HEART to CPU   作:ねぼとけ

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思い出、さんぶんこ

「お前が大きくなる頃には、こいつを完成させるからな。待ってろよ、バン。」

 

 

 

 

 ブルーキャッツに到着し、バン達は拓也から詳しい話を聞く。

 

「実は、俺と檜山は元々山野博士の助手としてLBXに関する研究を行なっていたんだ」

 

 山野淳一郎。バンの実の父親であり、LBXの開発者である。

 5年前、ネオテクノロジーサミットに出席する山野博士と他の科学者らを乗せた飛行機が行方不明になるという事故が起きた。飛行機が消息を絶った位置と状況から、乗客は全員死亡したとされていたが、拓也の話によると、山野博士以外の科学者たちは、勢力を拡大している謎の組織「イノベーター」から、「表向きには死んだとされる代わりに組織が提供する最高の環境と潤沢な資金のもとで研究が出来る」という条件を呑み、その飛行機に搭乗していたという。

 イノベーターの目的には山野博士の協力が不可欠であり、博士を確実に研究所へ連れて行くために、博士の助手でありバンにAX-00を託した女性、石森里奈へ協力を仰ぎ、何も知らない山野博士を飛行機に乗せ、そのまま博士を連れ去ったのだ。

 そこまでして山野博士らを攫ったのには、ある理由がある。それは、「エターナルサイクラー」を完成させるためだった。エターナルサイクラーとは、山野博士がLBXの研究途中で構想した完全な無限稼働機関である。

 現在、世界ではエネルギー問題が深刻化しており、各国ではいつ燃料が不足してもおかしくない状況にあった。エターナルサイクラーはエネルギーを無限に生み出す無限稼働機関。つまりこれが完成すれば、世界のエネルギー問題を一気に解決し、人類がエネルギー危機に陥ることは今後一切なくなるのだ。

 そのためにイノベーターは山野博士を連れ去り、博士も人類の未来のためならばと、しぶしぶ組織で研究を行うことにした。しかしイノベーターの本当の目的はエネルギー問題解決などではなく、エターナルサイクラーの技術を悪用し世界を支配することであった。

 

「はっ?世界を支配!?」

「そんなこと、どうやって…」

 

 ゲームや漫画でしか聞いたことのないような話に驚くカズ。アミの疑問に応えるように拓也は続ける。

 

「詳しくはわからない。我々も、組織に諜報員を送り込み、情報収集に努めている。・・・・・ここからは諜報員から聞いた話になる。バン君、君のLBXについてだ。」

「!」バンは目を見開いた。

 

 拓也は話を続ける。AX-00、つまりアキレスの中にはエターナルサイクラーの設計図データが詰まった「プラチナカプセル」が入っており、さらにそれを正式なユーザー以外の者が強引に取り出そうとすると内部データは破壊され、毒の矢が飛び出し相手の命を抹殺してしまうという「デスロックシステム」が搭載されているという。

 バンはAX-00を手に入れてから、見知らぬLBXに襲われたり、カズが洗脳されてアキレスを破壊しようとしたことなどが起こった。デスロックシステムはバトル中では解除されている。つまり、LBXバトルでアキレスを破壊することしかプラチナカプセルを手に入れる方法がないため、今までバンはバトルを仕掛けられていたのだ。そして今後も、そのようなことが続くという。

 

「山野博士は、この世で最も信頼できる人物である君に世界の運命を託した。そしてアキレスは、君と共にプラチナカプセルを守るために博士が設計した。ハンターも、アキレスをサポートするために設計された機体だ」

 

 いつの間にそのような出来事に巻き込まれていたことにバンたちは驚きを隠せないでいた。そこまでの話を聞いて、アミが疑問に思ったことを口にした。

 

「・・・アキレスのことについては諜報員の話って言ってましたけど、バンのお父さんが攫われたことについては、どうやって知ったんですか?」

「俺だ」

 

 今まで黙っていた檜山が口を開いた。サミットに参加するメンバーは博士、石森、檜山の3人であったため、檜山も山野博士の助手として同じ飛行機に搭乗していた。その後、イノベーターの真相を知り博士と石森と共に逃亡を図ったものの失敗し、自分だけが逃げられたという。その話を聞くとアミは顔をしかめた。

 

「じゃあ、あなたも飛行機に乗る前からイノベーターのことを知ってたの?バンのお父さんのこと、あなたも騙してたってこと?」

「お、おいアミ・・・!」

 

 カズはだんだんと尖った口調になるアミを抑えるように言う。しかしアミの疑問についてはカズも同意見で、疑わしそうな顔つきで檜山を見つめる。

 

「・・・ああ、イノベーターの条件については俺も知っていた。当然里奈とも話し合った。今の不足した環境のまま研究を続けるか、奴らの条件を呑み、最高の環境で世界を救うために研究を続けるか・・・」

「・・・それで、条件を呑む方を選んだ」

「・・・そうだ」檜山の言葉を聞いてカズが立ち上がる。

「なんだよそれ!バンの親父さんにはバンやおばさんが・・・っ家族がいるんだぞ!なのにっ」

「いいんだカズ!!」

 

 今まで黙って話を聞いていたバンが叫ぶ。

 

「っでもバン!」

「カズ、ありがとう。俺や母さんのために怒ってくれて。・・・確かに、父さんが死んだって聞いた時は本当にショックだったし、あんなに悲しそうな母さんはもう見たくないって思った。世界のためとか、正直話が大き過ぎて檜山さんたちの選択が間違ってたのか、俺にはわからない。でも・・・父さんは生きてる」

「!」檜山は目を見開く。

「だったら、父さんを取り戻す。そのためなら、俺はなんだってやってやる」

「・・・・・・俺が・・・憎くないのか・・・?」

 

 檜山はか細い声で呟く。バンは檜山の方を向き、いった。

 

「憎くなんて、ありません。確かに檜山さんは父さんを騙したのかもしれないけど、悪気があったわけじゃないんですよね?それに、そのイノベーターっていう組織だって世界のためなんて嘘をついて・・・檜山さんだって、被害者じゃないですか」

「!」

「バン・・・」今まで檜山に対して不信感を抱いていた二人の気が和らぐ。檜山はキツく手を握りしめ頭を下げた。

「・・・バン、本当にすまなかった。山野博士をお前の元へ戻すためなら、俺はなんでもやる」

「・・・ありがとう、檜山さん。・・・あの、それで・・・父さんは今どこに?」

「えっ・・・それは・・・」拓也は言葉に詰まる。

「すまない。それはわかっていないんだ」檜山はさらに重ねる。

「奴らには山野博士の頭脳が必要だ。脱走を図ったとしてもむやみに扱われることはない」

「バン君、俺たちが必ず山野博士の居場所を突き止めて見せる。だからくれぐれも軽率な真似はするな。困ったことがあったら、いつでも連絡してほしい」

 

 檜山と拓也の言葉にバンは不安な表情のまま俯き、カズはそんな彼を心配するように見つめる。アミは睨むような視線を拓也達に向けるが、彼らがそれに気づくことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

『家族って、そんなに大事なものなの?』

 

 あの話の後、カズと別れ、アミには用事があると言われ、バンは一人で帰り道を歩いていた。突然なアキレスの言葉にえっ、と声を漏らす。

 

『さっきのカズ、すごく怒ってた。家族がいるのにって、カズには関係ないことなのに・・・。そんなに大事なの?家族って』

「・・・うん。大事だよ。誰にとっても」

『どうして?』

「・・・うーーん・・・そう聞かれるとなんか難しいような・・・」

『?』

「・・・でも一つだけはっきり言えるのは、大好きだから、かな」

『大好き・・・?』

「うん。父さんは俺が小さい頃にたくさん遊んでくれたし、母さんは怒ると怖いけどいつも優しいし・・・なんか、他にももっと理由があるはずなのに、うまく言えないや」そう言ってはにかむバンにアキレスはいった。

『じゃあ、アミやカズは家族じゃないから好きじゃない・・・?」

「いやいや、アミとカズのことだって大好きだよ!!ただ、父さんや母さんに対する〝好き“とは違うっていうか・・・」

 

 う〜、と頭を抱えるバンにアキレスはそれ以上何も言わなかった。家族。大好きな存在。アミとカズとは少し違う。バンに言われたこと一つ一つについて考える。そうしている間に家が見えてくる。家に入ったら、ただいまって言うんだっけ、と心の中で呟くと、昨日おかえり、と返してきた真理絵の笑顔が浮かぶ。すると、アキレスはモーターの辺りがポカポカしてくるのを感じた。誰かに触られたわけでも、マスターに操作されたわけでもないのに。アキレスはまだまだ知らないことだらけだなぁ、とバンにも聞こえないような音量で呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の放課後、バンとカズはアミに呼び出され、人気のない校舎裏に集まっていた。そこでアミから拓也と檜山の会話の録音が聞かされる。それは山野博士の居場所についての話だった。

 

「ったく、俺らにあんなことまでやらせといてまだ隠し事かよ」

「しっ」

 

 アミに注意され、カズはおとなしく録音の続きを聞く。アミのCCMから、檜山の声が発せられる。「天使の星」という場所に山野博士がいることがわかり、3人は教室に戻りすぐに天使の星について調べる。しかしネットを使ってもなかなか該当していそうな場所が出てこず、3人は行き詰まる。すると、大の「ブルド」好きなクラスメートである大口寺リュウが3人へ声をかける。

 

「お前ら、もしかして〝エンジェルスター“について調べてるのか?」

「リュウ、知ってるの?」

「アミちゃん、エンジェルスターっていったら神谷重工のエンジェルスターに決まってるだろぉ」

「!神谷重工・・・!」

「確か、あの二人もそんなこと言ってたよな」

 

 アミが早速神谷重工とエンジェルスターについて検索する。すると神谷重工に関する情報やニュース、中には兵器密造が疑われているといった内容のものまである。バンたちはリュウにエンジェルスターについて詳しい話を聞く。ほとんど彼の趣味である重機に関する話ばかりであったが、神谷重工の怪しい噂が立っているなどと言った話などから、バンたちはエンジェルスターへの疑いを抱く。

 

「神谷重工とエンジェルスター・・・!」

「兵器密造の疑いのある大企業・・・!」

「行ってみましょう・・・!」

 

 バンたちはすぐに教室を出て、駅に向かう。勢いのまま走り続ける3人にアキレスが慌てていった。

 

『ち、ちょっと待ってよ!危険なことはもうしちゃダメって・・・!』

「わかってるけど、父さんがいるかもしれないんだ!」

『だからってマスターたちが行くことないよ!捕まったらどうするんだ!』

「でも!」

 

 お互い全く譲ることなく言い合いを始めてしまう。アミとカズは二人の口論には参加せず、二人の口論が終わるまで待つことにした。

 

「まー、冷静に考えてみれば、俺はアキレスが言ってることが正しいかもな・・・」

「でも、拓也さんたちはちょっと信用できないわよ。バンのお父さんがエンジェルスターにいるかもしれないなら、早く助けないと」

「・・・確かになー・・・」

 

 バンとアキレスの言い合いはまだ終わらなそうだ。カズはハンターのコンディションをチェックしようとカバンに手を伸ばす。アミもクノイチのチェックをしようと鞄からクノイチを取り出した。普段からLBXのメンテナンスは欠かさず行っているため問題はないはずだが、他にすることもない。

 

「しっかし、まさかあの二人の会話を盗聴するとはなー」

「盗聴とは失礼ね。こっそり聞いて録音しただけじゃない」

「いや・・・それを盗聴って言うんだろ・・・」アミはカズの方へと顔を向けていった。

「だって、バンのお父さんが生きてたのよ。・・・バンのところに戻ってほしいって、思うじゃない・・・」

「アミ・・・」

 

 二人は俯きしばし黙り込む。すると、静かに二人のやり取りを見ていたハンターがいった。

 

『・・・どうしてそこまで出来る?』

「え?」アミがハンターへ顔を向ける。

『・・・山野バンのために情報を集めたり、父親の救出に協力したり。・・・何がお前たちを突き動かす』

「・・・バンは大切な友達だから」

『・・・友達、というだけで・・・暗殺者とも戦えるのか?』

「それは・・・」

「俺たちは、親友だからな。・・・それにもう、親父さんが亡くなったときみたいなバンになってほしくないんだ」

『・・・どういうことだ・・・?』

 

 今よりもっと子供のときだった。背は低くて、声は高い。まだ自分のLBXも持っていなかった時代。けれども、今と変わらない三人で楽しく遊ぶ毎日だった。

 それはどしゃぶりな雨の日のことだった。朝の会が始まるまであと2分を切ったというのに、バンが来ない。またいつもみたくギリギリ登校か。もしや今日は休むのか。カズは不満気だった。雨が降っていたことも中々バンが来ないこともそうだが、彼がむくれた理由はもう一つあった。

 

「今日はバンと最近見つけたヒミツキチに行こうと思ってたのによー!最悪だぜ!」

 

 朝の教室で叫ぶカズに呆れたようにアミはいった。

 

「ヒミツキチって・・・小学生3年生にもなってまだそんなことしてるの?」

「何いってんだ!ヒミツキチは男のロマンだぜ!バンもきっと喜ぶさ!」

「バンは優しいからカズに合わせてるだけでしょ・・・・・・いや、そうでもないかも・・・」

「だろ!?」

「ていうか、私は連れて行かないわけ!?」

「うおっ!な、なんで急に怒るんだよ!?」

 

 担任の到着と同時にチャイムが鳴り、朝の会が始まる。強制的にアミの問い詰めから逃れることができ、カズはほっと胸を撫で下ろした。アミは少々不満そうに席へ着いた。

 

(先生来ちまったじゃねーか。バンの奴、もしかして遅刻か?)

 

 カズは頬杖をついて先生の方へ視線をむける。いつも穏やかな担任が、張り詰めた様子で教壇に立っていた。

 朝の会を始めます、とお決まりの言葉を述べ、生徒たちがきちんと自分を見ているか確認してから、真剣な顔つきで担任はいった。

 

「今日、山野バンくんはお休みです」

 

 今日バン休みかよ、カズは心の中で不満を漏らす。バンは風邪でも引いたのか。ちらりとアミを見ると、心配そうな顔で先生からの言葉を待っているようだった。考えていることは同じなようだ。

 

「バンくんとそのご家族ついて、皆に大切なお話があります」

 

 担任の表情がさらに強張る。

 

「バンくんのお父さんが・・・事故で、お亡くなりに・・・なったそうです」

 クラスのほとんどが息を呑む音が聞こえた。カズの頭の中で担任から発せられた言葉が繰り返される。言われたことを理解すると、もうバンのことしか考えられなかった。今頃泣いているのか。次に会ったとき、なんて声かけたらいいんだ。・・・あいつ、大丈夫か・・・?

 

 その後でバンについて色々話があったらしいが、その内容はまったく耳に入って来なかった。気づいたらもう学校は終わり、放課後になっていた。アミといつもの帰り道を歩く。朝よりも激しくなった雨と空を覆う灰色の雲が、嫌でも今朝話されたことを連想させた。

 

「バンの家・・・行ってみる・・・?」

「・・・・・・今は、そっとしておいてやろうぜ・・・」

「・・・うん」

 

 次の日、バンは学校に登校した。教室に入った途端、一斉に視線が向けられた。アミとカズはすでに教室におり、すぐにバンが来たことに気づくも、いつも言っているおはよう、が喉につっかかり、出てこない。

 どうしようかと視線を泳がすと、バンは二人に近づいていった。

 

「アミ、カズ、おはよう!」

 

 普段と変わらないバンの姿がそこにあった。アミたちは驚き固まる。なんの反応もない二人にバンが首を傾げると、その様子を見ていた他のクラスメイトがバンに声を掛けた。

 

「よおバン!今日の給食カレーだってよ!」

「えっ、ほんと!?」

「お、おう!」

 

 誰に対してもバンはいつも通りだった。むしろそのことに動揺した者の心配すらしていた。初めは、バンは無理をしていつも通りに振る舞っているんだ、と全員が考えたが、そんな状態が一週間も続くとみんなもまたいつものようにバンに接するようになった。

 それでもアミとカズは安心出来なかった。父親が亡くなったのに平常でいられるなんて。バンはよく父親の話を二人にしていた。父親のことが大好きだということはよく知っていた。バンがそのことに悲しまないなんて絶対にない。この一週間の曇り空ように、二人の胸にはもやもやとした晴れない不安があった。

 いつもの帰り道を三人で歩いていたとき、カズが突然走り出す。二人が驚いて追いかけようとすると、カズは足を止めて振り向いた。

 

「今日は、ちょっと寄り道しよーぜ!!」

 

 そう言ってからまた走り出すカズ。戸惑いながらバンとアミはカズの後を追った。

 着いた先は公園だった。そこは、いつも遊んでいる家の近所にある公園ではなく、住宅街からは少し離れたところにある公園だった。そこにある遊具はすべて木で作られたもので、かなり古そうだった。

 カズは公園に入るなりずんずんと奥にある茂みの方へと歩いた。そして、草木をかき分けて茂みの中へと入っていく。

 

「早く来いよ」

 

 カズに促され、バンは茂みの中へ足を踏み入れる。アミも若干嫌そうではあるが後に続いた。

 かなり広い茂みだった。どこまで行くのかと不思議に思うっていると、ここだぜ、とカズがいった。そのままカズは草木のないスペースへと入っていった。そこは草木に囲まれた丸い空間で、三人が入っても少し余裕がある程の大きさだった。カズに続いてバンとアミもそこへ入り込み、三人で円状になってしゃがむ。そこでアミが気づいたようにいった。

 

「もしかして、前に言ってたヒミツキチってここ?」

「おう!なんか周りからは見えてない感じがすっげーいいだろー!」

「うん!茂みの中にあるっていうもの特別って感じがする!」

「・・・まあ、確かにそうかもしれないわね」

 思いの外居心地の良い場所にアミはまんざらでもなさそうであった。すると、バンが気になっていたことを口にする。

 

「そういえば、なんで急にここに来たんだ?」

「ここなら俺たちしかいないからさ」

「?どういう・・・」

「・・・なあバン、なんでそんなに普通なんだよ」

 

 その一言でアミはカズの行動の意図を完全に理解した。確かにここなら、誰の目も気にせず三人だけで話が出来る。アミは真剣な表情でバンへ視線を向ける。

 

「えっと・・・どういうこと?」

「・・・こんなこと、余計なお世話かもしんねーけどさ・・・・・・お前の・・・その、お父さんのこと・・・」

「っ!」

「お前、休み明けに学校来てから、少しも悲しそうにしてなかったじゃねーか・・・っ、そんなにすぐに普通になれるわけねーだろ?・・・無理、してないか・・・心配なんだよ・・・」

「・・・・・・無理なんて、」

「バン」バンの言葉を遮るようにアミがいった。

「私、いつもバンが嘘付いたときとか、絶対わかるのに、最近はバンの気持ちがわからなくて、悲しかった・・・。本当に余計なお世話かもしれないけど・・・私たちだけにも、話せない・・・?」

「・・・・・・・」

 

 バンは俯き、何も言わなかった。二人はそんな彼を見てぎゅっと手を握りしめた。バンが話すのを黙って待っていると、バンが俯いたまその場に座り込み、膝を抱えた。手を震わせ、消え入りそうなほど小さな声でいった。

 

「・・・泣いちゃ・・・だめ、なんだ」

「・・・」

「・・・父さんのことがあってから、すぐに母さんはいつも通り明るくなった。・・・でも本当は、俺がいないときにはずっと泣いてる・・・」

「・・・」

「だから、俺母さんに言ったんだ。俺がちゃんといい子でいるから、泣いたりしないから・・・悲しまないでって・・・俺が泣いたら、母さんはもっともっと悲しくなっちゃう・・・」

「・・・じゃあお前、家でも泣いたりしてないのか?」

「・・・・・・うん」

「バン・・・」

 

 アミがバンの背中に手を伸ばし、そっと撫でた。カズは震えているバンへ近寄り、いった。

 

「顔、上げろよ」

「・・・やだ・・・」

「いいから、上げろって!」

 

 のろのろと顔を上げ、額が見えた途端にカズは思い切りそこへ自分の額をぶつけた。

 

「いってーー!!」二人が同時に叫ぶ。咄嗟にバンは左手を額にあてた。

「ちょ、ちょっと何やって、」カズは痛みも何も無視して額にあるバンの左手を握りしめ、今度はゆっくりと額をくっつけ、笑った。

「これで、悲しいのも辛いのも俺とはんぶんこだ!」

「え・・・」

「母ちゃんが昔よくやってくれたんだよ。こうすると、バンの辛いこととか俺が吸い取れるんだ。そうすれば、ちょっとは楽になれるだろ?」

 

 バンは目を見開く。オリーブ色の瞳に、段々と涙が溜まっていく。それでも、それをこぼすまいと耐える。するとアミもバンの右手を握りしめ、勢いよく額をくっつけた。

 

「いて!」

「私だって吸い取っちゃうんだから!」

「アミ・・・」

「・・・へへっ、これではんぶんのはんぶんこだな!」

「・・・?それだと四個に分けたことにならない?」

「そうなのか?じゃあさんぶんこだな!」

「ふふっ、うん!私たちでさんぶんこ!・・・ね?バン」

 

 ポロポロと涙がこぼれる。必死に嗚咽を堪えながら、バンはぽつぽつと喋りだした。

 

「父さん・・・すぐに帰ってくるって・・・っ言ってたんだ・・・」

「うん」

「・・・っ帰ったら、LBXのこともっ、いっぱい、っ話そうって・・・!言ってたのにっ」

「・・・うん」

「なのにっ、父さんが・・・、っ父さんがぁっ、死んじゃったぁ・・・っ!」

 

 この一週間、ずっとせき止めていた思いが溢れ、バンはわんわんと泣き出した。アミとカズは掴んだ手をさらに強く握りしめ、泣きじゃくるバンにつられて二人も肩を震わせた。曇り気味だった空から太陽の光がわずかに指し、三人を照らしていた。

 バンが泣き止み落ち着くまで三人の手が離れることはなかった。気づいたときには日が沈みかけており、三人は慌てて公園を後にした。その後、門限を過ぎて帰ってきたことに、三人ともそれぞれの母親からみっちり怒られた。

 

「なつかしいわね」

「あのことがあって、バンは嘘つくのは苦手なくせに、本当に知られたくないこととかは隠すのがうめぇってわかったんだよな・・・」

「うん。でも、もうバンにあんな悲しい我慢はさせないわ」

「ああ」

『・・・』

 

 するとそこへ、バンが少し息を切らしながら戻ってくる。話し合いはついたらしい。

 

「バン、どうなった?」

「な、なんとか説得できたよ・・・」

『・・・』

「なんかアキレス、機嫌悪くないか・・・?」

「とにかく、そうと決まれば早く行くわよ!」

 

 

 三人は再び駅に向かって走り出す。世界でただ一人の父親を取り戻すため。そして、あの日思いを分かち合った大切な友のために。

 それが世界の闇へ足を踏み入れることになるとも知らずに。

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