ゼロの殺魔者(さつまもん)   作:全智一皆

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ドリフターズを見て久々の投稿


第二話「薩摩寮生の日常」

 

■  ■

 時間は午前の6時頃と言った所だろうか。

 季節的にもまだ日が出るには遅く、さりとて空が暗いかと言われれば真っ暗という訳でもなく、ほんのりと明るみを灯しつつある絶妙な時間帯だ。

 当然の事、トリステイン魔法学院に通うメイジ達は未だ寮のベッドにて、布団を被りスヤスヤと安らかに眠っている時間帯である。

 誰にも侵犯される事のない憩いの時間。眠りに浸り、夜を過ごし朝を迎えつつあるその時になって―――

 

「んぁ? もう朝か」

 

 トリステイン魔法学院において、『ゼロのルイズ』などという蔑称を付けられているヴァリエール家の三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ラ・ヴァリエールによって召喚された使い魔―――もとい。

 ホグワーツ魔法学校薩摩藩在籍、坂巻(さかまき)久登(ひさと)ことヒサト=サカマキは、床に座って眠りに就いていたのだけれども、その早い時間になって直ぐにパチリと目を覚ました。

 

「床で寝っなんてはいめっの事やったが、これも修行にはなっな。さて、顔を洗うて日課ん打ちをせんにゃ」

 

 彼はルイズの我儘に大変忠実であった。それ故に、使い魔であるから床で寝ろというルイズの言葉にも素直に従い、文句の一つすらなく床で夜を過ごしたのだ。

 というのも、彼は英国の産まれではなく日ノ本の産まれ、本来ならば魔法処に行く筈だった人間なのだ。つまり育てが日ノ本、即ち武士のそれであった。

 学生という見習いの身分にありながら、女子(おなご)でありながら強気を持った血気ある者に仕える。これが何と名誉な事か。

 だからこそ、日頃の鍛錬は別の世界に召喚されようとも続けねばならん。主に恥を欠かす訳にはいかぬ。それが彼の言い分であった。

 とは言え、薩摩藩たる彼には慎重な歩き方など出来よう訳もなく。坂巻はずんずんと堂々とした歩き方で廊下を渡り、寮の外へと出て行った。

 

「んー、朝ん空気は良かもんだど。風も涼しか、絶好ん打ち込み稽古日和じゃ!」

 

 ひゅー、と朝を迎えつつある狭間の風が頬を撫で、体の熱を冷ます。坂巻はいそいそとしながら外の地面へと足を付け、水汲み場は何処かと探し歩いた。

 だが、それも仕方ない。何故なら坂巻はトリステインの構造をまるで聞かされていなかったのだから。

 というのも、坂巻はそもそも先日召喚されたばかりであり、その召喚初日で主であるルイズを嘲笑った生徒達を怒鳴るという一件があった所為で、碌に案内もされていないのだ。

 普通なら主であるルイズが使い魔の世話をするものだが、あんな事があったのでその余裕もなく、取り敢えず寮までの道だけを案内してその日は終わってしまったのだ。

 なので、水汲み場が何処にあるのかも分からないのは何ら不自然な事ではなく、致し方ないのだ。

 

「うーん…いっちょん見付からんな。こげん事なら昨日ん内にリズ殿に聞いちょけば良かった。もういっそん事、魔法でん使うか?」

 

 ホグワーツで学ぶ呪文の一つに、『アグアメンティ(水よ)』という『水増し呪文』がある。その効果は至って単純、杖の先から水を噴出させるというものである。

 外に出てから既に三分もの時間が経過しているのだが、一向に水汲み場が確認出来ない。

 6年生から学ぶその魔法を坂巻は一応使えはするのだが、しかし態々顔を洗うが為だけに魔法を使うというのも些か憚られる。

 どうしたものか……と悩んでいると、

 

「あの……どうかされましたか?」

「ん?」

 

 一人のメイドが、坂巻に話し掛けてきた。

 

「あっ、すみません、いきなり話し掛けてしまって……何だか、困っている御様子でしたから。もし宜しければ、話してたくださいませんか?」

「おぉ、そんた忝なか。んにゃ、実は水汲み場を探しちょったんじゃが、全く見当たらんのじゃ。そいで困っちょったんじゃ」

「えっと…?」

 

 メイドはつい首を傾げてしまった。だが、それも無理はない。

 言語が云々という訳ではないのだ。いやまぁ、広い意味で捉えるならば言語が原因ではあるのだが。

 これは彼女が彼の発する言葉を理解出来ないとかそういうのではなく、ただ単純に彼女が彼の方言―――薩摩弁を上手く理解出来ていないというだけの事である。

 ホグワーツにおいても、彼ら薩摩藩寮生の言葉を上手く聞き取り理解する事が出来る人間などほんの一握りだ。まぁ、坂巻のそれは他の寮生―――先輩達のものに比べれば、かなり聞き取り易いものだが。

 それに気が付いたのか、坂巻はしまったと天を仰いだ。

 

「あぁ、そうか! 何処かは分からんがリズ殿ん話を聞っに此処は異世界、ともすりゃ薩州ん方言も聴き取れじ当然か…どげんしたもんか…。ん? じゃっどんリズ殿はしっかり聴き取れちょったな。どげん事じゃ?」

「あの……」

「おぉ、すまんすまん! 少し考え事をしちょってな。だが、どげんしたもんか…方言を直して標準語にすったぁ、おいは苦手なんじゃが…」

「あっ、いえいえ! なんとなく、何を言ってるのかは伝わりましたから! えっと、水汲み場を探してるんですよね? でしたら、御案内しますよ」

「本当か! そんた忝なか、あいがと!」

 

 坂巻の言葉には、何一つとして嘘偽りはなかった。

 それは紛れもない本心だ。彼に限らず、薩摩藩の生徒達は皆揃って正直者である。それはもう凄まじいレベルの。

 女々しきは恥なのである。

 

 それから数分し、水汲み場で顔を洗い終わった坂巻は、案内してくれただけでなくトリステインの構造まで教えてくれた一人のメイドに、頭を下げてまで感謝した。

 

「きゅは縁にも恵まれちょっ、わっぜ良か日じゃ!」

「そんな、大袈裟ですよ」

「大袈裟なもんか! こげん綺麗で優しか御仁に出会えたんじゃ、縁に恵まれちょっち言わずしてないちゆ」

「おいは坂巻久登ちゆ。ヒサトち呼んでくれ。リズ殿ん使い魔、武士じゃ。宜しかれば、わいん名前を聞かせてはっれんじゃろうか?」

「シエスタです。このトリステイン魔法学院に勤めているメイドです」

「シエスタ殿か、しかと胸に刻み込んど。いやぁ、今回はほんのこて助かった! 今後とも、仲良うしてくるっと嬉しか!」

 

 坂巻久登、この世界で初めての―――友人との邂逅である。

 

 それから、暫くして。

 

「――――――キィィィィィィィィィィィィィィエェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 トリステイン魔法学院に、たった一人の人間の猿叫が響き渡った。

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