HEART to CPU   作:ねぼとけ

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皇帝、君臨す

 エンジェルスターに潜入した三人。LBXを駆使しセキュリティを突破していく。途中、AIで動くLBX「インビット」に遭遇し、苦戦を強いられたが、三人の協力プレイによって次々と撃墜していく。

 長い間一緒にいる三人にとって、息を合わせることなど容易である。

 

 配置されたLBXの強さと頑丈さ、警備の厳重さからバンたちはここに山野博士がいると確信する。三人はやがて最深部へと到着し、広い部屋に入る。そこで博士を探すと、突如三人の目の前に巨大な重機が現れた。

 バンたちが着実にセキュリティを破っていく様子に焦った神谷重工会長、神谷藤吾郎が三人にわざと嘘の情報を聞かせ、巨大重機「イジテウス」が待ち受ける地下の部屋へと誘導したのだ。

 

 イジテウスを操縦する男は神谷会長の口車に乗せられ、アキレスを破壊するよう仕向けられていた。大型のアームを振りかざし、バンたちへ近寄ってくる。

 

「逃げるんだ!」

 

 三人は部屋へ入ってきた方向へ走る。しかし入口はすでに閉ざされており、他の出口もないため、どこにも逃げ場がない。今はまで順調に進んでいたはずのバンたちであったが、途端に追い詰められてしまった。

 

「こうなったらやるしかない!」

「ああ!」

「もうヤケクソよ!」

 

 三人は腹をくくり各々が自身のLBXを起動する。しかしイジテウスの目的はアキレスの破壊。アキレスを確認すると、イジテウスは即座にアキレスへ襲いかかる。クノイチとハンターを無視し、アキレスのみを襲う様子に三人は気づく。

 

「あいつ!アキレスを狙ってやがる!」

「・・・!」

 

 アームを避けつつアキレスはコマンドハンドガン、ハンターはライフルを打ち、クノイチはクナイを投げて反撃する。しかし巨大重機相手にLBXの攻撃など微々たるもので、まったく効果がない。アキレスたちにとって、イジテウスは敵う相手ではないのだ。

 

「くそっどうすれば・・・!」

『主、一度引くんだ』

 

 CCMを通じてハンターから一時撤退を勧められる。バンたちはそれに応じて部屋にあるコンテナの陰へアキレスたちを撤退させる。

 イジテウスはアキレスたちの姿が見えなくなると、楕円形のヘッドパーツにある緑色の目のような形をした部分からレーザーを発する。その威力は分厚いコンテナを貫通するほどのものであり、アキレスはコンテナから離れる。

 しかしイジテウスに見つかってしまい、レーザーが発せられる。アキレスには当たらなかったものの、レーザーはバンたちの足場へと直撃してしまう。

 

『っみんな!!』

「アキレス!俺たちは大丈夫だ!」

 

 足場が崩れ、倒れながらもバンはアキレスにいった。三人は急いでイジテウスから離れたところに移動し、LBXを操作するも、逃げることしかできない。

 

「いつまで逃げればいいんだよ…!」

「そんなこと言ったって、ダメージすら与えられないのよ!?」

 

 カズとアミがバンはCCM越しにイジテウスを睨み、ボタンを入力する。すると、アキレスがイジテウスに近づき、飛び移った。

 

「バン、どうするつもりだ?」

 

 圧倒的に不利な状況の中、バンは数少ない父親との思い出を思い出していた。

 日当たりの良い家のベランダで、大好きな父の足の間に座り、絵本を読んでもらっていた。ギリシャ神話の英雄アキレスの話だった。不死身の体をもち、どんな相手にも負けず、あらゆる戦いに勝ち続けたアキレス。しかしそんな彼にもアキレス腱という弱点があった。その話を聞いたとき、バンは父親から教えてもらったのだ。一見完璧に見える人やものにも必ず弱点があるということを。

 

「弱点を探す」

「えっ!?」

「弱点っていったって・・・!」

「ここにきて確信できた。父さんはここにいる。父さんを取り戻すためならこれくらいやるさ!」

「バン・・・」

「クノイチとハンターは下がってて。狙われているのはアキレスなんだ」

 

 バンはアキレスを操作し、イジテウスの装甲へコマンドガンで攻撃を繰り返す。様々な部位へコマンドガンを打ち込み、少しでも反応があるところを探る。

 

「どこだ・・・弱点は・・・!」

 

 試行錯誤するなか、アキレスの元へクノイチとハンターが駆けつける。バンはアミとカズの方を向くと、二人は何も言わずにただ黙ってバンへ微笑んでいた。バンは二人の意図をすぐに理解し、笑い返す。そして再び真剣な表情でCCMと向き合う。

 

「三体で、一斉攻撃だ!」

「了解!」

 

 カズの掛け声にバンとアミが応え、同時に三機がイジテウスへと向かう。アキレスのコマンドガン、ハンターのライフル、クノイチのクナイで弱点を探るが、全く手応えがない。

 

「弱点なんてあるのかよ・・・!」

「必ずあるさ!」 

 

 クノイチは襲ってくるアームを自慢のスピードで交わし、動きが止まったところを狙いクナイを投げる。しかしそれもあっさりと弾かれ、やはり手応えがない。

 それでも、弾かれたクナイを拾い、再びイジテウスの方へ向かう。すると、アキレスがイジテウスのアームを避けつつひたすらにハンドガンを打ち込む姿が目に入る。この状況を切り抜ける手がかりもなく、絶望的な状況であろうとも前に進むバンとアキレスの姿に、アミも諦めたくないという思いが強くなっていく。

 

(ここに来たのはそもそも、私が言い出したこと。それなのに、私が諦めるなんて絶対にだめ)

 

 何度も何度も、拾ってはクナイをイジテウスへ投げつけ、反応を探る。その間、アキレスやハンターのフォローも欠かさない。自慢のスピードを駆使し、イジテウスのアームを引き付ける。

 

(やってやるわよ!バンのお父さんを取り戻すんだから!)

 

 クノイチの目が赤く光る。

 その時、天井のアームで掴まれているコンテナを覆った布がイジテウスのヘッドパーツへ落下した。バンの銃が誤って天井へ向かって発射され、その反動で落ちてきたのだ。布で覆いかぶされたイジテウスはアームを停止させ、一瞬動きが止まったかと思ったが、光線銃で布を焼き切り、再び三機に襲いかかってきた。その様子を見て、バンは気づく。

 

「カズ、アミ、弱点がわかったぞ!」

「えっ?」

「見て、あいつ、レーザーの発射口の隣がカメラになっているんだ!」

 

 そう言われ二人が確認すると、確かにレーザー口の左右に三角の形をしたバーツがある。先程はヘッドパーツにあるカメラの部分が布で覆われ何も見えなくなったため、一瞬動きが止まったのだ。

 

 三人は目を合わせてうなずき合い、CCMに入力する。アキレスとクノイチがアームを引き付け、隙ができたところをハンターの必殺ファンクション「スティンガーミサイル」でカメラ付近を狙う。命中すると、爆炎によってイジテウスの視界が奪われ、また動きが止まる。ある程度煙が晴れたところで、イジテウスが動き出す前にすかさずアキレスが両端のカメラに向かって発泡し、カメラを破壊する。

 

「やった!」

 

 喜んだのも束の間、発射口の下にあるコックピットのカバーが開く。カメラが使えなくなったことで操縦者が直接状況を把握し、またもアキレスに襲いかかる。イジテウスは何発も短いビームを放ち、アキレスはそれを避ける。

 

『っ、しつこい!』

 

 懸命に避けるも、ついにビームを受けそうになったその時、白い閃光が走った。一瞬でアキレスが目の前から消え、イジテウスは困惑する。

 バンたちも何が起こったのかわからず困惑していると、三人の元へアキレスを抱えたLBXが現れる。

 ストライダーフレームであるようだが、すっきりとしたデザインのクノイチよりもパーツが多く、厚みがある。機体の色は白を主体としており、胸部や駆動部に黄色のワンポイント、ヘッドパーツには水色の装飾があり、かっこよさと気品を兼ね備えたデザインだ。

 そのLBXばアキレスを下ろし、イジテウスの方へ視線を向ける。

 

「味方・・・?」

「待て、そうとは限らない」

 

 カズがそういった途端、謎のLBXがイジテウスに向かって走り出す。閃光。そう表現するのにふさわしいそのスピードに、三人は驚く。

 

「速い!」

「クノイチ以上のスピードだわ・・・!」

『・・・すごい・・・』

 

 謎のLBXはイジテウスに煙幕を投げつけ、あたりを観察する。煙幕を投げ続け常にイジテウスの視界を奪い、動きを止める。すると、謎のLBXが再びバンたちの元へ戻る。そして、アキレスを持ち上げ天井に向かって投げ、アキレスは天井のアームが掴むコンテナへ着地した。

 

「え!?」

「やっぱり敵か!気をつけろバン!」カズがそういった時、バンのCCMにメッセージが届く。

 

『コンテナを落とせ。パンドラ』

 

 バンは白いLBX、「パンドラ」に目をやる。

 

「パンドラ・・・」

 

 パンドラが再びイジテウスに向かって走り出す。そして、バンの元にまたもデータが送られる。イジテウスを上から写したサーモグラフィーの画像だ。温度が高いために赤く光る部分はイジテウスのエンジン部分。つまり、そのエンジン部分にダメージを与えればイジテウスは完全に動かなくなる。バンとアミはパンドラの意図していることを推測する。

 

「そうか!」

「うん。エンジン部分にコンテナを落とせばいいのね!」

「ちょっと待てよ。都合良すぎねーか?本当にそんなの、信じていいのか?」

 

 カズの言葉に二人は高まる気持ちを落ちつかせ、もう一度冷静に考え、結論を出す。

 

「・・・・・・でも、今はそれしか方法がない」バンがいった。

「うん」

『・・・僕も、あのLBX・・・パンドラを信じていいと思う。あの動きは多分、僕の真下にあいつを誘導してるんだ』アキレスはバンのCCMを介して伝える。

「・・・確かにそうだな・・・よし」カズがCCMへ視線を向ける。

「やろう」

 

 クノイチとハンターもパンドラとともにイジテウスをアキレスの真下に誘導する。パンドラたちにアームをぶつけようとする中、イジテウスは目的であるアキレスを探していた。

 パンドラたちに誘導されていることにも気づかぬまま、徐々に目的のポイントまで進んでいく。ほぼ真下までのところまで移動したところで、コンテナに乗るアキレスが見つかってしまう。

 イジテウスは天井まで届く長いアームの狙いをアキレスに定める。

 

 しかしパンドラがアキレスに目をやり、合図に気づいたバンはすぐにアームの電源スイッチを破壊する。アームに掴まれていたコンテナはイジテウスのエンジン部分に落下し、今度こそイジテウスの動きは完全に停止した。

 バンたちはイジテウスが動かなくなったことを確認し、自身のLBXたちの回収に向かう。バンは辺りを見回してパンドラを探すも、もうその姿は見えなかった。

 

「なんだったんだ・・・あのLBXは・・・」

『わからない・・・けど多分、悪いLBXじゃないよ』

「どうしてわかるんだよ?」カズがいった。

『・・・なんとなく、そんな気がするだけだよ』

「そっか・・・」バンがいった。

『・・・それで、わかった?』

「え?何が?」

『何がじゃないよ!!これまでのことがどれだけ危険なことかわかったかって言ってんの!!』

「ええっ、そ、それはまぁ・・・、ていうか、納得してくれたんじゃなかったの?!」

『君の父親への気持ちに免じて半分だけは納得してあげたよ!』

「半分!?」

 

 大体君は、とアキレスがバンに説教をする姿に苦笑いしながらカズとアミはそれぞれ自身のLBXを回収する。

 

「おつかれ、ハンター」

『・・・ああ』

 

 アミはカズとハンターの様子を少し羨ましげに見つめてから、クノイチに微笑みかける。

 

「やったね、クノイチ」

『ええ!』

「・・・えっ?」

 

 突然聞き慣れない声が聞こえ、カズとハンター、説教を止めアキレスとバンもアミの方へと顔を向ける。アミは目を見開くと嬉しそうな表情で声の主に話しかける。

 

「・・・!クノイチ、クノイチなの?」

『ふふっ。そうよ!』

「・・・っ!すっっっごく嬉しい!!私、ずっとあなたと話したいと思ってたの!!」

『うん!わかってたよ。アミちゃんの気持ち。私も同じだったから!』その言葉に、アミは笑みを深めた。

「やったね、アミ!」バンは自分のことのように喜んでいった。

「まじでどうなってんだよ・・・。でも、よかったな。アミ」

 

 ついにクノイチも意思を持ち、一同が喜びを分かち合っていると、突如アナウンスで男の声が倉庫に響く。

 

「山野バン」

「っ!誰だ!!」

「山野博士はもう、ここにはいない。博士を取り戻したければ、次のアングラビシダスに出場し、優勝せよ」男の声はそこで終わった。

「アングラビシダス?」

「噂で、聞いたことがある。LBXの地下大会のことだ。どこで行われているのか、一部の人しか知らない謎の大会・・・」

「アングラビシダス・・・」

 

 その時、後ろからガタリと音が鳴る。見ると、地面にある隠し扉が開いており、そこから檜山が現れる。

 

「檜山さん!?」 バンたちは檜山の方へ走り出す。

「どうしてここに・・・?」アミがいった。

「隠し通路!?こんなのがあるってわかってたら、わざわざこんな面倒なことしなくて済んだのに・・・」カズは口を尖らせる。

 

 檜山は何も言うことなく、辺りを見回す。エンジン部分を潰されたイジテウスの姿をしばし見つめ、三人にいった。

 

 「・・・無茶しやがって。・・・帰るぞ」

 

 隠し通路を抜けると、拓也が待機しており、三人は拓哉の車に乗り、エンジェルスターを後にする。アミは先程から気になっていたことを拓哉たちに尋ねる。

 

「どうして、私達があそこにいるってわかったんですか?」

「悪いが、君たちのLBXは常にモニターさせてもらっているんだ」

「そういうことかよ」カズは眉を潜める。

「・・・あそこに父さんが捕まっていたんです」

「知っている」

「っなら!何で教えてくれなかったんですか!」

「万全な作戦を立てた上で救出したかったからだ」

「お前たちに教えれば、無茶をすることは目に見えていたからな」檜山がいった。

「だからって・・・」

「気持ちはわかる。だが、山野博士同様、君たちも大事だ。むやみに危険にさらすわけにはいかない」

「・・・っ」

 

 拓哉の言葉に、バンはそれ以上何も言わなかった。膝の上で拳をぎゅっと握りしめ、父親を救えなかったことの悔しさでいっぱいになった。

 

(ごめん、父さん・・・助けられなくて・・・!)

『・・・マスター・・・・・』アキレスは誰にも聞こえない声で呟いた。

「どうして、バンの親父さんはエンジェルスターなんかに捕まってたんだよ?」

「神谷重工とイノベーターは繋がっているからだ」

「!」

(あの大企業まで・・・イノベーターのボスって、一体何者なの・・・!?)アミは手を顎に当て考え込む。

 

 すると、バンは最後に聞いたあのアナウンスを思い出す。

 

「そういえば・・・」

「どうした?」拓也が尋ねる。

「エンジェルスターで言われたんです。父さんを助けたかったら、次のアングラビシダスに出て優勝しろって・・・」

「何!?」拓哉と檜山が驚きの声を上げた。

 

 エンジェルスターでの一件があった後、バンは一人で考え込むことが増えた。今も、朝の教室でクラスメイトたちが会話を弾ませる中、真剣な表情で窓から空を眺めている。そんな彼の様子を、アミは心配そうに見つめていた。

 

 すると、廊下から騒がしい足音が近づいてくる。リュウだ。どうやら今日このクラスに転校生が来るらしく、リュウは興奮した様子で他のクラスメイトに伝えていた。

 チャイムが鳴り、それと同時に担任が教室へ入ってくる。どうやら転校生は初日から遅れているそうだ。すると、途端に何やら聞き慣れない音が響く。窓からだ。見ると、驚くべきことに戦闘機がこちらへ向かっていた。

 

「ぶつかる!」

 

 バンの叫びに全員が悲鳴を上げ窓から遠ざかる。ものすごい勢いで近づいてくる戦闘機は、校舎へとぶつかるギリギリで急ブレーキをかけ、停止した。バンやアミが呆気にとられた表情で見ていると、コックピットから二人の人物が現れる。

 

 ヘルメットを外した姿を見ると、一人は気品のある老夫で、もう一人は少年だった。髪は少し長めで黒と白のツートンカラー、深い真紅の色を宿した鋭い瞳をしており、整った顔立ちだ。

 バンは少年と目があったと思った途端、少年の目が細められ、睨まれる。

 

「え・・・?」

 

 少年は老父にヘルメットを渡し、戦闘機の翼を渡って教室の窓へと近づく。

 

「いってらっしゃいませ。お坊っちゃま」

 

 お坊っちゃまと呼ばれたその少年は窓から教室へと入り、未だ呆然としている担任へ向けていった。

 

「遅れてすみませんでした」

「は、ぁ・・・はい・・・」

 

 その様子を見て、先ほどから開いた口が塞がらないアミがいった。

 

「もしかして転校生って・・・」

「・・・・・・せっ、戦闘機登校かよ!!」

 

 リュウの叫びが学校中に響き渡った。

 転校生の名前は海道ジン。担任から言われても自己紹介をせず、誰とも関わろうとせず、誰に話しかけられても無視をする。戦闘機で登校するところを見ていたというカズに、アミは変わっている転校生として彼の様子を話していた。

 しかしバンは二人の話よりも、ジンと目があった瞬間に睨まれたことを気にしていた。

 

(気のせい・・・じゃ、なかったような・・・)

「バン?どうかしたの?」

「えっ、あ、なんでもない!」

「それより、今日ブルーキャッツに行くだろ?」

「ええ!アングラビシダスのこと、色々聞かなきゃね!」

 

 学校の帰りに、三人はブルーキャッツへと足を運んだ。そこで檜山から、アングラビシダスについて詳しい話を聞く。

 

 アングラビシダスとは闇のLBX大会と呼ばれており、どこで行われているか、誰が主催者なのかは一部の者しか知らないという。さらに、ルールがないことがルール。つまり、アングラビシダスではどんな攻撃も許される。参加者も情け容赦のない強者ばかりで、LBXの破壊などは当然のように行われる。

 

「しかも、次のアングラビシダスはちょっと特別でね」

「特別?」

「君たちも、アルテミスは知っているな?」

 

 「アルテミス」とは、二年前に始まったLBXの世界大会だ。LBXプレイヤーの誰しもが憧れる、年に一度の催しである。当然、バンたちも知らないわけがない。

 

「でも、それがどうしたんだよ。別にアングラビシダスに出たからって、アルテミスに出られるわけじゃないだろ?」

「それが出られるんだ」

「えぇ!?」三人が声を上げる。

「次のアングラビシダスの優勝者には、アルテミスへの特別出場枠が与えられるんだ」

「つまり、その出場枠を狙って今まで以上に手強い奴らが参加する可能性が高い。そして、おそらくイノベーターの目的はバンをそこに参加させ、アキレスを破壊することだ」檜山がいった。

『ま、それしか考えられないよね』アキレスはさらりといった。

「罠ってことか・・・」

「きっとやつらも、強いLBXを送ってくるに違いないわ」

「ああ。・・・バン、それでもやるか?」

 

 檜山が問うと、バンはまっすぐに見つめ返していった。

 

「もちろん参加します。やつらが戦いを挑んでくるなら、俺は受けて立ちます!」

『・・・』アキレスは少し不満げな視線をバンに向けた。

「優勝しても、山野博士が解放されるかはわからないんだぞ」

「でも、何か手がかりが掴めるかもしれない」バンは檜山の言葉に迷いなく言い返す。

「私達も参加するわ!」

「そんな危ない大会、バンだけに出場させるわけにはいかないからな」

「アミ・・・、カズ・・・」

「では、大会へのエントリーはこちらで済ませておく」

 

 檜山によると、次のアングラビシダスは一週間後に行われる。それを聞いたバンたちはすぐにキタジマで特訓をしようと意気込むが、拓哉に大会の会場の下見を勧められる。

 案内された先は、ブルーキャッツの地下だった。そこには展開されたDキューブのジオラマが地下フロアの中心にあるステージに並べられており、ステージの周りにはバトルを観戦している派手な格好をした観客がいた。

 

「お店の地下がこんなふうになってるなんて・・・!」アミが驚きの声を上げる。

 

 上にも観客が観戦するスペースがあり、そこもガラの悪い者たちが男女問わず集まっている。会場を見渡すと、一人見覚えのある人物がステージ中央のジオラマでバトルをしているのを見つける。海道ジンであった。

 

「えっ、海道ジン!?」

「LBXには興味なさそうだったのに・・・!」

『マスター、僕も見たい』

「あっ、うん」

 

 バンはアキレスを取り出し肩に乗せると、視線を戻しジオラマの中に注目する。

 ジンの使用する機体はバンたちも見たことのないものであった。紫を基調としており、ナイトフレームでありながら重厚感がある。ベースカラーの紫に赤や黄色があしらわれたマントを靡かせ、大型のハンマーを片手で持ち上げるその姿は、威圧的なオーラを放っている。

 さらに、ジンはたった一人で三人のプレイヤーを相手にしていた。

 

「三対一!?」

「どう考えても不利だろ・・・」

 

 三機のLBXが一斉にジンのLBXに襲いかかる。誰もがやられると思いきや、最小限の動きで次々と攻撃避けていく。

 

「ぶっ壊せ!!」

「腕もぎとっちまえぇ!!」

 

 品のない怒号が会場に響き渡る。ジンは涼し気な表情を一切変えず、ただ攻撃を避けることを繰り返す。

 しかし、三対一はやはり厳しく、防戦一方である。崖に追い込まれ、ついにジンは追い詰められた。

 

「逃げられないわ!」

「・・・いや違う」バンが呟く。

 

 三機のLBXが一斉に動き出す。その瞬間、ジンのLBXはハンマーの先を地面に突き刺し、前に跳躍する。三機の後ろに回り込み、両者が振り向いたのとほぼ同時にハンマーを振りかざし、一閃。三機のLBXの首が吹き飛んだ。あまりの衝撃で会場が静まり返る中、ジンは腕時計を見て呟く。

 

「24秒17・・・」

「あいつ・・・最初から三体同時に倒すつもりだったんだ」バンがいった。

「え!?」

「じゃあ、追い詰められたのはわざとだったのか・・・!?」

『そう。そして、相手が完全に油断しきったところで相手の意表を突いたんだ』

 

 ジンは自身のLBXを回収し、会場を後にする。ジンにLBXを破壊された三人のうち、一人がジンに向かって叫ぶ。

 

「てめぇのジ・エンペラーなんか、次のアングラビシダスで粉々にされちまえ!」

「!次のアングラビシダス!?」バンたちがその言葉に驚く。

 

(あいつも出場するのか・・・!)

『・・・ジ・エンペラー・・・』

 

 会場の隅でただた一人、笑みを浮かべる男がいた。

 

「・・・へぇ、やるねぇ。『秒殺の皇帝』とでも呼んでおこうか」

 

 その人物の呟きは、誰にも聞こえることなく静寂に溶けていった。

 

 会場を下見した後、バンたちはキタジマへ足を運びアングラビシダスについて話すと、この日から店長と本格的にアングラビシダスのための特訓を行うことになった。

 今のバンではアングラビシダスで優勝するには力不足であり、短時間で確実に実力を磨くため、アキレスのアーマーフレームを防御力の低いAX-00に替え、店長がカスタマイズし攻撃力を増し増しにした「グラディエーター」でバトルをする。しかし、攻撃を当てることは出来たが、この日バンが勝つことはなかった。

 

 あっという間に夕方になり、三人はキタジマを出て家路につく。途中でカズと別れ、バンとアミはクノイチについての話で盛り上がっていた。

 

『アミちゃんたら、寝る直前までずっと私と話してたのよ』

「だって、嬉しかったんだもん!私、ずーっとバンとカズが羨ましいって思ってたんだから!」

「俺も、クノイチが話せるようになって嬉しいよ。・・・でも、本当にどうしてなのかな・・・」

「・・・本当よね・・・クノイチもやっぱりわからないみたいし・・・」

「・・・あ、そういえば、アキレスが話せるようになった日、バトル中に声が聞こえてきて・・・」

「郷田とバトルしたとき?」

「うん。もうだめだってなったとき、俺に諦めるのかって聞いてきたんだ。今思えば、あれはアキレスの声だった。アミ達には聞こえてなかったみたいだったけど・・・何か関係があるのかも・・・」

「でも、私はエンジェルスターに潜入したとき、クノイチの声は聞こえなかったけど・・・ねぇアキレス。そのことについては何か知らない?」

「・・・アキレス?」

『・・・あ、ごめん。さっきのジ・エンペラーのこと考えてた』

 

 ジ・エンペラー。海道ジンの使用するLBXで、先程見た三体同時撃破は衝撃的であった。アキレスはジ・エンペラーのバトルを見たときから、ずっとそのことばかり考えていたという。

 

『・・・僕、あいつと戦いたい。・・・・・・戦わないと、だめな気がするんだ』

「戦わないとだめ?それってどういう・・・」

『わからない。なんとなく、そんな気がするだけ』

「・・・でも、どのみち優勝するには、どんな相手でも負けるわけにはいかない。・・・絶対、勝たないと」

『・・・・・・君一人で戦うつもり?』

「え?」

『・・・君だけで戦うわけじゃないって、わかってる?』

「えっと・・・アミやカズも一緒に・・・」

『そうだけど!そうじゃないでしょ!』

「ええっ!?」怒ったアキレスにバンはあわあわする

『僕も一緒に戦うってこと、忘れてない!?』

「あっ、え・・・でも、アキレスは・・・」

『・・・マスターが、みんなが危険な目に遭うのが嫌なことは変わらないよ。でも・・・』

 

 アキレスは拓哉の車の中で悔しさに顔を歪ませるバンを思い出す。

 

(あんな顔、させたくないって思った。・・・いつも皆と話してるときや、LBXの、・・・僕たちの話をしてるときみたいに・・・)

 

『僕は、君の相棒だから。君の戦う意志が固いなら、僕も戦う。・・・君を、みんなを守りたいから』

「・・・・・・」

『だから・・・その・・・こ・・・これからは、い、いし、一緒、に・・・』

「あ・・・」

『ん?』

「アキレスぅぅぅぅぅぅ!!」

『うわあぁぁぁぁぁぁぁ!!スリスリするなぁ〜〜!!』

 

 二人の会話を見守っていたアミとクノイチは目を合わせ、笑いあった。

 

『私も、アミちゃんやみんなを守るからね!』

「うん!頑張ろうね、クノイチ!」

 

 夕焼けがじわじわと色を濃くしていく。失われつつある鮮やかな橙が、バンとアキレスを照らし、その光景はまるで絵画のように美しいものであった。

 

 




アミ様の「もうヤケクソよ!」をずっと書きたいと思ってました。やっと書けた・・・(安堵)
ジンの機体といえば?と聞かれて真っ先に思い浮かぶのはやっぱりジ・エンペラーですね。他のLBXにも言えることですが、成長してから見ても色褪せないかっこよさは本当にさすがだと思います。
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