HEART to CPU   作:ねぼとけ

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金色の光、纏う

「・・・・・本当にアキレスが喋ってるの・・・?」

『うん。そうだよ』

 

 バンの近所に住む同級生で親友の少女、川村アミは困惑していた。

 いつもの時間に学校へ行くべく家を出ようとすると、いつも遅刻ギリギリで登校してくる彼が、家の前で自分を待っていた。珍しいことに驚き、どうしたのかと彼に尋ねると、アキレスのことなんだけど、と言いながら彼は白いバッグからアキレスを取り出し、アミに見せてきた。

 一体どうしたのかと思いながら彼からの言葉を待つと、突然アキレスが彼女におはよう、と言ってきた。朝の挨拶っていうのはこれでいいんだよね?とバンに向けて言うと、バンはバッチリだよ!と嬉しそうに返す。

 アミは今自分の目の前で起こっている出来事が信じられなかった。バンの頬をつねり彼が痛がる姿を見て、これが現実であることに気づいた。

 

「うっそーーーー!!LBXが喋るなんてどうなってるの!?」

「いてて・・・な?信じられないよな!」

「うん!でも、どうして?」

 

 バンは彼女に昨日突然アキレスが話し出したことを伝える。その後アキレスから聞いた話も続けて言った。どうやらアキレスによると、何故自分が突然話せるようになったのかはわからないらしい。

 

「私のクノイチも話したりしないかしら!」

 

 LBX『クノイチ』はサイバーランス社製のLBXである。フレームタイプは細身で機動力に優れたストライダーフレームで、細身で可愛らしいデザインから、女子からの人気が高いLBXだ。

 アミとその愛機であるクノイチは、昨日アキレスを取り戻すためにバンたちと共に戦ってくれた仲間だ。アミは鞄に入れてあったクノイチをアキレスの前に出す。アキレスはしばらくクノイチを見つめた後いった。

 

『クノイチも君と話したがってるよ』

「本当!?」

『うん。クノイチ、君のこと大好きだって。君はクノイチにとっていいマスターなんだね。』

 

 マスター、という一言に今までアキレスとアミが話している様子を嬉しそうに眺めていたバンが少し表情を固くする。そのことに気づいたアミが彼に問う。

 

「どうしたの?バン」

「あ・・・実は昨日」

「・・・ってこんな所で話してる場合じゃないわ!早く学校行きましょ。話は歩きながら!」

 

 アミはクノイチを鞄へしまい、歩き出す。バンもアキレスを手に持ったまま、すぐに彼女の後を追った。

 

「で?何でそんな顔してるの?」

「昨日アキレスと話してたんだ。LBXにとってプレイヤーは相棒で、マスターって呼ぶ相手なんだって。けど、昨日・・・」

『僕を完全に使いこなせるようになるまでは君をマスターとは認めないって言ったんだ』

 

 アキレスの言葉にバンはガックリと肩を下ろす。

 バンはLBX操作に関して初心者というわけではない。むしろ借り物の機体を使ったバトルに勝てるくらいで、その腕前は彼の友達からも太鼓判を押されている。それでも今のバンは、アキレスの性能を完全に引き出せるほど上手くはないということだ。

 

 いつも明るく前向きな彼にしては珍しい様子に、アミは少し驚く。ようやく手に入れた相棒に自分のことを認めていないと言われれば、さすがのバンも落ち込むらしい。

 そんな彼にアミは微笑んで言った。

 

「元気だしなよ!初めから自分のLBXを上手に扱える人なんていないわよ」励ますようにバンの背中を叩く。力を込めたつもりはなかったが、バシッ、といい音が鳴った。

「でも・・・」

「気持ちはわかるけど、いつまでも落ち込んでるのはバンらしくないよ。バンはいつも落ち込むことがあっても、すぐに前向きになって頑張ろうとするじゃない。アキレスに認めてもらえるように頑張りましょ。私も手伝うから!」

「アミ・・・そうだよね!ありがとう!」

 

 アミからの励ましによって、バンはいつも通りの明るい笑顔になる。それを見てアミも笑みを深め、二人のやり取り黙って見ていたをアキレスも、二人には聞こえない音量でふふ、と笑った。

 

「そうと決まれば、放課後は早速キタジマでバトルね!」

「ああ!カズも誘って、」

 

 そこまで言うと二人ともはっとして会話が途切れる。昨日のことを思い出したのだ。

 

 青島カズヤー通称カズは、バンたちの親友であり、昨日不良たちとバトルをした時にピンチに陥っていた二人を助けてくれた仲間だ。

 しかし、彼の愛機『ウォーリアー』がアキレスを庇ったことで、「ミソラ四天王」のリーダーでバンたちが戦った相手である郷田ハンゾウの『ハカイオー』によって、粉々に破壊されてしまったのだ。

 LBXプレイヤーにとって自分の所有するLBXとは相棒であり、唯一無二の大切な存在だ。それを失うショックは相当のものである。

 バンは少し俯いてアミにいった。

 

「カズ、大丈夫かな・・・?」

「ちょっと心配よね・・・休み時間にでも行ってみようか」

「・・・うん」

 

 バンとアミは同じクラスだが、カズだけは別のクラスだ。二人は休み時間のたびにカズの教室へ行ったが、二人の行動を読んでいたのだろう。その日二人は、カズと会うことすら出来なかった。

 結局、放課後は二人だけでキタジマ模型店を訪れた。

 

 キタジマ模型店はバンたちがほぼ毎日通う店だ。店長の北島小次郎とその妻である北島沙希が営んでおり、LBXの実力も中々である。

 バンとアミはカズのことを北島夫妻に話した。沙希は特に落ち込むバンをカラッとした笑顔と言葉で励ます。店長からも二人を安心させるよう言葉をかけた。

 

 結局その日はバンとアミが対戦した。勝ったのはバンだった。

 二人はバトルの振り返りや反省点を話しながら、河川敷の土手道を歩いていた。

 

「やっぱりバンは強いよね」

「アミだってすごかったよ」

「どう?アキレス。バンの腕前は」

『まだまだだよ。前よりはマシになったけどね』

「厳しいなあ・・・」

「ふふっ。そういえば、アキレスが喋った時の店長たちの反応・・」

「すごいビックリしてたな!!」

 

 朝とはうって変わって、明るい雰囲気で二人と一体の会話が弾む。バンに関してはツンとした発言をするアキレスも、元気をとりもどした二人の様子に安堵する。

 このままカズとも元通りになってくれれば・・・と思っていたその時、思いがけない人物が現れる。カズだ。今日一日全く会うことが出来なかったカズが突然現れたことにバンとアミは驚く。心配するアミの言葉も、バンの謝罪も耳に入れず、カズは二人が見たことのないLBXを取り出し、バンにバトルを申し込む。

 

「新しいLBX買ったの?しかも見たことない・・・もしかしてレア物か?」

「そんなことはどうでもいい」

 

 バンの質問には答えず、カズはDキューブを取り出した。

 Dキューブとは、強化ダンボール製の小さな立方体で、上面のスイッチを押すと大きく展開してバトルステージに早変わりし、LBXプレイヤーにとって必需品ともいえるものだ。

 

 カズはDキューブを土手の下に投げ、河川敷へ移動する。二人は顔を見合わせてカズが立ち直ったことに喜び、彼の後を追った。 

 バンとカズは展開されたバトルフィールド越しに向かい合わせになり、お互いのLBXをスタンバイさせる。カズの新しいLBXの名前は『エジプト』というようだ。色は全体的に黄色で、青や赤の模様があしらわれている。騎士ようにも見えるが、ピエロのようにも見えるデザインで、顔の赤いギザギザな歯からも、少し不気味な雰囲気を醸し出している。

 

「いくぞ!」

「よし来い!」

 

 バトルが始まった。アキレスとエジプトはほぼ同時に攻撃を仕掛けた。互いの力が拮抗する。アキレスは一度距離をとり、正面からエジプトに突きを仕掛ける。しかしエジプトは素早い動きでアキレスの攻撃をかわし、カウンターキックをくらわせた。その一撃は強力で、アキレスのLPが4分の1ほど減った。

 エジプトはさらにアキレスに仕掛ける。大振りの一撃をアキレスは盾で防ぐが、そのあまりの威力に盾が真っ二つになってしまった。

 盾を失っても、アキレスは懸命に攻撃をし続ける。しかし、撃ち合いになるとアキレスが押されてしまう。さらにアキレスの動きがいつもより鈍い。その原因にバンは気づいた。

 

 このバトルのフィールドは砂漠ジオラマだ。エジプトは砂の上でも素早く動ける設計となっており、それがこのバトルにおける大きなアドバンテージとなっていたのだ。しかし、気づいた時にエジプトの攻撃がアキレスに直撃し、アキレスの槍が弾かれ、倒れ込んでしまう。エジプトはすかさずアキレスへのし掛かり、アキレスの左肩付近を何度も攻撃した。

 このままではアキレスが破壊されると危惧したアミがカズへ止めるように訴えるが、カズは何かに取り憑かれたように笑い、さらに追撃をする。バンが逃げるよう指示しても、アキレスは完全に抑え込まれ、動くことすらできなかった。

 

「どうすれば逃げられるんだ・・・!」

 

 エジプトはアキレスの首を掴み再び連続で攻撃する。拘束から逃れようとアキレスは必死でもがくが、エジプトの力は凄まじく、びくともしない。やがてエジプトの腕を掴んでいたアキレスの腕がだらりと下がった。

 

「アキレス!!」

 

 絶体絶命なその時、バンのCCMが突然光り出す。そして、いくつもの画面や空中ディスプレイが現れた。CCMが変形したのだ。バンは一番下の画面に書かれた、ある文字を見た。

 

「V、モード・・・?なんだ・・・これ・・・」

 

 変わったのはCCMだけではない。アキレスの体全体が黄金のオーラに包まれる。その瞬間、バンが操作していないのにもかかわらず、アキレスが勝手に動き出した。

 攻撃を仕掛けるエジプトの腕を掴んで動きを止め、顔に蹴りを入れた反動でエジプトの拘束から抜け出す。そして砂の上にもかかわらず、アキレスは素早く突進をした。さらに瞬時にエジプトの背後をとり、顔に回し蹴りをいれる。エジプトの体制が整う隙を与えず、アキレスはエジプトの首へ指を差し込む。すると、途端にエジプトがカズの操作に応えなくなった。

 

「何!?」

「どうなってるんだ・・・」

 

 バンが暴走したアキレスを止めようとするも、コントロールすることが出来ず、アキレスの動きは止まらない。

 止まらないアキレスの猛攻に、やがてエジプトは倒れる。そしてついに、アキレスは自身の武器であるアキレスランスでエジプトを突き刺し、完全に破壊してしまった。

 すると、アキレスを纏っていた金色の光は消え、バンのCCMも元の形に戻り、カズが意識を失い倒れる。

 バンとアミは慌ててカズの元へ駆け寄る。その様子を、河川敷に架かる橋の上からある男が見つめていた。

 

 

 

 

 

 カズが意識を取り戻した後、バンたちは再びキタジマを訪れ、店長たちに先ほどまでの出来事を話していた。カズは謎のLBXエジプトを手に入れてから記憶が曖昧であったこと、アキレスを破壊することで頭がいっぱいになっていたこと、アキレスが突然暴走し、エジプトを破壊したこと。そしてその瞬間、突然倒れてしまったこと。

 

「体調とか、どこかおかしくはないか?」

「ああ、全然平気だぜ」

「・・・もしかしたら催眠術にでもかけられたのかもしれないわね」

 

 カズは心配する店長を安心させるよう、少し笑って答えた。そして、沙希の言葉にカズは何か思い出したようにいった。

 

「そういえば、エジプトを触った途端、変な光を浴びせられて・・・」

「もしかして、それが催眠術の原因・・・?」

「そして、アキレスを破壊するよう命じられた・・・」

 

 アミと店長の推測に一同は静まり返った。一体誰が、何の目的でカズにこのようなことをしたのだろうか。考えても結論は出ない。バンは顔をしかめ、知らない間に大切な親友であるカズが誰かに利用されたことに対し、怒りを覚えていた。

すると、何か思いついた店長がアキレスに問う。

 

「そうだ、えっと・・・アキレス、お前は何か知らないか?どうして自分が狙われたのか・・・とか、何か心当たりはないか?」

『・・・わからない。僕の意識がはっきりしだしたのは、ハカイオーと戦う直前、つまり、僕が初めて起動されたときだった。それ以前のことは何もわからない。僕は何者で、誰に作られたのか、・・・何のために作られたのか・・・』

「じゃあ、あのVモードっていうのも知らない?アキレス、俺が操作してないのに動いてたよね・・・」

『うん・・・あんな機能が僕に備わってたことも知らなかった。あの時、僕が僕じゃないみたいな気がしてた・・・次はこうしろ、ああしろって、どこからか勝手に命令されて動いてた。・・・僕、自分のこと、全然知らない・・・そう思えば思うほど、何だか、変な感じがする・・・』

「アキレス・・・」

 

バンは、アキレスが自分を知らないことに怖がっていると感じ取り、アキレスの赤いモヒカンを優しく撫でる。その温かな手つきに、アキレスは不安が和らぐのを感じた。モーターの辺りもポカポカする。これは一体何なのだろうか。

そんな二人の様子を黙って見守る一同だったが、目と口を開けてぽかんとする者が一人。カズだ。

 

「は・・・は?・・・え、ちょ」

「アキレスはどこにも情報が載ってないレアなLBXだから狙われたとか?」

「お、おい・・・」

「だとしたら破壊するより、盗もうとするんじゃない?」

「アミっ・・・」

『うーん・・・何なんだろうね・・・』

「ぅおおおおおおおい!!」

「っうわ!どうしたんだよ、カズ」

「どうしたじゃねーよ!なに当たり前のようにLBXと話してんだよ!何でアキレス話せてんだよ!!何で俺に説明しないんだよ!!!」

 

 困惑する自分に気付かず推理するバンとアミに向かって、とうとうカズが叫んだ。バンはごめんごめん、といってカズにアキレスが話せるようになったことを伝える。実際目の前で目撃してもLBXが話すことは信じ難いことだったので、カズはバンの頬をつねった。

 

「いてっなんでカズまで俺のほっぺつねるの!?」

「うおっ、悪ぃ!でも、痛いってことは現実・・・なんだよな・・・」

「俺と沙希も、まだ信じられないよ」

「どうなってんだよ・・・」

『まあまあ、どうでもいいじゃんそんなの』

「よくねーよ!?」

「カズすごい!もうアキレスと仲良くなってる!」

 

未だ驚愕したままアキレスと話すカズだったが、先程までのことを思い出し、眉を下げる。

 

「バン、それとアキレス。さっきは悪かった。本当に・・・」

「いいよ、そんな。それより、カズが元通りになったこと、それが一番嬉しい!」

『僕も気にしてないよ。というか、申し訳なく思うくらいならいつも通りに接してあげてよね。二人とも今日一日、君のことずっと心配してたんだから。』

「アキレス・・・」

「気にかけてくれてたの?私たちのこと・・・」

『べっ別に・・・!僕の操作に影響出されたら困るだけで・・・』

 

 少し慌てたように話すアキレスに一同は笑みをこぼす。

 カズについての話はやめにし、店長がカズのために用意してくれていたLBX『グラディエーター』を渡した。店長やバンたちの思いやりによってカズは完全に吹っ切れ、またいつも通りLBXバトルをし始めた。

 バンはカズが立ち直ったことに安堵するも、先ほどの出来事について考えていた。

 

(あれは・・・何だったんだろう)

 

 突然のアキレスの暴走。止めることも全く出来なかった。

 どうして。どうしてアキレスにはあんなものが。

 バンの疑問は、いくら考えても答えが出ることはなかった。

 





「そういえばアキレスって、あれだけ攻撃されて痛みとか感じないの?」
『?別になんにも感じないよ』
「そう・・・」(よかった・・・)
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