勇者と侵略者が戦っているところにくたびれたサラリーマンが乱入する話です。

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思い浮かんだので忘備録的な奴で書きました。
復活までもうしばらくお待ちください。


赤い蜂

――――変身。

 

それは体を他のものに変えること。

それは姿を変えること。

また、変えた姿を指す。

 

しかし現代社会において、娯楽の一部において変身とは別の意味を持っていた。

 

 

 

そう……ヒーローだ。

 

 

 

その男が現れたのは数年前の熱い夏だった。

その男は現れた。

 

誰も正体を知らない。

誰も実力を知らない。

誰も存在を知らない。

 

そんな、おとぎ話の中の存在。

それがその男だった。

 

 

 

 

 

とある警察署に、指名手配の男が出頭してきた。

彼は言う。

 

『赤い蜂頭の男に襲われた!』

 

しかし、そんな人物は存在しない。

ここは日本で、ファンタジー世界から現れたような存在はいないのだ。

 

『あいつは赤い化け物みたいな瞳で俺を睨んで襲ってきたんだ!』

 

そう言いながら、男は警察に連行されて行った。

怖ろしいと、化け物を見たと。

そう言って恐怖に怯えていたのだ。

 

 

 

勿論警察はその男を探した。

しかし、決して見つけることはできなかった。

 

時々似たような存在を示唆するような目撃証言はあった。

しかし、その目撃証言は暫くするとぷつりと足取りを断つのだ。

 

不思議な、不可解な存在だった。

幻影蜂(ゴースト)などと呼ばれたこともあった。

しかしその噂は時間の流れによってかき消されて行った。

 

 

 

数年後の今。

 

男がいた。

何の変哲もない、よれよれのスーツを着た男がいた。

 

異世界から訪れた、世界を救った勇者は既に力を出すことはできない。

背後には子供たちがいる。

そして対峙している先にはとある世界の侵略者。

 

「……」

 

侵略者は無言だった。

先程まで優雅に喋っていたのに、無言なのだ。

 

何かがある。

彼にそう思わせるだけの何かが、その男にはあった。

 

「君はどこから迷い込んだんだい?

 一般人はお呼びじゃないんだけどね」

 

それでも、侵略者はその口調を変えなかった。

当然だ。侵略者に勝てるような能力を持つ人間はいない。

下調べは万全だ。

ただの人間では、彼と戦うことすらできないのだ

 

「……」

 

男は無言。

しかし、何かを待っている様子だった。

 

 

 

ブゥン。

 

 

 

小さく羽音がする。

それは蜂だった。

何の変哲もない蜂だ。

 

―――――否。

それはただの蜂ではなかった。

赤い、赫い、紅い蜂だった。

 

その蜂が、男に向かって飛び出した。

蜂がその針をむき出しにして男に向かう。

男は気付いていないのか、その蜂を見ずにじっとしている。

 

 

 

そして、その蜂が男に針を刺すその瞬間。

 

 

 

――――男は小さく呟いた。

 

 

 

「変身」

 

 

 

ブゥン。

ブゥンブゥンブゥン。

羽音が鳴り響く。

 

 

 

それは男がいた場所から鳴り響いていた。

しかし、その場には既に先程までの男はいなかった。

 

赤い、赫い、紅い全身を覆う鎧をまとった、男がいた。

その瞳は赤く、蜂のような頭部をした男がいた。

 

 

 

ブゥン。

ブゥンブゥンブゥン。

羽音が鳴り響く。

 

 

 

勇者は思い出す。

そんな男の目撃情報を。

そして声を出す。

あなたでは勝てないと。

 

しかし。

ああしかし。

声をかけられた男は言う。

 

 

 

「ヒーローは、悪を前に逃げるものではない」

 

 

 

ブゥン。

ブゥンブゥンブゥン。

羽音が鳴り響く。

 

 

 

 

右手を前に、左手を横に。

右足を前に、左足を横に。

彼の中でのルーチンなのだろうか。

その動きには一切の淀みがなかった。

 

 

 

ブゥン。

ブゥンブゥンブゥン。

羽音が鳴り響く。

 

 

 

「確かに俺は弱いかもしれない」

 

 

 

ブゥン。

ブゥンブゥンブゥン。

羽音が鳴り響く。

 

 

 

「だが、負けるつもりもないし、逃げるつもりもない」

 

 

 

ブゥン。

ブゥンブゥンブゥン。

羽音が鳴り響く。

 

 

 

「そう―――――俺は変身ヒーローなんだから」

 

 

 

彼―――――蜂羽 カバネはそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼、蜂羽 カバネは一般的な家庭に生まれた。

誰も傷つけることなく、誰からも傷つけられることもない。

そんな普通の家庭だ。

 

彼らは平凡だっただった。

当然と言えば当然。

カバネも一般人のそれであった。

 

しかし、彼は強く力に憧れていた。

強くなって、両親を守るんだ。

そういう幼い子供のような願いを持っていたのだ。

 

 

 

転機が訪れたのは、彼が生まれてから10年が経過してからだ。

突如、彼の両親を強盗が襲ったのだ。

 

一瞬の出来事だった。

瞬く間に彼の両親は凶刃に倒れ、死んだ。

 

彼は理解できなかった。

両親が動かなくなったこと。

そして、これから自分が動かなくなることも。

 

 

 

―――――しかし。

彼は動かなくなることはなかった。

 

彼の個性が発現したから?

彼の力が男の力を上回っていたから?

否である。

 

 

 

「―――――」

 

 

 

ブゥン。

ブゥンブゥンブゥン。

羽音が鳴り響く。

 

 

 

何かが彼の周りを舞っていた。

それは赤い、赫い、紅い蜂だった。

それがちくりと彼のことを刺す。

 

するとどうだろうか。

彼の身体は変化した。

 

赤い、赫い、紅い全身を覆う鎧をまとった、男がいた。

その瞳は赤く、蜂のような頭部をした男がいた。

 

それは先程まで動けなかった、自身の状態が理解できなかったカバネだった。

しかし、今は謎の男として立っていた。

 

 

 

理解が及ばない。

しかし身体が動く。

そして、思う。

 

 

 

―――――俺が、家族を守らなくちゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

幻影蜂(ゴースト)と呼ばれるようになって数年が経過した。

彼は保護されて義務教育を終え、高校を卒業していた。

何の変哲もない一般校だ。

 

 

 

ただそれでも、彼は誰かを守るために戦った。

 

 

 

親友を守るために戦った。

しかし親友の命を救うことはできなかった。

 

初恋の少女を守るために戦った。

しかし彼女の夢を守ることはできなかった。

 

最愛の家族を守るために戦った。

しかしその絆を守ることはできなかった。

 

 

 

彼は守れなかった。

守るために立ちあがり。

今度こそと願いながら立ち上がり。

それでも、彼は守れなかった。

 

 

 

しかし。

それでもだ。

それでも彼は折れなかった。

 

小さな頃の、かつての記憶。

古く古く古い記憶を呼び覚ます。

変身ヒーロー。

何故かこの文字が、彼を立ち上がらせた。

 

 

 

変身ヒーローは強いんだ。

変身ヒーローは格好いいんだ。

変身ヒーローは負けないんだ。

変身ヒーローは―――――誰かを守るために戦うんだ。

 

 

 

何故、職業ヒーローにならなかったのか。

彼自身それはわからなかった。

だが彼は職業ヒーローになりたかったんじゃない。

 

 

 

―――――変身ヒーローになりたかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦闘は意外な結果を見せる。

カバネの拳が、蹴りが、侵略者へと突き刺さる。

侵略者も理解できない力が働いていた。

 

(この力は一体……?)

 

吸収ができない。

無効化できない。

そんな能力があるのだろうか。

そう思っている間に、ダメージが蓄積していく。

 

まさかの展開だ。

誰も思い描いていない、一方的なそれ。

 

 

 

「……が」

 

誰かが声を上げる。

 

「……がんばれ」

 

誰かが声を上げる。

 

「頑張れ!」

 

誰かが声を上げる。

 

「がんばれ!」

「負けるな!」

「そこだ!」

 

誰もが声を上げた。

 

 

 

歓声が、彼の味方をする。

今、彼はヒーローだった。

 

 

 

何故だろうか。

これだけ戦っているのに相手が何もしてこない。

何かあるのか。

そう思いながらも、カバネは攻撃の手を緩めることはなかった。

 

 

 

「―――――だけど、そうだね」

 

 

 

しかし。

侵略者は空へと飛んだ。

 

 

 

「その装甲があっても、空からの攻撃は防げないだろう?」

 

 

 

そう言って、空から光線を放ち始めた。

それは強力な熱を放つものであり、一発でも当たれば絶命するようなものだった。

 

 

 

―――――遠い。

遠すぎて手が届かない。

 

 

 

カバネは思い出す。

あと一歩で助けられなかった親友を。

 

カバネは思い出す。

あと一息で夢が折れてしまった少女を。

 

カバネは思い出す。

あと一時で救えなかった家族を。

 

 

 

しかしだ。

今は違った。

まだ間に合うのだ。

 

誰もが絶望していない。

誰もが勝利を願っている。

誰もが……カバネのことを信じている。

 

 

 

ブゥン。

ブゥンブゥンブゥン。

羽音が鳴り響く。

 

 

 

羽音が強くなる。

どんどんと強くなり、まるで合唱しているかのよう。

 

 

 

ブゥン。

ブゥンブゥンブゥン。

羽音が鳴り響く。

 

 

 

光線を掻い潜り、ギリギリを見極めながらも、羽音を鳴らすことはやめない。

 

 

 

ブゥン。

ブゥンブゥンブゥン。

羽音が鳴り響く。

 

 

 

そして―――――時は来た。

 

 

 

ブゥンと、一際大きく音が鳴ると、カバネの身体が浮かび上がった。

その様子に、侵略者は一瞬驚いた。

 

一瞬。

一瞬だ。

 

だがその一瞬は致命的なそれだった。

 

 

 

ゴウ、と風を切る音を鳴らしてカバネが空を飛ぶ。

装甲は焼けてはがれていて、中の肉体が見えている。

風が当たるだけで痛むだろう。

 

それでも、カバネは飛んだ。

飛んで、飛んで、侵略者に辿り着いた。

 

「っ!」

 

右手には大きな大きな針。

蜂の持つ毒針だ。

それが今、侵略者に突き刺さらんと振るわれる。

 

 

 

しかし。

それは一歩遅かった。

侵略者が放った火炎が、その針を焼き切ったのだ。

 

 

 

あと一歩。

あと一歩だった。

 

またしても。

またしても足りないのか。

そんな気持ちが彼を襲う。

 

 

 

返しの火炎で焼き払われる。

ああ、届かない。

そんな思いに塗りつぶされそうになる。

 

 

 

―――――だが。

 

 

 

「―――――行きます!」

 

 

 

そう、ヒーローはひとりではなかったのだ。

 

 

 

若い、少年。

守っていたはずの、満身創痍だった勇者。

それが今、彼の持っていた針を握り締め、飛びあがったのだ。

 

 

 

「必殺―――――」

 

 

 

回避はできない。

それだけの力が、侵略者には残っていなかった。

 

そうだ。

彼はひとりではなかった。

 

だから届く。

だから勝てる。

 

 

 

そうだ。

彼は思い出す。

 

変身ヒーローは、ヒーローは別にひとりでなくてもよかったんだ。

 

 

 

「―――――波斬剣!!!」

 

 


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