでくる。鉄兜を被っているみすぼらしい装備の冒険者と、見覚えのない獣人のような人物が現れ、彼女達は少し顔を顰めた。だがお針子の事情を話すと、納得した表情になり、彼女達はギルドへの報告も兼ねて詳しい話を語ってくれた。
立ち寄った村で村娘がゴブリンに攫われる事件があり、彼女達は善意で救出に向かった。しかし、ゴブリンの巣で見つけた時には村娘は既に手遅れであった。さらに、彼女達は眠っていたゴブリンを誤って起こしてしまい、必死の抵抗も空しく全員捕らわれてしまった。
「もう駄目と思ったときだ。その紋章の人が現れ、助けてくれたのだ」
しかし、互いに助かったことを確認している間に、その人は消えていた。村に戻り、村娘の事を伝えると同時に紋章の人について聞いた。しかし、村人は誰も紋章の人など見ていなかった。手掛かりは何も得られない。仕方なく、彼女達は辺境の街に戻ることにしたのだ。
「なるほど、そうでしたか」
「ああ、もしあの人の行き先がわかったら教えて欲しい。こちらも何かわかったら伝えよう」
「わかりました。よろしくお願いします」
話を終えると、彼女達はすぐさま宿に向かって行く。無理もないことだった。ギルドに到着した時点でヘトヘトだったのだ。圃人の野伏なんか、話の途中で船を漕ぎ始めていた。
彼女達が立ち去った後、お針子は目を瞑り思案する。しばらくして目を開くと、受付嬢の方を向く。何かを決意したようだ。
「オイラ、決めた。冒険者になるよ」
「え?こちらとしては大変嬉しいですけど、何故ですか?」
受付嬢の質問にお針子は丁寧に答える。
王は村や街を避けている。理由までは分からないが、それは間違いない。だから、王に会う為には危険な洞窟や遺跡へ行かなければならない。だからといって闇雲に危険な場所に行けば野垂れ死ぬだけだ。
「だから、誰かと一緒に……できればゴブリンスレイヤーさんと一緒に冒険に行けたらと思ったんだ」
お針子は申し訳なさそうにゴブリンスレイヤーの方を見る。だが、彼の返事はいつもと大して変わらない。
「別に構わない」
「ありがとうございます。オイラ頑張るよ」
お針子は喜んでお礼を言う。受付嬢もとても嬉しそうに新たな冒険者を歓迎した。彼女の場合、ゴブリンスレイヤーが女神官と二人っきりにならないで済むという思いも有ったりしたが。
こうしてお針子は冒険者になり、ゴブリンスレイヤーの一党に加入した。
ありがたいことに、ゴブリンスレイヤーの口添えで寝泊りは牧場を引き続き利用させてもらえることになった。牛飼娘も牧場主の牛飼娘の伯父も、お針子を歓迎してくれた。
もちろん、神殿に行っていた女神官も新たな仲間を歓迎した。
連日投稿はここまでになります。次回は来週水曜日の予定です。