優等生に沢山のイケナイ事を教え込む話 作:フェニラン特製豆腐
「今日の撮影はここまで! ありがとうね、四季風君」
撮影スタジオでの事、写真を撮られ終えてそんな言葉をかけられた。
久しぶりに帰ってきた日本での仕事、内容的には変わらないが少し変な気分で……なんというか、慣れない。
「いえ、此方こそありがとうございます。また次の仕事もお願いします」
こういう挨拶は大事。
両親からよく言われていたという事もあるが、関わってくれた人に礼を言うのは当たり前なので自分の中の慣れなさを置いておきちゃんと伝える。
「帰ってきて早々仕事とか、我ながらハードスケジュールだよなぁ俺」
今の季節は夏、多分世間的には夏休み。
一日前に日本に帰ってきた俺はモデルの仕事を終えて帰路につき、初めて帰る新しい家を目指すことにした。ゆっくりと歩きながらとりあえず小腹でも空いたのでコンビニに寄る。
「……これからやることといえば、司と冬弥に帰ってきた事伝えて荷解きしてって感じか」
そんな事を呟いてある事に気付く。
「俺……場所言われただけじゃ分からねぇよ」
そう、俺は方向音痴であり……地図を見るだけじゃ目的地には辿り着けないのだ。
これは幼少期の友達の影響をもろに受けたせいなのか、俺が生粋の方向音痴なのかは分からないが……とにかく何度かその道を使ってギリギリなのだ。そんな俺だからこそ初めての家に帰れーというのは割と不可能に近い。
「やべぇ……母さんは今締め切りがーって言ってたし父さんも割と方向音痴だから迎えに来て貰うってのは現実的じゃない」
……つまり、詰んだ?
いやまて落ち着け四季風佐久夜。
今の時代スマホには音声案内があるのだ。あいつと違って機械音痴ではない俺なら使える筈……とか思ったのも束の間の事、スマホを見れば充電がなかった。
「そういえば、充電してねぇ……」
それで王手。
完璧に詰んだ俺は、項垂れながらも感覚に任せることにしてとりあえず道を進むことにしたのだが……完全に迷ってしまったのだ。
「どうしましたか?」
どうする?
ここはタクシー使って帰るか?
だけど距離分からないからどのぐらいかかるか分からないし……。
「あの……大丈夫ですか?」
「ん? あぁ大丈夫じゃないけど大丈夫だ」
「どっちなんですかそれ」
「ただ道に迷っただけだしな……」
あれ、俺今誰と話してるんだ?
そんな事に気づいて声がかけられた方に目を向ければ、そこには笑顔を浮かべた紫色の髪をした少女がいた。
「よかったら案内しましょうか?」
「……いや、悪いだろ。初対面だし」
その笑顔をみて思ったのは微かな違和感。
だけど初対面の人に思うことじゃないし、それはお節介が過ぎるだろうし失礼だから言葉を飲んだ。
「でも、迷ってる人を放っておくのは出来ませんし」
「……そこまで言うなら頼む――ってとこなんだがなんだが」
「あ、それなら家の隣ですね帰る途中でしたし案内します」
「ほんと悪いな、それなら頼む」
思わぬ助け船に感謝しながら俺は彼女について行く事になった。
だけどその途中、一度感じた違和感を拭う事が出来なくて……なんというか変な感じだ。
「……あのつきましたよ?」
なんだろうか?
今は上手く言い表せないし、さっきも言ったがこれは初対面のそれも親切にしてくれた人に思うことではないはずのこと……だけど俺の心情に反するソレを看過してはいけない気がするのだ。
「大丈夫ですか?」
「いや、ちょっとな。それより本当に助かった」
「困ってる人を無視できないだけですから」
また違和感を感じながらもインターホンを鳴らせば顔をカメラ機能で見られたのか鍵が開けられた。
「一人? 帰ってこれるなんてビックリしたわ、お帰り佐久夜」
「そう言うなら迎えぐらい呼んで欲しかったぞ母さん」
「
「…………父さんは無理だろ」
まさかこの母、父さんを迎えに寄越していたのか……会ってないが、多分今頃迷ってる未来が見える。俺ほどではないが方向音痴のあの父が帰ってきたばっかりの日本で迷わないなんて事はないだろうし、今頃どっかで彷徨ってるだろう。
「それならどうやって帰ってきたの?」
「お隣さんだろう子に助けて貰った」
「お隣って朝比奈さん? ……ねぇ佐久夜あの子を呼んで来てくれるかしら?」
「呼べって何でだよ」
「今朝比奈さんのお母さんがお茶を飲みに来てるのお礼もしたいし頼むわ」
「まぁ、そういう事なら」
という事になったので俺は隣の朝比奈という表札の家にインターホンを鳴らし、さっきぶりのお隣さんと話す事になった。
「どうしたんですか?」
「いや、母さんがお隣さんを呼んでくれって」
そのまま詳しい訳を話せば制服とは違う服装に身を包んだお隣さんが出てきた。
開いてる家にそのまま入れば中にいたのは見知らぬ母親、髪色も同じだし多分お隣さんの母親だろう。
「初めまして、四季風佐久夜と申します」
「貴方が四季風さんのお子さんなのね、いつも話は聞いてるわ」
とりあえず挨拶は大事だしそう言ってみれば帰ってきたのはそんな事。
普通の挨拶にお隣さんへの違和感が強くなったのを感じた。だけど、まだ判断するのは早い。
「ほらまふゆも座りなさない? お茶が冷めるわよ」
「あ、そうだねお母さん」
彼女は母親にせかされ椅子へと座りうちの母さんが淹れてくれたお茶を飲み始めた。
タイミング的に彼女が来てから淹れたばっかりのお茶、まだ冷めてないだろうが一気に飲んで大丈夫だろうか?
「……美味しいね、ありがとう四季風さん」
また浮かべる笑顔はどう見ても愛想笑い。
いや、無機質なものって言った方がいいのか?
……違和感を一層感じ、まったく同じ笑顔をうちの母親と彼女の母親に向けてる事に気づいてしまった。
「そうだまふゆ四季風さんのお子さんはね、海外で舞台俳優をやってるのよ? お父様の仕事を継いだらしくて……」
「そうなんだ。凄いんだね」
「えぇ、それにこのアリスさんは脚本家なのかなり有名で様々な劇を手掛けてきたのよ」
自分の子とのように母さん達の事を話すお隣さんの母親。
むず痒さというかお隣さんからからは感じない別種の違和感に話を変えることにした・
「そうだ朝比奈さんでいいんですよね。今日は娘さんのおかげで助かりました」
「何があったのかしら?」
「たいした事ではないんですが、帰国したばかりで迷ってしまいそれを助けてくれたんですよね」
「そうなのね、流石まふゆ本当に
「……別に当たり前の事だよ、褒めないでお母さん」
深くなる愛想笑い。
無機質で虚ろさすら感じるその中に、あったのは嫌悪感のようなもの。
本人すら自覚していないだろうそれと、今までの違和感に俺はふと――。
「……空っぽだな」
そんな事を呟いてしまった。
ソレを聞いた彼女がなにを思ったのかは分からないが、表情には出してなかったが明らかに動揺したのが分かった。